「ね、伊角くん、あたしね、伊角くんのこと好きみたい」
「へ?」
「ん、だから好きなの」
「はい…」
「伊角くんは??」
「え?」
「あたしのこと」
「…同じだよ…」
「なに?????」
「いや…だから…好き…だよ、俺も」
「誰のこと???」
「…だから…な…せのこと」
「聞こえない」
「奈瀬が好きだ」
「誰が??」
「〜〜〜〜〜俺が!!!」


「抱き付いてもイイ??」
「今?」
「そう」
「ここで?」
「そう」
「…いいよ」
少しだけ困ったような伊角くんの顔。あたしの好きな顔。

ごめんね、困っちゃうのわかるよ。だってこんな状況下だし…ね。


『かみさま』


夏の午後―日曜日。
院生研修は30分ほど前に終り、残っている院生は数少ない。
碁盤を片付けたり、院生師範に質問したり、3〜4人ほどまだ残ってる。
伊角と奈瀬は二人で倉庫へ行って新しい碁盤を出してきてくれ、と頼まれた所だった。

「うっわ〜〜かび臭いねぇ〜」
「ホコリもすっごいゾ…マスク欲しい…げほ…」

薄暗い倉庫の中で伊角と奈瀬が文句たらたらに碁盤を探す。


あたしは碁盤を探すフリして横目で伊角くんの姿を追う。
舞い散るホコリに辟易してる伊角くんが見える。
あー、やっぱりあたし、このひとがすき。
改めて涌き出る感情。
狭い倉庫に(かび臭いけど)ふたりっきり…高鳴る心臓。

ずっとこのままでいたい。あたしは切に願う。時の神様に。



俺は奈瀬と二人きりであることに対して、自分でも驚くくらいに意識してるのがわかった。
俺は…多分奈瀬が好きなんだろうな。
改めて浮上する感情。
狭い倉庫に(ホコリっぽいけど)二人きり…揺れる鼓動。

ずっとこうしていたい。俺は切に願う。運命の神様に。




その瞬間…!開いていたはずの倉庫のトビラが予告も無くバタンと音を立てて閉まった。
振りかえる伊角と奈瀬。
はじめは誰かのイタズラだと思った。だけど…
ガチャガチャ…
「え…??」
顔を見合わせる。どう聞いても鍵をかける音!!
「奈瀬!鍵は…!」
「ドアのノブに差しっぱなし…」
「…やっば!!」

「おお〜〜い!!閉めないでよぉぉぉ〜〜」
「俺達がいるんだってば〜〜〜」
ドコドコと扉を叩いてみるが、その場を離れてしまったらしく、反応はない。

「だ…だいじょぶでしょ…じきに誰か開けてくれるヨ」
「…う〜〜ん…まいったなぁ…」

「ま!考えてもしょーがないよ!とりあえず碁盤探そ!」
「奈瀬は…落ち込んだコトないだろ」
「んふ、誉めてくれてありがとvv」
(いや…誉めたわけじゃないんだけど…)
心の中で苦笑。でもなんだかすごく可愛いと思った。

お目当ての碁盤も探し当てて、いつ開くか判らない扉を前に、唐突に奈瀬はその言葉を放った。

「ね、伊角くん、あたしね、伊角くんのこと好きみたい」
そして
「抱き付いてもイイ??」

少しだけかび臭い倉庫で急に背後から奈瀬の告白とカワイイお願い。
それにしても、さすが奈瀬…告白も何もかも音速並(??)だな。
なんか聞いてて気持ちイイよ。いかにも奈瀬がしそうな告白の仕方って感じ…
そう頭の中でぐるぐる考えていたら…
ふわっと奈瀬が抱き付いてきた。

甘い匂い。揺れる髪。
奈瀬の細い腕が俺の腰を通りぬけてしがみつく。


伊角くんの腰にしがみついて、ひろい胸に顔を寄せる。
伊角くんの匂いがする。ひなたの匂い。
そして、伊角くんの腕があたしを包んでくれる。
あたしの背で包んだ手をしっかりと握る。
幸せの瞬間。

そんなことしてる場合じゃないのに。
ふたりとも判ってたけど、でも、一種の現実逃避??

「あたしね、さっきこの倉庫で伊角くんと二人きりで…それが嬉しくって『ずっとこのままでいれたらなぁ〜』って思ったの」
「ん〜俺も…思った…なんか…このまま奈瀬と一緒にいたいなって…」
「神様にお願いした??」
「したかも(笑)」
「ああ、だからじゃない?閉じ込められちゃったの。私もお願いしたから」
ぷっと笑いあう。
「じゃあ、神様が俺達のお願い聞いてくれたんだな」
「でもさ、なにも今すぐココで聞いてくれなくてもイイのにね…」
「まだ、神様としては修行不足なんじゃない??」
「ああ、そっか。力が足りなくて、だから倉庫??」

「さぁて、さすがに伊角くんと一緒にいれるとはいえ、いつまでもココにいる訳にいかないね!」
「そろそろまたココに人間がいるって主張しないとな!」
立ち上がって扉に向かう。

「伊角くん」
扉に向かい、伊角に背を向けた格好の奈瀬がポツリと呟く。
「なに?」

「伊角くんと一緒に…受かりたいな…今年…」
消え入りそうな声。
「離れたくないの」
「―奈瀬」

背後から伊角の腕が奈瀬を引き寄せる。
「奈瀬…」
奈瀬の顔に近づく―
「・・・・・・・」



ばった〜〜〜〜〜〜ん!!!!
「わっり〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!奈瀬ッッ!伊角さんッッ!!」
沈黙は解かれた。

「ほんとマジゴメンっ!!まさか二人がいるなんて知らなくって、鍵差しっぱなしだったから、てっきり誰かが閉め忘れたのかと思って…
いくら待っても伊角さんと奈瀬がカバン取りにこないから、院生師範に聞いたら二人は倉庫にいるって聞いて、俺慌てて…」
奈瀬も伊角も手を上げている。
扉が放たれた瞬間、抱き合った形の二人がとっさに取った格好。
「なに?二人とも万歳しちゃって…あ、嬉しいよな〜そーだよな〜怖かったろ??」

沈黙

「あの…怒ってる…??よね…??スイマセン…でした…えへへ…」
おずおずと二人の顔色をうかがう和谷。

「神様??」
奈瀬が和谷を指差して伊角に問いかける。
「神様??なの??かな?」
伊角も和谷を指差して首をかしげる。

「へ?なんのこと??」
もちろん理解できない和谷。

瞬間―
「もちっと修行しろ!!!」
和谷の横を通り過ぎ際に二人のゲンコツが和谷の頭に炸裂する。

「あ痛って〜〜〜〜〜〜〜〜…何??修行??ちょっっ…〜まってよ〜〜伊角さぁん〜奈瀬ぇ〜〜」


カウンタ8888ゲット記念小説で、沙桐サマへ捧げますvvvリクエスト(イスナセ小説)ありがとうございました〜〜!!
ほんとは別に用意してた小説が8888記念のものだったのですが…
コレ…実は…裏用に書き始めた小説なんです(笑)も〜そりゃあバリバリのアレな小説のはずが…
とってもほのぼの(そうか?)なものに変わってしまったので、こっちをリク小説にしました〜。
本来のリク用に用意してた小説がなかなかまとまらずに終わりが見えてこなかったの(その内アップします)
先にアップできそうなこの「かみさま」をリク用に持ってきました。
イスナセってリクだったんですが、やっぱり和谷を最後で絡ませちゃいました(苦笑)縁結びの神様です(?)

それから今までのイスナセ小説は時間軸が全て違います。だって奈瀬ってウチの小説で何回伊角さんに告白してる??(笑)
そのうち告白後の話も書きたいですvvあ、「きんもくせい」は告白後の話かな?唯一…
なんかお約束パターンな話になってしまって…アレですが…いかがでしたでしょうか〜??ぐふ(吐血)