以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

 
 

 

翌日、作戦の要旨説明のために司令室に呼ばれたスタースクリームは、初めから喧嘩腰だった。

「そんなの、私に任せてくださったら半日で片付けてご覧に入れますけどね」彼は傲慢に嘲笑った。

メガトロンは彼の挑戦的な態度を一蹴した。「これはレーザーウェーブに任せる仕事だ。勝手な真似は許さん」

「わっかりましたよ。それじゃどうぞご勝手に、失敗でも何でもすりゃいいじゃねえですか」スタースクリームは腕を組んで人を見下すように顎を上げた。「大体今回のことは計画自体がマズいと思いますけどねえ。いつまでも同じやり方に拘ってるようじゃお先真っ暗でしょうが」

「黙れ、この愚か者が!」メガトロンは苛立たしげに鋭く言った。「今儂らに必要なのは確実な成果で、一か八かの大博打ではないのだぞ。万が一にもしくじることは許されん。レーザーウェーブはお前よりもずっと経験を積んでおる。」

スタースクリームはなおも食い下がった。「成功は大きいに越したこたないでしょうが! 下っ端も役立たずなら、リーダーも臆病者ときてるってわけですか」

メガトロンは黒色のカノンが据えられた右腕で無造作にスタースクリームを薙ぎ払った。

鈍い金属音と共に後方に転んだスタースクリームは、大したダメージを受けた様子もなく、直ぐに立ち上がってメガトロンを睨んだ。「けっ、このカチンコチンの石頭め。もうてめーの言うことなんぞ金輪際聞くもんかよ」

「なんだとっ」

言い捨ててドアの方向にダッシュしたスタースクリームは、そのまま司令室から出て行くと思いきや、急に方向を変えて戻ってきた。彼は背後からメガトロンの背中に跳び蹴りをかまし、そのまま勢いでトランスフォームすると開放されたテラスから屋外に飛び出した。

「スタースクリーム! 待たんか、この馬鹿者が!」よろけたメガトロンが姿勢を立て直した時には、鋭角のカーブを持った三角錐のシルエットが藍色の空の向こうに消えて行くところだった。

目の前から消えてしまった相手に向かってそれ以上怒る気にもなれず、メガトロンは固めた拳を解いて腕を下ろし、他の残った者達に向き直った。






その数日後、司令部の廊下を地下の軍事施設に向かうメガトロンの肩を、突然レーザーの灼熱光が掠めた。思考外の機能により一瞬で臨戦態勢に移った彼は、振り向きざまに、銃を手にしたスタースクリームの姿を見た。銃口は今度こそ寸分の狂いなくメガトロンの頭部を狙っていた。

迷う間もなく、メガトロンは右腕の融合カノンでスタースクリームを撃った。衝撃を受けて撥ね飛ばされたスタースクリームは、壁に激突した後で床に倒れた。とっさの出来事に、砲撃がヒットした部位はお世辞にも適当とは言えなかったが、それでも彼はカノンの出力を抑えることに成功した。もしこの至近距離でいつもの出力があったら、彼はスタースクリームを殺さないまでも、重要な内部機関に深刻なダメージを与えるところだった。資源もエネルギーも十分とは言えない彼らにとって、余計な修理は最も避けたい作業のひとつだった。

メガトロンには自分の命を狙った部下を今この場で破壊するつもりはなかった。彼は完全に意識を失ったスタースクリームをメンテナンスルームに運んだ。

日常的な戦いに慣れた彼は、たった今自分の身に降りかかった生命の危険にほとんど気を取られていなかった。その代わりに、この時になって彼はようやく、事態は彼が思っていたよりも遥かに深刻かもしれないということに気付いていた。それもあまり彼の得意な分野の話ではなさそうだった。






メガトロンは司令室にスカイワープを呼び、説明を求めた。スカイワープは決して楽しそうとは言えないメガトロンの雰囲気に僅かに怯んだ様子を見せたが、さっさと仕事を済ませて帰してもらおうと腹をくくった。

「スカイワープ。スタースクリームについてお前が知っていることを、最初から洗いざらい教えてくれ。お前は宇宙探査のために設計されたと言っていたが、奴もそうなのか?」

「ええ、そうです。それが、性能テストの結果があんまり優秀だったんで、奴は最初、宇宙開発センターへの配属予定を変更して、シティの管理センターでの仕事に就かされたんです」

「管理センター?」

「フェアスター・シティの、事実上の最高機関です、長老と繋がってる・・・詳しい経緯は知りませんが、なんでもそこのお偉いさんが奴を大層気に入って、引き抜いたらしいです」

「なるほど。それで?」

立ったまま腕を組んだメガトロンの渋面は依然として変わらなかったが、スカイワープは彼のリーダーが自分に対して怒っているのではなく、やっかい事に突き当たって真剣に考えに沈んでいるために外面を取り繕うことを忘れているのだと気付いた。メガトロンは自分の持つ情報を必要としているだけで、別に自分を叱責しようとしているのではないようだった。しかも、どうやら自分には関係がなさそうな話だ。そう思っていくらか落ち着いたスカイワープは、メモリを残らず検索して記憶を正確に思い出し、なるべく順序立てて話をしようと努めた。

「何年かして、奴はいきなり配置換えされて、宇宙開発センターに移ってきました。その時にはもう変わっちまってました。開発センターじゃ相当問題を起こしたみたいですが、それでも奴は科学者としても間違いなく優秀でしたから、何度もクビにされかかった奴を擁護する動きもあったんです。でもやっぱりシティには居辛かったみたいで、奴はずっと宇宙探査のチームに入って、あちこち行ったり来たりしてました。ところが結局、2、3年前に、ついに開発センターから放り出されたらしくて、奴は姿を消しました。まるっきり行方がわからなくなったんです。先月俺が偶然見かけるまで、誰も奴を見た者はいませんでした。奴を知ってた仲間の間では、奴は死んじまったんじゃないかって噂になったんです」スカイワープは言葉を切った。「俺が知ってるのはそれで全部です」

「よくわかった。もう行っていいぞ、スカイワープ」

半分上の空でメガトロンが片手を上げると、ほっとした様子でスカイワープは部屋を出て行った。彼は廊下で待っていた他のジェットと何やら話しながら歩き去っていった。

メガトロンもまた司令室を後にし、同じフロアにあるメンテナンスルームに足を向けた。

メンテナンスルームは今は無人で、照明は落とされ、しんと静まり返っていた。細部の溶接や他の作業に用いる、いくつもの関節を持ったアームやモニター装置などの、様々な精密器具が視界を妨げている広いリペアブースを抜け、メガトロンは奥にある集中治療室の一つに続く扉へ向かった。

新しくパスワードを設定したロックを解除して部屋に入ると、そこには医療用ベッドに横たわったスタースクリームと、その脇に立つ、印象的なネイビー・ブルーの装甲を持った技術者の姿があった。

メガトロンはサウンドウェーブに、スタースクリームの表層思考と、より深い場所にある彼の記憶、さらに最も根源的でありながら最も実体のない部分である精神を探らせていた。

彼の作業はまだ続いていた。ブレイン・スキャンには異例の長い時間だった。サウンドウェーブは微動だにせずにセンサーを働かせていた。メガトロンは神経を使う作業の妨げにならないように、無言のままベッドの反対側に立った。

サウンドウェーブがついに作業を終えると、メガトロンは待ちかねたように聞いた。「それで、一体どちらが奴の本心なのだ」

「どちらも本心。彼の中では、矛盾した性質が分離したまま存在している」サウンドウェーブはメガトロンを僅かに見上げて言った。いつもと変わらない落ち着いた和音は、彼が見出した結果への自信を示しているように思えた。もっとも、サウンドウェーブが言葉にして表す事柄をメガトロンは常に信用していた。

「スタースクリームは二重人格なのか?」メガトロンが視線をスタースクリームに落とすと、サウンドウェーブも同じように彼を見た。

スタースクリームの頭脳中枢は特別なプログラムによって活動が低レベルに抑えられ、強制的なシステム休止状態が保たれていた。優秀な技術者の手によるリペアを受けた彼の体はすっかり元通りになっており、今や負傷の痕跡はどこにもなかった。

サウンドウェーブはゆっくりと左右に首を振った。「もっと悪い。彼の自我は確立されていない。衝動と理性、自立と依存、攻撃と受容。相反する性質のいずれかがランダムな組み合わせで現れる」

「単純に、狼と羊のどちらかに分けることはできないということか」

サウンドウェーブは頷いた。

二重だろうと三重だろうと、一定の人格が形成されているのなら、まだそれぞれに対処のしようがあるというものだった。しかしスタースクリームの中では、一つとしてまともな形を持った人格が存在せず、時によってまったくバラバラの性格を持った人格のようなものが表れているのだった。

ある存在の人格形成において、すべての性質は必要なものだった。一見悪に見えるものでも、それが一線を超えて極端に走った時にこそ、問題が生じた。問題の焦点はその物の性質ではなくその度合いにあった。強すぎず、弱すぎず、バランスがとれていなければならない。プラスとマイナスが折り合いをつける任意の点がその人物の持つその性質となり、それはそれぞれの人格を形成する個性となる。

完成された自我を持って生まれるトランスフォーマーにとって、それは普通、創造手であるベクターシグマの裁量によって与えられる定めだった。ところがスタースクリームの中ではその折り合いが上手くつかず、ある性質において、プラスとマイナスの極端に走った両方の性質を同時に備えており、それが時によって入れ替わり表に現れているのだった。例えば、自分に絶対の自信を持つ性質と、極端に自分を卑下する性質の二つが、彼の中ではまったく別々に存在しているのだった。彼の中には「程々」という言葉がなかった。このような異常は本来ならば存在しないはずだった。

「分裂の原因は何だ」

「おそらくは誕生直後の体験による」

「最初の環境が悪かったという訳だな」メガトロンは唸った。「それも人格を破壊するほどの悪さだ」彼は次第に不愉快を感じてきた。彼が従う正義から大きく外れた場所で、軽蔑すべき何者かによって、許しがたい何かが行われていたかもしれないという懸念がだんだん強くなっていた。

サウンドウェーブは頷いた。「彼の精神の中心にあるのは権力に対する憎悪と恐怖、そして孤立。優位の存在への強い依頼心と不信。性的な接触への嫌悪と安堵。最初に彼を導く立場にあった者が彼を裏切り、彼は酷く傷つけられた」

現実的な状況の見えない抽象的な言葉の羅列を、メガトロンはじれったく思った。彼は感覚的に物事を扱うのに慣れていなかった。「それは一体どういう意味だ」

サウンドウェーブが感情の篭らないモノトーンで答えた。「望まない状況で、彼は地位ある者の慰み者にされた」

メガトロンは呪いの言葉を吐いた。「そしてその恥知らずが持つ権力を恐れて、周りはそれを知りながら見て見ぬ振りをしたというのか。それでこのスタースクリームの心が壊れたと?」

「おそらく」サウンドウェーブは肯定して頷いた。彼の音声回路が発する、美しく響く単調な音色は、この場に全くそぐわないようにも、通常の感覚を超えた神秘的な能力を備えた彼にはかえって似つかわしいようにも思えた。「それともう一つ。彼の人格プログラムには改変の痕跡がある」

「何だと?」メガトロンは露骨に顔をしかめ、顔を上げてサウンドウェーブを見た。

「ある事実に関するデータの全てが消去・変更されている。この再プログラムの際のミスで生じたエラーが障害を悪化させている可能性が高い」

「なるほど。己の悪趣味が表沙汰になっては困る輩が、口封じをしたという訳か」スカイワープの話を統合した彼の中では問題の全体像が結ばれつつあった。

このフェアスター・シティの有力者は、権力を笠に、何も知らない若者を汚らわしい不徳の餌食としたのだった。そしてそれに飽きたか、哀れな生贄から思わぬ反撃を受けたかした時には、掌を返すように崇高で潔癖な指導者へと豹変し、一方ではスキャンダルの暴露を恐れ、面倒の元は残らず証拠隠滅を図る。彼らにとって不都合なことに、スタースクリームはジェットや研究者の仲間内では既に有名人だった。平和で安全なこの社会で、一人の若者の存在自体を消し去ってしまうことはかえって疑いを招き、危険だった。代わりに彼らはもっと狡猾な手段に出た。不幸な被害者を捕らえて彼の頭を開き、彼の心の一部を不器用に破壊し、彼らに関する記憶を残らず消し去ろうとしたのだった。

そして、権力の城の中で行われたその恐ろしい事実を知りながら、沈黙し続ける者達がいる。そのように理不尽な強い影響力を持った存在はこの都市の中では限られていた。一つの事実を確信したメガトロンは心底嫌そうに顔を歪め、吐き捨てた。「薄汚い長老共め」

表向きは老成した賢者を装い、静かに人々の行く末を見守る振りをしながら、陰では自らの欲と利益の追求に奔走し、悪事の隠蔽のためには、自らを慕い敬う人々に対して、人を人とも思わぬ卑劣な手段を弄する。メガトロンは一方で善を装い、その一方で悪の限りを尽くす彼らの二面性に許し難い怒りと軽蔑の念を覚えた。一体何のための支配者か? 何のための権力か? それらはすべて、彼らに権力を認めた、彼らの追従者のためのものに他ならなかった。

支配者が私欲に走るなど愚劣の極みだとメガトロンは考えていた。彼は自らが、敵に対して好んで策略を用い、時には道徳的に許されない手段に出ることを自覚していた。しかし、守り、導くべき追従者たちを我欲のために裏切り、利用することはしなかった。否、それだけは決してしまいと固く誓っていた。権力者への最大の報酬は、己の采配によって繁栄し、幸福を得る人々の姿を我が目にすることで、下等な欲望を満たしたり、私腹を肥やすことではなかった。

この時、メガトロンの同情の対象は、今まで恵まれない環境で獣のように生きてきたデストロンだけではなくなった。芯の腐った長老たちの支配に気付かぬまま、安穏とした飼い殺しの日々を過ごしてきた市民、すなわちオートボットを含む、セイバートロン星に生きる全ての者が、平等と平和の下にあるべきだった。メガトロンは必ずやこの腐敗した支配体制を残らず崩壊させ、新たな秩序の元に人々を統治すべしという強固な意思を新たにした。

「サウンドウェーブ。エラーの部分だけを書き直すことはできるか?」

「不可能。不安定な人格プログラムの全体が崩壊する可能性大。」

メガトロンはまた唸り声を上げた。もし人格プログラムが破壊されれば、知性と感情を失ったスタースクリームはただのロボットになってしまう。そして、彼の精神に根付いたセンスともいうべき優れた才能もまた失われてしまうのだった。メガトロンはこの年若いトランスフォーマーの自我がどのように変化しようとも、極端な話が全くの別人になってしまったとしても気にしなかったが、彼の類稀な才能を失うことはどうしても避けたかった。そうでなければ、わざわざジェット機の指揮官を探した意味がなくなってしまう。

「人格の統合は可能。だが非常に長い時間が必要」サウンドウェーブが付け足した。

メガトロンは依然として意識のないスタースクリームの姿を見下ろした。彼は迷っていた。どの道彼を航空指揮官として用いることができないのなら、デストロン主義の安定のために、この若者は今すぐこの場で切り捨てるのが正解だった。彼はこの先様々なトラブルの元になるに違いなかった。彼を一般の兵士とし、別の指揮官を立てたとしても、その指揮官が彼を上手く操縦できるとは思えなかった。彼らが行動を起こすべき時は既に近く迫っており、今回のタイミングを逃せば、今度はいつクーデター成功の確実な見込みをつけることができるかわからなかった。その期限までに、彼を実力で黙らせるような、彼の才能を大きく上回る能力を持ったジェットを確保できる可能性は限りなく低く思えた。そして、メガトロンや彼の腹心が、スタースクリームが一人でまっすぐ歩けるようになるまで時間をかけて見守ることはできなかった。今の彼らにはその余裕がなかった。彼らは既存の社会を根底からひっくり返そうと武器を取って立ち上がった革命家であって、慈善団体ではなかった。

長い沈黙の後、メガトロンがとうとう呟いた。「・・・哀れな・・・」

我々は大きな荷物を抱え込むことになる。サウンドウェーブはそれを来るべき事実として冷静に考えた。

決意を固めたメガトロンがサウンドウェーブに向き直り、言い放った。「当初の予定通り、スタースクリームを軍団に迎える。彼は常に儂の手元に置いておこう」サウンドウェーブは頷いた。

「そしてサウンドウェーブ、お前に頼みがある」

「何なりと」サウンドウェーブはメガトロンの言うことに予想がついていたが、彼の言葉を促した。

「スタースクリームの精神状態を常に監視して欲しい。儂の目が届かないところで何かが起こった時には、お前にフォローを頼みたい」

「了解」

それは命令ではなく頼みだったが、躊躇いなく承知したサウンドウェーブにメガトロンは言った。「すまん。だが頼めるのはお前しかおらんのだ」

それ以上の言葉をサウンドウェーブは穏やかに制止した。「謝罪の必要はない。メガトロン、俺はあなたを助けるためにここにいる」

サウンドウェーブのバイザー・アイが発するスカーレットの光が、薄明るいメディカルルームの空気に滲んだ。メガトロンを見るその輝きはいつも変わらなかった。メガトロンはしばらくの間無言で彼を見詰め、それから頷いた。「感謝する、サウンドウェーブ」

その晩の話は、それからずっと誰にも知らされることなく、二人の心に仕舞い込まれることになった。






その後、メガトロン率いる第4軍は計画通りにクーデターを起こし、僅か2日の間にデストロンのリーダーと他の3人の司令官を含む旧勢力の有力者達を次々と葬り去り、デストロンの全権を手中に収めた。彼の航空戦力は計算通りの圧倒的な力を見せつけ、デストロン主義が迎えた新しい時代の象徴となった。そして休む間もなくフェアスター・シティに宣戦布告したメガトロンは瞬く間に都市の全域を制圧し、目ぼしいオートボットの指導者を残らず無力化していった。

これら一連の事件によって、平和な惑星の底辺から生まれたデストロンは、小さな地下組織から成長して一つの都市を制圧する重大な勢力へと変貌を遂げた。デストロンのリーダーの座についたメガトロンは惑星の統一支配を宣言し、他の都市への侵攻を開始した。

クーデターの後、改めてデストロン軍に迎えられたスタースクリームは、戦場で見せる優秀な働きを評価され、半年もしない内に正式な航空部隊の指揮官に任命された。

作戦に出ていない時には、彼の姿はほとんどいつでもデストロン本部で見られた。そして衝動的にメガトロンに反抗したり、手のひらを返したように彼を頼ったりしながら、なんとか軍団に馴染んでいった。メンバーの多くは彼を遠巻きにしていたが、誰も彼を本気で恐れたり憎んだりはしなかった。特に彼の烈しい攻撃性にひるまず、別の面を目にする機会を持った年長者たちは、ことあるごとに彼に構うようになった。彼の、子供のようなわかりやすさとアンバランスさは、「可愛げがある」とさえみなされた―――彼ら自身に直接被害が及ばない限りは。

それから何万年かが過ぎた後でも、スタースクリームは依然としてデストロンの抱える不安要素のひとつだったが、彼はいかなる場合にも主義に対する致命的な障害にはなりえないというのが上級仕官共通の見解だった。彼は本気でメガトロンの失脚を企み、時にポイントを押さえた強烈な一撃を叩き出し、軍団に笑い事では済まない規模の被害を与えることがあったが、一方で、何度機会があろうとも、決してメガトロンの生命を奪おうとはしなかった。もっとも、彼の精神状態が取り返しのつかない段階へ踏み込む前にサウンドウェーブが陰で手を回すこともしばしばだった。実力で勝るメガトロンはスタースクリームの反逆をことごとく押さえつけたが、その度に、重罪人であるはずの彼を拍子抜けするほどあっさりと許し、何かと理由をつけては彼を手放そうとしなかった。数百万年の間、デストロン刑務所のキャビネットに収められたパーソナルコンポーネントの数は増加する一方だったが、そこにスタースクリームのものが押し込められることはついになかった。

結局のところ、スタースクリームをデストロンに引き入れたメガトロンの判断は正しかったように思えた。たまに起こる騒動の分を差し引いても、スタースクリームの存在には他の物には替えがたい貴重な価値があった。メガトロンはショックがなくても破裂する癇癪玉のような部下に手を焼きながらも、大体上手く彼を使っていた。スタースクリームのムラのある性質に影響されずに彼を上手く操る能力に最も長けているのはおそらくサウンドウェーブだったが、彼は表立ってスタースクリームに命令する立場ではなく、また彼はそうすることを好まなかった。メガトロンはスタースクリームの発するサインを読み誤り、少々まずい対応を取って余分に状況を悪化させることも多かった。また彼自身の激しい気性のために、迂闊にも正面から激突してスタースクリームをほとんど叩き伏せてしまうことも少なくなかったが、本質的には彼を理解し、受け入れようという強い意志のために、大きく方向を誤ることはなかった。多くの者が面倒に巻き込まれることを嫌って距離を置こうとするスタースクリームに最も好意的に接し、寛大に扱うのも間違いなくメガトロンだった。



***



海底基地への帰還の許可を求める信号が届いた。サウンドウェーブは上空の静止衛星から送られてくる映像を確認した。基地から海水と大気を隔てた遥か上方を旋回するその影はスタースクリームだった。

サウンドウェーブは簡単なパネルの操作で出撃タワーを上げた。

彼らのリーダーとそのNo.2が衝突し、飛び出して行ったスタースクリームをほとぼりが冷めた頃に基地に入れてやるのはサウンドウェーブの仕事だった。他の者はメガトロンの怒りを恐れて決してそれをしなかった。もっとも、スタースクリームが帰還の頃合いを見誤ることはなかった。メガトロンの怒りは激しい代わりに持続せず、せいぜい2日間が限度だった。スタースクリームは通常2、3日、時には数日に渡って姿をくらましていたから、新たな作戦を実行に移そうとしてスタースクリームを探すメガトロンが、今度は逆に彼の不在を怒り出すことさえあった。どこからともなく戻ったスタースクリームがいつもの調子で皮肉を言い、それをメガトロンが作戦への熱中のために適当にあしらうと、後はもう全く普段通りの日常が戻ってくるのだった。

数分もしない内に、司令室のドアがスライドしてスタースクリームが現れた。彼は入り口に立ったまま広い部屋を見回した後で、サウンドウェーブ以外の姿がないとわかると、彼に向かって聞いた。

「サウンドウェーブ、メガトロンはいないのかよ」

「彼はラボにいる」サウンドウェーブはモニターに向かったまま答えた。

「ふうん」スタースクリームは慎重に言った。「ありがとよ。じゃあな」彼は踵を返して司令室から出て行った。

サウンドウェーブは手を止めて椅子ごと振り向き、今しがたスタースクリームが出て行ったばかりの入り口を見た。数秒の間、彼は閉じたドアを眺めていたが、やがてまたくるりと向きを変え、彼の仕事の続きに戻った。

何百万年という長い時間を経て、スタースクリームの人格形成プロセスは大きな進歩を遂げたとサウンドウェーブは評価を下していた。平均的な水準からすれば彼は依然として大変な問題の塊だったが、それでも彼は周りの者が、彼をスタースクリームとして対処できる一定の人格を持つに至った。スタースクリームは少しずつ、ここ数十年の間は殊に、メガトロンに対して打ち解けた様子を見せるようになったとサウンドウェーブは感じていた。

もし彼が無闇にメガトロンの足を引っ張ることがなくなり、彼ら二人が今よりももっとずっと上手くやっていけるのなら、彼らの常軌を逸した才能と実力のコンビネーションの前には、いかなる敵も立ちふさがることはできないだろうとサウンドウェーブは静かに思った。

いつかその日はやって来るだろうか? その問いに答える者は誰もいなかった。
 















過去のセイバートロン星の描写は例によって大嘘です。
アニメの中でも矛盾した設定があったりするので、まあ別にいいですね。
それにしても、アニメを細かく見れば見るほど、いかに私が
嘘ばっかり書いてるかということがわかってくるかと思われます(爆)。

「都市」はシムシティのアルコロジーみたいなもんを想像すると吉。

「オートボット」はサイバトロンとデストロンを両方含めた、つーか
これは「自称サイバトロン」が現れる以前の話なので、
「セイバートロン星のロボット生命体」みたいな意味です。
私もよくわかんないです(爆)。

ちゃんとわかりやすい昔話書きたいなーという訳で過去の捏造は
また別バージョンで挑戦したいデース。しかし「過去」と一口に言っても、
実際はグレート・ウォーが始まってからだけでも何百万年もあるので、
その中のどの時期によるかで全然世界が違うんじゃないかと思います。





Copyright © 2002 女転信者. All Rights Reserved