全ての調査用紙を回収し終わった俺は、その日の夜から自分の部屋で集計を取り始める。1世帯づつ中身を確認して、1枚の役場提出用紙にまとめるのだ。世帯番号1番のご家族は、3人家族でお仕事してる方はご主人の1人だけ。奥さんは専業主婦で、お子さんは中学生1人・・・という具合に、全67世帯分を丁寧に記入していく。最後に俺が担当した地区には、何人の人が住んでいたかを記入し、作業終了。夜勤の人の調査票を回収してきた夜、夕飯を食べ終わってすぐ始めたつもりだが、集計が終わった頃には深夜12時をまわっていた。
明日すぐにこの完了した、提出物である”全世帯の調査票”、”世帯名簿”、”調査区要図”を役場に持って行く。そうすると役場が国勢調査員全員の提出物を集計し終えた頃に、報酬の現金をいただけるって事だ。結構頑張ったもんな、俺。たくさん期待しちゃっていいのかな?
次の日の昼頃、役場に顔を出す。またスーツ軍団の合間を縫って、2階”企画課”まで移動。あ、先輩を発見。俺に”国勢調査員をやりなさい”と言った方である。何か忙しそう。でも声掛けちゃおうっと。
「どうも。先輩。お久しぶりです」
先輩は俺に気付くと、デスクから立ち上がり、こちらに走ってきた。
「よう、淵。久しぶり。調査終わったのか?」
「はい。ようやく昨日の夜、集計終わりまして、提出物を全部持ってきました」
「そうかそうか。お疲れさんだったね。それじゃこちらに全部貰おうか」
俺は先輩の言う通り、提出物全てをカウンターの上に提出する。すると先輩は、調査票の枚数など大まかなところだけをある程度確認すると、俺に向かって”OK”サインを手で出した。
「問題ないね。世帯名簿も調査区要区も綺麗に書けてるし。これだけ丁寧にやってもらうと、次回の国勢調査も声をかけたくなるよ」
と笑って話す。俺も同時に微笑み返したが、次回の国勢調査をやるかどうかは、報酬金額を確認させてもらった後の話。微々たる報酬のみで、ボランティア要素の強いものだと分かったら、次回は辞退させてもらいたい。世の中、金、金、金っすよ。先輩。
頭の中はこんな程度の事しか考えていないので、先輩に話しかけた次の言葉がこうだ。
「で、報酬はいつ貰えるんでしょうか?」
すると、先輩はこう言う。
「1ヶ月から2ヶ月は掛かってしまうんだよ。一度、国に全集計結果を提出した後でないと、報酬金は役場までまわってこないからね」
え?国から出るの?役場が今すぐ出すんじゃないの?そうなんですか。今すぐは貰えないんですか。ちょっぴりガッカリ。続けて先輩が話す。
「報酬が払えるようになったら、またハガキを出して通知するよ。それまで我慢しててな」
そういう言われてしまうと頷くしかない。でも考え方を変えれば、忘れた頃に貰える金ってのも悪くないな。別に、今すぐその報酬金を財布に入れないと生活できない、と言うわけでもないし。いただける金額を想像しながら、2ヶ月待つっていうのも結構ベターかも。そんな風に建設的な思考に無理矢理変えた後、先輩にお辞儀をし、役場を後にした。
帰りの車の中で、少し気になる事があった。この今手元にある、返しても返されてしまった”備品の数々”である。記憶によれば国勢調査を始める前に、役場で説明してくれた女性が、”この防犯ブザーはあげます”といった事は覚えている。しかし、その他の備品も貰っていいのでしょうか?
まず、国勢調査員用特製メモ帳。こんなのあってもメモぐらいにしかならない。まぁメモ帳なんだからそれでいいんだろうが・・・。貰っちゃおうっと。
あと、国勢調査員用特製筆記用具。”国勢調査員”とプリントされた鉛筆1ダースと消しゴム1個。これは全く使わなかったな。調査用紙に記入をその場でお願いするときに、貸し出す物だったのだろう。これも貰っておきましょう。俺、お絵かき好きだから。
最後にこの防犯ブザー。夜間はライトにもなる優れもの。でも使い道はというと、ほとんど無し。というか全くなし。身長180センチ近くあって、体格が良すぎる俺にはハッキリ言って不必要。どちらかと言えば、ブザーを鳴らす方ではなく、鳴らされる方だ。そこら辺に置きっぱなしにして、間違って踏んでしまえば騒音が出て寿命が縮むだけ。こんな危ないものは、何処か地中深くに封印してしまいましょう。
それから約1ヶ月半。役場からの封書が届く。開封し中身を確認すると、紙が1枚。それには御礼の一言と、報酬が用意してあるから取りに来い、という内容のものだった。直ぐさま役場に行き、報酬を頂く。
「えー、淵 笹次郎さんですね・・・。はい、こちらが報酬の金額になります。基本的に、調査していただいた事によって支払われる金額が○○円で、その他に1世帯あたり○○円の報酬が出ます。ですから淵さんが担当した世帯の小計金額が○○円で、それに基本調査報酬をたすと、合計○○円になります。ご苦労様でした」
・・・・・。こ、こんなに貰えるのか・・・。ちょっとしたアルバイトをやった気分じゃないか。○○円ですよ。○○円!先輩、俺、次回もやるかも知れません。いや、やります。やらせてください。お願いします。
金額を数字で書くのは控えました。何故かって?それはみなさん自身が国勢調査員を体験してもらって、その努力の結晶である報酬金額を直に受け取って欲しいからです。
数年に1度しか行わないこの国勢調査。みなさんも調査員を経験してみては?
さぁーて、○○円で何を買おうかなぁ・・・。