トランスフォーマー ザ・ムービーの重箱のスミつっつき@

コンボイVSメガトロン・・・?


この映画、コンボイ一人に指揮をまかせておくとロクなことにはならないといういい見本みたいな話です。今回の話を見る限り、コンボイはあまり有能な司令官とは言えません。対照的にメガトロンの驚異的な有能さが際立っています。ほとんど天才的です。どのくらい差が激しいのか、ちょっと挙げてみたいと思います。最初に言っておきますが、コンボイファンの方怒らないで下さい。


まず、この映画でコンボイは大失敗をしています。それは何でしょうか。

OPの後、IHを地球に送り出す際のコンボイの台詞ですが、日本語では「連中に総攻撃をかけるにはまだまだエネルゴンキューブが不足なんだ」、そして「今我らに必要なのはエネルギーと幸運なんだ」、とこのエネルギー輸送には特に深い意味はないように感じられます。ところが原語では「make a special run」と、通常のスケジュールに従わない臨時の輸送を指示しているのです。そして「Now, all we need is a little energon and a lot of luck」、「我々に必要なものの全ては少しのエネルギーと多くの幸運である」。強調したい「幸運」と対比させているとしても、エネルギーはすでに相当量が備蓄されていることが伺えます。

ここですかさずコンドルが報告に戻り、メガトロンは「More than you imagine, Optimus Prime.」「そうは問屋が卸さんぞ、バカめ」と、その場でシャトル襲撃を決断しています。
そして後のS.S.の台詞から、サイバトロンの主力はムーンベースに集中していることがわかります。

これらの展開から察するに、この時点でサイバトロンの総攻撃は間近に迫っていたか、ほとんど秒読み段階だったのでしょう。もしかすると、これが最後のエネルギー輸送だったのかもしれません。

この映画に至るまでのいくらかの期間、サイバトロンとデストロンの間の戦いは小康状態が続いていたようです。サイバトロンのデストロン総攻撃の準備は相当長期間に渡って計画的に行われていたことが伺えます。サイバトロンシティ周辺の大掛かりな施設はおそらくエネルギー生産のためのプラントでしょうし、セイバートロンの月に仮設とは思えない基地まで造っています。

メガトロンは当然、早い段階から総攻撃の計画を知っていたか予測していたでしょう。確かにサイバトロンの総力を上げた攻撃はやっかいなものでしょう。しかしその実行の日までは、セイバートロン星のデストロン達にはサイバトロンの日常的な襲撃を常に警戒して神経をすり減らす必要が一切なく、自由に彼ら自身の活動に専念できたのです。メガトロンは初めから、サイバトロンが総攻撃を仕掛けてくる直前、デストロンにとっての猶予期間の最後に先手を打って攻撃するつもりだったのです。

おそらくそれまで地球で彼らの野望をことごとく挫いてきたという経験から、コンボイはメガトロンを―――サイバトロンはデストロンをなめすぎていたのです。

常に情報収集に余念がないメガトロンと対照的に、コンボイは諜報の価値をまるっきりわかっていません。これはそれぞれの情報将校の扱いに象徴されています。
コンボイ始めサイバトロンは、それまでの経験から、サイバトロン基地周辺で常にコンドルがスパイをしていることは十分承知していたはずです。初代の何話だったかでも、ある情報が「彼らの耳に入っていないとは思えない」と、メガトロンの情報網の確実さと速さを高く評価している様子を見せています。それを知っている以上、コンボイや他の首脳陣はスパイの存在を常に警戒し、その裏をかくよう、あるいはあえて混乱させるよう振る舞うべきです。ところが、コンボイは何の対策も警戒心もなしに作戦の最終段階に踏み込んでしまうのです。それが作戦全体で最も重要で最も注意すべき瞬間、クリティカルポイントであることに彼自身が気付きもせずに!
今までシャトルによるエネルギー輸送がデストロンに見過ごされていた分、今回もいつもと同じである、という大きな油断が彼らにはあったのです(シャトルで出かけたメンバー、彼らは常にコンボイの手元に置いておくべきメンバーです)。そして見事ににそこに付け入られてしまいました。
デストロンを泳がせているつもりが、実際は泳がされていることに気付いていなかったのです。そしてあろうことか、コンボイは本当にコンドルの存在に気付いていなかったのです。なんということでしょうか。鈍感にも程があります。

(付け足しておくと、私は最初映画を見た時、「またコンドルはこんな断片的な会話を拾ってきて・・・どうすんじゃい」と思ったのですが、メガトロンが最初からこの情報を待っていたのだとしたら話は全然違います。このコンボイとアイアンハイドの会話からサイバトロンの急襲作戦の準備段階がもう終りに近付いているということを判断し、すかさず報告に戻ったコンドルは非常に優秀なスパイです。バカにしてごめん許してコンドル・・・。)


そして次に、ここでもまたコンボイは実にまずい行動を取ってしまうのですが、BCの急を聞いてムーンベースから来た彼は、なぜかまともな戦力としてダイノボットしか連れて来ていません。これはムーンベースで連絡を受けた時点でコンボイがまだ事態の深刻さを理解していなかったという証拠です。(彼は地球に向かったシャトルがデストロンに襲われたということに恐らく気付いていないでしょう)
対するデストロンは超音速ジェット部隊の全てにトリプルチェンジャー、そして何とレーザーウェーブまでもが参戦しています。速く、戦闘能力の非常に高い精鋭が揃っているのです(BWやLWの実力はご存知の通りです)。これらの速攻能力と合わせて、ビルドロン部隊とインセクトロン(はちょっと不発気味でしたが)はサイバトロンシティの堅固な守りを破るために最適な人選です。そしてサイバトロンのシャトルを使った急襲と、計算づくの見事な作戦です。実際サイバトロンシティは致命的な防衛線をわずか1晩で突破されてしまいます。
これは即席の、単なる思い付きの計画とは思えません。第一、メガトロン達は情報が届いた時点で既にムーンベースを出発していたサイバトロンのシャトルに宇宙空間で追いついているのです(しかもサイバトロンの誰もその動きに気付いていません)。やはりメガトロンは周到な準備を整えた上で、時が来るのを待ち構えていたのです。


戦略段階での実力において、メガトロンはコンボイが個人的に太刀打ちできる相手ではありません。大体司令官が最初から幸運を期待するような作戦を立てているようでは話にならないどころではありません。プロとアマチュア以上の差が彼ら2人の間にはあるのです。(彼らがプロかどうかという話はまた別に機会を持ちたいと思います)

(・・・これまでのTVシリーズでデストロンがしてきた苦労は一体何だったのでしょうか。何か悲しくなってきました。)


このような作戦段階での超劣勢にも関わらず、最後にはサイバトロンが勝利を収めたのはなぜでしょうか。それはひとえにユニクロンのお陰です。もしあのままメガトロンが存命であれば、サイバトロンには万に一つも勝ち目はなかったでしょう。最も、サイバトロンには副官以下優秀な人材が揃っていますから、コンボイ亡き後は皆で力を合わせて上手く立ち回ったかもしれません。しかしプロールにIH、ラチェット等、サイバトロンの中枢を成す最古参メンバーが欠けているのは深刻です。

ともかく、サイバトロンの強さはカリスマ指導者の周りを優秀な部下が固めてこそですから、コンボイに単独で何かするのを許した時点でもう失敗は目に見えていたわけです。デストロンを本気でぶちのめそうと思ったら、サイバトロンは戦いを決してリーダー同士の、コンボイVSメガトロンの個人対決に持ち込んではなりません。サイバトロンVSデストロンの構図を維持しなければならないのです。



終り