恋愛告白手記 (紫の上物語)







第六章
「やっぱり生きたい」





あれほどの苦しみがありながら、
なぜ生きたいと思ったのか、わかりません。

ひで君を愛していた。今も愛してるのだろう、たぶん。
でも、この人とやっていけるほどわたしは大人でないし、
別れるのが当然なんだ。
悲しすぎるけど、必然の結果。残酷すぎる。
あんなに愛していたのに。

わたしは絶望した。ひで君にというより自分に絶望した。
わたしは子供の頃から作品を書いていて、二十歳までに
認められたいと思っていた。
わたしは、のらくらしていた。
わたしは才能なく、二十歳をやりすごして絶望していた。
わたしはダメなんだ。もうダメだ。
仕事も恋も達成されない。

先が見えていた。
何一つ目新しいことは起こらないだろう。

わたしは自分にまったく自信がもてなかった。

すべてを冷静に考えてはいけない。
危険すぎる。
冷静に考えたら、わたしには文才がない。
一番美しい季節に一番美しいものを捧げたのに
恋をつかむこともできなかった。
わたしは何の価値もない人間だ。
消えてなくなるのが当然・・

わたしは無為にかよう大学を辞めるべきだろう。
その前にホームページを閉鎖すべきだろう。
わたしは何だって下手な文章を掲載しているのだろう。
なんだって、得意がって四流五流の私生活を公にしているのだろう。
ほんの少しの理性がはたらけば、こんなことやってられないはずだ。

ほんとは、お母さんを楽させてあげたかった。
お母さんに食べさせてもらったもの。
でも、正味の自分は何の経済力もなく、
就職をしてばりばりやれるタイプでないと
わかっている。理屈っぽいだけ。役立たずなの。
就職して長くやっていける自信もない。
自分のことだからよくわかっている。

それでもまだ、わたしは生きている。あの時と同じで。
あの滑稽な自殺未遂と同じに。

あの時、わたしは意識がなかった。
しかし、意識がもどった時お母さんは言った。
わたしがお母さんに病院に連れて行ってと言ったと。
救急車を呼んでと言ったと。
意識のないわたしが救急車を懇願したとは、
何という生への執着!

生きる価値もないわたしが、なにゆえ生きたいのかも
わからずに。
病院でわたしは幻影を見た気がする。
なぜか、ニュースステーションの場面が出てきた。
久米宏が何か言っている。
でも、何を言っているのかわからない。
次に神の声が聴こえてきた。
「それでいいのだ。いいのだ。あなたは自分の道を行きなさい」

それは厳かな響きだった。
威圧的でもなく指図するでもなく、ただやさしかった。
かびのはえたやさしさだった。
ほんとに心にしみて来た。
わたしは涙を流した。
流したと言うより涙がにじみ出て、重みで下に落ちた。

もう一度生きたい。なぜ生きたいかわからないけれど。
一生結婚できないかもしれないけれど。
もう一度生きて、この国の行く末を見届けるだけでも
値打ちがあるんじゃないか。

わたしは納得した。
生きよう。もう一度。










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