追想の山々1425
  

江股の頭(1270m) 頂日1998.08.20 単独
出発(6.00)−−−江股の頭(8.35-8.50)−−−下山(10.45)
行程 4時間45分 三重県 江股の頭 三等三角点
≪山で道に迷うという体験≫

関西ハイキングの資料を参考にして、三重県台高山地の中の一峰「池木屋山」へ登ることにして家を出た。
奥香肌峡温泉の先にある蓮(はちす)ダムに懸かる赤い橋を渡って、蓮川に沿った林道を溯ってゆく。さらにそれまでの林道と分かれて蓮川を対岸に渡る橋を渡り別の林道に入ってしばらく遡上してゆくと終点となる。2、3台駐車可能。案内書の記述と様子が違うのが気になる。

小さな橋を渡って歩きはじめる。渓流沿いの不明瞭な足跡を拾って行くが、まるで沢歩きの雰囲気だ。すぐに踏み跡も見えなくなってしまった。どうもコースが違うらしい。一旦スタート地点の小さな橋まで戻る。
すると小さな尾根に取付くような、細いがしっかりした別の踏み跡があった。潅木に小さなプレートがあって何か書いてあるが、木立で薄暗くて、メガネを出さないと読めない。面倒なので確認しないでそのまま踏み跡の急登を登りはじめた。

コース脇の沢に、ときおり小さな滝が見えたりする。しかし案内書にあるような滝はいっこうに現れない。踏み跡は薄いが何とかたどっていける。
樹林の中を1時間ほど歩いたころ、杉林の間伐跡に出た。ここでコースがまったく消えてしまった。うろうろしていると、熊捕獲用の鉄檻がある。中には蜂蜜が見える。このあたりは熊が出るらしい。鳴り物も持ってこなかったし、ちょっと気味が悪い。

コースがわからないまま間伐跡の斜面へ入って行った。すると何となくコースのような感じで歩けるところがある。仕事道かもしれない。ときおり赤布がある。しかし池木屋山がこんな不明瞭な道である筈はない。どうやら予定とは違う道を登ってきてしまった可能性が強い。しょうがない、行けるところまで登ろう。そう決めて急になってきた斜面を、神経を使いながら登って行った。

誰かが目印に置いた小石が、切り株の上とか、大きな石の上などに見える。コースの形跡はまったくなくなって、ケルン代わりの置き石以外には、目印になるものは皆無となってしまった。
わかりにくい所は、新たに石を積み、あたりの様子を頭に記憶させながら慎重に登って行った。このまま登って行って大丈夫だろうか、下山の不安が大きい。加えて熊の不安もある。
引き返そうかどうしようか迷いながら歩いているうちに、稜線へ登りついた。ここにははっきりとした登山道がある。下山時の降り口をしっかり確認して、稜線の道を南へ向かって上ってゆく。それほど急ではない。すぐに一つのピークに達する。しかし山頂を示す表示も何もない。さらに先へ進んでみるが、つぎのピークもやはり山頂の雰囲気はない。結局4つ目か5つ目のピークまで進んでしまった。ここから先は大きく下降していて、これ以上進むことはためらわれた。

やや開けてピーク状の感じがないわけではない。しかしここが目指す池木屋山とは思えない。ほとんど読むことができないブリキのプレートを、角度を変えたりして判読してみるが、どうもはっきりしない。じっと見つめていると「滝見台」とも読めないこともない。眼下の渓谷を目で追うとずっと先に一筋の滝が見える。たいした滝ではない。どうやら「滝見台」が正解のようだ。
地図を広げて現在地を確認しようしたがだめだ。あれこれ地図を眺めていると、どうも江股の頭を目指して歩いてきたらしい。それも地図には載っていないコースを・・・・。

ここから大きく下って登りかえしたピークが江股の頭1270メートルかも知れない。標高的には現在地とほとんど同じか、ここの方が高いようにも見える。
確かなことはわからないが、取りあえずこれで引き返すことにした。
稜線からの下り口を慎重に確認してきた積もりだったのに、見過ごしてかなり行き過ぎてしまった。再び稜線を登りかえして、今度は無事下り口を見つけることができた。
下りのルートファインディングは登りよりずっと難しい。迷ったら大変、ときどき見失いそうな置き石を確認しながら下ってゆく。
杉林間伐跡の樹林に入ると、ここはかすかな仕事道のような形跡もあったので、何の目印も残さなかったのが軽率だった。たちまち下る方向がわからなくなってしまった。

感で下るよりしょうがない。何か見覚えがないか探しながら下ってゆくが手がかりは見つからない。最悪の場合は沢伝いに下ってゆくよりしょうがないかも知れない。薮こぎ、高巻き等かなりの苦労を覚悟する必要がある。
間伐跡を下りきったところで、ふと見ると熊の檻が見えるではないか。「助かった」という気分だった。これで安心と思ったのは早とちりだった。この先の下りは薄いながら踏み跡があったと思ったのに、どうしてもそれが見つからない。どこを下っていいのか記憶も残っていないし、見当がつかない。喜んだのもつかの間、再び立ち往生してしまった。
とにかく沢伝いに登ってきたのは確かだ。すぐ下に見える沢がそれかどうか自信はないが、取りあえずこれを下ってみるより方法がなさそうだ。
薮の薄いところを選んで沢まで下ってみた。取りあえず沢の水で渇いた喉を潤し、気持ちを落ち着けてこれからの行動を考える。考えた所でこの沢を下って行くより方法がなさそうだ。
早々に大きな瀞で立ち往生となる。一旦戻って斜面をトラバースしながら、再び沢へ降りた。しばらく沢に沿って高巻いたりしながら下ってゆくと、今度は大きな高巻きをしなくてはならないところに出てしまった。
高巻きをしながら斜面の上の方を見通していると、何かコースらしい感じを嗅ぎ取った。登って行って見ると、まさしくそこにはかなりはっきりした道が確認できた。これが登ってきた道かどうか、すぐにはわからなかったが、しばらく下ってゆくと間違いなくその道だった。このときは正直言って「助かった」という安堵感を痛切に味わった。しかも下っていた沢は1本隣の沢で、あのまま下っていたとしても、果たして下りきれたかどうかわからない。
 この後は安心して足も軽く下って行った。

下山してメガネなしでは読めなかったプレートをもう一度見ると「江股の頭へ」と書かれていた。そしてこの谷は江馬小屋沢で、池木屋山への宮の谷より1本手前の沢であることがわかった。

里からはかなり離れた山だったので、下っていけば何とかなるという呑気な気分にはなれず、けっこう緊張した1日だった。このあと後日の登山に備えて、宮の谷へ回り池木屋山登山口を確認、ここには立派な道標が立っていた。


後日談・・・・下山の山こぎをしている最中に、触ってはならないツタウルシに触れてしまったらしい。帰宅して2日目あたりから、手や首筋、胸などに湿疹が出始めた。すぐにウルシのかぶれとわかり、急いで皮膚科へ飛んだ。1週間後にはカナダ旅行へ出発しなくてはならない。湿疹の汚らしさと痒さでは、とても海外旅行どころではない。薬の塗布など処置が早かったのが幸して、大きく広がることなく、旅行出発時にはかなり治まってやれやれであった。