クィーンシャーロット諸島

モレズビー島南部

森に消え逝くトーテムポールに会いに

1981年にUNESCOの世界遺産に指定された森に還るトーテムポール。彼らは、 クィーンシャーロット諸島の南島、モレスビー島の南西にある小さな小さなAnthony島(Ninstints)で僕らを待っている。それはカナダ西海岸の中で最も素晴らしい場所、そう、先住民のHaida 族の大いなる遺産だ。
想像を絶する位の豊饒の海と鳥たちの楽園。多様性にあふれ、人間の手に汚されてモレスビー島の南部と、クインギット島。そこには、本当の自然が残っている。さあ、みんな、パドルを手に漕ぎ出そう!

ブリティッシュ・コロンビア(B.C.)州クイーンシャーロット諸島。先住民族であるハイダ族が、「Haida Gwaii」と呼ぶ大小約150の島々からなるこのクイーンシャーロット諸島は、 B.C.の州都バンクーバーから約750kmも北西にある。南東アラスカの国境からわずか70km、北緯52度から54度にかけて位置する鋭い逆三角形の形をした北の離島だ。

北島のグラハム島と南島のモレスビー島に大きく2分され、人口6,000人の多くが、北島のグラハム島のクィーンシャーロットCityに集まっていて、ハイダ族の子孫は、マセットとスキッドゲートを中心に生活している。一方、モレスビー島の南部2/3はGWAII HAANAS(グワイ・ハーナス)国立公園として保護されていて、交通手段は海か空しかない。 Haida Gwaiiは、遥か日本から流れてくる黒潮の影響で1年を通じて温暖な気候で、温帯雨林と呼ばれるくらい豊富な雨が落ちる。その年間降水量は5,000〜8,000mm。なんと多雨で有名な屋久島の年間平均降水量5,000mmを上回っている。レインフォレストの森に、一歩、足を踏み入れるとシトカスプルースやレッドシダー、ヒマラヤスギ等の巨木たちが、そそり立つ。豊穣な海には、貴重な海鳥たちが舞い、シャチやクジラ、アザラシやアシカたちが迎えてくれる。


アプローチ

クィーンシャーロット諸島へのアプローチは、バンクーバーから飛行機でSandspitまで飛ぶか、 Prince Rupertからフロート・プレーンで飛ぶのが一般的だ。バンクーバーからクィーンシャーロットへの玄関口、 Sandspitまでは、Air Cnadaが毎日1便、夏季は毎日2便就航している。 Prince RupertからSkidegateまでは、British Columbia Ferries も就航している。バンクーバーから、Prince Rupertまでは、陸路、フェリーのいづれでもまる2日間を要するので、長期休みがとれない人は早めにAirを押さえておこう。

Sandspitからカヤックを漕ぎ出して、トーテムポールのある Anthony島まで行って帰ってくることは可能だが、最低でも3週間を必要とするので、 ほとんどのカヤッカーが、フィッシング・ボートやレジャーボート、もしくはフロート・プレーンをチャーターして、片道ツーリングにしている。 現在はトランポ制度が確立したアウトフィッターに頼むのが一般的だ。 日本からの予約もe-mailで可能。 送迎日が決まっている(たとえばMoresby Expは水曜、土曜のみ)ところもあるので、確認して予約をとろう。Sandspitから離れれば離れるほどトランスポート料金も高い。 Hotsprings Islandまでだと150Ca$,Rose Harbourなら220Ca$程度。

クイーンシャーロット島のアウトフィッター
Moresby Explorers

Queen Charlotte Adventures


旅の時期は、グワイ・ハーナス国立公園が開放される5月から9月まで。 もっとも気候が穏やかになるベスト・シーズンの7月と8月は、シーカヤッカーが多く訪れる。 レンタル・カヤックが不足するので、早めに予約した方がいい。9月には風が強まるので、 初めての旅なら8月までにするのが無難。

グワイ・ハーナス国立公園に個人で行くためには、 パーミットが必要で、B.C.国立公園への登録と Queen Charlotte CityにあるQueen Charlotte Visitor Info Centreで、オリエンテーションを受けなくては ならない。 旅行者の多い7月と8月は、Sandspit空港内でも毎日午後3時、 あるいは飛行機の到着時間にあわせてオリエンテーションを実施してくれる。(2005年現在)
熊対策やキャンプサイトの指示、禁猟区間、赤潮による魚介物摂取制限など、最新の情報と禁止事項を 教えてくれるので、きちんと聞いておこう。

登録料(オリエンテーション代、ガイド本などを含む)は60Ca$(2005夏現在)が必要。

ツアーに参加する場合は、登録やオリエンテーションはアウトフィッターやガイドが代行してくれるので 煩雑な手続きは必要なくなる。

フォールディング・カヤックを持参する人でも、NinstintsのトーテムポールやHot Springs島への ウオッチマン・サイトへ訪れるなら、登録オリエンテーションの受講、 そしてドロップオフとピックアップの予約は必要不可欠だ。
各ウオッチマンサイトには、上陸人数の制限があり、あらかじめマリンVHFラジオ(6ch)で、上陸 数時間前に連絡をとって、指示を受ける必要がある。

実質、個人旅にもマリンVHFラジオの携帯は必須。ありがたいことに、カナダでは日本国内とは違ってマリンVHFラジオ を使用するのに、免許は必要ない。 持参するか、アウトフィッターでレンタルすること。レンタルはMoresby Explorers のダグのところでもできる。台数が少ないので こちらも予約は早めに。常時聞ける天気予報(2ch)や、コーストガードへの緊急コール(16ch)など 非常に有効なシステムだ。アウトフィッターの周波数へ合わしてでやりとりすることも可能。


行程(Hotspring島⇒Anthony島)
43Nautical Mile(約80km。最短の航路距離なので、シーカヤックで内海をとるコースなら 1.5倍増しの約120km位。Rose Harbour ピックアップのため約10km程戻るので、130km位か。)

片道8日から14日要する。 (平均25km/日漕げる中級パドラーで好天に恵まれれば5〜6日でも可能だが、予備日+2日あると心強い)

囲まれた内海と、外洋に面した部分がある。モレズビー島の南東岸は、うねりが入る。Houston Stewart Channel は一般的に静かだが、ここからAnthony島へは約6kmの海峡横断が必要となる。

注意点
潮流とうねりの難所は3箇所。 Burnaby島の北東の先、Scudder Pt.と、Moresby島の再東端、Benjamin Point、そしてHouston Stewart Channelの入り口、Point Langfordだ。 Dolomite NarrowsのShellfish(蟹や貝などの甲殻類)は、赤潮のため汚染されて毒をもっている。

キャンプ候補地
海岸線のいたるところにキャンプサイトがある。 もちろん熊対策は必須。 2週間晴天が続いたがクリークの流れが切れることはなかった。レインフォレストの保水力はさすが。 水は美味しいが、15分以上煮沸することを推奨。

釣り
ロックフイッシュはポイントを選べば入れ食い。 ピンクサーモン(カラフトマス)などの集団やジャンプはいたるところで、見られるので、これもねらい目。 サーモンのライセンスはソルトウォーター用と別のライセンスが必要。ライセンス購入はSandspit空港傍のホテルで 可能。鮑は捕獲禁止。ロックフィッシュの禁猟区間がHot Springs島周辺、Anthony島周辺にあるので、注意すること。


海図
Chart: 3808 Juan Perets Sound
Chart: 3809 Carpenter Bay to Burnaby Island
Chart: 3825 Cape St. James to Houston Stewart Channel
Chart: 3853 Cape St. James to Cumshewa Inlet and Tasu Sound


1) Hotspring Island 周辺

Hotspring 島の温泉に浸かってから出発するか、ここをゴールにして、マッタリするかは、究極の選択だろう。 いずれにしても、最高のシーカヤック旅になることは間違いない。熱い源泉がHotspring Islandの南西部の岩から湧き出していて、 San Cristval Rangeの山々の眺めが素晴らしい。

温泉から西へ2時間いったところにあるBischof Islandsは別名ウニ・ウニ島。 その他の島もいたるところに巨大ウニだらけ。赤くて元気のあるやつが美味。 潜りたくなければ、取っ手の長い大きめの網の持参と干潮時間の出撃が必要。 ウニは、天敵のラッコがクィーンシャーロットでは絶滅したために、繁殖しまくり。 これは、いくらでも食べてとレンジャーやその他のガイドに言われた。 ワサビと美味しいお米は必携だ!できれば、寿司の子や、海苔、葱の持参もね!

Hot Springs 島では、キャンプは禁止。その周辺のBischoff 群島や Murchison 島はカヤッカーのテントサイトとなっている。Ramsay島の北西岸も 夏場だけは立ち入り可能となる。

Hotspring 島周辺では乱獲のためRock Fish(カサゴやスズキなどの根魚類)の釣りが禁止されているので、 注意。



2) Juan Perez Sound & Burnaby Strait


Juan Perez Sound Inlet
は、南西からの風にまともにさらされる。天候の安定する早朝に海峡を横断するのがいい。 Ramsay島からBurnaby Straitに直接向かうには、美しいALL ALONE STONEをめがけて行けばいい。 モレスビー島に渡って沿岸を南下するのも楽しい。 クリークが流れ込む良いテントサイトが数箇所ある。

Burnaby Islnadの北東海岸、 Section Cove は鰊(にしん)の卵(数の子)の産卵場所だ。初春には、6週間漁船が操業する。

Dolomite Narrows(=Burnaby Narrows)は西海岸で最も豊富なShellfishが生息している。
色とりどりのヒトデが可愛いく美しい。 干潮時にいくのが面白いが、大潮の干潮には、Narrowsは干上がって通行不能になることも。 少し待てば、通れるけどね。

不幸なことに、ここの2枚貝やレッドロッククラブは、赤潮に頻繁に汚染されているので、食べないように とのこと。のた打ち回らないために、我慢する? それともギャンブルにでて、舌鼓を打って苦しむか?それは、あなたの判断しだい。もちろん自由だ。!



3) Skincuttle Inlet


Dolomite Narrowからぐるっと回った角にSwan Bayがあり、そこも居住跡だ。夏場には、子どもたちのサマーキャンプが行なわれているので、 あまり行かない方がいい。

1860年代には、銅の試堀者たちが、Skincuttle Inletの海岸を探検調査し、Burnaby島の東、Kingfisher Cove や、Skincuttle島、George島、East Copper島に、メインシャフトを掘ったが既に閉鎖。

Jeffrey島とEast Copper島は、13,000番もの 海鳥の巣が高い密度で存在するため、上陸禁止になっている。



4) Jedway ; Ikeda Cove


1907年に、Jedwayでは銅の採掘のために、コミュニティができ、 店や郵便局、そしてホテルまで建てられた。

漁師だったArchie Ikeda は 現在彼の名が冠された Ikeda Coveの近くに銅の鉱床を発見して、 大金持ちになった。過去の名残りが今も少し残っている。


5) Collison Bay to Houston Stewart Channel

生い茂ったレインフォレストの森に足を踏み入れると、多くの小川が海に注いでいる。 強風地帯で巨大な倒れた樹がその凄さを物語っている。 Rankeine島は27,000以上もの海鳥の番と巣がある場所で、上陸禁止になっている。

Benjamin Pointはモレスビー島の再東端で、南北に面した二つの三日月状の湾にはさまれている。 平たい草地と分解された住居跡がかつてここにHaida族が暮らしていたことがみてとれる。 どちらも、素敵なキャンプサイトだ。 Benjamin Pointは風や潮流で大きな波がたつ難所のひとつ。ここを安全に回るには潮どまりの時間をつかまえるといい。

Rose Harbour
一部屋分のボイラー、機械の歯車、腐食した山、クジラの骨の断片などは、1910年から 1946年までここが日本の捕鯨基地だった名残だ。多いときには100名以上の労働者がここに住んでいた。

1978年に、クィーンシャーロット諸島の住民のグループが完全に孤立したこの場所を買い取った。 その一人であるスーザンが栽培した有機野菜を使った美味しいランチ&ディナーは モレスビー島南部の旅では、最高の体験のひとつ。

シーカヤックのツアーガイドをこなすゴードのやさしい微笑みと信頼感、 素敵な曲をギターで奏でるB&Bのご主人(三つ編みの髭が可愛い!) 彼らとの出会いは旅の中に素敵な思い出となるだろう。 ただし、彼らのプライバシーは尊重するようにしたい。

外洋に面した海が荒れて遠足にいけない時は、囲まれて守られたHouston Stewart Channel やRose Inletを探検しよう。無人島やRose Inletの奥で太平洋からの漂流物を拾えるだろう。 Houston Stewart Channelの西の入り口は、注目に値する海鳥のコロニーがある。 Flatrock 島で、パフィンを探そう!



6) Anthony Island

Houston Stewart Channelを後にすると、約6kmほど外洋に面した海を横断しなくてはならない。東から吹き付ける強風に向かって漕ぎ進むことになる。 Anthony島の東海岸の囲まれた入江に入ると、静かで動くものひとつない村が迎えてくれる。 トーテム・ポールの村だ。Haida族が一世紀以上前に、天然痘の流行により放棄したNinstinsという廃村。 そこに今も朽ち果てながら残っているトーテムポールは、先住民の精神を見事に現している。

Haida族は、このAnthony島を「Sgungwai(スガングワイ)」と呼ぶ。意味は「赤いコッド(根魚)」。 なぜならば、この魚が周辺の海に豊富に生息していたからだという。 悲しいかな現在は、釣り禁止区域に指定されている。

Anthony島は、この惑星のとっておきの場所だ。そして世界遺産として登録され保護されている。 保護の機運が高まったいまも、Haidaの人々はこの遺産を森に還そうとしている。 大地と人間、そして海との調和の姿。循環の新の形が彼の地にある。


クィーンシャーロット島に関する情報・書籍

「森と海の大地へ」芳地直美/松本茂高(月間Outdoor2001年6月号・山と渓谷社)
「カナダ・アドベンチャー・ツアー」有吉玉青/佐藤慎吾/太田康男(「旅」2005年4月号/新潮社)
「旅をする木」星野道夫(文春文庫)
「カナダ西部/地球の歩き方」ダイヤモンド社
Sea Kayaking Canada's West Coast Jhon Ince & Hedi Kottner (Raxas Books)$18.50
HAIDA GWAII Ian Gill; (Raincoast)$24.95

僕がHaida Gwaiiに初めて触れたのは故星野道夫氏のエッセイ 「旅をする木」  の一節、「トーテムポールを探して」 だった。まるで幻想的な御伽噺のような世界に、迷い込み時を忘れて恍惚となってしまったのを今でも鮮明に覚えている。 氏が亡くなられた1996年の夏は、僕が初めてユーコン川を旅した夏だ。 そして、帰りに立ち寄ったバンクーバーのエコマリンで、Ninstintsのトーテムポールにシーカヤックで漕ぎよる 写真を見て衝撃を受けた。クィーンシャーロットの地図をその場で購入して ガイドもやる店員の兄ちゃんに、いろんな情報をもらって書き込んだ地図は今でも宝物のひとつだ。

あの日から、10年以上が過ぎ、星野さんの本をお守り代わりにして、カナダやアラスカの海と川を旅してきた。 そして、いつも心の中に、クィーンシャーロット島は、いつか絶対に行きたい場所として存在しつづけてきた。 そして、、、その夢がとうとう実現した。

2005年(7/21-8/1)  クィーンシャーロット島すっとこどっこい旅日記


クイーンシャーロット島に関するWeb

西伊豆コースタルカヤックスのwebに村田泰裕氏のソロ1周エクスペディション
2003年に西伊豆松崎にショップを構える「西伊豆コースタルカヤックス(NCK)」の代表、村田泰裕氏が達成したクィーンシャーロット島一周の記録。NCKのWEBの中にあります。 「たいちょお、クィーンシャーロット行くの?そお〜。いいよォ、クィーンシャーロット。オレさぁ〜ちょっと詳しいヨォ!」
とご本人から、貴重なアドバイスをもらったのであった。ありがとー!このWEBは必見だ!


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