海で遊ぶなら何処がいい?
って聞かれれば、真っ先に挙げるのは伊豆半島だ。
もちろん北の流氷や南海の珊瑚礁も魅力的だが、伊豆の魅力はそれらに優るとも劣らない。そう、都心から近いのにもかかわらず、あれだけの実力を持つ場所も珍しい。珍しいと思っていたら、なんと伊豆は日本ではないということが、最近わかった。
説明するには、前書きがいる。まず、日本列島はユーラシア・プレートと太平洋プレートがぶつかりあった際に浮かんでいることを思い出してほしい。 深い深い日本海溝は、太平洋プレートが沈み込んでいく場所だ。で、その太平洋プレートの沈み込みに引きずり込まれまいと、がんばっているユーラシア・プレートに日本列島はチョコンと乗っかっているのだ。
プレートが擦れた時の摩擦熱で、火山や温泉の源になるマグマが生まれる。
プレートがずれて戻るときの振動が地震であるというのは、教科書で習い知っている人も多いだろう。
火山、温泉、地震の多い火の国「日本」のお国事情はこんなところにある。
ハナシを伊豆に戻そう。なんと、伊豆半島は、ユーラシア・プレートではなく、南から延びるフィリプン・プレートの上に乗っかっている。伊豆半島の付け根は、ユーラシア、太平洋、フィリピンの3つのプレートがぶつかりあい、がっぷり四つ、いや三つ巴のひしめき合い攻めぎ合い地点になっているのである。
ユーラシア・プレートにフィリピン・プレートがぶつかった時にできたのが富士山というのだからそのエネルギーたるや想像を絶する。
だから、伊豆半島は温泉が多い。これが、年配の方々に人気の理由である。
半島中いたるところに火山でできたギョウカイ岩の絶壁がにょきにょき生えており、フリー・クライマーと呼ばれる種族にも人気が高い。
だが、伊豆の魅力は、なんといっても海。
白い砂浜、青い海。若いギャル(死語)を惹きつける理由がコレである。
本来存在しないはずの場所に、突如出現した伊豆半島は、北上してくる黒潮に立ちふさがる。黒潮の暖かい流れは、南の海の熱帯魚を運んでくるので、海中には色とりどりの魚たちが竜宮場のように乱舞する。
これらが、ダイバーと呼ばれる種族にも人気が高い理由である。 また、釣り人に人気が高い理由でもある。
荒い海が、海岸線の岸壁をえぐり、複雑な地形を生み出す。
無数に存在する海蝕洞。自然がつくり出した迷宮を散策できる自由な乗り物。
それが、シーカヤックだ。
西伊豆は海蝕洞の宝庫
温泉。白い砂浜。ギャル。暖かい海水。南の島から流れてくる熱帯魚。
驚くほど高い透明度。釣リ。海蝕洞探検。
海に一歩、シーカヤックで出れば、そこは、ワクワクのワンダーランド。
まさにシーカヤックをしてしないで、なるものか。
はっきり言おう。伊豆は日本ではない。
異国である。外国なのだ。フィリピン出張所だ。
だからして住んでいる人も、どこか異国っぽい人が多い。
ちなみにあの妍ナオコ嬢が出身ときけば頷く方も多いと思う。
であるからして、伊豆が面白いのはあたりまえのことなのだ。
そんな、ワンダーランド伊豆には今まで、何度も足を運んでいる。
今回は、その中から、楽しく、懐かしいエピソードをひとつ紹介しよう。
えっ?いいって?
まあ、せっかくこのページまでたどり着いたんだから、そういわんと、最後まで付き合いなさい。
面白い土地には面白い人が集まる。訪ねてみると世界が変るよ。本当に。
最終的にハナシは、伊豆の海で生計を立てはじめたある男にいきつくのだが…。
さーて、前置きはここまでにして、いよいよ、本題に入る。
(長い前置やなあ)
天上天下唯我独尊、そこのけそこのけ「えびがに団」がまかり通る!
というキャッチ・フレーズをご存知であろうか?
なに?しらん?はあ…まあ、ええわい。聞きなさい。
日本全国、南は日本最南端の波照間島から北海道、宗谷岬まで、えびやカニを食い散らかしながら、シーカヤックで、元気に漕ぎあがって行こう!
と、1997年からはじまったえびがにエクスペディションのメンバーの団体名だ。
遠征自体は、多くのシーカヤッカーや海にまつわる人の協力をいただき、その筋では非常に盛り上がった。そんな「えびがに団」に初めて出会ったのが西伊豆だった。遠征前の初春、トレーニング初日のこと。
彼らどんなふうに彼らがトレーニングし、モチベーションを高めて、あの大冒険に出かけていったのか、知りたい人は多いんじゃないかな。暴露話じゃないけど、出発前の彼らが居た西伊豆の光景を文章に残しておこう。
当時(1997年3月)、長野県の松本に住んでいた僕らに、聖子の友人で、すっかり海にハマッてしまったBINIさんから電話があった。
「西伊豆に面白いやつらが、いるんだよ。たいちょー(私のこと)。
まだナイショ、コレ、ナイショなんだけど、そいつらがさあ、波照間島から宗谷岬まで、シーカヤックで、日本縦断をやるために合宿してんだよ今さあ。紹介するから遊びにこない?」
ちゃめっけたっぷりのブルース大好きライダー、BINIさんのお誘い。
BINIさんからの誘いはいつも楽しそうで、つい載せられてしまう。
寒い松本を脱出するという魅力もあり、彼らが合宿していた西伊豆のキャンプ場、PIER101に聖子と向った。
ここで、えびがに団のメンバーを紹介しておこう。
リーダーはバズーガこと村田泰裕29歳。(当時)
航海隊員にセニョールこと本郷雅則29歳。(当時)
無線&電話サポートにBINIこと三澤徹也3?歳。
の3人が主要メンバー。
印象にのこっているのは、バズの元気良さと、セニョールのテレ屋ぶり。
バズーガ村田とセニョール本郷の出会いは、北米ユーコン川を下っている時だ。運命的なものを感じた?らしい…
バズはユーコンから帰国したのち、海の世界に入り東京エコマリンというシーカヤックを扱い、販売でけでなくスキルやナビゲーション講習というソフトにも力をいれる会社でインストラクターとなる。
そこで、ノルウエーやグリーンランドを漕いできたシーカヤッッカー、柴田丈広氏に師事し、仕事、私生活に渡って海の世界にのめり込んでいく。
一方、セニョール本郷は世界全国をモーターサイクルで駆けるツーリングを敢行。南米・北米・オーストラリアと放浪旅を終え、ようやく日本でシーカヤッカーの道を歩み始めたばかりだった。
日本をもう一度、海から見てみよう。
サポート船をつけず、人力だけで、南から北へ上がっていこう。
そんな二人の旅が、今まさに形になろうとしていた初春のある日の出来事。
話しているうちにセニョールはなんと、聖子とオーストラリアで会ったことがあるバイク仲間だったことが判明。
「聖子さん、おぼえとらんかもしれんですけど、あったことあるんですわ、本当」
オーストライリア大陸とバイクを通して、セニョール、BINIさん、聖子が盛り上がる。
「へー、隊長も下ってんだ、ユーコン。いいよねー、ユーコン。もっかいいきたいよねー」
ユーコン川とカヌーを通して、バズとセニョとオイラが、共通体験談で盛り上がった。
そして、シーカヤックを通して、バズ、セニョ、BINIさん、オイラ、聖子の5人が輪になった。
シーカヤッカーが集まって、やるこたあ、ひとつ、海にでることさ。
さっそくバズ、セニョ、BINI、オイラの4人で海へ繰り出すことにした。
バズは、ワインレッドのアークティック・レイダー(シッソン製)。
セニョールは、購入したばかりの白いルータス(ニンバス製)。
BINIさんもシッソンのアークティック・レイダー、色は青。
オイラはオレンジ色のパフィンを借りた。
雲見崎を目指すえびがに団
松崎を出港し、洞窟を散策しながらゆっくり南下する。
毎日ハードなパドリング練習をこなすことになる二人にとって、友人が来たときは、休養日にあてることにしていたらしく、この日は人のいないビーチで昼寝したり、温泉に漬かったりしながらののんびりツーリングとなった。
石部温泉に上陸したとき、車で追ってきた聖子とオイラが、バトンタッチ。聖子に交代したパーティで、そのまま雲見まで南下を続けることになった。
一足先に車で、雲見に着いたオイラは、赤井浜の温泉に降りて待ち受けた。
少し西が入りはじめ、うねりが出てきた海から元気に4艇がやってきた。
ウエアのまま温泉につかる。
赤井浜の露天風呂は、冬のこの時期、かろうじて暖かく感じる程度だ。ぬるま湯につかると、出れなくなる。
まさに、ぬるま湯。筋肉のハリといくばくかの緊張をほぐしながら、これからのトレーニング計画や、遠征のことを聞いた。いつしか時間が流れていった。
赤井浜の露天風呂へ現れたバズーガJoe
聖子は自動車で一足先にPIER101に戻り、波の高くなった海を残った4人で、漕いで返ることにする。船出すると、うねりが高くなったのが実感できた。南西の風がうねりを大きく増幅させる。斜め後方の風をうけて、飛ぶように船が進んだ。
岬に近づいたころ、後方のセニョールが後れ始めた。うねりは3mを越え、波のトップとボトムでは、他のフネを見ることもままならない。
海に出始めて間もないセニョールには、初めて体験する大きなうねりだ。
ヤバイな…。他の3艇がセニョールを気にしはじめた。そのとき、
「あー、ひっくりかえった〜」
BINIさんの声。ウネリの向こうで沈脱したセニョールと白いお腹を見せたままのルータスがぷかぷか浮いている。バズーガが鋭いパドリングでセニョールに漕ぎよった。
海中に突き出た隠れ岩があるのだろう。セニョールが沈したところが掘れた波が立っている。バズーガがセニョール艇にたどり着き、ガンネルをつかんで、再乗艇のポジションを整えた。
さすがバズ、インストラクターで鍛えたレスキュー技術は的確で素早い。
オイラも、そばまで漕ぎ寄った。
セニョールが再び乗り込もうとした時に、沖合いから巨大なお化け波が近づくのがみえた。波が立ち上がり、チューブを巻きはじめた。青い波の向こうに空が見える。
エメラルドグリーンの吸い込まれそうな大波がおおいかぶさってきた!!!
オイラの乗ったパフィンのバウ上を、ルータスをつかんだままのバズがアークティックごとすっとんでいく。オイラも波に飲まれてしまう。フネがぐぐーともちあがり、ボトムから引きずり込まれていく。あわや沈というところで、ブレイスを入れて、かろうじて持ち直した。気づくと、他の3艇は腹を見せていた。
バズが、ルータスをつかんで起き上がり、BINIさんもロールで海中から復帰。
その後も、何回かのうねりがセットで入ってくる。
フネから引き離されたセニョールが波間に浮かんでいるのが見える。
セニョール救出に今度はBINIさんが向かった。
セニョール本郷とルータスの勇姿
この場所は、再乗艇を試みるには、危険なポイントだ。
乗り込めても、またひっくり返されるのは、目にみえている。
どうする?次から次へと大きな波がブレイクしてくる。
こりゃあ、ヤバイ。
幸いなことに、オンショア(海から陸に風が吹いている)で、視界にゴロタ浜が見えていた。
ゴロタ浜にエスケイプしよう。バズーガに漕ぎ寄った。
「あそこに、上陸しよう!、乗り込んでも、直ぐ返される!」
少し考え込んでたが、バスの決断は速かった。
「そうだね、そうしょうか!」
漕ぎ手を失ったルータスをもらい、バウラインに固定した。
バズにはそのまま、セニョール救出を頼む。
暴れるフネをなだめつつ、陸に向かう。バック漕ぎなので、向ってくる波が見れていいのだが、時々ルータスが飛んできて、苦労する。
ブレイクする波を、なんとか躱し、着岸。ルータスを引きずり上げた。
沖を見ると、セニョールが捕まったBINIさんのフネをバズがエスコートしているのが見えた。
がんばれ、セニョール。
いくら海とはいえ、3月の水温は低い。
なんとか岸にやってきたものの、セニョールの体は冷え切っていた。興奮状態で、元気はあるが、体がゆうことがきかず、風に体温を奪われて寒そうだ。震えが止まらない。
BINIさんも、セニョールをぶら下げたまま、何度か無理なロールを強いられた様で、疲労の色が濃い。
海上にいるバズに、単独でPIER101へ救援を呼びに向かってもらう。
サーフに乗って飛ぶようにアークテックレイダーが疾走。あっというまに見えなくなった。
暫くするとセニョールの調子も大分落ち着いてきた。
断崖の上を見るとこちらを覗き込んでいる人影が…
聖子とPIER101の菅井さんだった。
帰りが遅いのと、海が荒れきたので、心配になって捜索にきてくれたとのこと。
途中、単独で矢のように漕いでいるバズを見て、いよいよ何かあったと確信したという。海の男は頼りになるなあ。菅井さんありがとう!
カヤック3艇を高みに引き上げ、崖を這い上がって、二人に合流。
ほうほうの体で、PIER101へ引き返した。
その夜は、そのハプニングを肴に盛り上がったのは言うまでもないネ。
もの静かなジェントルだと勘違いしていた、セニョールのノリノリぶりは、酒がはいると大爆発するのであった。短い航海だったけど心に残る一本でした。
バズーガ・ジョー、セニョール、そしてBINIさん!ありがとう!
あとがき。
西伊豆とえびがに団のハナシを楽しんでいただけたでしょうか?
いやはや、とんだエピソードだけど、心に残るシーン、僕の貴重な体験のひとつです。
この最初の出会いが縁で、彼らの電脳宣伝班長を頼まれてしまい、パソコンを購入したばかりの初心者だったが僕は悪戦苦闘して、えびがに団の応援HPを造るに至ったのでした。その技術?をもとに、この「カヌーで日本を遊ぼう!」のHPも作られていたりするのです(笑)。
彼らの航海とともに、小さな冒険を味合わせてもらって、とっても面白かったです。彼らのを通じて、たくさん海の知り合いも増え、海の世界が大きく広がりました。
バズーガ村田は現在、西伊豆松崎町に「西伊豆コースタルカヤックス(NCK)」をオープンして元気に活躍中。
BINIさんは、NCKのインストラクター兼影の番長として元気です。BINI
THE BLUESE BANDも活躍中、最新情報では障害者の方々にシーカヤック体験をおこなっているそうです。
セニョール本郷は、西表島で「デラシネカヤックス」を主催。時々、便箋を勢いにあふれた文字で、びっしり埋めた手紙が届きます。えびがに3人衆みんな海をモチーフにした新たな人生の旅へ船出している。どこまで行くのか?えびがに団での遠征と同様見守っていこうと思います。
えびがに団の時の思い出に残るエピソードはいっぱいあって、ハナシは尽きないのですが、長くなるので、またの機会に。
是非、バズーガ村田&BINIの西伊豆コースタルカヤックスへ遊びに行ってみてください。
西表島に行ったら、デラシネカヤックス
のセニョール本郷にも声をかけてね!
日本縦断シーカヤックの旅(1997〜98)の記録(えびがに団)