サイケデリック・ブルー

「はぁ??じゃあ今日はもう電車動かないってコト??」
「かかかかか帰れないってワケだ・・・」
和谷とヒカルが大袈裟に叫ぶ。

「止まっちゃったモンはしょーがないでショ!」
奈瀬がヤケに諦めよく呟く。

「野宿ってワケにもいかないよな・・・」
伊角は早速先の事を考えている。

ゴールデンウィークだっていうのに、もう梅雨が来たかのようなどりゃ振りの雨がヒカル達を途方に暮れさせる。

院生仲間で首都圏近郊の某県にある囲碁にまつわる資料館とやらを見学に行こうという話になった。
せっかくだからキャンプも兼ねようという和谷の名案により、こうして都合のついた何人かが集まった。
天気予報で確かに「変わりやすい天気」だとは言ってはいたが、まさかこんなどしゃ降りに転ぼうとは誰も想像しなかった。


伊角の携帯が鳴る。小宮からだ。
小宮と飯島も参加だったのだが、小宮が集合時間に遅れたためジャンケンに負けた飯島が小宮到着まで待っていた。

「小宮か?大遅刻だぞ!」
「ん、ワリ!昨日2時までゲームやってたら起きらんなかった!んで今、珠阯レ駅まで来たんだけど・・・ダメだ、電車止まってる」
「ああ、こっちもだ。すっごい雨で・・・。でもお前たちそこで足止め食らってかえってよかったかも・・・
さすがにこっちまで来ちゃうと・・・帰ろうにも帰れない・・・」
「どうすんの??」
「しょうがないから安旅館でも探すさ」

その伊角の会話を聞いていた和谷とヒカルが―

「やった!進藤!旅館だって〜修学旅行みたいだよな!!」
「そしたら温泉付きがイイよな!やっぱ!!」

などとのんきに事を構えている。
伊角と奈瀬はふか〜い溜息をついて恨めしそうに矢のように降りつづける雨を睨んだ。


運良く泊めてくれる旅館はすぐに見つかった。しかも雨で足止めを食らったと聞いた女将は「それは気の毒だったねぇ」と
二人で一人分の料金でいいと言ってくれた。

「伊角くん、お金ダイジョブ??」
「あ、大丈夫。色々見越して多めに持ってきたし」
「さっすが
頼りにしてますヨー現在のリーダーは伊角くんなんだから」
「ほんと、気分は引率の先生だよ・・・」
旅館のロビーで宿泊の手続きを済ませる。女将から鍵を二本渡されて部屋に案内された。

「え?二部屋なの??いいじゃん、一部屋で」
和谷がふと呟く。
「あんたねーあたしという年頃の乙女がいるのよー!『男女12歳にして同衾せず』って言うでしょぉ!」
「え?なにじゃあ奈瀬だけ一部屋まるまる使うの??うわ!ずっけぇよ!ソレ!!」

奈瀬の「自称乙女発言」など聞いちゃいない和谷は猛反発した。
そう。お世辞にも用意してくれた部屋は広いとはいえず、確かに一部屋に男三人が寝るには狭っくるしい印象を受ける。

「グーパーで分かれりゃいいじゃん〜」
早いとこおやつタイムに入りたいヒカルが、飽き飽きとした表情で仲裁に入る。

ぐーぱー・・・!!!


伊角は「よりによってこの組み合わせかァ・・・」と思った。嬉しくないといえば、それは明かな嘘なのだが・・・

「んじゃ、夕飯は7時でおっけーね??」
「ああー、食べるトコは一緒なんだろ?」
「そう。あたし達のほうの部屋に指定しといたから!時間になったら来て」

ぱたん ― ドアが閉まって部屋には伊角と奈瀬だけになった。
奈瀬は早速部屋に用意されていたお茶を入れている。

奈瀬は・・・俺と一緒の部屋でなんとも思わないのかな・・・進藤や和谷だって男は男だけど・・・奈瀬より年下だし・・・
一番同室になって気まずいのって年上のオレじゃん・・・オレだけかな・・・意識してんの・・・

「・・・伊角くん」

不意に呼ばれたので、恥ずかしくもビクッと肩が揺れてしまった。
「な・・・何??」

動揺を隠せず振り向いた伊角の目に映っていたのは―

「あんころもち、おいしいよ。ぎゅうひ入りで」

―お茶を啜りながら、はむはむと餅を食べている奈瀬だった。




夕食も終わり、風呂も済んで、くつろいでいた伊角は入って来た奈瀬と和谷達に仰天した。

「おま・・・おまえら・・・何持ってんだよ〜」
「へっへ〜ん♪やっぱコレがなきゃはじまんないだろ!」
「部屋入る前に見つけてたから、自販機♪」
「奈瀬まで・・・財布持ってどこ行ったかと思えば・・・」

和谷、ヒカル、奈瀬の3人がたくさんのビールやらサワーを抱えて戻ってきたのだ。

「んじゃ、キャンプはできなかったけど、プチ修学旅行にかんぱ〜〜〜〜い♪」

まぁ、いつもできる体験じゃないしな・・・と伊角もビールに口をつけた。

それから二時間ほどして、すっかり酔っ払ったヒカルを和谷がぺちぺちと叩き起こして
「いすみさ〜ん、んじゃ、オレ進藤連れてかえるわ〜」
「寝るのか?」
「ん〜〜〜〜、オレもぐるぐるしてるし〜」
酔っているようだ・・・。寝に入っているヒカルを引きずりながら和谷は自室へ帰っていった。

「んなぁ〜によぉ〜こんじょーないわねぇ〜も〜寝ちゃうの〜??」
奈瀬も酔っている。伊角はそこそこ飲める口のようで、ビール4本、サワー2本空けても普段とそんなに変わらない。

再び二人きりの部屋。

「さ・さ〜って、じゃ、歯磨いて寝・・・」
「いすみく〜ん」

「・・・・はい??」
「いすみくんも、もう寝ちゃうの?このメンツなのにしないで寝ちゃうの??」
「へっっ・・・??」
伊角の心臓がひときわ高鳴る。

「いすみくんってば、もってきてないの??」
うつろな目の奈瀬が伊角に迫る。

持って来てないの??・・・って・・・奈瀬が言ってるのって・・・やっぱり・・・アレ・・・?
伊角の思考がフル回転する。
当然そんなの持ち合わせていなかったので「ない」と答えると―

「あっははぁ♪やっぱぁ?うんうん、いすみくんはもってこないとおもったろ〜」
何がおかしいのかあぐらをかいた奈瀬は、布団の敷かれた床を愉快そうにばしばし叩いている。

ああああ・・・・そんなに浴衣で暴れないでくれ・・・伊角はヒヤヒヤだ。

「じゃぁ・・・歯ぁ磨い・・・」
「うっふっふ〜♪たぶんもってこないとおもったから、この明日美ちゃんがかわりにもってきましたぁ〜!!」
「・・・・・・えっっ!!」
「ふつーこーゆーばあいは、おんなのこに〜もたせるもんじゃないんだけどね〜そのへんわかってるぅ〜?いすみくん〜」
「はっはい!そのとおりです!」
もう、何がなんだかわからない。知らぬ間に正座している伊角。

伊角はただただ「昨日までの自分にサヨナラ」だと言う事だけは理解した。

「こんやはねかさないぞぉ〜

無邪気な顔で笑う奈瀬。
「明け方まで頑張っちゃおうか??あっはは〜♪」
ああ、できれば酒の入っていない状態がよかったな・・・と・・・。それも贅沢な悩みというものだろうか?

隣の部屋にいる進藤や和谷が気になるけど・・・

「いすみくん〜」

でも・・・

「じゃあ、あたしがしろね〜」

オレだって男だし・・・!!

「はやくぅ〜」

男だし・・・・・・・・・・!!!

って・・・はい〜〜〜〜〜〜〜〜???

振り返った伊角の目の前には奈瀬の取り出したアレが広げられている。
そう。アレ。常日頃見なれたアレ。
ポケットタイプというのだろうか・・・奈瀬の目の前に広げられていたのは伊角の想像したものとは遠くかけ離れた、いつもの碁盤であった。

「明け方まで何局できるかな〜??♪」

「はい〜〜〜〜〜〜〜〜〜????」

「何が『はい〜〜〜〜?』よっっ!何、伊角くん白持ちたかったの??」

「あの・・・これ・・・」
「酒の入った伊角くんになら勝てそうな気がするわ〜♪重かったんだからちゃんと勝負してよね!」
伊角はそれまで張り詰めていた緊張の糸が、ぷっつり切れた気がした。





次の日、昨日までの豪雨が嘘のように晴れ渡り、雲一つない。

寝不足で死にそうな伊角に和谷が近づく。
「い・す・み・さん♪随分眠そうじゃん」
「和谷〜・・・・」
「どだったの??さ・く・ば・んは??」
含み笑いで伊角のわき腹をつつく。
「あ〜〜〜〜〜〜〜」
「あの奈瀬のスッキリ顔を見ると・・・ぷくくvvやるねぇ伊角さんvv」

奈瀬のスッキリ顔の訳は、今朝方、昨日の酒のせいで吐きまくってスッキリしたからだったのだが・・・。

「んじゃ、しゅっぱつしんこぉ〜♪」

伊角の心の葛藤など、これっぽっちも知らない奈瀬の明るい声が青い空に響いた。


いつもと趣向を変えてみました。完全ギャグ。(あ、ギャグだったの?)
いかがでしょうか??たまにはこういうのも書いてみると楽しいですーホントは同人漫画用に考えたネタだったんですが・・・
ひたすら伊角さんが可哀想です。悲劇です。奈瀬は今回ばかりは確信犯ではないんです。だから余計伊角さんが可哀想(笑)

『男女12歳にして同衾せず』っていうのはエヴァでアスカが言ってたんですが、実際にはこんな格言(?)存在しないそうです(笑)
最初はちまちま書いていましたが、後半部分だんだんダルくなってきて、すぱすぱ書いたので全体のバランスが気に食わないです・・・
よろしければ感想くださいませーvv  2001/4/29(4/30一部修正)