作品概要
歴史社会学などとは、我ながらおこがましいかぎりですが、それらしい視点を意識して、「福祉国家が炙りだした亀裂」の続編のつもりで書きました。福祉国家とは「国民国家」の帰結だと気がついたところから、このエッセイは始まります。近代とは、いまだ道半ばとはいえ、世界中に民主的な手続きで運営される国民国家を生み出す過程であるというのが、わたくしが考えたことでした。民主的であるという点ではやり損ないましたが、そうしてその結果、私たちの大多数は戦後ナショナリズムが嫌いになりましたが、それでも「国民国家」の市民であるかぎり、私たちはナショナリズムと縁を切るわけにはいかないと思っています。ただし、ここでわたくしが考えているナショナリズムとは、過去の日本のような「一国一民族」、つまり、すべての国民におしなべて多数派の文化を強制するていの「悪い」ナショナリズムではなく、同じ国に属しても、少数派の民族あるいは国民の文化・考え方を尊重し受け入れる、人権に配慮したゆるやかな統合を目指す「良い」ナショナリズムです。それは、「シヴィック・ナショナリズム」と呼ばれているものにあたります。
たぶん、わたくしは福祉国家としての国民国家をなんとか生き延びさせたうえで、グローバリゼーションとも折り合いがつけられるという展望を描くつもりだったのです。そんなのはおめでたい夢だという声が聞こえますが、でも希望を棄てる理由もないし、よい知恵を出す賢者がきっと現れると信じているのです。