Go-betweens



 

メガトロン達は、戦略的に重要な価値を持つと判断した、ある都市のエネルギー施設に侵入していた。

ガードロボットとの間で始まった戦闘をメガトロン達にまかせ、施設の心臓部に近いコントロール・ルームに先行してシステムに細工をしていたサウンドウェーブは、地震の予兆に似た振動波を感じて身構えた。次の瞬間、コントロール・ルームのドアの向こうで、鋼鉄板が引き裂かれる嫌な軋みと数々の鈍い激突音を轟かせ、大量の何かが廊下に崩れ落ちた。その衝撃が床を伝わり、彼の足元を揺らした。

振動が収まり危険が去ると、サウンドウェーブはその場で数種のセンサーを働かせ、壁の向こうで起こった事態を分析した。崩落した天井と、施設を取り巻く岩盤が通路を塞いでいる。

彼らは敵地の真っ只中で分断されてしまった。運が悪いことに、中心部側に取り残されたのはサウンドウェーブ一人だった。

サウンドウェーブは電波の出力を僅かに上げ、一時的に途切れた通信を確保した。呼びかけると、直ぐに僅かに緊張したメガトロンの声が応答した。「報告しろ、サウンドウェーブ」

「施設崩壊による損傷なし。システム正常」サウンドウェーブは平坦な声で簡潔に自らの無事を知らせた。そして同じ調子で続けた。「コントロール・ルーム、エネルギー供給異常なし。メインコンピュータ、アクセス可能。」

「いいぞ」メガトロンは安堵の滲んだ声で言った。「こちらも被害はない。サウンドウェーブ、そのまま作業を続けろ」

「了解」サウンドウェーブはシステムへの侵入を再開した。

そのやり取りの間に音響センサーで塞がれた通路を調べていたレーザーウェーブが、メガトロンに調査の結果を伝えた。「岩盤崩落範囲は0.32メガマイル。この区画の通路全域に当たる距離です」

「何?」メガトロンは顔をしかめると、即座に判断を下した。「サウンドウェーブ、この瓦礫を掘り進むのは不可能だ。我々は別の迂回路を探してそちらに向かう。メガトロン・アウト・・・」彼が交信を終了しようとした時、別の声が割り込んだ。

「ちょっと待った! ボス、俺達はここを抜けて行きます」フレンジーの声だ。彼はメガトロンとサウンドウェーブの両者に尋ねるように騒がしく言った。「その方が早い! いいでしょ?」

首根っこを押さえていなければ今にも走り出しそうな興奮した調子は、この小さなカセットにとってはいつものことで、彼が今の状況に特別に慌てている訳ではないことをサウンドウェーブは知っていた。ああ見えて彼は案外冷静な判断ができるのだ。

サウンドウェーブは施設内の雰囲気を通して、彼の双子の片割れであるランブルも彼の意見に同意しているのがわかった。彼はメガトロンが口を開くのを待った。

「いいだろう」メガトロンが早口に答えた。「だが引き返すなら早くしろよ。お前たちが戻ってくるのを待つ時間の余裕はない」

「わかってますって!」

「大丈夫、瓦礫の隙間は向こうまで続いてます」双子は口々に答えるが早いか、暗い瓦礫の間の空間に潜り込み始めた。

「そういうことだ。状況が変化したら知らせろ。メガトロン・アウト」

通信が切られ、メガトロン達が直ちに移動を始めた気配があった。

作業を終え、することのなくなったサウンドウェーブは、一度腰を上げたコントロールブースの椅子の肘掛けに寄りかかった。迎えを待つ間に、彼は以前遭遇した、これと同じような状況を思い出していた。

しかし、あの時と今の状況との決定的な違いは、あの時はこれとは比較にならない程に直接的な危機に瀕していたということだった。敵に囲まれ、弾薬は尽き、疲弊した彼はただ一人だった。

サウンドウェーブは胸部の格納庫に意識をやった。そこにはジャガーとコンドル、バズソーが静かに彼らの出番を待っていた。

サウンドウェーブの下す指令を忠実に実行する彼らは、同時にどんな危険に対しても立ち向かって戦い、彼を守る護衛でもあった。それぞれ独立したパーソナリティを持った彼らはサウンドウェーブの操り人形ではなく、彼の守護を至上命令と定められているわけでもなかったが、戦いに際して彼らは何よりもサウンドウェーブの身の回りの危険を排除することを優先した。時には彼の命令を無視して戻り、危険が去るまで彼の傍らを離れようとしないことさえあった。そういう事態が重なって、彼らが諜報任務と並んで護衛任務を得意分野とすることを認めざるを得なくなったサウンドウェーブは、彼らへの司令に『メガトロンを守れ』と付け加えるようになっていた。それにも関わらず、いざとなると彼らがサウンドウェーブを優先してしまうことが、最近の彼の悩みだった。

ともかく、彼らは今、無傷で自分と共にある。サウンドウェーブには何も心配することがなかった。

だが、あの時はそうではなかった。彼は再び思い返した。カセット達もそしてあのフレンジーとランブルも、そこにはいなかった。



***



事の発端はメガトロンの一言だった。

「サウンドウェーブにオートウエポンをつけよう」突然、彼は同じ一室にいた他の二人に向かって宣言した。

「オートウエポン? 何故です?」

レーザーウェーブが思わず聞き返した。彼は目の前のリペア台に腰掛けた当のサウンドウェーブから視線を外し、交換する彼のパーツを手に持ったままメガトロンを振り返った。

「決まっている。サウンドウェーブの護衛だ」メガトロンは憮然として答えた。

メガトロンの発言は唐突だったが、サウンドウェーブにはそれが理解できないわけではなかった。むしろ、今彼がそれを口にしたことはもっとものように思えた。

十数時間前、一人で偵察に出たサウンドウェーブは、情報収集を終えてアジトへ帰る途中で突然政府のパトロールと鉢合わせした。遭遇した相手は破壊したが、彼はその戦闘でロケット弾の爆発に巻き込まれ、軽傷を負って帰還した。そして彼は現在、こうしてレーザーウェーブに、彼の技術向上を兼ねて、故障個所の部品を取り替えてもらっているところだった。

「普段はスカウトロボがサウンドウェーブの武器となり盾となり、強力に守っているが、彼らを偵察に出せばサウンドウェーブはほとんど無防備ではないか」

メガトロンやレーザーウェーブと比較すれば、大抵のロボットなどアルミ箔で作った人形のようなもので、実際彼らの前ではあまりに脆弱だった。何せ彼らはこの惑星に存在するロボットの中で最も強力で、そして最も頑強に、そのように意図して設計された、文字通りの歩く破壊兵器なのだ。

そのあなたと俺では比較にならない。サウンドウェーブは思ったが、メガトロンの主張自体は誤りではなかったので黙っていた。しかしやはり腑に落ちなかった。

確かに、自分は彼らと比べれば戦闘能力は劣っているが、仮にも戦場で単独行動できるように作られた戦闘ロボットで、一通りの武装は持っている。量産型のロボットに遅れをとるような真似はしないし、メガトロンもそれを既に知っている筈だった。彼がこだわる合理的な理由がわからず、サウンドウェーブは困惑した。理屈でないのなら結論は一つしかなかった。

「お前を自動追尾して移動し、戦いになればお前を狙う相手を優先して攻撃するようにプログラムするのだ。システムは完全に独立させればお前の負担にはならないだろう。その分自律機構は不完全だが、今の状態よりは―――」

「メガトロン」サウンドウェーブは彼の言葉を静かに遮った。「ロボットは諜報任務の足手まといになる。」

「お前の身の安全のためだぞ!」メガトロンは苛立たしげに声を荒げたが、その直後にはっとして口をつぐんだ。

サウンドウェーブが無反応で見守る内に、彼は自分で気を取り直して二、三度頭を振った。「怒鳴って済まなかった。だが、サウンドウェーブ、お前はいつも俺の近くにいるわけではないだろう」彼は声を落として引き下がった。

サウンドウェーブは、メガトロンが戦闘の度に、自分の傍を離れるなとしつこく念を押すのを覚えていた。実際、彼と行動することで、サウンドウェーブとスカウトロボだけではとても切り抜けられないような激しい戦闘に遭っても、サウンドウェーブは怪我一つ負わないことさえ珍しくなかった(もっとも、彼一人だったなら、そのような修羅場には決して足を踏み入れることをしないだろうということもまた事実だった)。その代わり、彼を守りながら戦うメガトロンの怪我が余分に増えることがサウンドウェーブには不満だったが、メガトロンは「お前の頭が吹き飛ぶより、俺の装甲に引っ掻き傷がつく方がましだろう」と笑って取り合わなかった。

傍から見ても、メガトロンは明らかにサウンドウェーブに対して強い執着心を抱いていた。それは彼の持つ情報エージェントとしての優れた能力に対してだけではなく、厳しい状況を共に生きる仲間としての彼の存在に対しても向けられていた。メガトロンは彼を個人的に尊重し、思いやると同時に、精神的に深く関わり合いたいという気持ちが強かった。

しかしサウンドウェーブにはそれが重荷になっていた。彼にとって、それが好意だろうと何だろうと、他人の強い感情を真正面から受けることは絶え難い負担だった。しかしそうかと言ってメガトロンが自分に向けてくれる気持ちを無下にすることはできなかった。彼もまたメガトロンを失い難い存在として認識していることに違いはなかった。

サウンドウェーブはようやく口を開いた。「あなたが俺を心配していることは知っている。しかし俺には単独行動が性に合っている。」

サウンドウェーブの抑揚のない声は、彼の表情を覆い隠すバイザー・アイとマスクと同じように、彼の感情を巧妙に隠して相手に知らせようとしなかった。メガトロンは、彼が内心で何を思っているのか見当がつかず、内心で歯痒い思いをすることがしばしばであるようだった。そして彼が近頃は努めてそれを気にしないようにしているということに、サウンドウェーブは気付いていた。

サウンドウェーブは、自分が必要のないことはほとんど喋らない極端な無口だということを自覚していた。しかし、彼自身が必要だと思った時には、わかりやすい言葉ではっきりとメガトロンにそれを伝えるよう心がけていた。メガトロンもそれに気付き、サウンドウェーブの言葉に重い意味を見出して、彼の心の内がどうであるにせよ、深く詮索することはせず、外に出された言葉だけを全面的に信じることに決めたようだった。

こういうことが繰り返される内に、段々とメガトロンはサウンドウェーブに対して激しい執着心を顕にしないようになっていった。






それからしばらく経った時、彼らは行き当たった先で、偶然に伝説的なコンピュータを見つけた。

「ベクターシグマだと?」メガトロンが驚きの声を上げた。「ロボットに生命を与える我らが神の名だ。惑星の奥深くとは聞いていたが、こんな場所にあったとは・・・」

メガトロンは部屋の中央に据えられた大きなコンピュータを回り込み、その基部の操作盤に近付いて興味深げに検分した。「だが何の反応もないぞ。生きているのか? サウンドウェーブ、調べてくれ」

「了解」サウンドウェーブはすぐに調査にかかった。

「エネルギー供給正常。システム異常なし。アクセス制限なし。ベクターシグマ起動可能」

「そうか。いや、これは素晴らしい。ひとつ試してみるとしよう。何か・・・サウンドウェーブ、お前のスカウトロボはどうだ?」

サウンドウェーブは格納庫から3体のロボットを出した。それらの内一体は黒色の四足歩行ロボットに、残りの二体はコンパクトな飛行偵察ロボットに変形した。

それをサウンドウェーブの同意とみなし、メガトロンは続けた。「よし、では始めるとしよう。」彼はコンピュータを作動させた。

静かな唸りが部屋を満たし、スーパーコンピュ−タは言葉を発した。「我はベクターシグマなり。あらゆる物に先立って我は存在した。我が眠りを覚ます者は誰だ」

サウンドウェーブがメガトロンに視線を向けると、メガトロンは言った。「お前のロボットだ。お前が好きなようにしろ」

サウンドウェーブは頷き、ベクターシグマに向き直った。「俺はサウンドウェーブ。あなたが俺に生命を与えた」

数瞬の間があった。「―――認識した。して、我が眠りを覚ました目的は」

サウンドウェーブは三体のスカウトロボをその場に残して二、三歩後ろに下がった。「現在の彼らは俺の一部。彼らに独立した生命を与えて欲しい」

「良かろう。―――プログラミング開始」

機械の唸りが大きくなり、データの転送を行うレーザーの光が、数瞬の間強く輝いた。

「パーソナリティプログラム転送成功。ベクターシグマプログラム終了。」

コンピュータは自動的に眠りについた。

彼らが見守る中、新たに命を得たロボット達は思い思いに動き始めた。黄色いカラーリングの飛行ロボットは部屋の中を何周かぐるぐる回った後で、サウンドウェーブの方に向いて空中に静止した。赤い方はサウンドウェーブとメガトロンの周りを回り、彼らの反応を見るように二、三度声を上げた。メガトロンが片腕を伸ばすと、彼はそこに落ち着いた。黒い獣は用心深い足取りで辺りを探った後、サウンドウェーブの足元に戻ってきちんと座った。

「お前に似て物静かな連中だ」メガトロンが素直に感想を述べた。

返す言葉もなかったので、サウンドウェーブは黙っていた。

「バズソー、コンドル、ジャガー」サウンドウェーブは生まれ変わった彼のロボット達を呼んだ。「リターン」

小さなロボット達はカセットテープに変形して、サウンドウェーブの格納スペースに収まった。





「あれさえあれば、俺達の同志をもっと生み出すことができるぞ。」

アジトに戻ってからも、メガトロンは上機嫌だった。部屋の中をうろうろと行き来しながら、彼はベクターシグマを使った新しいトランスフォームロボットの構想に没頭していた。

「どうせ作るなら強力なパワーを持ったやつが良い。」

やがてメガトロンは一つの設計案を完成させると、モニターの前にサウンドウェーブとレーザーウェーブを呼んだ。「どうだ?」

設計図を一通り眺めて、レーザーウェーブが言った。「問題ないでしょう」

サウンドウェーブは何か言う代わりに頷いて肯定の意を示した。直接的な打撃力こそ彼らには不足していなかったが、多くても困るということはなかった。実際、現在の彼らは攻守共に実にバランスの取れた能力を備えたグループだったために、極端な話、どんな新戦力が追加されたとしても大して変わりはないというのが彼の考えだった。

「よし、それではすぐにでもこいつの製作にかかるとするか」メガトロンは満足げに頷き、自らの設計案に決定を下した。





ところが、実際に新たな同志として誕生したロボットは、それとはほとんど正反対の物だった。





サウンドウェーブは敵陣のただ中で孤立していた。金属の壁を比較的多く残した廃ビルを盾に展開した敵は圧倒的に数で勝っており、彼に付け入る隙を与えなかった。

コンドルとジャガーは遠く離れた地域に偵察に出したきりまだ戻らず、格納庫の中のバズソーは先の戦闘で負傷していた。彼自身には大きな被害こそなかったものの、武器に回すことのできる余剰エネルギーは既に尽きようとしていた。連続稼動時間を大幅に超えた活動を強いられた彼は疲労していた。

エネルギー節約のために出力を抑えている受信装置から、ノイズの混ざったメガトロンの声が響いた。「俺とLWはポイント18のバリアを越えられん。だが別の助けがもうそろそろそっちに着くはずだ。サウンドウェーブ、それまで持ち堪えろよ。メガトロン・アウト」

何度か目の通信が切れると、サウンドウェーブは再びハンドガンのエネルギー残量をチェックし、中距離センサーの視界に意識をやった。

救援を寄越すというメガトロンの言葉に間違いはないだろうが、それらしい影はいまだに捕捉できていない。一体どこから―――そう思ったサウンドウェーブのすぐ脇の配管の破れた隙間から、彼らはひょっこりと―――そう、『ひょっこりと』現れた。

それはサウンドウェーブの予想をまったく裏切る小さな救援者だった。彼らは人の姿をしていたが、その背はサウンドウェーブの膝の高さ位までしかなかった。

「おーい! 大丈夫かーサウンドウェーブ!」聴覚センサーをつんざくかん高い声が、当たり前のように彼の名を呼んだ。

「どうやら間に合ったみたいだぜ!」

「無事でよかったな! 俺達は味方だぜ!」

瓜二つの外見を持つ二体のロボットは、忙しく動き回りながら口々にサウンドウェーブに親しみの篭った声をかけた。トーンが高く抑揚の強い話し声はけたたましいことこの上なかったが、開けっ広げでまるで裏表のない無邪気なそれは不思議とサウンドウェーブの気分を害しなかった。だがそれに気付いた瞬間、彼は平静でいられなくなった。

「それで、敵はどこなんだ?」

「あれだ! フレンジー!」

「よっし、早いとこ片付けようぜ!」

「おう!」

彼らはサウンドウェーブに口を挟む暇を一切与えなかった。彼の心配を他所に、彼らはその場に彼を残したまま、足場の悪い街路に身軽に飛び出して行った。

彼らは敵陣の側面に姿を消した。ややあって、

「ハンマーアーム・アターック!」

何の前触れもなく、局地的な大地震が敵陣を襲った。倒壊したビル15階層分の瓦礫の下敷きになった敵部隊はあっけないほど簡単に、そして完膚なきまでに、徹底的に片付けられてしまった。






半ば呆然としたまま、無闇に活動的な二人に引っ張られるようにして無事アジトに戻ったサウンドウェーブに、改めてメガトロンから紹介されたフレンジーは全開の笑みを見せた。「よろしくな! サウンドウェーブ!」

サウンドウェーブはその場で昏倒しなかったのが不思議な位に強烈な眩暈を感じたのを覚えている。

その後で、メガトロンが笑いながら話してくれた、フレンジーとランブルの誕生の経緯を、サウンドウェーブは残念ながらほとんど記憶していない。なぜなら、外見はどうあれ、彼の思考回路は戦場で彼らに会って以来まだ完全にひっくり返ったままで、他人の話を聞くどころではなかったのだ。

彼らがスカウトロボ―――すなわち今のコンドル、バズソー、ジャガーと同規格のカセットに変形するロボットであること、従って彼ら二人が常に自分と行動を共にする運命であるということにサウンドウェーブが気付いたのは、それからしばらく後のことだった。

偶然か、あるいは意図的な偶然か―――メガトロンの性格を考えれば前者の方が有力だったが、結局、メガトロンの最初の思いつき通り、サウンドウェーブには護衛がつくことになった。それも恐ろしい程にやかましく、かつ好意的な二人組が・・・




***




サウンドウェーブはそこまでを思い起こすと、心の中だけで苦笑した。

彼のスカウトロボがベクターシグマの能力によって独自の生命を得た時と同じように、この新たな二人の仲間がその創造手のパーソナリティの影響を受けているのなら、彼らが象徴するのはメガトロンのそれに他ならなかった。もちろん彼らはそれぞれの人格を持った生命だったが、彼らがサウンドウェーブにぶつけてくるまっすぐな好意と思いやりは、メガトロンが心の奥底で彼に抱く思いを代弁しているのかもしれなかった。だが本当のところは、彼にはわからなかった。

サウンドウェーブは、メガトロンがこの双子だけでなくコンドルやジャガーにも同じように、時にそれ以上に優しい眼差しを向けることに気付いていた。そして彼らもメガトロンに対して特別な親密さを抱いていた。サウンドウェーブは仲間としてカセット達を大切にしていたが、結局どうあっても、今も彼ら3体はサウンドウェーブの一部を共有する存在だった。

サウンドウェーブは、メガトロンが自分のやり方を尊重してくれたことに大変な感謝をしていた。かつてサウンドウェーブはメガトロンの想いを、少なくとも彼の望む方法を拒絶した。彼はメガトロンと違い、それがどんなに大切な相手だろうと、他人と感情的に深く関わり合うことを望まなかった。彼にとっては、心理的な距離は愛憎の有無に関係がなかった。そのせいでメガトロンは少なからず傷ついた筈だったが、それでも彼は諦めなかった。彼は一方的に譲歩し、別の形でサウンドウェーブとの関わりを維持しようと試みた。

サウンドウェーブは今の自分とメガトロンの関係を最上と見ていた。カセット達の存在を介して交わされる、言葉にされない静かな想いこそが、サウンドウェーブにとっては何物にも代え難い、貴重で大切な宝物だった。





サウンドウェーブは中距離センサーの視界に新たな展開を読み取り、回想を中断した。

その数秒後、ガタガタと物音がして、廊下に積み上がった瓦礫の山の上から現れた二人が、開けっ放しのドアからコントロール・ルームに転がり込んできた。

「サウンドウェーブ!」

「無事か? 心配したぜ!」

騒がしい二人組はサウンドウェーブの周囲を跳ね回り、あちこち検分した後でようやく一所に足を止め、彼を見上げた。「敵は?」

「北西2ブロック先にガードロボットが6体」サウンドウェーブはブラスター・ガンの主電源を入れると、寄りかかっていた椅子から立ち上がった。「17アストロセカンドでメガトロン達と接触」

それを聞いてランブルが飛び上がった。「そりゃ大変だ! 俺達も参加しようぜ!」

「ほら、急げよ、サウンドウェーブ!」

フレンジーに急かされ、コントロール・ルームから一歩を踏み出す前に、ふと思いついてサウンドウェーブは言った。

「ランブル、フレンジー、ハンマー・アームは使用するな」

フレンジーが驚いたように振り返った。「使わねえよ! また天井が落ちてきたら大変じゃねえか!」

彼の返答を聞く前に、サウンドウェーブは今の台詞を口にしたことを後悔していた。自分はどうかしている、と彼は思った。

その様子を気に留めるでもなく、双子は背負っていたハンドガンの一つを利き手に持ち替えて、さっさと廊下に走り出て行った。




サウンドウェーブが合流した時には、ガードロボットとの戦闘は片が付いた後だった。

「少し位残しといてくれたっていいのに!」

「やかましい。作戦は終了だ。撤収する!」

ランブルとフレンジーはメガトロンに向かって恨めしげにぶつぶつと文句を言っていた。

そこに遅れて現れたサウンドウェーブにメガトロンが気付いて声を上げた。「サウンドウェーブ! 何をしていたのだ」

「問題ない」いまだ自己嫌悪の渦中にあるサウンドウェーブは視線を外し、ぶっきらぼうに答えた。

その間に、レーザーウェーブとフレンジー、ランブルは先に立って歩き出していた。

「思ったより早かったんだな! レーザーウェーブ」

「ああ。お陰でガードと鉢合わせだ」

「サウンドウェーブが巻き込まれねーで丁度良かったじゃねえか!」

大きな話し声からあまり離れない内に、サウンドウェーブとメガトロンは彼らを追って歩き出した。

感傷的な気分のまま、サウンドウェーブは半歩前を歩くメガトロンに訊いてみた。「メガトロン、あなたは一体、ベクターシグマに何と言って彼らを創ったのだ」

唐突な彼の問いに、彼の内心を知ってか知らずか、メガトロンはわざと惚けて見せた。「おや? それは前に教えてやっただろう」

嘘だ。サウンドウェーブは立ち止まり、心の中で呟いた。それをあの時彼が口にしていたのなら、自分は必ず覚えている。どんなに錯乱した思考でも、そんな重要なフレーズを聞き逃す筈がない。記憶は不確かだが、それだけは自信があった。今までにメガトロンが自分にそれを語ったことは一度もない筈だ。

メガトロンは足を止めて振り返った。サウンドウェーブが少しも表情を変えないで彼が真実を白状するのを待っているのを見て、彼は曖昧に笑った。「少し位、俺もお前に秘密を持っていてもいいだろう、サウンドウェーブ」

サウンドウェーブはそれ以上追求するのをやめた。元々、彼のやり方はそうではなかった。あまりにも自分らしくないことが続いていた。もう充分だ。これ以上馬鹿なことを口走る前に、しっかりと口を閉じるべきだった。

向こうの曲がり角からひょいと顔を出してフレンジーが叫んだ。「早く来ないと、置いてっちまうぜ!」

「そう慌てるな、今行く、フレンジー!」メガトロンは大声で返し、サウンドウェーブに手で合図しながら、再び向きを変えて歩き出した。「さあ、帰るぞ、サウンドウェーブ」

サウンドウェーブはしばらくその場に立ち止まっていたが、メガトロンの姿が見えなくなると、思い直したように彼の後を追って歩き始めた。

通路の角を折れた先で、ランブルが彼が追い付くのを待っていた。
















メガトロン振られるの巻。
いや、振られてませんけど(←どっちだ)

デストロンが現在のような大所帯になる前の話です。
メガトロン、LW、SW+カセットロンのメンバーで
惑星中を身軽に飛び回っていたという時代もいいなあと思います。

あ、ベクターシグマ、スーパーコンピュータじゃなくて
ウルトラコンピュータだった・・・



あんまり活躍してませんけど、カセットロンの出番を
リクエストして下さったE様(仮名)にこの話を捧げます・・・




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