情報科学のあれこれ(15)

Web情報探索の新技術(その1) セマンティックWebサービス

1.大規模なWeb情報からデータマイニングするための諸問題
(1)具体例における問題点
      Web上から欲しい情報を入手してデータマイニングを行う場合を考えてみよう。例
    えば関西にある大学の理学部の特色を分析したいと考えたとしよう。その場合前提と
    して、理学部についての情報を入手しなければならない。先ず、考えられるのは最も
    簡単に「大学」と「理学部」と「関西」をキーワードとして、ロボット型検索でand
    検索することであろう。
      googleで検索すると40400件の情報が得られる。このうち関西学院大学理学部や関
    西大学理学部は当然検索対象となるが、その他では関西で行われる行事に参加する大
    学で理学部を持っている大阪大学理学部や大阪市立大学理学部や兵庫県立大学理学部
    などが検索される。しかし、関西にあっても京都大学理学部、大阪府立大学理学部、
    立命館大学理工学部や同大学の情報理工学部、龍谷大学理工学部などは検索されない。
      これは関西というキーワードが、その大学が関西にあるという意味を指定しておら
    ず、単に検索される文節のどこかに関西という単語があるということで検索している
    からである。これに対しては、大阪や京都や神戸など関西の中の細かい地名を指定す
    れば多少は検索の範囲が広がるが、地名のつかない甲南大学などを検索の対象とする
    ことはできない。
      また、理工学部や情報理工学部が検索対象とならないのは、これらの言葉は人間に
    とっては理学部に類するものと解釈されるが、コンピュータにとっては異なる言葉と
    しか捉えられないことを意味している。このように適切な語彙を使って人間が考える
    すべての対象を検索することは中々難しい。
      別の方法で検索しようとするには、ロボット型検索で「大学」と「理学部」をキー
    ワードとしてand検索し、検索された大学理学部が関西にあるかどうかを人間が判断
    してリストアップするか、ディレクトリ型検索で「大学」と「理学部」と「関西」を
    キーワードとして検索するかである。ディレクトリ型検索では人間がどのような意味
    のカテゴリに登録するかを決める。例えばyahooでは「関西」を関西に所在するとい
    う意味のカテゴリに登録しているので、関西に所在して登録されている大学の理学部
    を検索できる。しかし、関西にあるWebサイトを発信しているすべての大学が登録さ
    れているわけではなく、今の場合私立大学は出てこない。また理工学部や情報理工学
    部などの類義の学部も検索の対象にはならない。
      このように大規模なWeb情報からデータマイニングを行う場合には検索だけでも色
    色な問題があり、これらの問題を先ず解決する必要がある。
      
(2)データマイニング手法の開発と応用
      ではデータマイニング手法の開発状況はどうであろうか。先ずこれをカテゴリ別に
    みて分類してみよう。情報処理学会誌 Vol.46 No.1(2005年)の“最新!データマ
    イニング手法”の中の“セマンティックWebとは”という記事を参考にして分類する
    と次のようになる。しかし、個々の手法も一般に複数のカテゴリにわたっているので、
    重点に着目した分類と言える。それぞれにおける開発済みの技術や開発中の技術を以
    下に示すが、実際に利用する立場からは応用に関するものが重要であろう。
  1)量に関するもの
    @  取引記録や通信記録などのデータストリームでは、大量のデータが刻々発生する
        が、これをほぼリアルタイムで解析する手法がある。
    A  データスカッシング(Data Squashing:データ圧縮)は、データの特徴を失うこ
        となく圧縮することで、大量のデータを短時間でマイニングする手法である。

  2)形に関するもの
    @  ベクトルの形で表現できるもの
        項目や属性と値がベクトルの形で存在するもので、リレーショナルデータベース
      のようなものがこれに当たる。従来解析の対象は暗黙のうちにこのベクトル形で表
      示できるものとされてきた。最近はベクトル形ではうまく表現できない半構造のデ
      ータに対しても、これに準ずる解析を行うことが試みられている。これの適用とし
      てABCのようなものがある。
    A  配列によって表現した方が都合のよいもの
        DNAやテキストデータのようなものである。
    B  木構造によって表現できるもの
        HTMLやXLMのように「タグ」を使って木構造を作るものである。これにはXLMを利
      用したセマンティック(semantic:意味を扱う)Webがある。
    C  グラフの形で表現できるもの
        化合物やWebのリンク構造のように、グラフでつながりを示すものである。

  3)応用に関するもの
      これの代表的なものとして次の3つを取り上げるが、それぞれの詳しい内容は以降
    の各項で説明する。
    @  セマンティックWeb
        セマンティックWebは、Web上の情報を意味を加味してコンピュータで処理するた
      めの仕組みである。これはニューラルネットなどを利用して人間の機能の一部をコ
      ンピュータに代行させるものではなく、コンピュータで処理可能なメタデータを
      XML文書などに付与して行うものである。利用機能の1つにRSS(RDF Site 
      Summary:Webサイトの見出しなどの集合)がある。
    A  Blog
        Blog(ブログと読む)はWeblogとも言われ、Webに残す記録というような意味で、
      簡易版のホームページとして使用することができる情報の受発信手段である。しか
      し、高度の使い方もできる奥深いところもある。
    B  Webダイナミックス
        Webは膨大でかつ常に変化を続けている。Webダイナミックスはこの動的な側面に
      目を向けて、Web情報の獲得やその処理、ユーザへの情報の提示において知的情報
      処理的アプローチを行うものである。

      大規模なWeb情報のデータマイニングに対応するためには、関連したデータ群を検
    索して取り出すと共に、新しいデータマイニング手法を開発する必要がある。これに
    ついては"3.データマイニングに及ぼすセマンティックWebの効用"で改めて考察す
    ることにしよう。

2.セマンティックWebとWebサービス
(1)セマンティックWebの誕生
      共著者の先生方と私が「情報科学」という本を著述した最初から、情報の量と併せ
    て質、ここでは意味内容のこと、を扱うことが情報科学の課題であった。従来の情報
    科学は情報量を扱う技術を中心として発達してきたが、Web上の膨大な情報量を扱う
    ためには質、即ち内容を解釈して取捨選択をしなければ、最近の高速のコンピュータ
    を使用しても対応し切れなくなっている。そこに生まれたのがセマンティックWebの
    技術である。セマンティックWebとはWeb上にある文書などのセマンティック
    (semantic)、即ち意味を扱うものである。従来のWebサービスであるHTML文書は人
    間が読み判断するものであったのに対し、セマンティックWebではコンピュータであ
    る程度判断が可能なXML(eXtensible Markup Language)を使用する。

(2)情報交換フォーマットとしてのXLM
  1)XLMの概要
      XMLは電子的に文書を交換するための汎用記述言語であるSGML(Standard 
    Generalized Markup Language)をベースに、HTMLに次いでSGMLの拡張機能をWeb上で
    利用できるようにしたもので、次のような機能を持っている。
    HTMLもXMLもマークアップ方式の言語であるが、マークアップ方式とは文章や画像な
    どに「タグ」をつけて、指定された範囲の文章や画像などをどのように表示するかを
    指定する方式のことである。HTMLでは「タグ」の使い方は文章や画像などの内容に関
    係なしに形式的に決まっているが、XMLでは「タグ」をユーザが内容に応じて任意に
    定義することができる。任意に定義することができるということは、例えば第1図の
    ような売上伝票の場合に、意味する内容によって項目毎に別々の「タグ」をつけるこ
    とができるということである。



      これによってユーザが独自に意味内容を表す「タグ」を使って、タグで示すデータ
    の属性とデータの内容を関連づけながら記述できる。ただし、あるXMLで書かれた文
    書や帳票などは同じ定義のXMLでなければ読むことはできない。
      HTMLでは複数の関連した情報源を見るには、その間でリンクされていればリンクを
    辿ればよいが、リンクされていなければ人間が他の方法で関連情報を見つけなければ
    ならない。セマンティックWebでは複数の情報源をグローバルなXMLのタグ表現でそれ
    らを意味的に連携することで、単一の情報源を利用して連携を辿って問題を解くこと
    ができる。例えばXMLでは「タグ」と第1図の伝票などのフォーマットを関連づける
    ソフトウエアを用意することで、XMLの文書をそのまま各社の帳票などに統一して使
    うことができる。
      即ち、セマンティックWebでは、XMLで記述されたメタデータといわれるデータに関
    する情報を記述するタグを使用して、コンピュータで処理可能なプログラムを書き、
    このタグ(メタデータ)を使って検索や文書の作成などを行うのである。そのため
    Web上のデータを処理し、問題解決を可能にするエージェントソフトウエアが開発さ
    れている。

  2)XMLの実際
      XMLはHTML程普及しておらず、あるいは経験しておられない方もあると思われるの
    で、簡単な実例として第1図に対応したプログラムを次に示す。現在パーソナルコン
    ピュータのOSのWindows Xpで使用できるXMLのバージョンは1.0である。
      これは次の3つの部分からなっている。
      1行目は、XMLのバージョンや使用する文字コードを記したXML宣言である。
      2行目から13行目までは、DTD(Data Type Definition)というタグの規則について
    記した部分である。
      14行目から32行目までが、XMLプログラムの本体である
      先ず使われている記号類を説明する。
      全般  
        <         >:始めのタグ   
        </      >:終わりのタグ
        <?     ?>:処理命令
        <!      >:コメント
        <#      >:プリプロセッサ
      一行目 
        <?xml    ?>:XMLを宣言する
      2行目からのDTD
        !DOCTYPE       :文書形式であることを示す
        !ELEMENT       :要素を示す
        #PCDATA       :要素の中に文字データを入れる
        (売上商品+) :売上商品が1回以上繰り返されることを示す

      1行  <? xml version="1.0" encoding="Shift-JIS"?>

      2行  <! DOCTYPE 売上伝票 [

              <! ELEMENT 売上伝票 (伝票コード、売上日付、得意先名、売上明細、
                  合計金額)>
              <! ELEMENT 伝票コード(#PCDATA)>
              <! ELEMENT 売上日付(#PCDATA)>
              <! ELEMENT 得意先名(#PCDATA)>
              <! ELEMENT 売上明細(売上商品+)>

              <! ELEMENT 売上商品(商品名、単価、数量)>
              <! ELEMENT 商品名(#PCDATA)>
              <! ELEMENT 単価(#PCDATA)>
              <! ELEMENT 数量(#PCDATA)>

              <! ELEMENT 合計金額(#PCDATA)>
      13行  ]>

      以下がプログラムの本体である。
      14行  <売上伝票>
              <伝票コード>0001</伝票コード>
              <売上日付>2005年2月14日</売上日付>
              <得意先名>ABC(株)</得意先名>
              <売上明細>
              <売上商品>   
              <品名>情報科学−基礎編</品名>
              <単価>2800円</単価>
              <数量>5冊</数量>
              </売上商品>
              <売上商品>   
              <品名>情報科学−ヒューマン編</品名>
              <単価>2900円</単価>
              <数量>2冊</数量>
              </売上商品>
              </売上明細>
              <合計金額>19800円</合計金額>
              </売上伝票>

      以上のプログラムでの処理結果を第1図のような帳票にレイアウトして打ち出すに
    はHTMLやXMLで使えるCSS(Cascading Style Sheets)やXMLに対して強力なレイアウト
    機能をもつXSL(eXtensible Stylesheet Language)を使用したスタイルシートが必要
    であるが、これはXLMがWeb情報からデータマイニングを行うための機能に直接関係す
    るものではないので省略する。
      以上のプログラムをみて分かるように、例えば15行目の0001という数字は伝票のコ
    ード番号を表すものであることが分かる。このようにXMLではメタデータのタグを付
    与することで、数字に意味を持たせることができ、これを使って任意の伝票を特定す
    ることができる。

(3)セマンティックWeb
  1)セマンティックWebの階層構造
      従来のWebが単純なハイパーリンクによるリソース間の関連付けであったのに対し、
    セマンティックWebでは第2図のようにXMLによるメタデータやRDFやオントロジを階
    層的に経由することによって、リソース間の知的な関連付けを実現して、コンピュー
    タによってWeb上で意味による情報の検索を行うことができるようになり、相互運用
    性やデータの高度利用が可能になる。



      第2図の用語を以下説明する。
    ・ URI(Uniform Resource Identifier):Web上の物理的あるいは仮想的資源を識別
       するための一般的な方法。URLはその一種である。
    ・ XLM(eXtensible Markup Language)
    ・ スキーマ(Schema):データベースの論理構造や物理構造の仕様である。例えば、
       データベースの名前の指定や、網型データベースのレコード型やリレーショナル
       データベースのテーブル構造の指定や、各属性名や、それに持たせるデータの大
       きさや、キーの決定などデータベースの構造全体に関する定義を行う。
    ・ メタデータ(Metadata):情報の情報である。例えば、最も身近なものとしては
       書物に対する著者やタイトルなどの書誌情報があり、これを使って図書館などで
       本を検索することができる。データベースの場合はデータ型や属性や意味づけな
       どの情報をいう。
    ・ RDF(Resource Description Framework):XLM はメタデータとして任意にタグを
       決めることができるが、バラバラに決めたのではメタデータを検索に使うことは
       できない。そのためWebでの標準的メタデータをXLMで記述するための仕様が作ら
       れた。これがRDFである。Webページを意味づけるにはこのRDFを使うことで行うが、
       そのためにはRDF仕様のメタデータをWebページに意識的に付与する必要がある。
       これを簡単に行う方法としてRSS(RDF Site Summary)1.0が開発された。これにつ
       いては項を改めて詳しく説明する。
    ・ オントロジ(Ontology):オントロジは、元来はアリストテレス以来の哲学的研
       究領域で使われた言葉で、事物の存在の意義付けを議論する存在論のことであっ
       た。近年は知識工学や自然言語処理などの研究分野において、“それぞれの語彙
       の体系とその背景にある概念などが知識全体の中でどこに位置づけられるかを明
       らかにすること”として使われている。これはRDFと共にセマンティックWebの機
       能を支える大切なものなので、項を改めて説明する。
    ・ インテリジェントエージェント:ユーザに代わり、Web上の多様なリソースを統合
       制御するもので、ユーザの要求に基づいて対象ドメインの知識を記述したオント
       ロジから情報を選択する。

      第2図のような階層構造図は通常見なれないので分かりにくいかも知れないが、似
    たものとしてOSIの7階層基本参照モデルがある。これでは一番下の物理層から段階
    ごとに処理されて最上層のアプリケーション層で人とのインターフェースとなる。第
    2図のセマンティックWebの階層構造図も同じ考え方で、最終段階までを想定した第
    2図においては、実際の活用は技術開発の進行状況に合わせて、次の3フェーズで実
    行されている。
    フェーズ1:RDF(メタデータ)の段階で、人の操作するエンドシステムとインター
                フェースして活用する。
    フェーズ2:RDFとオントロジの段階で、人の操作するエンドシステムとインターフ
                ェースして活用する。
    フェーズ3:RDFとオントロジとインテリジェントエージェントの段階で、人の操作
                するエンドシステムとインターフェースして活用する。
      これらの各フェーズで達成できる機能などを第1表に示す。第1表の見方は、例え
    ばフェーズ2の機能はフェーズ1の機能にフェーズ2の機能をプラスしたものになる。
    同じようにフェーズ3の機能はフェーズ1、フェーズ2の機能にさらにフェーズ3の
    機能がプラスしたものとなる。



      現在の実用化は主にフェーズ2までで、オントロジなどの標準仕様の開発が精力的
    に進められている。従って以下の諸技術もこのフェーズ2の段階までのものを説明す
    る。セマンティックWeb ではこのようにRDFとオントロジが基本的な機能を支えてい
    る。

  2)RSS
      前述のRSS(RDF Site Summary:Webサイトの見出しなどの集合)用のフォーマット
    で記述された文書ファイルをRSSフィード(feed)というが、これにはWebサイトの記
    事の見出しや更新日時がメタデータで構造化し記述されている。RSSではWebサイトの
    作成者や管理者がItemと呼ぶ項目にWebページのURL、作成日付、見出しなどを登録し、
    見る人はRSSリーダを使い、そこからそれらのデータを取りだして見ることになる。
    RDFを使うセマンティックWebではRSS1.0バージョンが使われる。これを使うと見出し
    や更新日時でWebサイトを簡単に検索できるが、Itemと呼ぶ項目にわざわざ登録しな
    ければならないことや機能が限られていることのためセマンティックWebではまだま
    だ普及していない。しかし、Blogでは全面的に使われており、これがBlogの特徴とな
    っている。
      このRSSとは別にアンテナというソフトウエアが開発されている。アンテナでは複
    数のWebページへのリンクの一覧と、それぞれのリンク先における最新の更新時刻の
    一覧が利用者に提供される。

  3)オントロジ
      オントロジは元々哲学用語であり定義も色々あるが、この“情報科学のあれこれ”
    でも前述の“それぞれの語彙の体系とその背景にある概念などが知識全体の中でどこ
    に位置づけられるかを明らかにすること”という定義を用いることとする。もっと平
    易に言うと“概念間の関係の明確な定義の集まり”や大雑把になるが“業界などの中
    で語彙間の関係を明確にして、類義語や同義語をまとめたもの”と言うことである。
    セマンティックWebではオントロジは用語の辞書に相当し、このオントロジは業界毎
    に複数あってもよい。その場合は相違する用語は変換辞書によって類義語や同義語と
    して取り扱う。
      このオントロジとメタデータと従来のWebとの関係は第3図のようなっている。



      これで見られるようにオントロジでは理工系学部には理工学部と情報理工学部が類
    義語としてあり、理科系学部には理学部がそれに加わる。更にオントロジは異なるコ
    ンテンツ間でも用語の相互互換を可能とし、1つのアクセス要求で総合的サービスが
    できるようにする。このオントロジを定義したり記述したりする言語としてはOWL
    (Web Ontology Language)などが開発されている。

(4)セマンティックWebサービス
  1)Webサービス
      これまでは専らセマンティックWebについて述べてきたが、ここでWebサービスにつ
    いても改めて認識しておこう。
      Webサービスには色々なものがあるが、これを実行する仕組みがUDDI(Universal 
    Description, Discovery, and Integration)である。UDDIは電子商取引などを行う際
    に必要なWebサービスをインターネットから迅速に探し出し、利用することを可能と
    する。この際、UDDIレジストリはWebサービスのアドレス帳のような役割をする。即
    ち、UDDIはWebサービスを登録・公開し、検索・利用できるようにする仕組みである
    と言える。
      このWebサービスは次の3つの要件を備えている。
    ・ ネットワーク上でサービスとして動いているソフトウエアのまとまりであり
    ・ そのインターフェースはWSDL(Web Services Description Language)で記述されて
       いて
    ・ 主にSOAP(Simple Object Access Protocol)によって通信される
      これで見られるようにWebサービスのアーキテクチャには重要な2つの仕様がある。
    1つはWSDLで、送信者と受信者間で転送手段に依存しないメッセージ形式でデータを
    交換する。このWSDLはWebサービスにおけるインターフェースを記述する言語仕様で
    あり、XMLがベースになっている。
      他の1つはSOAPでWebサービス利用者と提供者の間で間違いなくデータを送受信で
    きるように、データ転送方式とデータ様式を規定するプロトコルで、XMLをベースと
    したプログラム同士がネットワークを通じてメッセージをやりとりできるようにする。

  2)セマンティックWebとWebサービスの統合
      セマンティックWebの技術は第4図のようにこのWebサービス技術と連携して実行さ
    れる。ただし、第4図は理解しやすいようにある程度簡略化して書いてある。



      第4図における各要素間の働きの説明
    @  ユーザのサービス要求を伝達する。                
    A  要求を受けたサービスブローカは推論規則やオントロジを使ってサービスを特定
        する。このオントロジにはサービスの種別とWSDL文書との対応が含まれている。
    B  SOAPでサービスの検索と実行を依頼する。
    C  サービスが登録されているUDDIレジストリを検索し、WSDLで記述されている目的
        のサービスを起動する。
    D  起動されたサービスで要求の処理を実行して結果をSOAPで通知する。
    E  ユーザエージェントにサービス結果を通知する。

      このようにセマンティックWebとWebサービスは連携して働くが、この統合したもの
    はセマンティックWebサービスと言われる。
      ではここで第4図のセマンティックWebサービスの処理過程を実証実験した例を紹
    介しよう。これは情報処理学会誌 Vol.43 No.7、2002に掲載されたもので、以下は
    一部分かりやすく書き換えながら引用したものである。
      この例は、ユーザがモバイル端末から展示会場内で開催されているセミナーを予約
    するWebサービスにアクセスして、予約サービスを申し込むものである。
      ユーザがセミナー予約を要求すると、ブローカがブリッジしているオントロジから
    要求に対応するサービスのWSDL文書を特定し、UDDIレジストリでそのWSDL文書を実装
    しているWebサービスを検索する。セミナー予約のWebサービスが見つかれば、その
    Webサービスを起動して予約を行う。
      もし定員をオーバーしていると、セミナー予約のWebサービスから定員オーバーの
    結果がブローカに戻される。推論エンジンには「定員オーバーの時はそのセミナーの
    キャンセル待ちサービスを起動する」という推論規則が登録されており、これが適用
    されてキャンセル待ちサービスに対応するWSDL文書を特定し、これがブローカに通知
    される。ブローカはそのWSDL文書を実装しているWebサービスを起動して、キャンセ
    ル待ちを登録する。Webサービスから登録が成功した通知がブローカに送られ、ブロ
    ーカはそれをユーザに通知する。
      引用終わり

3.データマイニングに及ぼすセマンティックWebの効用
(1)セマンティックWebサービスの現状
      セマンティックWebサービスの実用化のため、RDF解析ツール、RDF格納検索ツール、
    メタデータ構築支援ツールやオントロジ構築支援ツールなどが開発されている。これ
    らを個々に解説するのは専門的になり過ぎるので省略するが、現在ツールづくりが精
    力的に行われており、各国の電子政府計画などでRDFのメタデータセットの開発と利
    用が進められている。従って現在はセマンティックWebサービスをパーソナルコンピ
    ュータで試してみることができる段階ではないが、現在セマンティックWebの一部で
    あるRSSの機能を応用したBlogが普及しつつあり、これについては次編の(その2)
    で説明する。

(2)データマイニングに及ぼす効用
      データマイニングはリレーショナルデータベースに対して行われることが多いが、
    テキストデータでもXLMで書かれた構造化されたデータに対するものや、近年は半構
    造のデータに対するものについても研究が進められている。セマンティックWebは第
    2図のようにXLMで書かれた構造化されたデータについての手法であるから、データ
    マイニングもXLMで書かれた公開情報に対して行われる。ではこれをうまく実施する
    ための次世代の情報公開システムはどのようであるべきだろうか。
      セマンティックWebを利用するためには公開情報にメタデータを付与し、オントロ
    ジを定義して、公開情報を意味的に検索できるようにしなければならない。その手始
    めとしては、各国で政府や地方公共団体が公開する情報に先ずこれを実行して電子政
    府化する計画が進められている。このようなシステムができれば次のようなメリット
    が得られるであろう。(参考文献 4)を参考に作成)
    @  行政の公開情報では法律用語が数多く使用される。例えばIPAではなく情報処理
        振興事業協会でなければ、これに関連する情報を検索することはできない。セマ
        ンティックWebでは、法律用語のみならず、日常用語を用いて公開情報を検索で
        きる。
    A  部門や団体などによって異なる用語を用いている場合がある。これらは従来の検
        索システムでは別々の言葉として検索しなければならないが、セマンティック
        Webでは同義語や類義語として1つにまとめて検索できる。
    B  さまざまな媒体の情報、例えば音楽や静止画や動画などでもメタデータを付与す
        ることで、統合検索が可能となる。
    C  セマンティックWebではコンピュータで意味検索が可能となるので、人間の判断
        を支援する知的な処理を利用してデータマイニングを行うことができる。
    D  メタデータにより、Webの情報のみならずワード文書、EXCELデータ、RDBデータ
        などのさまざまな情報を一元管理できるようになる。

参考ホームページ
1)XMLカレッジ
    XMLカレッジ−総合インデックス、新入社員のためのXML入門講座などがある。
2)アンテナ社のXML Editor V3.2
    XMLに関する製品概要、製品詳細、XSLT/Xpath、表エディタなどがある。

参考文献
1)斉藤信男、荻野達也監修、(財)情報処理相互運用技術協会編、
                                    セマンティックWeb入門、オーム社、2005
2)新納浩幸、入門RSS、毎日コミュニケーションズ、2004
3)溝口理一郎、人工知能学会編、オントロジー工学、オーム社、2005
4)情報処理学会、セマンティックWeb、
                            情報処理学会誌、Vol.43 No.7、情報処理学会、2002
5)情報処理学会、最新!データマイニング手法、
                            情報処理学会誌、Vol.46 No.1、情報処理学会、2005
6)情報処理学会、Webダイナミックス、
                            情報処理学会誌、Vol.44 No.7、情報処理学会、2003
7)高橋麻奈、図解でわかるXMLのすべて、日本実業出版社、2000
8)テクノクエスト、図解入門XML技術、アスキー、2001

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