情報科学のあれこれ(13)

インターネットで情報を探索できる仕組み(その2) 検索の実行と情報の評価の例

 インターネットで情報を探索できる仕組み(その1)では、Web上の文書データベース
を検索する仕組みについて説明した。しかし、検索の課程で実際にどのような問題が生ず
るかは検索を実行してみなければわからない。それと共に最適な検索結果を得るには、検
索のキーワードの選び方をどうすべきかなども大切である。その上で得られた検索情報を
評価することも重要である。この章では前章の説明をフォローしてこれらのことを体得し
てみたい。

5.検索の実行と検索での問題点
(1)検索テーマについて
      ここでは“一般情報処理教育”に特化して、検索エンジンのGoogleを使用して検索
    することにしよう。一般情報処理教育を選んだのは次のような理由である。
      先にこのホームページで記した「情報科学あれこれの(8)や(9)」の“情報に
    ついての教育はいかにあるべきか”においては、情報を専門とする学科で行われる教
    育と、それ以外の学科や情報を専門とする学科でも初学年次で行われる教育(以後一
    般情報処理教育と呼ぶ)を一応区別して記述したが、引用させて頂いた先生方は情報
    を専門とされる方が多かったので情報を専門とする学部・学科に偏り、一般情報処理
    教育についての記述は手薄であった。その際数多く引用させて頂いた情報処理学会誌
    の“情報技術と教育”のコラムでその後掲載されたものも第3表のようで、寄稿され
    ておられるのはいずれも情報を専門とされる先生方である。
      

      上表の白井克彦先生は、早稲田大学電気工学科ご出身で早稲田大学の総長であり、
    長尾真先生は京都大学電子工学科ご出身で前京都大学総長であり、疋田輝雄先生は明
    治大学理工学部情報科学科におられ、松本吉弘先生は東京大学工学部ご出身で元京都
    大学工学部教授であり、神沼靖子先生は東京理科大学ご出身で前前橋工科大学教授で
    あり、有磯先生は慶応大学電気工学科のご出身で慶応大学工学部教授を経て、現在東
    京工大メディア学部長であり、鳥居先生は大阪大学工学部のご出身で奈良先端大学院
    大学長である。これらの先生方は、もとより技術や工学にとらわれない広い視野から
    ご意見を述べられているが、一般情報処理教育に特定して深く掘り下げてはおられな
    い。
      しかし、一般情報処理教育の在り方について考えることは、普通高校で必修となっ
    た情報教科を履修して入学してくる平成18年度以降の学生に対して、一般情報処理教
    育をどのように教えるかは非常に重要な問題である。

(2)検索の実行例
      Googleを使用した検索については、たまたま朝日新聞の平成16年9月18日朝刊の
    be on Saturdayに使い方が載ったので参照されたい。Googleではand検索は日本語の
    場合2つ以上のキーワードを全角1文字空けて書くことで行う。これに対してor検索
    は2つ以上のキーワードで、初めのキーワードの後全角1文字空けて半角小文字でor
    を入れまた全角1文字空けて次のキーワードを書くようにして行う。
      先ず“情報処理”と“教育”をそれぞれキーワードとしたand検索を行う。これを
    行うと約150万件のWebサイトが検索される。上位には情報処理教育センターや情報処
    理教育に関する研究集会などに関するものが多い。これでは余りに検索データが多い
    ので、次に“一般”と“情報処理”と“教育”で検索してみる。これでは52万4000件
    中の4番目に“一般情報処理教育の再検討@”というWebサイトが見付かった。
      この内容は次のようである。著者は学術情報センターの福井市男氏で、情報処理学
    会の調査委員会が行った「大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研
    究」(文部科学省委嘱調査研究、平成4年度報告)報告書と比較して、佐賀大学の一
    般情報教育の変化の過程を交えながら、一般情報処理教育の再検討について述べられ
    ている。
      また12番目に“大学等における一般情報処理教育の在り方に・・・A”というWeb
    サイトが出てきたが、更新日は2003.11.28であるが、内容は前述の平成4年度の報告
    書であった。
      30番目にも同じタイトルのWebサイトが出てきたが、中身は“情報リテラシーと大
    学図書館B”という2003年9月付けの報文で、よく調べて見ると参考文献名として
    “大学等における一般情報処理教育の在り方に・・・(平成13年度報告の目次のみ)”
    が記載されていることが分かった。
      43番目に“による一般情報処理教育C”というのがあり、何によるのかタイトルで
    は分からなかったが内容を見ると、“Linuxによる一般情報処理教育”であった。
      52番目の“工学部における一般情報処理教育についてD”は、工学部においても大
    学入学直後の学生は情報系、非情報系に関わらずバックグラウンドは変わりはなく、
    1年生は全学生に一般情報処理教育を行わねばならないという立場から、その授業内
    容を具体的に述べておられるが、このレポートが作成されたのは平成4年である。
      次に高等学校の授業の影響を見るため“教科”と“情報”と“大学”と“インパク
    ト”をキーワードとして検索してみると13件中1番目に“教科「情報」の与えるイン
    パクトE”が出てきた。この中を読んでみると、参考文献の中に“大学等における一
    般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平成13年度報告書)”があった。
      これは9番目にあった同じタイトルのものの平成13年度のものであり、現状では最
    も新しいものと思われた。この報告書自体が出てこないか200番目まで見てみたが、
    残念ながら出てこなかった。そこで今度はキーワードとして、“大学”と“一般”と
    “情報処理”と“教育の在り方”を用いて検索してみた。これでも平成4年度の報告
    書しか出てこない。そこでキーワードとして、“大学”と“一般”と“情報処理”と
    “教育の在り方”に加えて“文部科学省”と“委嘱調査研究”を加えてみた。これで
    も参考文献として“大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平
    成13年度報告書)”を挙げている論文しか出てこず、目的とする本文が出てこない。
    仕方がないので“大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平成
    13年度報告書)”をキーワードとしてみたが、これでも平成4年度のものしか出てこ
    なかった。
      どうにも仕方がないので情報処理学会のホームページから検索することにした。
      トップページ→学会案内→委員会活動→情報処理教育委員会→委嘱調査研究報告書
    とたどることで、ようやく“大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査       
    研究(平成13年度報告書)F”を見つけることができた。
      “平成13年度の大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究報告書”
    の目次はWebサイトで、またその全文は次のWebサイトの通り、CD版の送付を申し込
    むことで見ることができることが分かった。
      ここで目指す情報のあり場所が分かったので、その情報を使って、キーワードとし
    て“情報処理学会”と“委嘱調査研究報告書”を使用して検索してみる。今度は2510
    件の1番目にあり、それをクリックすると委嘱調査研究報告書の一覧が示された。そし
    て2番目に全文のCD版の送付申し込みに関する説明があった。

(3)「一般情報処理教育」についての情報検索での問題点
      実際に「一般情報処理教育」について検索を実行してみて、色々な問題に遭遇した。
    まず検索経過から適切な情報を見つけるための、キーワードの選び方の大切さと難し
    さを実感した。それと共にGoogleでは新しい情報がのせられていない場合があること
    を知った。これは同じタイトルであれば古い情報の方が、アクセス回数が多いことか
    らランクが高いためではないかと思われる。では検索された情報が目的とするもので
    あるか否かをみてみよう。その上で一般情報処理教育がいかにあるべきかを考えてみ
    よう。
      次の7つのWebサイトを検索して取り出したが、最終の1つでようやく目的の情報
    に辿りついたように思われる。この課程で検索されたWebサイトの問題点を個々に眺
    めてみよう。
  @ 一般情報処理の再検討    ABCDEF
        平成4年度の調査報告書と比較して論述されたものであり、現在参考にするには
      不十分である。
    A  大学等における一般情報処理教育の在り方・・・
        平成4年度の報告書であった。
   B  情報リテラシーと大学図書館
        2003年即ち平成15年度に書かれたものであり、丹念に調べた結果、参考文献に
      “大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平成13年度報告)”
      の目次のみのURLが記載されていることを発見した。しかし、目次のみでは不十分
      と考えた。
    C による一般情報処理教育について
        文頭の言葉が書かれていないのでこのままでは内容が分からないが、検索順位で
      上位に位置づけるためこのようなホームページのタイトルのつけ方をしたものがあ
      る。内容はLinuxによる教育という特殊なものであり、一般的なあり方を知るには参
      考にならない。
    D 工学部における一般情報処理教育について
        内容的には参考になるが、平成4年度のものであった。
    E 教科「情報」の与えるインパクト
        参考文献の中に“大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究
      (平成13年度報告書)”があったが、この参考文献とのリンクが張られておらず、
      それ以上進めなかった。
    F 大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平成13年度報告書)
        今までの検索方法とは全く違う方法で検索して、ようやく平成4年度報告から平
      成13年度報告に辿りつくことができた。しかし、B情報リテラシーと大学図書館の
      段階でも参考文献のURLをたどって同じ所へ辿りつけることが後で分かった。Bでは
      目次だけでは不十分とこの線は追求しなかったが、結果的に回り道になったのは残
      念である。

6.検索結果の評価
(1)検索結果の評価方法について
      検索結果の評価は、目的とする情報が得られたか否かと、検索結果に到達するのに
    どれだけの試行錯誤を要したかということと、得られた情報がどれだけ価値のあるも
    のであったかの3つの観点から評価しなければならない。
      今回の検索では“大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究(平
    成13年度報告書)”が得られたので、目的とする情報が得られたといえよう。2つ目
    については、検索のやり方も大きく影響するので中々評価が難しい。今回は早い段階
    で最終検索結果のタイトルが見つかったが、前述した通り同名の平成4年度の報告書
    が出てきて平成13年度分の報告書の検索を妨げたので、回り道を余儀なくされた。こ
    の回り道を見つけることができなければ、目的とする検索結果が得られなかったかも
    知れない。その点でロボット型検索における大きな問題点を発見した。3つ目の得ら
    れた情報の価値については、次項以降で評価したい。

(2)高校教科「情報」の教科書について
      大学等における一般情報教育の調査研究報告書を評価する前に、比較の対象として
    高校教科「情報」の教科書を見てみよう。これらに関する事項は、高校「情報」に関
    わるリンク集のWebサイトに詳しく載っている。
      これらの教科書はいずれも150ページ前後のものであるが、それらの特徴は絵が多い
    ことである。私のような昭和前半の生まれの者には、教科書といえば文章と図表で構
    成されたものとのイメージであるが、それとは程遠いカラフルなものである。楽しん
    で分かり易く勉強できるように書かれているといえばそうであるが、これに慣れ親し
    むと硬い本が読めなくなるような気もする。
      情報A、情報B、情報Cの内容の違いについては“情報科学のあれこれ(2)情報に関
    する新しいリテラシー”でも述べたが、改めて第4表にまとめて記す。
      

      文部省の学習指導要領解説ではこれらの違いを簡明に示していて、「情報A」はコン
    ピュータや情報通信ネットワークなどの活用経験が浅い生徒でも十分履修できるよう
    に、また「情報B」はコンピュータに興味・関心をもつ生徒が履修することを、「情報
    C」は情報社会やコミュニケーションに興味・関心をもつ生徒が履修することを前提と
    していると述べている。
      平成15年度の教科書の採択状況は、情報Aが83.8%、情報Bが7.6%、情報Cが8.6%
    である。各社別の採択状況はWebサイトで見ることができるが、情報Aと情報Bについて
    は実教出版のものが極めて多い。各社別の教科書の特徴もWebサイトで見ることができ
    るが、実教出版の教科書の採択が多いのは、ケーススタディ的に高校生のキャラク
    ターが出てきて生徒と一緒に学習する形になっており、かつコンピュータ画面やイラ
    ストが多く、なじみ易さが評価されたからではないかと思われる。しかし、大学での
    授業レベルとの落差が少ないことも大切であり、採択率1位の実教出版のものと2番
    目に多い日本文教出版のものと、情報Aの採択率は少ないが情報Bと情報Cはそこそこ採
    択されている、著名な情報学者である板村先生が著者の一人として参画された数研出
    版のものを取上げて比較してみた。
      これらの教科書の概要を知るため、それぞれの目次(大項目、中項目、小項目)と
    中項目のページ数を引用して以下に紹介する。情報BとCについては本文に記載するに
    は非常に多くのページ数を費やすことになるので、興味をお持ちの読者には別の
    Webページで見てもらうことにした。

     情報A 岡本敏雄編集・執筆、山極隆監修 実教出版
        第1章  情報の活用とコンピュータ
          1 情報の活用(18ページ)
           1 問題を解決するには
           2 楽しい旅行計画をたててみよう
           3 問題解決の工夫
           ■ 情報リテラシー 表計算ソフト 
          2 情報の伝達(21ページ)
           1 いろいろな情報伝達の方法
           2 コンピュータを活用した情報伝達の工夫
            ■ 情報リテラシー プレゼンテーションソフト

        第2章  ネットワークの活用
          1 情報の検索と収集(16ページ)
           1 知りたい情報をみつけるには
           2 検索エンジンの利用
           3 工夫して探索してみよう
          2 情報の受発信と共有(14ページ)
           1 受発信に適した情報のあらわし方
           2 共有に適した情報のあらわし方
          3 ネットワーク利用の心がまえ(9ページ)
           1 情報の信ぴよう性と信頼性
           2 情報の保護
           3 セキュリーティ
           4 個人の責任

        第3章  マルチメディアの活用
      1  情報の統合(22ページ)
       1 ハードウエア・ソフトウエアの利用
       2 情報のディジタル化
      2 マルチメディア作品の製作実習(19ページ)
       1 プレゼンテーションソフトの利用
       2 Webページの利用

        第4章  未来に向けて
      1  メディアの発達としくみ(18ページ)
       1  メディアの発達
       2 技術革新が与えた影響
       3 コンピュータのしくみ
       4 情報通信ネットワークのしくみ
      2 ITが開く21世紀(8ページ)
       1 社会・生活の変化
       2 情報化の光と影
       3 ひかり輝く未来に向けて

      ■  重要用語のまとめと解説(2ページ)
      

     情報A 水越敏行、村井純編 日本文教出版
        第1章 情報を理解しよう
          第1節 わたしたちの暮らしと情報(6ページ)
       1 情報社会とメディア
       2 身のまわりの情報機器やネットワーク
       3 コンピュータで何ができるのだろう
          第2節  身近な問題を解決しよう(8ページ)
            1 身近な問題を見つけよう
            2 進路を考えてみよう
            3 問題解決のさまざまな手順
          第3節  情報伝達の工夫(13ページ)
        1 情報の伝達とは
        2 プレゼンテーションとは
        3 ネットワークを使った情報伝達
        章のまとめ

        第2章 情報を活かそう
          第1節 情報の検索と収集(6ページ)
       1 情報の検索とは
       2 インターネットで検索しよう
       3 いろいろな情報収集
          第2節  情報の発信と共有(6ページ)
       1 情報を整理しよう
       2 情報を発信・共有しよう
       3 共有するための諸注意
          第3節  情報を活かすために(9ページ)
       1 情報の信頼性と責任
       2 情報を守るために
       3 情報を守る技術
       4 情報モラル
    章のまとめ

        第3章 情報を表現しよう
          第1節 情報を伝えよう(12ページ)
            1 情報を伝えるために
            2 ディジタル情報
       3 文字を扱う
       4 数字を扱う
       5 画像を扱う
       6 音声を扱う
       7 映像を扱う
          第2節 情報を統合しよう(13ページ)
            1 マルチメディア作品の制作
            2 ポスターの制作
       3 プレゼンテーション用スライドの制作
       4 Webページの制作
        章のまとめ

        第4章 総合実習
          第1節 総合実習の進め方(2ページ)
       1 総合実習とは
       2 総合実習の流れ
          第2節  総合実習の実践(14ページ)
       1 テーマを決めよう
       2 計画を立てよう
       3 調査しよう
       4 制作に取り組もう
       5 発表しよう
       6 評価しよう
          第3節 総合実習の実践例(7ページ)
        1 社会生活の中のコンビニエンスストア
       2 情報のユニバーサルデザイン
       3 国際交流が広げるコミュニケーション
       4 オリジナル名刺ではじめるコミュニケーション
        章のまとめ

        第5章  情報を読み解こう
          第1節 情報機器の発達としくみ(4ページ)
            1 情報の記録
            2 情報の処理
          第2節 情報社会とわたしたち(10ページ)
       1 情報化の進展と社会
       2 わたしたちのライフスタイル
          第3節  情報社会の未来に向けて(5ページ)
       1 情報社会に参加しよう
       2 情報社会の明日のために
    章のまとめ

    学習を終えるにあたって
    用語・資料(6ページ)


     情報A 坂村健、清水謙多郎、越塚登著 数研出版
        第1編 われわれのくらしと情報
          第1章  情報とは何か?(12ページ)
             A  情報を得る
             B 情報の評価と決断
             C 情報の信頼度と検証
             D 問題解決のプロセス
          第2章  情報の表現と変換(7ページ)
             A 情報の表現
             B  失われる情報
             C  情報の取り扱い

        第2編 情報機器のしくみと歴史
          第1章 情報の表現と伝達(14ページ)
             A  数値と文字の表現
             B いろいろなディジタル表現
             C  ディジタル情報の圧縮
             D  ディジタル化による情報の統合
          第2章 コンピュータのしくみ(7ページ)
             A  ハードウエアとソフトウエア
             B  ハードウエアのしくみ
             C  ソフトウエア
          第3章 コンピュータとネットワークの発達(8ページ)
             A  コンピュータの発達
             B  ネットワークのしくみ
             C  ネットワークの発達

        第3編 情報の作成・統合・活用
          第1章 情報の作成(13ページ)
             A  文章の作成
             B  図の作成
             C  表の作成
          第2章  情報の統合と活用(4ページ)
             A  情報の統合
             B  情報の活用

        第4編 情報の収集と発信
          第1章 電子メールと情報の収集・発信(5ページ)
             A  電子メール
             B  電子メールを使った情報の収集・発信
          第2章 Webと情報の収集・発信(8ページ)
             A  Webとは何か?
             B  インターネット上での情報の検索
             C  WWWを使った情報の発信

        第5編 情報と社会生活
          第1章 情報収集・発信の社会的側面(7ページ)
             A  著作権
             B  プログラムの保護
             C  個人情報の保護
          第2章 情報化の進展と生活・社会の変化(3ページ)
             A  情報化による新しい人間関係
             B  新しい生活スタイル
          第3章 情報化社会の問題点(7ページ)
             A  コンピュータ犯罪
             B  コンピュータウイルスとチェーンメール
             C  安全性
             D  情報格差とユニバーサルデザイン

        資料編(5ページ)

      個別の教科書については、実教出版の情報Aでは13名の執筆者中6名が高校の先生で
    あり、その他協力者として13名の高校の先生がおられる。日本文教出版の情報Aでは24
    名の執筆者中高校の先生が8名である。また数研出版の情報Aは3名の大学の先生が中
    心となり、その他13名の高校の先生と著作に当たっておられる。
      これから見ても、実教出版の教科書は高校の先生の立場を重視した内容になってい
    るのに対し、日本文教出版の教科書は大学での一般情報処理の講義に結び付けること
    を意識して書かれているように思われる。一方数研出版の教科書はその内容からみて、
    大学での講義の高校版というイメージがある。それだけに後者になるに従って、教科
    書に書かれている表面的なことだけではなく、中身まで掘り下げて学習するには、高
    校の先生にも生徒にもやや負担が重い感がある。
      例えば、本章とも関連のあるインターネットでの情報検索について、数研出版が出
    している情報Aの第4編第2章の“Webと情報の収集・発信”では、ディレクトリサー
    ビスやロボット型サーチエンジンの説明やWebページの作成について記載されている
    が、これらを生徒に理解させるには先生に相当の経験が必要であろうと思われる。さ
    らに「情報科学のあれこれ」でも当初にとりあげたマルチメディアに関して、日本文
    教出版が出している情報Cの第2章第3節の“ディジタルデータの表現と統合”での、
    動画データの圧縮や音などのディジタル化に当たってのサンプリング周波数や量子化
    ビット数の理論からの説明などについては、相当の情報科学の素養を必要とするよう
    に思われる。
      一方、文部科学省の学習指導要領では、原則として情報Aでは総授業時間の1/2以
    上、情報BおよびCでは1/3以上を実習に配当するように示されている。実教出版や
    日本文教出版の教科書では、独立した演習の章や節が設けられているのに対し、数研
    出版の教科書では、各編毎に演習問題や編末問題が示されているが、いずれも解答を
    求めるための指針やヒント、および解答はついていない。
      これらの教科書を見ると、深さは別として私が今まで大学の学部の、初級年次の学
    生に講義していた内容をすべて網羅した上、さらにインターネットでの情報の検索の
    仕組みなどまで広い範囲について授業するようになっている。高校でこの教科書の内
    容をマスターして入学してきた学生に対して、大学で「一般情報処理」教育で何を講
    義したらよいか気になるところである。

(3)大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究報告について
      この調査研究は平成15年度より普通高校で教科「情報」が必修となり、その教育を
    受けた大学の1年生が入学してくることを前提として、大学の一般情報処理の在り方
    を検討したものである。即ち、初等・中等教育における情報関連教育、および大学の
    専門課程における情報処理教育を意識して、連続性・整合性を持つような大学での一
    般情報処理教育の在り方を調査研究したものである。
      先ず大学、短大、高専を対象とした一般情報処理教育に関するアンケートの結果を
    示しているが、それは省略して提案されているカリキュラムの内容を示そう。ここに
    記載されているカリキュラムは、中核的科目のカリキュラムとしての、“情報とコン
    ピューティング”と“情報とコミュニケーション”と、それらの代替的なカリキュラ
    ムとしての“科目「情報とコンピューティング」”と、中核的科目のカリキュラムを
    補完するための“補完的科目のカリキュラム”の4つである。
      以下この4つのカリキュラムについて、中項目までは報告書の通り引用して記載す
    るが、それでは内容がはっきりしないものは授業内容などを参考に、それ以上の細か
    い内容についても私の考えで選び記載した。

    6.2   中核的科目のカリキュラム
          中核的な科目として“情報とコンピューティング”と“情報とコミュニケーシ
        ョン”の2つの科目が設けられている。   

      6.2.1  情報とコンピューティング(大項目)
          ・学部1または2年次を想定、いわゆる文系・理系は問わずに適用
          ・高校教科「情報」実施後も対応
          ・大項目の授業の目標、授業の内容として中項目名を示すと共に、さらに中項
        目ごとに、授業内容、到達目標、小テスト・レポート項目例、注意事項・授業時
        の工夫が示されている。
          授業の目標については次の3つの個別目標が示されている。
    (1)コンピュータサイエンスに関する基礎的な素養の習得
    (2)情報システムに関する基礎的な素養の習得
    (3)情報化社会の本質に関する基礎的な素養の習得
          このうち特に(1)については内容の説明に加えて、次のような補足説明がな
        されている。
          「コンピュータサイエンスは、コンピュータ領域における学問としての基盤に
        位置づけられる。今後初等中等教育機関でのリテラシーを中心とした情報教育が
        普及定着することにより、高等教育機関ではより高度な情報教育が求められる。
          また、コンピュータサイエンスの内容は、いつの時代においても不変であり、
        系統的な学問領域である。このため、一般情報処理教育においてもコンピュータ
        サイエンスの基礎を取り入れることが妥当であり、学問探求の場としての大学に
        は適しているといえる。
          リテラシー習得が中心となる情報教育では、操作的な技能の習得が容易である
        一方、コンピュータの原理や機構に関する理解に至らない場合が多い。このため、
        コンピュータを操作している最中に、何か障害が生じても独力で回復ができなか
        ったり、間違った対処をしてさらにおかしくしてしまうといった事態を起したり
        する。このようなことを避けるためには、コンピュータの内部機構や動作原理に
        ついて、理論的に系統的に理解している必要がある。コンピュータサイエンスを
        学ぶことによって、コンピュータを科学的に解明することができるようになり、
        このような事態を回避できるといえる。」(引用終り)
          大項目としての“情報のコンピューティング”の中項目は次のようである。
          1. 情報のディジタル化
          2. コンピューティングの要素と機構
          3. コンピュータ開発の歴史
          4. コンピュータによる問題解決(データのモデル化)
          5. コンピュータによる問題解決(アルゴリズムとプログラミング)
          6. 情報システムの利用と社会的問題
          この中項目の中の小項目をすべて記載するには多くの紙数を必要とするので、
        一例として2.の“コンピューティングの要素と機構”について小項目を挙げる。
          ・コンピュータの全体構成(必)
          ・中央処理装置(必)
          ・主記憶装置(必)
          ・補助記憶装置(選)
          ・入力装置(選)
          ・出力装置(選)
          ・インタフェース装置(選)
          ・グラフィックス装置とサウンド装置(選)
          ・通信装置(選)
          ・コンピュータの動作原理(必)
          ・プログラムの実行制御(選)
          これらの小項目についてはそれぞれ授業の具体的内容の説明が加えられている。
          例えば、・コンピュータの全体構成については、「1台のコンピュータ本体を
        取上げて、中央処理装置、主記憶装置、補助記憶装置、入力装置、出力装置、イ
        ンタフェース、グラフィックスとサウンド装置、通信装置に関して、それぞれの
        役割と機能について扱う」(引用終り)、次の・中央処理装置については、「制
        御部では、チップとチップセットの技術的な進展について説明すると共に、カウ
        ンタ、各種レジスタ(命令・データ・指標)、デコーダ(解読器)について取上
        げる。演算部では、算術演算装置(ALU)と各種レジスタ(オペランド・条件コー
        ド)とアキュムレータ、2進数同士の演算について取上げる。」(引用終り)
          小項目の中で(選)とあるのは、授業にあたって選択としてもよいことを意味
        するが、これは上に説明したように必修の小項目の中で一応学習するのでそれだ
        けでもよいということであり、全然学習の必要がないということではない。

      6.2.2 情報とコミュニケーション(大項目)
          ・学部1または2年次を想定、いわゆる文系・理系は問わずに適用
          ・高校教科「情報」実施後も対応
          ・情報とコンピューティングと同じく、大項目の授業目標、授業の内容として
          中項目名が示され、さらに中項目ごとに、授業内容、到達目標、小テスト・レ
          ポート項目例、注意事項・授業時の工夫が示されている。
            授業の目標については次の4つの個別目標が示されている。
          (1)情報に関する基本的な概念
          (2)コミュニケーションにおける情報とその処理に関する基礎的な素養
          (3)情報システムに関する基礎的な素養
          (4)情報社会に関する基礎的な理解
          その他の構成も6.2.1の“情報とコンピューティング”と同じである。中項目は
        下記の通りである。
          1.マルチメディアのディジタル表現と処理
          2.WWW検索のしくみ
          3.人とコンピュータ
          4.情報と通信のモデル
          5.通信プロトコル
          6.コンピュータネットワークのしくみ
          7.記号と情報理解のモデル
          8.情報システム
          9.企業活動と情報システム
          10.情報セキュリティ
          11.社会基盤としての情報システム
          12.情報社会におけるコミュニケーション
          13.情報がかえていく社会
          14.情報社会の明暗

      6.2.3  科目「情報とコンピューティング」(大項目)
          6.2.1の「情報とコンピューティング」に引き続き、科目という頭書きをつけ
        て「情報とコンピューティング」が取上げられたのは、異なるアプローチの授業
        は可能かということを検討する必要があると考えられたからである。何故なら
        「情報とコンピューティング」の特性と一般情報教育の置かれた状況を見ると正
        統なアプローチでは授業を進めにくいということも懸念され、代替アプローチの
        必要性が感じられたからである。このためコンピュータサイエンスの系統的な理
        解を迂回するアプローチの検討と適用を前提に次のようなカリキュラムが提案さ
        れている。
          1.コンピュータを使う
          2.インターネットに接続する
              TCP/IPなどを学習する
          3.ソフトウエアを作る
              プログラムからOSの機能を理解する
          4.ハードウエアについて考える
              4.1 この章で学ぶこと
              4.2 プログラムの実行環境
              4.3 効率のよい装置
                4.3.1 中央処理装置の動作
                4.3.2 中央処理装置の構成
              4.4  記憶装置
              4.5  ICとLSI
              4.6  まとめ  
          5.コンピュータの歴史

    6.3  補完的科目のカリキュラム
          補完的科目は、中核的な科目として設定した6.2.1“情報とコンピューティング”
        または6.2.2“情報とコミュニケーション”では情報教育の中核部分を完全にカ
        バーするのは難しいことから、一般情報処理教育の範囲内でさらに詳しく学習す
        るための科目を取上げたものである。
          大項目と中項目は次のようであり、各項目に対する指針や説明は前述のカリキ
        ュラムと同じである。なお、6.3.5のコンピュータリテラシーの大項目は、高校で
        の教科「情報」で習得されているはずの情報リテラシーの素養が不足している場
        合に対処するためのものである。

      6.3.1 プログラミング基礎(大項目)
         1.擬似言語による記述演習
         2.プログラミング言語での記述
         3.プログラムの例をこなす
         4.抽象度の高いプログラミング
         5.良いプログラムを創る方法

      6.3.2 情報システム基礎(大項目)
         1.情報と情報システム
         2.情報システムの歴史
         3.社会基盤としての情報システム
         4.企業戦略と情報システム
         5.情報システム演習
         6.情報システムに関する犯罪事例
         7.情報システムとディジタルデバイド

      6.3.3 システム作成の基礎(大項目)
         1.オリエンテーション
         2.企画書の作成1〜企画(分析)とは?〜
         3.企画書の作成2〜企画書の作成〜
         4.設計1〜コミュニケーションの仕組み〜
         5.設計2〜構造化の考え方〜
         6.設計3〜構造化されたWebページの設計〜
         7.設計4〜ナビゲーションの考え方
         8.設計5〜ユーザビリティー〜
         9.製作1〜HTMLの復習とスタイルシートの適用〜
         10.製作2〜統合的な実践〜
         11.製作3〜リデーションのチェック
         12.評価〜問題点を洗い出す〜
         13.修正〜問題点を見直す〜
         14.プレゼンテーション

      6.3.4 情報倫理(大項目)
         1.情報システム、インターネットとWWWの仕組み
         2.情報と倫理
         3.表現の自由とプライバシー保護
         4.知的所有権
         5.インターネットと刑法 
         6.暗号、電子透かし、認証のしくみ 
         7.情報危機管理
         8.プレゼンテーション、ディスカッション

      6.3.5 コンピュータリテラシー(大項目)
         ・学部1年生を対象
         1.ネットワーク環境と情報倫理
         2.PCの基本操作と日本語入力
         3.電子メール
         4.ファイルの扱い、WWWの扱い
         5.情報検索
         6.英文入力
         7.スプレッドシートの利用1
         8.スプレッドシートの利用2
         9.スプレッドシートの利用3
         10.WWWとスプレッドシート

(4)高校の教科「情報」の授業内容と、大学の「一般情報処理教育」の講義内容の違い
    について
      以上見てきたように、高校での授業は情報リテラシーの習得が中心であるが、大学
    の講義では基礎的な素養の習得が中心である。また高校の授業では教科書が制定され
    ているのに対し、大学の講義には推奨するカリキュラムはあるが、それに対応した、
    まとまった教科書に相当するものはない。特に補完的科目のカリキュラムの内容は相
    当高度であり、それぞれの具体的内容に対する専門書によらねばならない所も多いよ
    うに思われる。
      大学での講義は教師の裁量に任されており、それだけに教師の考え方や熱意や使用
    する教科書や参考書によって内容が大きく異なる。アメリカでは例えば、MIT発行の
    「Great Ideas in Computer Science」(日本語訳:やさしいコンピュータ科学、原著発
    行1990、アスキー出版局)や、「FEYNMAN LECTURES ON COMPUTATION」(日
    本語訳:ファインマン計算機科学、原著発行1996、岩波書店)のような定評のある教
    科書があるようであり、一般的な参考書としては、O'reilly社のものが、定評があ
    るようである。日本ではオラィリー・ジャパンが一部の本の日本語訳を出版している。
    http://www.oreilly.co.jp/catalog/
      しかし、日本にはカリキュラムのすべてをカバーする教科書は寡聞にして見つけて
    いない。近いものとしてはアイテック社の「コンピュータサイエンス」(1996)があ
    るが、前述のカリキュラムに沿った推奨されるような教科書の編纂が必要ではないだ
    ろうか。

参考文献
1) 小泉修、図解でわかるデータベースのすべて、日本実業出版社、1999
2) 西尾章治郎他、情報の構造化と検索、岩波書店、2000
3) 斉藤孝、インターネットによるディジタル・ライブラリの構築、日科技連出版社、
                                                                       1997
4) 栗林誠也、Web+データベース入門、広文社、2001
5) 大谷卓史他、まるごとわかるデータベース読本、技術評論社、2000
6) 水野貴明、Googleの謎、ソーテック社、2004
7) 渡辺隆広、検索にガンガンヒットするホームページの作り方、翔泳社、2004
8) G.Chang他、武田善行他訳、Webマイニング、共立出版、2004
9) 鷲尾隆、ビジネスにおけるデータマイニングの現在・未来、情報処理学会誌 
                                    Vol.42 No.5、情報処理学会、2001
10) 岡本敏雄、山本隆、情報A、実教出版、平成14年1月20日検定済
11) 水越敏行、村井純編、情報A、日本文教出版、平成16年2月29日検定済
12) 坂村健、清水謙多郎、越塚登著、改訂版 情報A、数研出版、
                                                     平成16年2月29日検定済
13) Alan W. Biermann著、和田英一監訳、やさしいコンピュータ科学、アスキー出版局、
                                                     1997
14) A.ヘイ、R.アレン編、原康夫他訳、ファインマン計算機科学、岩波書店、2002
15) 大林久人監修、高田伸彦他、コンピュータサイエンス、アイテック、1997
16) 中易秀敏、坪野博宣、情報科学−基礎編、共立出版、2001
17) 中易秀敏、坪野博宣他、情報科学−活用編、共立出版、2000
18) 中易秀敏、坪野博宣他、情報科学−ヒューマン編、共立出版、2004

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