台風22号と大雪山ランニング縦走

(2004.10.10)

北海道の中空知へ仕事で出張した。

翌日からは、うまいことに3連休。これは天のくれたプレゼントに間違いない!!!!秋本番の北海道。さ〜て、どのエリアで遊ぼうか? 川?海?山?うほーい!!!

我が家のツアーコーデイネーターS嬢に、早速旅行の手配を頼む。ンが、3連休の最後まで北海道に滞在していると飛行機代が高くなるらしい。羽田〜旭川空港往復は、往復割引で\60,300円。ところが、ホテル1泊をつけるだけで\36,000円になるという。この不思議????差額が浮くとあって1泊して翌日遊んで帰ってくることは快諾されたが、その後はとっとと帰ってきて子守をするダンドリとなってしまった。

しかし、北海道でワンデイ遊び?たった1日日帰りで???折りたたみカヤックやキャンピング・ギアをパッキングしようかと思っていた出鼻をポッキリくじかれる格好になった。

まあ、紅葉でも愛でながら、のんびり温泉にでも浸かり、醤油味の旭川ラーメンを食して戻るだけでも良いではナイカ。北海道は度々訪れているが、大雪山や紅葉の名所の層雲峡へは、これまで足を伸ばしたことがないので好都合だ。層雲峡温泉か、はたまた反対側の旭岳温泉&天人峡か、その日の天気と気分次第で行く先を決めればいい。そのどちらにも、ロープウェイがかかっていて、層雲峡温泉からは登り1時間で黒岳へ。旭岳温泉から登り2時間で、北海道最高峰の旭岳へのズル登山が可能だ。時間が許せばまだ見ぬ山のピークハントでもしてこよう。

「危ないことはしちゃダメヨ」

と目を光らすS嬢の目を盗んでヘッドランプ、フリース、帽子、雨具などをパッキング。出張鞄に収まるすべもなくザックを背負っての出張とあいなった。

秋の北海道の透き通った空の色は、本当に気持ちいい。 BDシャツにネクタイ。チノパンの下はトレキングシューズのいでたちで、中空知の出張をそつなくこなし、石狩川、忠別川を滝川から旭川へ列車で溯上。旭川のホテルで、一晩熟睡したオイラは、翌朝、路線バスに乗って層雲峡を目指した。

その日は、超大型の台風22号が海から関東へダイレクトに攻め込んできていて、夕方には羽田空港あたりは直撃を受ける予報だ。すでに朝の第2便から旭川空港発羽田行きの日本航空便は欠航を決定している。オイラの格安チケットの予約便は、本日最終20:25旭川発。はてさて、無事帰れるのだろうか? なるようになるさ。命をとられるわけでもないし、天候には逆らわないというのが今までもアウトドア生活で身につけた知恵だ。

バスは上川をすぎて層雲峡の峡谷へと吸い込まれていく。紅葉本番の層雲峡の美しさにすっかり心を奪われてしまう。


紅葉もさることながら切り立った断崖と奇岩の数々に、クライマーのオイラの冒険スイッチが押されてしまった。心がワクワクすることがしたくてしたくてたまらなくなる。

む。まてよ。層雲峡からロープウェイに利用して黒岳に登ってから、縦走して旭岳に登り旭岳温泉に下ることが可能なのでは? 大雪山の登山ルート図には、層雲峡ロープウェイを乗り継いだ黒岳スキー場リフトの終点から黒岳山頂へ1時間で到達した後、お鉢を回る格好で北海岳、間宮岳へと縦走し、北海道最高峰の旭岳、そして旭岳ロープウェイ池見駅まで計7時間で抜けることができるとある。コレだ!!!!

最悪、ゴールの旭岳ロープウェイの運行時間の17:00に間に合わなくても足で降りればプラス2時間の計9時間で旭岳温泉に下ることもでき、すでに冠雪のあったシバレル山中でのビバークの可能性は少ないぞ。頭の中で、

「ヘッデン(ヘッド・ランプ)よ〜し、換え電池よ〜し」

と指差し呼称が木霊する。 のんびり紅葉に見とれてる場合じゃない。散策気分はどこかに吹き飛んで頭の中が登山モード全開になってしまった。 層雲峡温泉までのバス路線バスなのに、片道1,900円もする上、層雲峡温泉への到着は11時近くになった。急いでロープウェイ乗り場へ直行する。

片道キップを購入にいくと、売り場の女の子が

「帰りは?今日は小屋に泊まられるのですか?」

といぶかしげに聞いてきた。

「旭岳温泉へ抜けます!」

とさりげなく答えると、ちょっとびっくりした顔で、

「とっても大変ですよ。険しいし、時間もかかります!」

とまさに的確なアドバイス。こちらも、ひらきなおって

「大丈夫、5時間もあれば抜けられるっしょ!」

と堂々と答えた。

「歩かれたことがあるんですか?」

とそれでも、オイラの身を案じてか、食い下がって聞いてきたので、

「はい。あります!」

と即答で嘘をついたら、ようやく片道キップを売ってくれた。

ロープウェイとリフトを乗り継いで、黒岳の登り口に到着したのが12時。 1時間かかるという登りを35分で黒岳頂上(1,984m)へに立った。


黒岳頂上にて。台湾から旅行中のカップル撮影。

登り始めを加味しても、まずまずの体調コンディションだ。天候は高曇り。大雪山の山々は全部丸見えだ。

S嬢からの携帯メールには

「17:50の羽田発が飛ばなければ機材がないので(最終便の)欠航決定だね。夕方ホテル探しとこうか?多分東京からの観光客が、来れなくてホテルは余ってるでしょう。」10:35

「JAL1104(14:05)欠航、JAL1110(18:10)欠航。前の2便の欠航が決まったので、最終便の欠航も時間の問題か。」11:34

とのメッセージ。 これは明日の便へ振り替えか?温泉に浸かってもう一泊のんびりしなさいという神さまのプレゼントか? 迷わず縦走への最終判断を下した。

「今、黒岳山頂。天気が持ちそうなんで、旭岳経由、旭岳温泉へ抜ける。バスに間に合わなかったら温泉で泊まる」

とのメールを返し、次の北海岳目指して火口のお鉢ルートへ駆け出した。火口で形成された稜線上は、紅葉とは一転、この世とは思えない地獄のような殺伐と少しあるだけだ。空気も硫化水素の臭いをほのかに含んでいる。北海岳に到着したころ、携帯メールを確認すると、あいやまあ、圏外ではナイカ!


北海岳山頂(2,149m)から間宮岳を望む

黒岳から先、こんな遅い時間に入山している人は少ないだろうと思ったら案の上、旭岳山頂まで誰一人登山者とは出くわさなかったが、まさか携帯まで通信不能になるとは思ってみなかった。。。間宮岳の山頂付近で、所要時間はコースタイムの半分程度で、予定通りだ。このままのペースなら旭岳温泉へと下るロープウェイの運行時間に間に合いそうだ。疲れてきたので、ペースを落とそうかと考えたが、今日の最終便が飛ぶ可能性がゼロではないことに、フとが気ついた。

ホテル1泊がついて往復運賃より遥かにお得な今回のチケットは、おそらく旅行会社が団体枠でとったおこぼれチケットだろう。特別な理由がないかぎりまず、便名の変更は不可能だ。もし、最終便が予定通り飛んでしまった場合、それに乗り遅れたとしたら、復路チケットは紙くずになってしまう。

一応の用心で、17時に旭川へむけて出発する最終バスに間に合うように降りるためには、旭岳ロープウェイを逃すことはできない。立ち止まって水分補給する以外は、早歩きと小走りを繰り返してひたすら南をめざすアスリートと化した。

最後の頂となる旭岳への急登はガレ場で足も滑って、きついきつい。息を荒げながらようやく北海道の最高峰へと到着した時には、すでに時計は15時を回っていた。


北海道最高峰の旭岳頂上(2,290m)

ようやく携帯の圏外を脱したんので、旭岳到着を告げるメールをS嬢に送信した。ロープウェイまであと少しの池で休んでいると、


池から旭岳を望む。(至る所で噴煙が上がる) 

アンテナが建った携帯にS嬢から、次々メールが連発して入ってくる。

「えーーーー!!!もし、今日の便が出発になったら乗らないとチケットがパーになるので、夕方までに旭川に戻ってもらわないと困るよ。まだ、欠航が決まったわけじゃないので、予約していた人は優先して乗らないとまずいよ」12:45

「ロープウェイの最終も17時だし、お願い戻って!」12:53

「携帯がずっと留守電サービスになっているけど、どうして?連絡ください」13:13

よっぽど慌てているらしい。

「なんとか姿見駅(旭岳ロープウェイ山頂駅)16:45のロープウェイに乗ること!走れ〜!降りてもし、時間に余裕があるなら売店で500円何か買ってチケット売り場に行けば(旭川までの)バスの無料チケット発行してくれるって」16:10

時間に余裕はあったが、再び駆け下りてロープウェイの乗場からロープウェイに乗る。7時間ルートを予想以上の4時間で抜けることができた。

 その後も次から次へとメールが入ってくる。

「もちろん帰る。だって欠航は決まってないし本当に飛ぶかもしれない」16:22

「釧路発なんて14:30の便を19:30に遅延予定にしてスタンバっているんだよ。旭川には朝東京から着いた便が停まったままなので、機材はあるし、台風通過が予想されたら飛ぶよ」16:24

「なので、旭川に帰らなくてはならない。売店で何か買ってバスのタダ券もらってバスに乗ること」16:26

「だから欠航しないか、するとしても出発直前だってば!だから空港もいかなくてはならない!」16:32

「今、伊豆半島に上陸した。こっちもかつてみたことのない風雨で怖いよー。暗くて雲もすごい勢いで流れてる」16:37

と矢継ぎ早にメールがガンガン入ってきた。よくよく冷静になって読み返してみると、「飛行機代を無駄にしないで!」「バス代がタダになるのをしっかりやって!」という内容の繰り返しなのが可笑しい。接近する台風と縦走の最中、連絡が途絶えたオイラの愚行によって失われるかもしれない旅費への心労が重なったようだ。 いやはや、ご心配おかけしました。

ビールとおつまみを500円で購入して旭川行きのバスのタダ券(旭岳ロープウェイのチケットと併せて買い物するともらえる2004年秋のサービス)をゲットし、ヘロヘロになって旭川へ、そして旭川空港へとたどり着いた。 飛行機はS嬢の予想通りキッチリと定刻に離陸し、台風が通過した羽田空港に無事着陸してしまった。

しかし、台風22号が首都圏に残した爪あとは大きく、JR横須賀線は予想どおり止っている上に、頼みの京浜急行も日の出町のがけ崩れのため、横浜〜金沢八景間が不通。なんとまあ、家に帰りつけない!!!! 嗚呼〜。上大岡在住の宇駄隊総裁のイチと合流し、宿を確保したオイラは、イチから恐るべき事件を知らされることになるのであった。日付が変わっていまったので、この日記はここでおしまい。はー疲れた。