湯の丸山BC山ボード

(2001.02.10)

3ターン目に膝の下に感じていた重力から開放された。 嬌声が聞こえてくる。発信源は、自分の口からだ。自然に雄たけびが流れ出たのだ。

木々の合間を縫って右へ左へふわりと舞う。 窪地でビデオカメラを構える渡爺に向かって、滑り込んで行った。 満面の笑みを浮かべて… その瞬間(とき)、僕は、100%自由だった。

2月10日から建国記念日を挟んで12日まで3連休だ。 せいちゃんが海音をつれて里帰りしている合間に遊びに行ってもいいという許可がでた。 ほっぺたをつねったが、ちゃんと痛かった。

夢が覚めない内に、とっと予定をFIXして、カヌー仲間の渡爺、堀口雪上隊長の3人で、バックカントリー雪遊びに出撃することにした。

松本組のトモ&ノブも11日から合流できるという。
よし、11日に菅平の根子岳に登って山頂からパウダースノーを蹴散らしてこよう。

3連休の初日、10日が一番天気が良さそうなので、せっかくだから往路の途中にある湯の丸山で、軽く足慣らしをすることにした。

長野県と群馬県の県境にある湯の丸山の山頂(2099m)には、湯の丸スキー場リフトの終点から約1時間のハイクアップで到達できる。湯の丸山往復ルートはアプローチが短く、見晴らしも最高。天候さえよければ、バック・カントリー(BC)入門コースとして最適だろう。

関越自動車道で、3連休初日の渋滞に捕まったが、上州出身の堀口雪上隊長の機転と、ハンドルさばきで、予定通り正午には湯の丸スキー場に着いてしまった。

天気は上々で、ほぼピーカン。 まいりましたあ!どーんと雪を纏った湯の丸山を目の当たりにして、 3人とも一斉に装備の装着に入る。

渡爺は山スキー、堀口雪上隊長とオイラは、山ボードだ。

BCに入るには、登り用のスノーシューや、ストックが必要だし、お弁当とお茶セットの入ったザックに安全対策用の雪崩ビーコンとスコップまで、日帰り装備でもなにかと準備が大変なのだ。

今シーズン初のBCとあって試行錯誤のパッキングとなるから、他のメンバーに遅れまいと、これもなにかと気合がはいるのである。しかも本日は、絶好のBC日和だ。そんなピリピリ緊張感とワクワク興奮感が高まっていく時に、事件は起きた。

「あのーすいません」

振り返ると申し訳なさそうな、オジさん。

「あのー、車を押してもらいたいんですが。。。」

体の大きい堀口雪上隊長が、振り返って近寄ったので、その腰の低いオヤジの腰がさらに低くなった。

「情けは人の為ならず」がモットーのワシや、心優しい渡爺&堀口雪上隊長は、しゃーないなと車を押しにいく。

んが、押してもビクともしない。ソレもそのはず。 車輪が雪に埋まり、腹がつかえてしまっている。 牽引ロープがあれば、他の車で強引に引き出すことも可能だが周辺にはない。

「こりゃあ、あかんわ!掘らなどうしようもない!」

ワシが吐いた言葉を、耳にした瞬間、残る2人のBC軍団の目がキラリと光った(に違いない)。 装備を散らかした場所にドスドスとってかえす。 そして、さっそうとショベルを手に立ち上がったのであった。

そう、ワシラ一人、1個スコップを装備しとるんじゃけーのお。 3人が3人ともショベルを手に、スタック車にズンズン歩を進めて舞い戻った。

ショートスキーで、雪を掘ろうとしている腰低オヤジを制し、スコップ3人衆が揃い踏み。

オヤジの驚いた顔が面白い。 交代してスバヤク埋まった車輪周辺の雪をかきだした。 この間およそ1分。さらにすばやく車を押し出して、颯爽とその場を後にした。

たとえるなら、ウルトラ警備隊がいくらがんばっても手も足もでない怪獣を、正義の味方のウルトラセブンのように、カッコよく登場して、ぱーと料理して去って行ったようなものだ。

くー、かっこいいーと読者は唸るかもしれない。 んが、なんのことはない、とっとと山に行きたかっただけのことである。

再び装備セットアップに戻っていると、先ほど助けたオジさんが包みと、缶コーヒー3本を手に現れた。 しかし、誰も見向きもせず、スノーボードをザックに括り付けたりしているものだから、熱い缶コーヒーを手に困惑顔だった。

「ここにおいておきます。ありがとうございました」

そのオヤジは、最後まで、なんだか異様な正義の味方軍団の振る舞いに対して、違和感を感じていたにちがいない。感謝しつつ首をかしげつつ、そそくさとその場を去っていったのであった。

堀口雪上隊長にいたっては、お礼の缶コーヒーに気付いたのは山から降りてきた後だったのだから、さぞかしお礼のしがいのないヤツラだったに違いない。

包みの中は小さな可愛いチーズケーキ達で、この休みの間中、おやつとしてお世話になるのであった。 わざわざお礼に近くのお土産屋に行って買ってきてくださったのですね。 ごちそうさまでした。

その後、お助けシャベル軍団は、雪山にとりつき、ワシワシと順調に高度を稼ぐのであった。


湯の丸山への登り。約1時間。

スノーシューで降りてくるパーティとすれ違う。スノーシューにも楽しいフィールドだ。他にも、山スキー2パーティやワカンをつけた登山者にに出会った。 人口密度が適度なので、ニコニコ笑い会ったり、

「天気最高ですね!」

などと談笑するのが楽しい。 お弁当休みをとって登ったので、頂を踏んだのは午後2時過ぎだった。

ノントラックのバージン斜面を探して滑り込み、至福の時は終了。 男の快感は短いモノと相場がきまっている。

上田で買い出し、夕食は友人の風来乏氏、お薦めの「六文銭」でトンカツを食す。味、ボリュームとも文句無し。別所温泉でホカホカになってから、明日のフィールドとなる菅平へ移動。テントを張っての雪上キャンプをする。酒の肴のチーズホンデユが美味しく食べ過ぎたため、夜中に胃もたれをおこしのたうち回った。

教訓、「就寝前ホンデユは、ほどほどにしよう」

おしまい。