山行報告六百山

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楡沢山=にれさわやま(1249m)

長野県 1989.12.09 単独行 徒歩
コース 辰野町宮木の実家−−−楡沢山−−−尾根の切り開き−−−1115m標高点−−−実家
楡沢山山頂の祠
私の生家辰野町にある楡沢山は、標高わずかに1249メートル、目立つこともない里山である。この冬一番という寒い北風の吹く昼近く、雪のちらつく中を出掛けた。
地図も何もなく、おおよその見当をっけての行き当たりばったであるが、子供のころから生活圏の山として土地勘はあり心配はしない。母や兄たちと薪取りに通った日々が懐かしい。
楡沢山を望むと灰褐色に雪で煙っていた。
街中を過ぎて西天竜の農業用水路を渡り、辰野病院と大きな墓地の間を山へ向かう。
昔、山作業の水呑み場として、山の行き帰りに喉を潤した場所が残っていた。その周辺には木いちごがあって、赤や黄色に熟した実が空いたお腹においしかった記憶が蘇る。
その先は切り開かれてキャンプ場になっていたり、昔開墾地だったところはカラマツが成長して大きな林となったりして、半世紀を経て大きく様子を変えていた。

『山の神』が昔のままに残っていた。石祠、朽ちた木の鳥居、覆いかぶさる松の大木。どれも懐かしい。林道は更につづき、やがてそれが二分するが、ここから先には入った記憶がない。勘で左手の林道をとる。林道終点で見あげると、立っているところは扇の要のような場所だった。ここから道はまったく消えてしまった。左右二つの沢のうち右手のがらがら石の急坂にとりかかる。雪は間断なく降っている。
蔦や枯れ木などに阻まれ、その都度雑木の中を掻き分けなければならなかった。直登していくと、やがてガレも終わり、あとは雑木の中を気ままに登っていく。帰りの目印に、ときどき落ち葉に被った雪を蹴飛ばしていく。
背中に汗が流れるころ尾根に辿りついた。

さて楡沢山のピークはどこか。地図はないし、雪が降っていて展望確認もできない。とりあえず左に尾根を辿ってみる。緩い登りを少し歩くとすぐに一つのピーク地点に出た。その先はきわだつピークはありそうもないので戻ることにする。先ほど登りついた尾根地点より、さらに先へ進んでみると、思いもかけず広々とした切り開きがあらわれ、小さな社がまつられている。測量用の櫓も比較的新しく残っていた。二等三角点標石もある。ここが楡沢山1249メートルの山頂だった。樹木に囲まれて展望はないが、落ち着いた雰囲気があった。

山頂からは南と東に二つのはっきりした道がある。東の方が展けた感じがしたのでその道を帰ることにした。尾根づたいの潅木の道は結構手入れされている。
小さい石碑を2箇所ほど見て小広い切り開き(1115m地点)に出た。辰野の市街が一望出来る。天気がいいと南アルプスの展望が良さそうだ。切り開きからは踏み跡を外して潅木の中を適当に選びながら、急な傾斜を気持ちよく下った。

我が家の庭を歩いているような親しみの山歩きだったが、生まれ故郷の身近にこんな山があったのかと、改めて知ることができた。
 
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