南房総・洲崎「イルカと休日」


南房総へイルカを見に行くことになった。
昨年の初夏から6頭のイルカが住み着いているそうで、

「シーカヤックですぐそばまでいけるよ、たいちょー」

という海の友人コトバにつられて、仲間や聖子をさそって久里浜からフェリーで浜金谷に渡った。
南房総はすっかり春気色。
菜の花が元気にわらっている。

青い海を眺めながら館山の先の洲崎まで南下。
風が波涛を吹き飛ばす海上を眺めると、いた、いた。
元気にイルカが泳いでいました。

地元のローカル・シーカヤッカーのフジタ氏や、雑誌ライターのニシザワ氏と合流し、さっそく海へシーカヤックを漕ぎ出す。
半信半疑で沖へでると、右前方5mほどのところに、セビレがぴょこんと現れた。
好奇心旺盛なイルカ達だ。
いいぞいいぞ!もっとよっておいで!

子どものイルカもいて、親子で揃って泳いでいる姿が可愛い。
接近したころをみはからって、ひっくり返って水中から覗くと、日の光と波紋を映した水色の流線形がゆっくりと目の前を通り過ぎていく。
そのとき可愛いクリクリした目と僕の目が合った。
こんな生き物が生きていける海の、いや地球の力にあらためて感動する。

やさしい目の生き物が淡いブルーに溶けこんでいく姿を海中で見みつめていると、ある男のコトバが頭の中に蘇ってきた。

僕が結成したオラオラ隊という野遊び集団ある。隊員は、日本中から拾い集めた気持ちの良い漢(おとこ)達だ。
その一員にダイバー石射という海の男がいた。
南の海と笑顔が似合う元気な男だった。
日本中の海を潜り歩いた男が、一番感動したという体験をたき火の炎の前で語ってくれたことがある。

あるダイブの後、空になったボンベをフネに上げて、そのまま泳いでいたら野生のイルカがやってきたらしい。そのまま、空身でイルカと一緒に泳いで遊んだのだと。

「いやあー、感動するぜ。なんだかコトバは失うほど、よかったよ」

数年前日本の社会に疑問を持ち、すべてを捨てて徳之島で、半農半漁の暮らしを始めた。自給自足の生活。
時々届く元気な便りが南の島の香りを僕に運んで来てくれた。
僕が初めて、北米ユーコンでオーロラを見た2年前の夏、やつが愛した徳之島の海で消息を絶ってしまった。サメにやられたとの悲しい知らせだった。

そんなダイバー石射の姿が脳裏に浮かんできたのだ。

真っ黒に日焼けしたローカルカヤッカーのフジタさんは、そんなダイバーと同じ匂いを持っていた。

ダイバーと同じく親水性が非常に高い男で、ニコノス(水中カメラ)
を手に笑いながら、カヤックごと海中へひっくり返っていく。
なんと、彼は世界で一人だけの(本当かあ?)エスキモーロール水中カメラマンなのだ。
フジタさんが撮った写真を見て、故星野道夫氏の作品を見た時のように感動してしまった。

水中で楽しく戯れるイルカの親子。
暮れゆく太陽をバックにカヤックの前に浮上するイルカ。
富士山をバックに元気にそろってジャンプするイルカ達。
その瞬間を切り取るために、どれだけ待たねばならないか。
どれだけ、この場所に通わなければならないかのか。
痛いほどよく分かる。
自分で目でシャッターチャンスを想像しながら考えるとその凄さが実感できた。
よっぽど強い思い入れがなければ、あの、写真は撮ることができないだろう。

「いつか北米の沿岸水路で、クジラやシャチを撮りながら
暮らしてみたいですよ。水中でシャチにガブリとやられそう
だけど(笑)。。。」

みんなが丘に上がったあと、二人でイルカと戯れながら沖合いにフネを並べている時、そんな想いをポツリ、ポツリと語ってくれた。

「ここにいると、時間さえ忘れてしまうんです。気が付くと
日が暮れてたなんてことは、しょっちゅうですね。。。。」

と照れたように笑う。

そんなフジタさんとダイバー石射の顔が重なってみえる。
ダイバーも写真も玄人はだしで、動と静を切り撮るのがうまかった。
見たことはないが、ダイバーの写した水中写真もさぞ、素晴らしかったにちがいない。

イルカに囲まれて、浮いている間は、イルカ達を驚かさないよう、フジタさんと目や手で話した。静かに時が流れる。

風もおさまった気持ちの良い昼下がりの海上。

フジタさんとイルカとの距離が、よかった。人間と野生動物との距離。

生き物と生き物との食物連鎖以外の不思議な関係。

子育てが終われば、去っていくかもしれないイルカ達。

いつまでも、此処に居てほしい気持ちと、自由に大海原を泳ぎ回ってもらいたい気持ちのふたつがあった。

がんばろうなっイルカ達に心の中で声をかける。

「ありがとう」

とフジタさんには、口にしてフネを返した。

「見送ってくれるみたいですよ」

後方から、夕暮れまで浮かんでいるというフジタさんの声。
斜め後ろから1頭のイルカがゆっくりと僕のフネと並走してくれる。
ほんの数秒間。
なにか大切なものをもらったような気持ちになった。
ありがとう。何かに感謝していた。
ふと優しい気持ちになっている自分に気づいた。

イルカ達やフジタさんのような人と出会えてよかった。
生きていて本当によかったっと実感した1日でした。

おしまい。


フジタさんがガイドしてくれる!連絡先はこちら。
6 DORSALS 素敵なイルカ達のショットも満載。