これで厳冬期!?
快晴の焼岳でパウダー満喫

2004/1/18

 朝起きると、横須賀は一面雪化粧。週末の土日は荒天で、関東でも雪がふるという 予報どおりだった。やっぱりダメかあ。あきらめモードで、ネットの天気予報を開い た。

なんと、日曜日の松本方面は快晴ではないか!!!

え?!晴れるの?

北アルプス周辺のスキー場もニコちゃんマークだ。 土曜に降雪、日曜は快晴。 雪崩が怖いが、コレは、なんと、最高のコンディションではないか!やったー。

 声をかけてあったメンバーにGOサインをだし、雪降りしきる中央道を、高速バス で、西へ向った。 土曜の夜は、諏訪在住の山の師匠U氏宅で、宿泊させていただ き、早朝、第一目標の焼岳へと出撃するのだ。

 上諏訪に到着すると一面の銀世界。すでに20cmは積もっている。U氏と再会すると

「いやいや、やばいヨォ、コレはぁ!! ホントに行くのぉかあ〜?」

という第一声。雪は結晶のまま、 ドンドン舞い落ちてきて、一向に降り止む気配がな い。 ホントに晴れるのかな〜。少し不安になってしまう。

本格派アルパイン・クライマーのU氏は、槍ケ岳直下で雪崩に埋まって九死に一生を 得たという強運の山屋だ。で、あるからして、U氏にとっては、雪崩というキーワー ドはタブーだ。

「まあ、偵察がてら行ってみて、状況が悪ければ、周辺のスキー場でお茶を濁しての んびり温泉へつかりましょう」

という、まったりコースをエスケープ・プランとして用意した。

昨年3度も焼岳に出撃した松本在住のテレマーカー、TOMOに電話する と、

「下堀沢には、入らなンで、尾根筋だけ滑るなら、大丈夫と思うよぉ〜」

と、いつものやわらかい松本弁の答え。今回、TOMOが、ガイドを買ってでてくれ ているので、大変心強い。

「本当に、行くのお〜?!マジっすかっぁ〜」

と、同じく松本在住で、正統派山男でありながら超慎重派のA氏も強引に誘いだし、 松本で合流。4人のパーティで、上高地の玄関となる釜トンネルをめざした。

U氏は、フリートレックベンチャー(1mのショートスキー)、A氏は山スキー、TOMO はテレマークスキー、オイラは、いつものスノーボード&スノーシューという足回 り。

頂上ゲットモードのU氏の指令で、アックス(ピッケル)、クランポン(アイゼン) も携帯。 ショベル、デジタルビーコン、山岳保険は必携(あたりまえ)。そしてパートナーは、最強 の布陣だ。

釜トンネルへ向っていると朝日にそまった焼岳が現れた。空は雲ひとつないド・ピー カン!

いやがおうでも、ボルテージはあがりっぱなし。 新装工事中の釜トンネルを抜け、ところどころ顔を出した梓川を渡河。  しかし、なんという天気の良さだろう。西穂から奥穂そして前穂高岳の稜線が青空 に浮かび上がる。その本チャンルートを何本か、ヤったことのあるU氏が、子どものように はしゃいで、写真を撮りまくっているのが、おかしかった。

 焼岳の取り付きからの急登がキツイ、キツイ。先行者の絶妙なトレースが、急斜面に 残っている。トラバース気味につづらで、標高を上げていくのだが、スキーのトレー ス跡は、スノーシューを置くには狭いし、傾いているので、横に落ちる。スノー シューは縦方向には、爪が付いているあら、よく効いて止るのだが、横方向は、まっ たくダメで、すぐに流れてしまい、何度もトレースを外した。スノーシューのバンド がすぐに緩み、ハードブーツが外れては、装着しなおさなければならない。順調に高 度をかせぐTOMOとU氏に、どんどん離されてしまう。  奮闘していると、体力を消耗して、はやくも息が上がってきてしまった。

 最後尾のA氏が、何も言わずあたたかく見守ってくれているのが、毎度のことなが らありがたい。スキーのトレースをスノーシューで、グダグダにしてしまっているの に、嫌な顔ひとつ見せずに、少し距離を開けてくれている。


オイラとA氏。笑顔?!

 U氏、A氏とよく3人ででかけた冬山登山が脳裏に蘇ってきた。  ルート工作や、偵察を化け物のように活発にこなすU氏、慎重でものしずかなA 氏、好奇心旺盛で、ほとんど素人のオイラの3人は、攀龍組という山岳同人を結成し て、よく山行にでかけたものだ。八ヶ岳、富士山、戸隠本院岳。経験と体力のない僕 が決まって、真っ先に根を上げて、ヘバった。その傍らで、今みたいに、A氏がいつも暖かく見 守ってくれたのを思い出す。申し訳なくなって、

 「先行していいよ、後から行くから」

と何度、声をかけても、ふわりと笑っている だけだっだ。今思うと、山で実力がないオイラを一人にすることの危なさをよくわ かっていたからなのだろう。人一倍、人に気を使うA氏は、よく単独行を好んだ。そ れも静かな山域を。 僕にも経験があるが、そうすることで、自分のバランスを取り にいってたんだろうな。 昔は、すまん、すまんを、連発していた僕は、今回は、何 度も、口までやってきた「すまん」を飲み込んだ。


高天原への登り

 2時間の急登をこなして高天原へ。かなり高度があがって穂高連峰が凄い迫力だ。 乗鞍岳も 丸見えだった。小休止して、さらに焼岳南峰の肩部分を目指す。

 しかし、焼岳南峰の遠いこと、遠いこと、乱れた息を整えるインターバルが長くなってきた。 ようやくヘロヘロの態で、2318mの南峰の肩に到着した。

ここから30分位で、南峰の頂上だが、足が持たない。今回始めてハイクアップに持ち 込んだハードブーツに靴擦れができて、マメがつぶれている。ここは、滑りを優先 し、休息をとることにした。

TOMOとU氏は、クランポンをつけアックスを持って、A氏はスキーのまま南峰の頂上(2445m) へ向かった。


頂上のTOMO

正月のニセコアンヌプリに続いて晴れたのに頂をイタダケなかった。とほほhのほー。

おとなしく、お留守番していると先行パーティが美味しい斜面を滑り気持ちよさそう に滑り降りてきた。山スキーのお楽しみはなんといっても、まっさらなヴァージン斜 面だ。 広い大斜面に、モコモコのラインが、あっという間に描かれていく。 あー、そこはやめて!とういう願いもむなしく、全面食われてしまった。

早いもの勝ちの掟だ。No Way! でも、まあ、トレースにも助けていただいたしね。 にこやかに迎えて挨拶した。50歳から60歳くらいの山スキーのパーティだ。リーダー は素敵な方で、もう少し雪が安定した頃の下堀沢は最高とのこと情報をもらった。 本日の予定を聞かれたので、

「沢筋はデブって(雪崩の跡があって)いるので、僕らは、尾根沿いを滑りおりま す」

と、正直に答えた。

「そうですね。私たちもそうしましす」

と答えられて、斜面に飲み込まれていった。 頂上に行ったメンメンはナカナカ顔を出さないし、疲れも回復してきたので、目の前 のバーンをハイクアップして滑ることにした。よくみると端っこの方が、まだ残って いたのだ。直登すると、あっという間に、頂上までのあと半分のところまで、上がってしまった。 こんなことなら、山頂を踏みにいってもよかったな。


頂上での3氏。うらやましい!

でも、まあ、オイラには、この残された斜面があるさ! ピークハントしてきた3人が既に降りた南峰の肩にむかって、滑走開始。


テイクオフ!アレレ?

が、雪の下がクラストしていてあまりすべりやすくない!! 一本メの不慣れさからか、大きく転倒してしまう。あー、コレにかけたのになあ。 滑りモードに移行して、シールを剥がしている3人に合流した。

さて、これから、荒らされた斜面の残りを、探して滑ると しようか!

肩から斜面を覗いて驚いた。先行のシュプールは、すぐに尾根に伸びていて目の前の 斜面は、残っている。そちらぐらいは、当然食べられていると予想したのに、嬉しい プレンゼントだ。そしてその左に底まで開けた沢状の斜面は、白無垢を身に纏ったまま だった。

TOMOの顔が、崩れははじめる。 U氏、A氏は慎重な面持ちだ。この雪で、あの斜面なら問題なかろう。 骨は拾う(埋まったら掘り起こす)から、行ってくれ!とアイコンタクトで会話する。 TOMOが軽やかに斜面に舞い下りた。美しいラインを描いてパウダーを撒き散らして左の沢へ。 くー、うらやましー。

沢の上部で、止ってこちらを笑いながら振り返った。

そして、こいよ!のGOサイン。

瞬間、僕の身体は、斜面に飛び込んでいた。 足から重力が消える。サラサラのアスピリンスノーを撒き散らして、数ターンで、 TOMOに合流。

雪はしっかりしまり、その上に20cm〜30cm位のサラサラパウダー。 表面は落ちるかもしれないが、結晶同士がくっついてないので、雪崩る危険性は少な い。 U氏、A氏に笑って手を振ると、二人も滑ってきた。


フリートレックのU氏


A氏も山スキーで続く

U氏の顔が笑みに崩れる。 どうぞ、どうぞ、ボトムまで、いってください。

小回りのターンを軽快に刻みながら、シュプールを描いて落ちていくU氏。

今度も2番手、大きな弧で、スプラッシュを撒き散らしならが、カメラを構えるU氏の元へ。 楽しい。

いやあ、最高に楽しい。今までは苦労は、全て、この一瞬のため。

TOMOがフワリフワリと華麗に舞いながら滑走。笑み全開で、倒れ込んできた。

ラストは、石橋渡りのA氏。冷静で、いつもにこやかなA氏の表情はあまり変わらないけど、楽しかったんだと思う。 たぶん。

梓川の河原まで、ふわふわモコモコ雪は続いた。足が終わってなければもっと楽しめたろう。ちょっぴり残念だ。

横須賀までその日の内に戻る予定のオイラは、松本まで送ってもらい、慌ただしく別れを告げた。

いいことはバカリじゃないけれど、生きていると、こんないいこともあるさ。

疲れきった体が心地よかった。

U氏からのメッセージが僕らの気持ちをみごとに言い当てている。

「イイ友、いい雪、良い天気。 後々まで語られる、いや語り尽くせない 幸せを感じてしまう山行でした。」

こんな素的な山行に、また、みんなでいきましょう。

もちろん、安全第一でね。

[行動記録]

行程:釜トンネル7:40−林道−8:36河原8 :54−7−10:54高天原?11:04 −12:20南峰肩(2318m)13:02−13:30焼岳(南峰)山 頂(2455m)13:59−14:25南峰肩14:44−15:17高天原?15:30−16:07下堀沢(尾 根末端)16:13−梓川−16:53釜トンネル出口−17:18釜トンネル入り口

 所要時間:9時間40分(休憩含む)登り平均167m/h,下り平均345m/h 休憩含む 標高差1140m