のびのびフリータイム

二都めぐり



Prolog

プロローグ



ぼたもち旅行

急に降ってわいた洋行の誘いに待ってましたとばかりに飛びついた3人。そもそもはじめに声をかけた張本人は愛さんだった。彼女の友人がケーキ作りの先生をしている。勉強をかねてしょっちゅう海外へ行く話をするのを、お弟子さんたちが聞いてうらやましがり、では一緒にということでツアーを計画した。人数に余裕があったので話がまわってきたというわけだ。

愛さんはパリに通算6年住んでいたため訪問客を案内したり、家族で出かけたりはしたけれど、お友達同士の旅行を一度してみたいとかねてから希望していた。そこで英会話教室の仲間の真理さんに声をかけた。彼女は以前から旅行の話があれば誘って欲しいと愛さんに頼んでいたのだ。

真理さんは海外旅行の経験数回。ツアーに参加するとえてして自由行動が少ないので、フリータイムの多い旅行をしたいと思っていた。お買い物大好き、でもいかにも観光客という団体行動はあまり好きではない。気のあった小人数のパーティーで、自分でスケジュールを組んだ旅行をしたいと望んでいた。気のあうケイと、来年は一緒に海外へ行こうと話し合っていたので声をかける。

英会話教室に通いながら洋行は未経験のケイは、会のメンバーが次々に海外旅行するのを目の当たりにして、私もいつかはとチャンスを待っていた。子供の手も離れ、いつなんどきチャンスが来てもいけるようにと去年パスポートも手に入れ、5.6年続けた仕事からも手を引き暇ができた。真理さんと話し合って来年こそはと楽しみにしていた所へ降って湧いた話に、チャンス到来とばかりに飛びつく。一番楽しみにしていたのは、ヨーロッパは初めてのケイかもしれない。フランス在住経験のある愛さんと、海外旅行経験のある真理さんと、一緒に行けるなんて願ってもない理想的な話だ。家族の都合などとんちゃくなく、聞いたとたんになにがあっても行くぞと決めていた。

帰るまでけんかしないようにしようねと真理さんはいうが、けんかになりそうもない顔ぶれである。3人のなかでは一番年長の愛さんは、フランス語堪能。何でも几帳面に準備して、納得してから行動する慎重な人だ。周囲の人に対する心配りも抜群。ケイより一つ年上の真理さんは、あまり人の言動に左右されないで、自分の意志をはっきり表現し、また実行する人。一番年下で未経験のケイは、自分の意見はあるし口にも出すが、一番年少で未経験でもあり、ここは二人についていくのが得策と大船に乗った気分だ。3人で行動するのはむずかしいというが、自然に役割分担ができている感じで、ケイは金魚のふんに徹していろいろ教えてもらうのを楽しみにしている。

曲がりなり(?)にも3人とも主婦ではあるが、また主婦だからこそ、それぞれ仕事があったり、世話すべき家族が近くにいるひともいる。10日も留守にするからには、それなりの準備もあることで、肝心の旅行の準備は満足に出来ないまま出発の日となる。



飛行機に遅れる!


早朝6時25分横浜発の成田エキスプレスに乗るので、遅くとも5時59分大船発の電車に乗らないと間に合わない。前日になってからトランクに荷物を詰め始めるので、同じマンションの2階に住んでいる母が心配してやってきて、いろいろアドバイス(?)をしてくれる。荷物は少ないのがベストといって、前もって大体考えていた洋服のあれもいらない、これもいらないとかなり減らされてしまう。結局寝たのは1時すぎ。

ほんのうたた寝しただけで4時前に起きると、脳みそはまだ起きたと思っていない。半分眠りながら洗濯機をまわして身ごしらえ。次男に駅まで送ってくれるように頼み込んであったのだが、彼は寝坊すると大変と、寝ないで待っていてくれる。

4時半に母がやってきて、横でいろいろ口を出すのでかえってあせる。5時過ぎるとこれまた次男が「まだ出ないのか」とせかす。慌てふためいてトランクの蓋をし、次男の運転で駅までおくってもらう。夫は前日から出張で留守、長男は前夜遅くまで仕事していたがそれでも起きて玄関まで見送ってくれる。駅に着くと心配していたとおり、駅のエスカレーターは早朝で動いていない!重いトランクを持って階段を上がり、又プラットホームまで階段を降りてくれた次男。感謝感激で、タクシー料金、早朝割増、おまけに赤帽代を追加して大奮発の3000円を渡すと、これがこの世の見納めになるかもしれないというのに「じゃあ、行ってらっしゃい!」とさっさと帰ってしまった。

5時20分過ぎ、ほとんど人のいない早朝のプラットホームに取り残されると、睡眠不足と興奮と期待とない交ぜになった不思議な感覚で、これから日本を出るのが現実と思えず不安になってくる。待っているとこんな時間でもちらほら人が集まってくる。しばらくして来た電車に、待っていた人たちと一緒に乗り込む。朝っぱらから結構な人数が乗っているものだと思いながら、電車が発車してほっとしたとたん、ある事に気づいた。

ひょっとすると他の2人は一緒に59分の電車の乗るつもりだったかしら?遅刻常習犯の後ろめたさから、今日だけは何がなんでも遅れてはいけないという強迫観念にかられて、全て早めに早めにと準備して出てきたのだ。それとも単に寝ぼけていただけなのかも・・・。




清き一票


前日、衆議院選挙の不在者投票に出かけた。いつにない不景気で世の中混乱していることでもあり、今回から仕事以外の旅行でも不在投票ができることになったからだ。この清き一票で、くしくも政府転覆ということがあるやもしれない。それを願いつつ(?!)、忙しい中を出かけていった。大船駅で電車を待っているといつまでたってもこない。かなり待たされたあげく、東京方面で人身事故があり電車が遅れているため、急ぐ人はパスを利用するようにというアナウンスが流れた。近くにいた見ず知らずの女性3人で相談して、タクシーで鎌倉まで行く羽目になり、午前中に帰る予定が狂ってしまった。後で聞くと愛さんも真理さんも前日に不在者投票に行ってたのだ!なんという愛国者!

そんな事があったばかりで、とにかく早く早くという意識のみ先行してしまったようだ。といって走る電車から降りるわけにもいかず、とりあえず横浜で降りておろおろ待っていると、予定の電車から二人が降りてきてやっぱり叱られた。大船駅で時間になっても現れないので、いつもの遅刻癖が出たか、朝寝坊しているのか、どうしたら連絡つくか、タクシーで成田まで飛ばして間に合うかとか、大船から横浜までの車中、ずっと気をもみながらいろいろ考えてきたという。ごめんなさい・・・。

最初からずっこけてこの先どうなる事かと心配になるかと思うが、さにあらず。気分はもうずっと先へ飛んでしまっている。



−つづく−



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