「*TEL*」


奈瀬はその着信名を信じられないものでも見るように見つめた。
ほおけてしまって、思わず着信音に聞き入ってしまった。
「・・・・・っとぉ・・は、はい!」

自分の口から出た声よりも心臓の鼓動の方が大きいんじゃないかと思えるくらいのドキドキ。

なつかしい、優しい声。
この声だけで安心できる自分がいる。

「久しぶり   ―奈瀬」
照れが混じったようなその声は、容易く誰のものなのかを連想させる。
「うん・・っ!」
きっと今の自分の顔も、この携帯の向こう側の彼にはお見通しなんだろう。

「今・・電話大丈夫??」
「平気!自宅の自分の部屋。」
「そっか、なんか・・・ちっとも連絡入れないで・・・ごめん・・・」
心の底から暖かいものが染み出してくるようだ。
「ん、いーよ。気にしてない・・・・っていえば嘘だけどね」
「ごめん・・・でも・・・俺・・・碁、あきらめてないから」
「・・・・・・・・!!!!!!」

きっと今の奈瀬には伊角の口から出るその言葉は
「好きだ」よりも
「ずっとそばにいて欲しい」よりも
もっともっと嬉しいものだったろう。

ずっと待っていた言葉。
ずっと願っていた言葉。

奈瀬のその想いは奈瀬の頬を涙の形で伝った。

嬉しかった。
まだ一緒に囲碁を打って行ける
まだ一緒に囲碁の話ができる。
まだ一緒に・・・・まだ側にいてもいいんだ・・・!!!

どんどん込み上げてくる涙。
実際プロ試験終了後、奈瀬は恐かった。
このまま伊角が囲碁をあきらめ、自分とは違う世界を選び、そこで生きてしまうのではないか?
不安で不安で

おかしいね、「嫌いだ」って言われるのもイヤだけど、あたしにとっては伊角くんが
「囲碁をもうやめる」っていう方がよっぽどツラいわ。

嬉しいの。同じ夢、同じ道、同じ願い。
好きな人と同じ事を共有できるのって・・・絶対嬉しいよね?
伊角くんもそう・・・おもってくれているかな?

ぐるぐる頭の中で考えてると、電話の向こうの伊角が反応の遅い奈瀬に念を押す。
「聞いてる??奈瀬???」
「ごっ・・・ごめん、自分の世界入ってた!!」
苦笑しながら伊角が改まったように呟く。
「奈瀬、受かろう・・・・・・・・・・一緒に―」
「あたし!今年こそ伊角君との勝負!負けないんだからぁ!!」
「ん、俺も!」

「もう・・・去年のようなミスは―」
「こらぁっ!伊角くん!!」
突然の怒鳴り声。
思わず伊角は受話器から耳を遠ざける。
「ん・・・・なっ・・・何だよ、奈瀬〜急に大声出したりして・・」
「去年は去年!!!!!」
「え・・・・・?」
「去年自分がした事を『反省』の形で体に叩き込んだのなら、もうこれから先は過去のことなんか考えないっっ!!」
叱り付けるような奈瀬の声。
そして伊角の顔に微笑がこみ上げる。

「・・・・・伊角くん?ごめん・・・・生意気言ったね・・・あたし・・・。怒った??」
「いーや、奈瀬にさ、電話してよかった・・・・って考えてただけ!」
「・・・・・・・・伊角くん・・・・・・・・・・」
いつから伊角はそんな照れの入るような台詞をさらっと言えるようになったのだろう?
奈瀬も伊角も気付かない『伊角の成長の証』

「ありがとう、奈瀬」
「・・・・んーん、伊角くんも・・・・・あたしなんかに連絡してくれてありがと!」
「頑張ろうな」
「うん」


携帯を切った奈瀬はカレンダーに大きなハートマークをつけた。
プロ試験予選の初日。

「また、あたしたちは・・・・ここから再スタートなんだ」

伊角が中国で得たものを、奈瀬は大きすぎるお土産として受け取った。
試験まであと1ヶ月―
不安よりも期待を胸に、奈瀬はカレンダーを見つめた。


恐ろしく久々のイスナセ小説・・・・忘れてたわけじゃなかったんですヨー
ただ、別の用事が・・・(笑)(クラカヤかよ?)
この二人には、ほんと頑張ってもらいたいです!!!
いいね、良きライバルで、戦友で、しかも両想いvvvvいい関係だと思います!
お互い高みを目指して頑張れ!!と応援したくなってきますvv
ただ・・・最近ずっと書いていたのがクラカヤだったので・・・・このイスナセがイヨーに甘甘に思えて・・・(笑)
このーチャーミーグリーンカップルめーーーーーっっ!!!(笑)
今年のプロ試験本命は「伊角・奈瀬・門脇」です。私は!!!

2001/12/8UP(書いたのはもっと昔・・・)