Den Ersten Tag in Wien -2-



ウィーン1日目−その2−





憧れのウィーン


ウィーン・シュヴェヒャート空港は敷地は広いが、建物はこじんまりした感じ。蒸し暑い日本からきて、空港に降り立つとひんやりした空気がすがすがしい。

ちなみにウィーンという言い方はドイツ語のWienから来ている。標準的な発音では「ヴィーン」と読むが、ドイツ語は地方によって発音が異なるから、「ウィーン」といっても通じる。英語ではViennaだから、標準的な音を採用しているということになる。日本語の方はたまたまウィーンと発音する人が導入したのだろうか、それともWienという字を英語読みしたのだろうか?

入国はしごく簡単にすむ。何か聞かれた時の注意を聞いていなかったので、列に並んでいる間に少し不安になるが、パスポートの写真と実物を見比べただけで終わり。拍子抜けするぐらい簡単だ。人の後にぞろぞろついていくと、空港内の銀行の窓口の前にくる。日本円を現地通貨シリングに両替してもらう。外資系の銀行のカードを持ってきたので市内に入ればATMで簡単にキャッシングできるはずだが、とりあえず早くこちらのお金の顔を拝みたい。1万円が848オーストリアシリングになる。

成田が都心から随分離れていて不便なのとは大違いで、ウィーンの空港から中心部へは車で約20分しかかからず、便利この上ない。さすがに空港付近は緑野が広がる郊外だが、市街にさしかかっても緑は十分残っている。
そのうち緑の中に見えてくる建物が、まわりの雰囲気を壊さず調和している。郊外は比較的モダン…というより、かなり前衛的なデザインの建物が忽然と現れて、これは長年あこがれていたウィーンとはちょっと違うな…と思うが、これが不思議に違和感がない。森の中にお菓子の家が建っているという、メルヘンチックな印象だ。中心部に近づくほど、建物の年代が古くなり重厚になってきて、いよいよ歴史の一場面へタイムスリップするような気分になり胸がどきどきしてくる。
さまざまな歴史的因縁いわくのある建物や、シンボルとなる名跡などガイドの女性が説明してくれるが、写真や映像でしか見たことのないものが洪水のようにつぎつぎに目に飛び込んでくるので、頭の中は混乱して区別がつかない。ただただ目をみはってため息をつくばかりだ。



インペリアル・ウィーン


そうこうしているうちにホテルに近づく。たまたまローリングストーンズの公演期間とぶつかり、しかも同じホテルに泊まっているという。バスがホテルの前に止まると、大勢の人たちが集まって私たち一行を出迎えてくれている。
と思ったが、そんなわけはなく、ローリングストーンズの誰かが出てくるのを一目見ようと待っているファンの人たちだった。町の中心部にあり、世界的に有名なミュージシャンも泊まる、ウィーン第一の豪華ホテルにいよいよチェックイン。ホテル・インペリアル・ヴィーンの外見は、ベージュにマリア・テレジアの好きな黄色をアクセントにしたむかしは公爵の館だったという歴史的な重厚な建物。
回転ドアを入ると左手にフロントがあり、右手は豪華な個室風のバーラウンジ。正面の重々しい緞帳のようなカーテンの向こうにロビーがある。これがまたすごい。宮殿の広間のような豪華なインテリアに、庶民のわれわれは気後れして借りてきたネコのようにこちこちになり、ひそひそ声になってしまう。

ホテル常勤の日本人スタッフの説明を受け、優雅に、しかしなんとなくぎごちなく待つ。すぐに部屋に通されないのは、例のローリングストーンズの関係者がわれわれの使うべき部屋に直前までいたので、今清掃中とのこと。待たせるお詫びにと喫茶室でコーヒーをふるまわれる。



コーヒーとアルプスの水


一般的にウィーンっ子の飲むコーヒーはメランジュ(Melange)というもので、コーヒーとホイップミルクを半々にしたものだそうだ。ちなみにメランジュというのはフランス語で混ぜるという意味だそうだ。日本の喫茶店で出るカフェ・オ・レやカフェラテに似ている。日本でウィーンナコーヒーといっているのはアインシュペンナー(Einspaenner)といって、グラス入りのコーヒーにたっぷりの生クリームがのっている。

我が敬愛する小塩先生の講演で聞いたとおり、ウィーンでコーヒーを注文するとグラス入りの冷たぁーいアルプスの湧き水が運ばれてくる。日本から行くと何でもないことだが、ヨーロッパではこれがスペシャルサービスに値することなんだそうだ。何といっても水は貴重なもので、安心して飲める水はお金を出さないと手に入らない。
ウィーンではローマ軍の作った水道のおかげで、天然のおいしい水がアルプスから運ばれてくるのだそうだ。しかもカフェでコーヒーを注文すると、タダ!で水がついてくる。不思議なことに他のものを注文しても水はついてこない。



キャッシング初体験


待っている間に、近くのATMでキャッシングをする。
機械で現金を出し入れするのは好みでない。銀行のキャッシュカードも一枚しか持っていない。それ以上ははじめから作ってもらわないし、どうしても作らせる銀行のものは帰るとすぐに鋏で切って捨ててしまうことにしている。何がきらいといって、機械に命令されるのが腹立たしい。ちょっとタイミングがずれたり、ボタンを押し間違ったりすると、はじめからやりなおしでいらいらする。
それに銀行のカウンターの人は何のために座っているのか、何をして給料をもらっているのかといいたい。いちいち「機械でしてください」といわれるのがいやなので、出金する時はかならず新券にしてもらうし、入金する時も何件かに分けていれたりする。振り込みをする時も「機械でされた方が手数料が安いですよ」などといわれると、むらむらくる。しかし、最近はあまりそういう押し付けがましい所は少なくなってきたようだ。そんなわけで、今時ATMの使い方がわからない。で、教えてもらうためにツアーの一行の人たちにくっついていく。

わお! 世の中にこんな便利なものがあるのか。日本から1万キロも離れた外国でカード一枚と数字4個さえあれば、はるか日本にある自分の口座から現地通貨がポンと出てくるのだ。画面の表示言語も大体6カ国語から選べる。おまけに、たまたま今回持ってきたバンクカードの場合は、その銀行のATMなら外国にいても日本語で表示されるというからすごい。おまけに要求すれば出金伝票が出てきて、残高まで分かるからぞくぞくしてくる。世の中どこまで便利になるか見当もつかない。

また別の機械では両替ができる。日本円のお札を入れるとその時のレートで手数料を引かれた現地通貨が、ポン、チャリンとでてくる。これではもう海外旅行するのに現金など持ってくることはない。このカードとクレジットカードさえあればいいのだ。ただし、ATMのないようなところでは役に立たないが・・・。



フルーツバスケットのある部屋


懐具合もよくなってホテルに戻り、部屋にはいると、その豪華さにあ然。スイートルームではあるまいし、広さは少しゆったりしたビジネスホテルぐらいだが、内装がすばらしい。高い天井、上品な壁紙、どっしりしてつやつやに磨き上げられた大型クロセット。豪華なカバーのかかったベッドに羽毛布団と羽毛枕。ゴブラン織の肱掛椅子とテーブルのセット。うえにはフルーツがきれいに盛られている。

古い建物なのに、エアコンやバスルームなどの設備も行き届いている。廊下で行き交うメードさんも愛想がいいし、部屋付きのメードさんは外国人のようだが、節度があり気持ちのいい応対をしてくれる。こんな豪華ホテルに泊まったことのない庶民は、きょろきょろ、わくわく、ドアというドアを開けて、家具をなでてみたりして大騒ぎ。あげくの果てに、たまたまベッドの支度をしにきたメードさんに、このフルーツは食べてもいいのかと聞く始末。部屋においてあるのだから、食べていいに決まっているのだろうが、一応聞いてくれと真理さんが迫るので、ケイは頭の中で必死に考えて作文する。考えている途中で、ついでにおいてあるスリッパを貰っていいかも聞いてという。
少し黒ずんで「す」の入った灰色の脳細胞を馬力以上に働かせて、なんとかきいてみる。メードさんは内心きっと笑い出したい気分だったのではないだろうか? それでも愛想よく、まるで母親が小さい子供に教えるようにやさしく、「この部屋にあるものは全部貴方のものですよ!」といってくれる。うれしい! でも家具は持って帰れない。



リンクを通って夕べの散歩


さて、一休みして落ち着いた所で、夕食がてらはじめてのウィーンの街を歩きに行く。日が暮れると少し肌寒い。 ツアーの仲間もそれぞれグループに分かれて、思い思いの所へ出かけていく。
はじめて3人だけで、言葉も分からない見知らぬ外国の街に足を踏み出すので、不安と期待が入り交じり、緊張して下腹が冷えるような気がする。

まずはウィーン中心部一番の繁華街というケルントナー通りへ向かう。街の中心にあるリンク(Ring−「輪」という意味のドイツ語、読み方はリングではなくリンク)という環状道路が走っている。

リンクは昔の城壁を取り壊したあとに作られたもので、街の核を取り囲んでいる。しかも一周4キロほどなのでゆっくり歩いても回れる。市外電車が走り車線が6本ぐらいある広さなのに、アスファルトの乾いた感じはなく、間に緑の濃い島のような分離帯がある。分離帯といっても歩道と自転車道になっていて両側には大きな木も植わっていて、気持ちがなごむ。ただ、自動車も自転車もかなりのスピードで走っているので、横断するときはちゃんと信号を守らないと危ないし、歩道でも横に並んでふらふら歩いていると危険だ。最初は何で自転車が走ってくるのかとぼんやり見ていて、ぶつかりそうになってしまった。

ホテルの前のケルントナー・リンクを左に少し歩き右に折れると、国立オペラ座が目に飛び込んでくる。パリ、ミラノと並ぶ世界3大オペラ座の一つだそうだ。見るからにどっしりした建物が威容を誇っているという感じだ。左手のオペラ座を眺めながら歩いていくと、両側にさまざまな店やカフェ、レストラン、ブティック、ホテルなどが並んでいる。幅の広い道路は歩行者天国になっていて、あちこちに大道芸人がいろんなパフォーマンスを繰り広げている。
いかにも外国人の出稼ぎという感じのものから、玄人はだしの演奏まで実にさまざま。見物人もそれぞれにそれ相応の反応を示す。渋いギター演奏家のまわりには大勢の人が集まり、静かに耳を傾け、終わると満足気にギターケースにお金を入れていく。ウィンドーショッピングと野次馬に徹してしばらくそぞろ歩く。商店はちょうど夏のバーゲンセールでいたるところに売り出しのステッカーが貼られている。行き交う人の肌の色を除けば銀座か、どこかの街の大規模ショッピングモールかというところだ。遅い時間なのに大勢の人々が出ていて、とおりの真ん中に設けられたカフェの野外席も満員。色とりどりの髪や肌の人たちがオシャレな装いでコーヒーを飲みながらおしゃべりしているのを見ていると、まるで映画のようだ。



シェーシェー?


興奮であまりお腹も空いていないが、とりあえず何かお腹に入れないといけないので、手ごろなカフェテリアに入る。ノルトゼー(Nordsee−北海)という名のシーフード料理の店だ。ショーウィンドウにある料理を選んで最後に料金を払ってテーブルで食べる。
これがなかなか一苦労だ。片言の英語、ドイツ語チャンポンで注文するものだからうまく通じない。それでも何とか注文を済ませると茶目っ気たっぷりの若い男性店員が、「サンキュー? メルシー? シェーシェー?」と声をかけてくる。最初は何を言ってるのか意味が分からなかったが、ようやくこちらの国籍が分からず、知ってる言葉をならべて挨拶しているのだとわかった。どうやら中国人に見られたらしい。しかし熱いロブスターを頼んで後の鉄板で焼いてもらったのに、中はほとんど暖まってない。おまけにロブスターとサラダを取ったら、ロブスターのお皿にどっさり野菜がのってきてびっくり。野菜だらけになってしまった。水はついてこなかった。

夕暮れの散歩を満喫してぶらぶらホテルに戻る。このころになるとずいぶん緊張がほぐれて、外国にいるという気がしなくなっているのに気づく。街を形容するには変な言葉かもしれないが、人懐こい街という感じを受ける。空気に違和感がない。時間が過ぎていくのがもったいない。

−つづく−



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