No.3 オシンコシンの滝〜船長の家へ 歩いてお腹もこなれ、気分爽快。タクシーに乗りこんでまた出発。 走りながら、快活な運転手はよくしゃべる。こちらもつい誘われて話し出す。 五十がらみの運転手はかつてアマチュア相撲の選手で、北海道No.1だったそうだ。国体に出たいためにがんばって40歳まで各地の国体に出場しつづけたというつわもの。どおりで背はちょっと低いが体格はいい。背が足らなくてプロになれなかったんだそうだ。あっさりとして人懐こく、それでいて押出しもいい。 感じのいい人なんだが、最初はなんだかはめられているような気がして、二人とも疑心暗鬼。タクシー料金の相場がわからないから何を言われても、みんな疑わしく思えてくる。最初から考えると今までは払いすぎていたような気がするのだ。 この辺でメーターはすでに10000円を超えていた。 ウトロを経由して斜里へ向かって走りつづける。トンネルを出ると滝があった。これが有名なオシンコシンの滝。名前の由来は「そこにエゾマツの群生するところ」というアイヌ語だそうだ。エゾマツの中から湧き出すように流れ出しているからか。迫力のある美しい滝だ。 緑の中を流れ落ちる滝という図はいつ見ても、心洗われる。 もう少し時間があれば、カムイワッカの滝の露天風呂にも入ってみたかったし、オシンコシンの滝の上にも登って見たかった。知床はまたまた何度も来てみたい所だ。 しばらくは比較的平坦な道をひたすら走る。といってもときどき海が見えたり、林のそばを抜けたり、丘陵のあいまを行ったりと自然と接近走行。ずっと平坦だと思っていると、いつのまにか道路横はとてつもなく大きな湖だった。「トーフツ湖」は見渡す限りというぐらい大きくて、周囲も平坦なのでどこで終わるのやら定かでない。 左にずっと続いている湖に見とれていると、車が止まった。右側にはかわいい電車の走る線路があり、これまたかわいい駅がある。「小清水原生花園」は、Rittyanがぜひ見たいといっていたところ。これまではいつも花の時期を逸して見れなかったのだ。ここには観光客がたまっていた。 道路のすぐ脇にあって自然のほうが遠慮しているような、ちょっとかわいそうな場所だった。もちろん、花園のほうが先にあって、人間が侵入して来たのではあるのだが・・・ 海岸に続く砂丘を埋めるように、ハマナス、エゾゼンテイカ、エゾスカシユリ、エゾシシウドなどがたくさん咲いていた。 海を背景にしたハマナスは、海の青と花の鮮やかなピンクが対照的で自然の妙だった。クロユリはもう時期が遅くて見ることができなかったのが残念。原生花園という名前はここが本家だそうだ。 風が少し肌寒くなってくる。原生花園を出て、海岸沿いを走る間、道路の右手脇の土手はずっとハマナスやスカシユリなどが群生していて、とてもきれいだった。 このあたりでメーターは25000円を越えていた。これから目的地までどのくらいになるのかと見ておこうと思っていた。が、今度乗りこむとメーターは倒され「貸し切り」になっていたので、これは永遠の謎となった! まだ道のりは遠いというのに。 走りながらぼんやり見ていると、道路の両側のあちこちに不思議な標識がついているのに気づく。街灯でもなく、道路標識でもないように見える。鉄柱の上に、赤と白のストライプの下向きの矢印がついている。これは、雪が積もってどこまでが道だかわからなくなるので、道の端を示しているのだそうだ。他の地方でもあるのかしら。 他にも、道路脇に鉄骨製のよろい戸のお化けのようなものがあった。こちらは、雪除けのガードで、立っている方向は風向きによってちがうのだそうだ。シャッターのように必要な時だけおろせるようになっている。 生きているカニを水槽から出して、はかりに載せる。1キロ、2キロと言っても大きさがわからないから、実際には買って見せてくれた。 カニははかりの上で、パラパラを踊っているよう! 車は網走へ向かって走る。網走はカニの名所だということで、ここのカニはおいしいよぅ、といいながら車が止まると、そこはカニ問屋だった。これぞタクシー運転手の陰謀か・・・とRittyanと苦笑しながら降りる。知り合いだから安くて質がいい、まずは試食をと、ゆがき立てのおいしい足を食べたら買わずには帰れなくなる。二人でウン万円を落としてしまう! やっぱり商魂たくましいわ。 網走は明日のお楽しみにして、先へ進む。少し内陸へ入ってひたすら走る。とにかく北海道は広いので、隣の町といってもなかなかつかない。 道は広くて空いているので、どんどん走っているから距離にすると大変なことになっている。こんなに走っていいの、とちょっと心配になってくる。乗客は目的地で降りたらそれまでだが、運転手は帰らないといけないのだから、距離は倍になるわけだ。 帰りが大変ですね、と声をかけると、慣れてるという。それはそうでしょうが・・・ 会社の同僚は、今朝の3時にウトロを出て稚内までお客を拾いに行ったという。10時に拾って、またウトロまでつれてくるのだそうだ。今ごろこちらに向かっているだろう、とこともなげに言うからすごい。 道内はほとんど行ったから知らないところはない、と言う。どこへでもいってしまうのだそうだ。そこへは行けない、何て言ってると仕事にならないのだろう。町のタクシーは、道がわかりません、何て平気で言うけれど、この話を聞かせてやりたいもんだ。 サロマ湖という字が標識に出てきたので、もうすぐかと思えば、まだまだ走る。どうしても見せたいところがあるのだそうだ。普通の観光客はまず行かないところだが、サロマ湖に来たらぜひ見てほしいのだという。ここまで来るともう商売そこのけといった感じだ。 幹線道路からちょっと横道に入ると、いきなり舗装のしてない細い山道になる。こんなところに入って行くのは普通はちょっと怖そう。 途中で牛の牧草を作っているところを通る。これまでところどころにあった牛の放牧地で巨大な草のロールを見た。北海道の牧場というと、サイロがあって牛が寝そべっている風景を思い描いていたが、そういえば、今までサイロを見かけなかった。考えると不思議だ。 最近は、牧草をロール状にする技術があって、保存するときはビニールでラップしておくのだそうだ。そういえば、黒や白、ブルーのビニールのかかった、達磨落としのお化けみたいなものが大量に置いてあった。 ラップのなかで適当に発酵して飼料になるのだそうだ。保存も楽だし、ビニールを取り除いて置いておくと牛が崩して食べるのだという。飛行場からのバスの窓から、そんな風景を見た記憶がある。 くねくねと曲がりながら高台の上に登る。車を停めて、木の階段をかなり上るとやっと上の台地に着く。ここからの景色がすばらしかった。さらに展望台に上がると、サロマ湖の全貌が見渡せる。 日が傾いてうす曇りなので、夕日が見えないのが残念だったが、300度ぐらいのパノラマだ。幌岩山のサロマ湖展望台、ここはお勧めのビューポイントである。 運転手がぜひ見せたいというだけのことはある。湖岸からリフトかロープウェイでもつけて簡単に登れるようにしたらいいのにというのは、まだまだ自然保護の信念が足らなかったかな・・・と反省。苦労して登ってきてこそ、このすばらしい眺めを見る資格があるというもの。大満足の二人だった。 そして来た道を少し引き返して、今晩の宿へ着いたら、すでに7時過ぎ。予定よりずいぶん時間がかかってしまった。でも約束は約束でお代は、25000円。寄り道しつつも、約200キロを6時間かけたドライブでした。 じゅうぶん楽しませてもらったので、じゅうぶんお礼を言って別れ、宿へ入ったとたんに、Kurbisは忘れ物に気づく。後部座席に自然センターでもらってきた資料を全部置いてきてしまった。どうしようと、慌てていると、幸いなことにもらった名刺に携帯電話の番号が書いてあった。すぐ電話して事情を言うと、引き返してきてくれた。最後の最後まで、お世話になった運転手さん、どうもありがとう。こんど知床に行ったら、またお世話になりますね。 今晩の宿は「船長の家」。タクシーの運転手がご飯を食べにくるというところは、おいしいに決まっている。カニ尽くしのお料理に期待が高まる。 飛びこみで、急に泊まることになったので部屋は旧館だった。お風呂やトイレが共同でいまいちだった。が、新館に泊まれたら豪華で最高らしい。それには半年前からの予約が要るほど人気の宿だそうだ。おまけに宿泊代が格段に安い。道内からここと決めて泊まりに来る人が大勢いるという。 さて夕食の卓を見て、びっくり仰天。 二人なのに、テーブルいっぱいにカニ料理が並んでいる。 席に着くと、後から後から運んでくる。テーブルに乗りきらないから畳の上に置く。食べているうちにも運んでくるので、お皿をどうしようかとうろうろする。とにかくすごい量だった。これは四人いても食べきれないのではないかというぐらい。もちろん二人では食べきれないので、涙を飲んで残してしまった。 毛ガニが丸ごと一匹ずつ、大きなタラバガニは二人で一匹。見ただけでお腹がいっぱいになりそう。 ふうふう言いながら食べれるだけ食べて、後ろ髪を引かれる思いで部屋に帰る。 充実した一日のあとの、なんとも言えない充足感に酔って、話ながらうとうとしてくる。 知床五湖を満喫した上、急な予定変更、運転手とのやりとり、天こ盛りの見所、興味深い話し、全部一度に記憶しなくちゃ・・・ これには、ちょっとお疲れ気味の脳細胞がうれしい悲鳴を上げているのか、寝てる間にやっておきますよ、というのか・・・zzzz このページのトップへ Rittyanの「北海道花紀行」へ
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