羽田〜尾岱沼 朝5時前に起きる。外を見ると残念ながらお天気は芳しくない。空からかなりの量の水滴が落ちている。 少し早いが、といってもう一度寝ると確実に寝坊しそう。 ここで、寝坊したら、一世一代の失策になるから、トイレに行ってから、流しの洗いものをしたり、お布団をあげて片付けたりするうちに体が目覚めてくる。 身繕いをして荷物を確認し、ゴミを出したらもうすることはない。 出かける予定の6時までにはまだ間があるが、待ちきれない。少し早いが雨も降っていることだし、余裕を持って家を出る。 駅には、6時10分に着いてしまった。15分発の電車が来る。こんな早朝から、出勤する人や、出かける人が多いのにちょっと驚く。プラットフォームのベンチに座ると、やはり旅行支度の女性が座っている。 ぬれた傘を開いて乾かしながら、ぼんやりと周囲の人の動きを見る。普段なら今ごろはまだお布団の中にいる時間。でも世の中には、すでに働きに出かける人が、さらにもっと早くから働いている人もいるんだ。感謝、感謝! 次の横須賀線が入ってくるというアナウンスがあり、約束の一番前の車両へ向かう。入ってきた列車にはRittyanが乗っている。思ったより荷物が多い。何を持ってきたのか・・・ 横浜で京急に乗り換えて羽田空港へ向かう。十年以上前に京急で羽田へ行ったときは、京急の小さな駅からバスでターミナルへ行った覚えがある。今は、空港のターミナルへ乗り入れているので比較にならないくらい便利だ。 8時半発の飛行機なのに、7時18分には空港へ着いてしまう。インターネットの乗換え案内でRittyanが調べてくれた時間より早い!乗換えがスムーズに行きすぎて一台早い電車に乗れたようだ。 搭乗手続きをして窓際の席を確保し、荷物も預けて一安心。 ゆっくり朝ご飯を食べる。 とうとう出てきた。Kurbisは初めての北海道旅行にわくわく。 しかも友達と二人だけの旅なんて、学生時代以来だ。気分は完璧に20代・・・ ちょっとあつかましいかな! 二人とも荷物が多いと思えば、いろいろ面白いものを持って来てしまった。Rittyanは携帯水彩絵の具、携帯情報端末、PHS、デジカメにそれぞれのチャージャー、Kurbisも負けずに携帯電話に端末、デジカメに双眼鏡、チャージャー、電池や媒体。PCがないのがさびしいが・・・ のんびり旅をするために出てきたのだから、なるべく文明の利器は使わないようにしよう、なんて言いながら・・・この荷物だ! エアーニッポン中標津行きの搭乗時間も近づいてゲート前に行って待つ。ところが時間が迫ってもアナウンスがない。そのうちに予定時間を過ぎてしまう。おかしいと、カウンターに行って聞くと、整備段階で何かトラブルがあったという。しばらく待っていると、乗る予定の便が機体不良のため欠航になったというではないか。乗客は他の便に振り替えさせられる、それも予定の中標津ではなくて釧路行きになるという。あきらめる人、札幌行きに変える人、仕事に間に合わないと怒って詰め寄る外人など。 われわれは仕方ないので、航空会社の言うなりになる。全日空で釧路へ飛んでそこからチャーターバスで中標津空港へ。ずいぶん時間のロスになるが、他になすすべがない。 釧路行きに乗りこむと席は真中で何も見えない。Kurbisは北海道を初めて空から見ようと楽しみにしていたのに、残念無念。予定より少し遅れて、9時15分過ぎに離陸。 釧路空港に10時40分に到着。北海道最初の1歩だ。それから阿寒バスに乗り換えて一路中標津へ。 ハプニングで時間は大幅にロスしたけれど、思いがけなく北海道の自然の広がる真っ只中を100キロ余り走り抜けることになった。 Kurbisは窓に顔をくっつけて外の景色に釘付け。いかにも北海道らしい大平原。緑がなんと鮮やか、色鉛筆の黄緑や緑で描いたようなさわやかな色合いでなんともいえずきれいだ。外国へ来たような気分。 釧路空港から少し出たところに早くも広がる林の連続。ふと何か大きな物が、と思ったら、なんと鹿がすぐ間近に立っている。絵に書いたようなきれいな横姿で立ち、顔だけこっちに向けてじっと見つめている。あっという間に通りすぎてしまったが、ハプニングのおまけにしては素敵な眺めだった。 Rittyanは反対の窓から、キタキツネらしい姿を一瞬見たという。2時間半の走行中、窓から見える景色は雄大そのもので、道路以外は大自然のみ。 絵本の挿絵にあるような非現実的な風景が、目の前に広がっている。なだらかな起伏を繰り返す草原が微妙なニュアンスの色を重ねて地平線まで続き、ところどころに何本かの樹がまるで野中をゆく行進のように行儀良く並んでいる。地平線のあたりにも数本チョコンと影が見える。起伏の途中には、小さな家の赤い屋根がのぞいている。この風景は絵空事ではなかったんだ・・・ 約2時間半の走行中、ほとんど人の姿が見えない。中標津に着くまでに見た人間はたったの6人。そのうち4人は、畑の中でトラクターを運転し、一人は青空の下で気持ちよさそうに小用中、あとの一人は車に乗りこむところだった。 車も信じられないくらい少なくて、一直線に走る道路に豆粒のように見えるだけで、すれ違う車もほとんどない。信号もないから、常時70キロから80キロぐらいの速度で走りつづける。 左が釧路空港 右が中標津空港 見た目は似ているが、出発点としての座標の違いは大きい! 途中、中標津のバスターミナルで何人か下車。 やっと中標津に着いたのは1時半過ぎ。遠路送ってくれた阿寒バスは、ここで残りの乗客を下ろして走り去った。 一日に2便しか発着しない空港は、その一便も欠航し、ひっそりしている。 さてこれからどうするのか、乗る予定で調べてきたバスの時間などまったく無駄になってしまい、車を運転できない者の交通手段はタクシーしかない。とりあえずタクシーを確保して、飛行機で到着するはずだった滑走路を見ながら空港レストランでお昼を食べる。 中標津空港から、今晩の宿泊地尾岱沼まで観光込みで8000円という交渉で乗ったのだが、どうもいい値段だったのか、運転手のおじさんは親切にあちこち寄り道してくれた。 まずは、最初の予定にも入っていた開陽台へ。空港から北に向かって地平線まで一直線に伸びる道路を走り出す。こんな道なら免許をとって走りたいなと思うような気持ちよさだ。途中で曲がってもまたその道が一直線。最後は一直線の前方にある高台に向かってまっしぐら。ここが開陽台。 開陽台の語源は、北斗七星の第六星。 呼び名を開陽星(ミザール)。 六千年前の古代中国では天の中心に位置し北極星だった。 展望台の上のモニュメントは北極星の方向を指している。 展望台に登ると周囲が全部見える。360度見渡せる。標高は271メートルとはいえもっと高く感じる。東には国後島がはっきり見えた。こんなにはっきり見えるのは運がいいらしい。ずっと視線をめぐらすと北海道特有の地平線までずっと続く大平原、次は少し山並みが続いたかと思うとまたぐるりと地平線。水平線のかなたに国後。文字通り360度だ。 風が気持ちいい、空気がいいだけに日差しも清冽。日焼けしそう。 眺望を満喫してから、下の売店に行き、名物の牛乳を飲む。 牧舎牛乳は濃くてクリーム分が分離しているので良く振ってから飲む。 かわいいビンは洗ってもらって持ちかえる。 ここはライダーのメッカでもあるそうで、展望台の真下はキャンプをはれるようになっている。あのまっすぐな道を走るのはさぞ気持ちがいいだろう。誰言うともなくミルクロードと呼ばれるようになったそうだ。運転手のおじさんいわく、ここだけではなくもっと長い一直線道路はあちこちにあるとのこと。 今度は南東へ向かい、サーモンセンター前で写真撮影のサービス。 次は標津の町を通過して海岸を走り始める。 一瞬で通りすぎたが、テトラポットの上にかもめが行儀良く並んでいるのにびっくり。ポットというポットにぎっしりと並んでいるので、最初はテトラポットの上に何か柵でも作ってあるのか、デザインの一部なのかと思った。 野付半島の付け根で道は二つに分かれている。左へ行くと、野付半島の中に入っていく。尾岱沼へ行く右の道に入ると、左手の海の色がどんどん変化した。黒や茶色、濃い緑に次々変わる。その上、まったく波がない。鏡のような水面がずっと続く。標津からかなり遠かったが、尾岱沼に到着。トドワラ荘に予約していたが、同じ場所がシーサイドホテルになっていた。 ひとまず荷物を置いて落ち着いてから、少し宿の周りを歩く。 すぐ前が海で、ずっと向こうに平らな半島が伸びている。 水平線のあたりにも何やら樹の影らしきものがぼんやりと霞んでいる。 あれがトドワラ、ナラワラ、野付半島。 本当にちりめんの生地のように繊細な波が、さわさわと波打ち際へ寄せている。海というより湖か池のような雰囲気だ。 岸辺に生える草花の色が鮮やか。 青紫がきれいなハマエンドウ。 名も知れぬ白い花。 タンポポやアザミに似た花。 どれもこれもジャンボサイズだ。空気がいいからか、水がいいからか、すくすくと伸びている。 夕食は食堂で他の宿泊客と一緒に食べる。 ホタテのコキーユ、ホタテのマリネ ホタテの刺身、ホタテのバタ焼き ホタテの酢の物、毛がに カレイの煮付け、茹で海老 北海シマエビの踊り、カニ椀。 熱燗があうお料理。 ここはRittyanが新婚旅行に来た宿。当時の親父さんの娘さんが婦人警官を辞めて後を継いでいる、と、同席の札幌から来たという会社員が話してくれた。この辺では唯一のいい温泉がある宿で、定宿にしているという。 隣席の十勝から来たじゃが芋農家だというご夫婦は、名物の北海シマエビ漁を見に来たという。旅の宿で偶然同席になったものどうし、和気あいあいとおしゃべりしながら、おいしいお料理に舌鼓を打つ。これこそ、旅の醍醐味の一つといえよう。途中で北海シマエビの踊りが出てきた。 サラリーマン氏は生きた海老に触れなくて、びくびくまごまご。元婦人警官のおかみさんがやって来て、頭と胴を持って、くしゃっと反対にひねって身を出す実演をしてくれた。甘くて絶品の味だった。 お腹いっぱい食べて満足。 お風呂は立派な大浴場に二人きり。外の露天風呂も貸し切り。真下が海で、抜群の眺望。南のほうの港らしきところに少し明かりが見えるだけで、後は真っ暗な海と真っ暗な空。残念ながら曇っていた。ナトリウム-塩化物泉のちょっとしょっぱいお風呂で、肌がつるつる。 いい気持ちで部屋に帰ると、Rittyanがちょっとビールでも飲もうと冷蔵庫を開けてみる。がビールと書いた場所には他のものが入っていて、肝心のビールがない。自販機が見当たらないので、Kurbisが聞きに行く。今回の旅はRittyanが計画し、手配も全部してもらったので、せめて現地での交渉はKurbisが受け持たねば、というわけ。 フロントに行って自販機はどこか聞いてみた。おかみさんが出てきて何がほしいのかというので、ビールがほしいというと、瓶かジョッキかと訊かれた。これはわたしが飲むと思われたなと思ったが、まあいいやと、「じゃあ、ジョッキでお願いします。」厨房に入り、ジョッキになみなみとついで来てくれた。部屋に持っていくとRittyanはびっくり。缶ビールよりおいしいからいいじゃないということで、ビールとスポーツ飲料で乾杯! 最初からハプニングがあったわりには、まずまずの滑り出し。 本当に今、北海道にいるんだと思うと胸がバクバクしてくるKurbisだった。 あのごちゃごちゃして蒸し暑い都会から来ると、広い、大きい、きれい、涼しい、何もない、本当に天国だ。 いい気分で飲んで話して、つと部屋の外の廊下にあるトイレに行った。洗面所の両脇に男女の個室がある間取り。廊下の反対側は大浴場になっている。 出てきて手を洗っていると、横の紳士用トイレのドアが少し開いた。そしてすぐに閉まった。それからまたそっと開いた。と、中の紳士がひそやかな声で言ったことには、 「あのう、裸なんですけど・・・」 なぬっ、どうしてそんなこというのよ、黙って中で待ってればいいじゃない! こんなところにいつまでも居るわけないでしょう! 思わず吹き出しそうになって、慌てて部屋に戻りRittyanと大笑い・・・ 楽しいハプニングは歓迎だが・・・ このページのトップへ Rittyanの「北海道花紀行」へ
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