立川単身赴任草

2004/9/15

朝6:30を過ぎるといつものように重低音の響きが階下から襲ってくる。 風邪を引きかけた二日酔いの朝、とうとう我慢できずに、 階下に下りてドアを激しく叩いた。

「はい。。。」

扉が開いて、出てきたのは20代の女性。

「おまえ、、、、うるさい!」

「すいません。。。」

ドアを閉めて部屋に戻ったが、すぐに、大人気ないかと、少し反省した。 二日酔いなのも、雨の中作業をして風邪気味になったのも、自分のせいだ。 しかし、階下の重低音のボリュームは絞られることはなかった。 立川にあるウィークリーマンションでの朝の一幕。

今年の夏から仕事の都合で、ウィークディは横須賀の海辺の田舎から、東京都の立川へ単身赴任している。 週末は家に帰るが、月曜から金曜までは、仕事を終えた後は、ロフト付のウィークリーマンションでの生活だ。 片道3時間の満員電車に揺られる移動。 すごい形相で迫ってくるドライビングモールの渦で、幸せそうに笑っていられるのはマゾ以外の何者でもない。 ちょっと疲れているのだろう。人ごみに心がささくれてしまっている。

どうも、日本中、いや世界でわれもわれもと血眼になって望む都会での居住(くらし)というやつがしっくりいかない。うまく立ち振る舞えない。。。 目を合わせない店員か、はたまたマニュアルしゃべり。 一言も発さず食券をみせて注文し、食べ終わったとたん席を立つ客たち。 顔の見えない住人に囲まれた孤独な都会生活。

幸いなことに職場は、多摩川と浅川の合流点で、大きな川原がある。衝動買いで購入した折り畳み自転車で、立川から職場までを自転車通勤に切り替えた今は、川好きの僕はほっと一息つける時間をつくれるようになった。 広い川原でつるべ落としの落日を眺め、遠く富士山を見ながら水の流れを追う。 少しだけ優しくなって、寝床の穴倉へと戻る。

電車の中で、イヤーフォンから音量をもらして、心を遮蔽する若者。 早朝から重低音の渦に身を任す女性。 音楽を身にまとい心を防御するかのように。。。

僕も思い当たることがある。 若かりし頃、聞き込んでいたRCサクセション、The Moods、ブルーハーツ、 佐野元春、尾崎豊。。。

自分を鼓舞するため、嫌なものから身を守るために、歌や音楽に救いを求めていたあの頃。 今日も、階下の重低音で目が覚めるが、少しだけ音量が小さくなっていく気がする。 人が生きていくところには、さまざまな感情が渦巻いている。 少し心を開いてみると、驚くほど優しくなれることを僕は知っている。 何もしないよりは、顔が見えた方が良いのだろう。

生活のパターンが完全に異なる階下の女性に、再会したら、こんどはきちんと挨拶してみよう。