追想の山々1458
  

阿蘇 根子岳(1433m) 頂日1998.10.30 単独
ヤカタガウド入口(6.30)−−−水場(7.10)−−−天狗の肩(7.45-8.00)−−−水場(8.30)−−−ヤカタガウド入口(9.00)
行程 2時間30分 熊本 三角点ud
紅葉満艦飾の根子岳・・・登頂前日写す
快晴の阿蘇冠ケ岳に満足して、翌日登頂予定の根子岳登山口へ向かう。
日の尾峠手前のヤカタガウドコース入口に、都合の良い駐車場スペースが見つかった。
宮地から林道を入るとヤカタガウド入口で道は三つに分かれる。右が日の尾峠、真ん中が根子岳への登山道へつづく工事用の車道、左は高森町へ出るのに使うらしい。その分岐点には慰霊碑があって花か供えられている。根子岳遭難者の慰霊だろう。コースの詳細図もあって、岩稜登山の注意を呼びかけていた。
駐車場スペースからは根子岳北面の岩壁が、満艦飾の紅葉に彩られて素晴らしい眺めを見せている。一方西側には阿蘇高岳が高々と聳え立っていた。

夜明け近くまで星空が見えていたのに、明るくなる頃から雲が広がり根子岳の稜線や高岳はガスに隠されてしまった。どうやら雨になるようだ。濡れた岩山は滑落が恐ろしい。早いところ登った方が無難だろう。
ヤカタガウドからのコースは二つあるが、一つは上級者向きの見晴らしコース、もう一つが中級者向きのヤカタガウドコースということになっていた。中級コースを選択する。
最初は砂防ダム工事用の車道を歩く。登山届に記入し10分ほどで登山道へ入った。しばらく樹林の中をトラバースするように進むと涸沢へ降りて、後はこの沢を上流へと遡上してゆく。
ついたてのような岩山だけあって、勾配は大変険しい。沢というより岩を登って行くような気がする。薄暗い険悪な沢ではあるが、それなりに足がかりや手かがりはあって、慎重に登れば恐れることはない。しかし苔の蒸した大岩を乗り越える時などは、滑りそうで躊躇する箇所も出てくる。梯子や鎖のたぐいは一切なく、注意しながら自力でよじ登って行くしかない。

沢の両側が壁のように狭まったところで、岩石、倒木すべてが緑の苔におおわれている。その幽幻な風景に脚を止めてしばらく見入ってしまった。
陰鬱な雰囲気の沢を登っていくと、沢は二手に分かれる。左の沢は進入禁止となっていて、右の沢へと進む。すぐに水場があり、冷たい水がしみだしている。
ここから沢はいくらか広がって明るくなるが、ガレ沢でうまく足を置かないと、岩石がずるずると崩れる。ガレをがらがら言わせながら登ってゆく。落葉樹は赤、黄、茶とさまざまな色に染まって紅葉真っ盛り。

足元ばかり注意してガレを登っていて、大きな岩に足をかけたとき、見事に滑って転倒してしまった。いやというほど肘を岩にぶっつけてしまった。後でズボンに血が垂れているのをみて、出血しているのに気がついた。転倒したとき、立ち止まって何気なく下を振り返ると、10メートルほどのところに道標らしいものが見える。念のために下って確認すると、それは天狗峰への分岐道標だった。ここで沢を離れて稜線へ向かわなければならないのを、ガラガラの足元ばかりに気を取られて、潅木に隠れて倒れ掛かった道標を見落していた。このまま沢を詰めていたら大変なことになっていたかも知れない。転んで気づかせてくれたのだろう。

天狗峰へ向かっての急登がはじまる。ほとんど垂直に感じるような急登で、雑木の幹にしがみつかなければ登れない。壁を登っているようなものだ。ガスが濃くなってきて、上部はまったく見とおせない。三点確保を守って慎重に登ってゆく。
この急登は20分ほどだっただろうか、ガスの稜線へ飛び出した。そこが天狗峰の肩だった。南側の谷はガスが渦巻き視界はないものの、すごい絶壁となって切れ落ちていることがわかる。
天狗峰のてっぺんへはロッククライミングの技術がなければ登れない。ここから東峰へ稜線伝いに往復する予定だったが、縦走禁止の看板がある上、ガスで岩は濡れていて危険。稜線に立ったところで、根子岳登頂を終わることとする。

一休みしてから風とガスに追われて下山にかかった。岩場の下りをちょっと心配したが、案ずることもなく無事通過した。

下山後、垂玉温泉からさらに奥の“地獄温泉”で入浴。湯治場として九州では知られた温泉だという。「すずめの湯」という小屋掛けの湯が特にいい。浮世を忘れそうな雰囲気漂う湯で、地元のおばあさんと四方山話をしながら、1時間近く浸かっていた。