恋愛告白手記 (紫の上物語)







第八章
「もう一人の親」





行動が早く、極端から極端に動く性癖。
あとのことは全く考えない。
それは今も変わらない。

わたしは、お母さんの経済力と隠れ蓑で好き放題のことが
できるのであり、無責任だった。
失敗しても、お母さんが何とかしてくれるだろうという気でいた。

その中であの茶番結婚が行われたわけだが、
二人の記念すべき旅行となるはずのハワイ旅行から帰ってきた時、
結婚生活も終止符を打った。

実質上、五日間で幕を閉じたことになる。

その顛末の仔細はあとで述べるとして、
旅行までの一月間は、それはそれで夢のような生活だった。
一言でいうとブランド生活。
まさか、自分がそんな生活に縁があるとは思ってもみなかった。

毛皮のコートは翌日から大学に着て行った。
五万円のニナのバッグ、九万円のワールドのスーツ、
心斎橋大丸で買った十八金のネックレス、指輪、
結婚したら必要になるだろう色留め袖、訪問着数枚。
M氏は、わたしを娘のように連れ歩き、「自慢できる女性」と
知人に紹介した。嬉しそうだった。
ほんとうに嬉しそうな表情をしていた。
わたしはM氏の名前、輪郭を忘れても、あの表情だけは
忘れないし、死ぬときあの世に持って行こうと思っている。

週末平日問わず、ホテルの高級レストランに連れていってくれた。
北野劇場のしゃぶしゃぶも良かった。
わたしにとってM氏は、もう一人の親だった。

わたしはこの先、生きていく上で男性の存在など取るに足りないものと
思っているが、男性の経済力だけはすごいと思うだろう。

身分不相応な生活。自分でも怖かった。こんな田舎娘が
こんな豪奢な生活をして、天罰がくだるような気がして、
心の底からは楽しめなかった。
胸に突き刺すトゲがあった。トゲはわたしの胸を
血だらけにした。手も血だらけに。

当然、お母さんは激怒した。
お母さんはM氏を毛嫌いしていた。
自分より年上の男性なんて、初めから念頭になかった。
「つき合うのも許さない!つき合うならこの家から出て行って!
あんな得体の知れないじじい、想像するだけで身の毛がよだつ!」
と泣いた。わたしの木のベッドの手すりを壊した。
わたしは荷物をまとめて出て行くしかなかった。
M氏のマンションへ・・

同級生は、わたしの服装が派手になったと驚いていた。
しかし、それ以上何も聴かなかった。
自分から望んだこととはいえ、同級生から遠く離れてしまったことは、さみしかった。
ほんとうにさみしかった。










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