以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

 
 
Replica



 

オプティマス・プライムが意識を取り戻した時、戦闘が続いていたはずの谷は不自然な程に静まり返り、物音ひとつしなかった。彼は瓦礫混じりの砂地に体を起こし、何分か前に自分が落ちた崖の端を見上げた。彼は数秒の間じっと様子を窺っていたが、そこにはデストロンはおろか、彼の部下達の気配もなかった。彼は嫌な胸騒ぎを感じた。

彼は少し離れた地面に彼のライフルが落ちているのを見つけると、立ち上がってそれを拾い上げた。それはいつものように彼の手に馴染んだ。普段は鈍く輝く黒色の金属の表面が今は細かい砂にうっすらと覆われて白っぽく曇っていたが、部品が欠けたり暴発して壊れたりした様子はなかった。それを調べている内に、彼は自分が少し落ち着いたように感じた。彼は愛用の銃を亜空間に仕舞い込むと、崖の上まで登れる場所を探して歩き出した。

戦場となっていた崖の上の荒地に戻ると、彼の胸騒ぎはいよいよ大きくなった。やはりそこには誰もいなかった。陥没した地面に散らばった石やミサイルの破片、所々が焼け焦げた岩肌が、確かにここで激しい戦闘があったという痕跡を残していたが、敵味方問わず、誰かの死体や体の一部と思われる残骸はなかった。

オプティマス・プライムはしばしその場に立ち尽くした。皆は一体どうしたのだろうか? 彼の部下達がデストロンに破れ、死んだのだとはとても思えなかった。否、彼らは無事に基地へと帰還したに違いなかった。しかし、彼らがこの自分を残したまま去ったのはなぜだろうか? 自分が落ちた谷が深かったために、居場所を見つけることができなかったのかもしれない。しかし彼が落ちた時から、否、戦闘が始まった時からでさえまだ一時間も経っていなかった。彼らはどうしてこんなに早く捜索を諦めたのだろうか? やはり彼らはデストロンとの戦いに敗れ、どこかへ連れ去られてしまったのだろうか? そうでないながらも、分の悪い戦いに、自分を探す余裕もなく敗走に追いやられたのだろうか? そうだとすれば、なぜデストロンはサイバトロンのリーダーである自分を捜して捕らえることをせずに去ったのだろうか?

不可思議な事態を把握しようというオプティマス・プライムの努力はしかし、内心の不安を煽っただけだった。彼は努力して考えを中断した。このままここにいて、あれこれ想像しても仕方がなかった。彼は不安を振り払うように二、三度頭を振ると、トランスフォームして基地に向かって走り出した。

そして無事に辿り着いたサイバトロン基地では、彼の偽者が彼を待ち構えていたのだった。




最初に偽者を前にした時のオプティマス・プライムは自分でも驚く程に冷静だった。またメガトロンの下らない発明品に悩まされるのかと思って、彼は内心でうんざりした。その時彼の心を占めていたのは、突然現れた自分の偽者への対応に関する心配よりも、彼の部下達が例の谷から無事に戻っていたことへの安堵の方が大きかった。

私は私だ。直ぐに偽者の正体も明らかになり、部下達の疑いも晴れるだろう。彼は楽観的に考えていた。

ところが、事態の解決はそう簡単ではなかった。彼と瓜二つの外見だけでなく、テレトラン-1の精密スキャンで浮かび上がった偽者の内部構造は、彼自身と全く同じだった。そして、思ってもみない状況に部下達も動揺しているのだろう、本物の彼を見分けるためのテストはどれもお世辞にも適した物とは言えなかった。彼は手っ取り早く自分が本物であると証明できる、もっと良い方法を思いついていたが、それを自分が口にしては却って逆効果であることもよく知っていた。彼は自らが本物のオプティマス・プライムであると主張することは避け、偽者がボロを出すのをじっと待っていた。

結局決め手となる違いを見つけることができないまま時間だけが過ぎた。オプティマス・プライムの予想以上に、彼の偽者は上手く立ち回っていた。最初にチャージャーやスパイクに言動を怪しまれたことに警戒を強めたらしく、それ以降はより巧妙に振る舞うようになっていた。信じ難いことに、プロールやアイアンハイドといった長年の彼の側近でさえ、どんな注意を払っても偽者を見破ることができなかった。

サイバトロンの面々は堂々巡りを始めた議論を一旦中断し、それぞれの専門的な持ち場で有用な情報が見つからないかを調べるために基地中に散らばっていた。

そして誰もが首を振り振り戻ってくる中で、ドアが開いて、最後の一人である警備主任のアラートが司令室に入ってきた。再び集まった全員の注目を受けて彼は言い難そうに口を開いた。「保安庫のチェックは終了した。司令官のスペアパーツはリストの通り全部揃ってたし、侵入者の形跡もなかった。」

「じゃあ、司令官の偽者は、司令官のスペアパーツを使って作られたって訳じゃないんだな」スモークスクリーンががっくりと肩を落とした。

その日の太陽はとっくに沈み、周囲の自然物と同様にサイバトロン基地は静かな夜に包まれていた。偽者の正体を知ろうとする彼らの努力は一向に実を結ばず、司令室には行き詰まった重苦しい雰囲気が流れ始めていた。

彼らの探求の邪魔にならないよう少し離れた場所に立って彼らを見守っていたオプティマス・プライムと彼の偽者に、プロールが近付いた。

「お二人とも、テストばかりでお疲れになったでしょう。今日はもう休まれてはいかがです?」彼は区別のつかない二人を交互に見上げ、丁寧ながらも有無を言わせない迫力で告げた。それは彼らを司令室から体よく追い出すための方便だった。

他のメンバーの集まった方を何気なく見ると、彼らは無言で遠巻きにこちらを見ていた。オプティマス・プライムは彼らの態度から、部下である自分達が疑う事で本当のリーダーの気持ちを傷つけまいと思いやる気持ちと、それと同時に、もしかするとこのオプティマス・プライムこそが偽者かもしれないという疑念の両方を感じ取った。いずれにしても、それはよく見知った仲間に対するそれではなく、異邦人を見るような、遠慮と好奇と困惑、そして嫌悪がないまぜになった温度の低い視線だった。オプティマス・プライムはもちろん彼らが突然放り込まれた非常な状況を理解し、心配していたが、長年行動を共にしてきた彼らから自分がそのように見られることに、彼はエネルギーポンプに重い石が詰め込まれたかのような苦しさを感じた。そして彼は自分がそのように感じたことを嫌に思った。

彼の内心を知らず、プロールが先に立って歩き出した。「今夜は司令官の自室には立ち入りできません。それぞれに別の部屋を用意してあります。さあ、こちらへどうぞ」

「・・・わかった、行こう」

「君達もあまり無理をするな」

二人の司令官は口々に返し、プロールの言葉に従った。









基地内で最も厳重に警備された区画にある、そう広くない通路の奥にその部屋はあった。

複合システムで外部から施錠されているはずのドアが音もなくスライドし、人影が戸口に姿を見せた。“彼”は僅かな足音を立てて、静かな廊下に出た。夜勤シフトへの交替が済んで、基地内の通路は照明が抑えられ、薄暗かった。T字路に差し掛かると、“彼”は静まり返った廊下の向こうに視線をやった。サイバトロン基地の中心施設である司令室のあるその方向には、今も複数の者が活動している気配があった。彼らは今も、この不可思議な偽者騒動の解決を図るべく努力を続けているに違いなかった。“彼”はしばらくの間佇んでいたが、再び向きを変えてその場を歩き去った。

“彼”はインターホンを使う代わりに、合金製のドアをコツコツと叩いた。応答はなかったが、“彼”はさっき自分の部屋のロックを解除したのと同じ方法を使い、ドアを開けた。

部屋に入ると、“彼”と全く同じ姿形をしたロボットが、訝しげに彼を見ていた。彼はベッドに腰掛けていたが、“彼”が部屋に入ってくるのを認めると、警戒した様子で立ち上がった。「私に何の用だ」彼は突然の訪問者を油断なく窺いながら、僅かに緊張の滲んだ低く抑えた声で言った。

“彼”は背後で再びドアが閉まったのを見ると、再びドアを施錠した。重い金属の噛み合う音が、壁の中で嫌に大きく響いた。

部屋の中はしんと静まり返った。全く同じ姿形をした二人が睨み合った。

しばしの沈黙の後、部屋の主が口を開いた。「私を殺すつもりか」

「まさか」“彼”は首を左右に振った。

今夜の内に二人のオプティマス・プライムの内どちらかが殺されるようなことがあれば、生き残った方が偽者で、本物を謀殺したと見なされることは想像に難くなかった。サイバトロンのリーダーであるオプティマス・プライムの命と引き換であることを考えればそれも悪くないと思えたが、しかし彼一人が消えたところでこの戦いが終わるわけでもなく、またそれは彼の最大の敵であるデストロン・リーダーの好むやり方ではなかった。

「では一体何をするために、わざわざロックを破ってここへ?」

「お前は一体何者だ? 私はそれが知りたい」

「私はオプティマス・プライムだ・・・それはお前こそがよく知っているはずだ」

「馬鹿な。お前は私ではない」“彼”は僅かに声を荒げた。そしてまた冷静に続けた。「お前はデストロンに作られて送り込まれた、私のクローンだ。違うか?」

オプティマス・プライムの青い目に僅かな不快の色が過ぎった。彼は相手から距離を置く態度で冷静を保っていた。「私を惑わせようとしても無駄だ。私はちゃんと、自分が何者か知っている」

「白々しい嘘はやめるんだ」

「嘘かどうかはお前がよく知っているだろう」

“彼”は相手の言い回しに不快を感じた。それはあまりに彼自身の行動に似ていた。もし自分が今、この場所ではなく向こう側に立っていたなら、自分は彼と同じ台詞を口にしただろうと思った。“彼”は不意に恐怖を感じた。もしかしたら、彼は単に自分の姿を模倣したレプリカではなく、本当に自分の一部を使って生み出された、もう一人の自分なのではないだろうか? 根拠もなく思い浮かんだ絵空事のような可能性を強く否定しながら、一方で彼はそうして生まれたかもしれない相手を恐れ始めていた。

彼は畳み掛けるように言った。「私はオプティマス・プライムだ、お前がどう考えようとも」

「やめろ!」“彼”は声を荒げた。

“彼”はすくんだ。何かを考える顔でじっと対峙した相手を見ていた。それはまるで鏡に映った自分自身だった。“彼”は目の前の不気味な存在に、心の底まで見透かされるような錯覚に襲われた。

“彼”が何もできないまま見守る内に、鏡像が確信に満ちた調子で口を開いた。「お前は、私を恐れているな?」それは問いではなく、確認だった。

「お前は、私が偽者であると信じながら、心の底ではお前自身の存在に疑問を抱いている。」

「・・・そんなことはない」

「お前は、なぜお前がこのように私と似ているのだろうと疑問に思っているだろう。それは当然だ。お前は私から作られた、私の複製なのだから」

当たらずも遠からず、考えを読み当てられて“彼”はぎくりとした。動揺をマスクの下に隠して“彼”は強く言った。「いい加減にしろ、この期に及んで厚かましいぞ。偽者はお前の方だ。」

「それはお前がそう思い込んでいるだけだ。お前はオプティマス・プライムの姿をし、オプティマス・プライムの記憶を持っているが、それはお前自身の物ではないのだ。借り物に過ぎない。」

“彼”は彼の言葉を聞き入れまいとするように、静かに首を左右に振った。「お前の目的は何だ?」

「サイバトロンのリーダーとして部下達を導き、デストロンからこの惑星とそこに生きる生命を守ることが私の使命だ」

「やめろ、お前の口からそんな話は聞きたくない。答えろ。なぜこんなに回りくどいことをする?」

“彼”の悲痛な問いを受け流し、オプティマス・プライムは尚も言った。「なぜお前はそうやって私を拒む? お前は私から作られた存在だ。記憶と、体を分け与えられた―――」

「やめてくれ、こんな茶番はもうたくさんだ!」

「お前と私は同質の物だ。サイバトロンの誰も、私とお前を見分けることはできなかったではないか」

「違う!」“彼”は半狂乱で叫んだ。「私はオプティマス・プライムだ、お前ではない!」

“彼”は自分と同じ姿をしたロボットに詰め寄り、彼の両肩を強く掴んだ。「教えてくれ。お前はメガトロンの作った私のレプリカではなかったのか」

オプティマス・プライムは平然と答えた。「馬鹿な。私は私以外の何者でもない」

「やめろ!」

「認めろ。お前は私だと」

「違う」“彼”は脱力し、床に膝を突いて項垂れた。“彼”は座り込んだまま何度も左右に首を振り、僅かに震える声で言った。「頼む・・・もういいだろう。お前の望み通り、サイバトロンのリーダーシップは危機に陥っている。その上私に一体何を望むんだ」

「認めるか、お前は私に帰属するものだと」

「もう嫌だ・・・やめてくれ、頼む・・・」”彼”は両手で顔を覆ったまま、うわ言のように繰り返した。この現実が夢だと思いたいという気持ちと、決して逃げられないのだという絶望感が彼の精神を強く苛んでいた。

オプティマス・プライムは黙ったまま彼を見下ろしていたが、やがて小さなため息をついた。「やれやれ。この辺でそろそろやめておくか」

その言葉を聞いて、“彼”は一瞬自分の耳を疑った。





突然、オプティマス・プライムの持つ雰囲気が一変した。

「まさか、泣かれるとは思わなかったぞ」それまでの押さえつけたような声音と緊張した振る舞いに取って代わった鷹揚な態度で、彼は座り込んだままのオプティマス・プライムに歩み寄り、彼の肩に手を伸ばした。「しっかりしろ、オプティマス・プライム」

彼は恐る恐る顔を上げた。彼はしばらく間近に迫った顔を不安げに窺っていたが、やがて確信を得ると僅かに目を見開いて呟いた。「お前・・・やはり、メガトロンなのか?」

「いかにも」彼は目を細めた。バトルマスクに覆われた顔の下半分の表情はわからなかったが、声の調子で彼が笑っているのが分かった。

そしてその途端、不思議なことに、昼間からずっとオプティマス・プライムを苛んでいた不安と居心地の悪さは急速に消えていった。今まで自分が対峙していた者が、よりによって不倶戴天の宿敵であるとわかったにも関わらず、彼はまるで、顎まで浸かっていた底なし沼から、巨大なクレーンで一気に地上へと引き上げられた遭難者のような心地だった。彼は目の前の人物の外見が、自分自身とまったく同じであることにも構わず、彼の首に抱き付いた。

「おい、どうした、プライム」メガトロンは思いも寄らない彼の突飛な行動に、思わず彼を受け止めて訊いた。

オプティマス・プライムは固くしがみつくようにしたまま動かなかった。メガトロン――オプティマス・プライムの姿をした――は心配になって彼の背を優しく叩いた。「一体どうしたのだ。大丈夫か?」

オプティマス・プライムは何も言わなかった。彼は心の中に渦巻く様々な感情と戦っていた。彼には自分の中にある安堵や怒り、そして恐れを言葉を人前で口に出すことははばかられた。堰を切って溢れ出そうとするそれらを押さえ込んで、彼は喘いだ。

メガトロンがそれに気付いた。「おい何とか言え。この姿を見て驚いただろう? 塗装についた傷の一筋まで再現された、今日午前9時26分時点のお前の完璧なレプリカだぞ。」それだけを言って、彼は待った。

オプティマス・プライムは彼の首筋に顔を埋めたまま、少し掠れた声で早口に呟いた。「・・・怖かった。心が冷えるようだった」

彼の言葉に頷いてやり、メガトロンは更に先を促した。

オプティマス・プライムは顔を上げ、視線を合わせないまま沈んだ声で言った。「メガトロン・・・何故あんな風に私を脅したんだ?」

メガトロンは笑った。「お前があまりに動揺していたのでな、少しからかってやろうと思っただけだ。」

「私は・・・」彼の顔を数瞬の間見てからまた視線を落とし、オプティマス・プライムは呟いた。何か言いたそうな、しかし口にするのを躊躇う彼に、メガトロンは先を促した。「何だ、言ってみろ、オプティマス」

「・・・私は・・・自分がこんなにも容易に複製され得るものだとは知らなかった」

顔面蒼白という形容がふさわしい様子でオプティマス・プライムは言った。「私という存在はなんと希薄だったのだろう。誰も、私が・・・」

「おい、あまり深刻に考えるな。良いか、言っておくが、儂だからこそ、これほど上手くお前の言動を真似することができたのだぞ」

「どういうことだ?」

「儂はかれこれ数百万年に渡って、お前を見てきた。ある状況に置かれた時、お前ならどう行動するか、お前ならどう考えるか・・・態度から言動、心の動きに至る細部までな。」

オプティマス・プライムは何も言えなかった。サイバトロンを始めとする多くの者に彼のスタイルとみなされ、酷く疎まれている、彼の他者を省みない傍若無人さ、直接的な力の象徴である”破壊大帝”の異名は、恐ろしく表面的で危険な評価であるという気がした。

「お前はどうも儂を単純馬鹿と見るきらいがあるが、これで見直す気になっただろう」

彼は冗談のように笑ったが、オプティマス・プライムは思わず素直にそれを認め、頷いた。「そうだな・・・」そしてその直後にしまったと思ったが、今更彼に対する態度を取り繕い、自分を強く見せようとすることは見苦しく、また無意味に思えた。仇敵の策にまんまと嵌り、助けを求めて当の本人に取り縋っているという、この状態で強がっても仕様がなかった。

はっきりと口には出さないものの実質的に敗北を認め、勝負から降りることで、彼の体を強張らせていた力が抜けていった。そして思いも寄らない方法で自分を翻弄し、驚嘆させることに成功して機嫌を良くしたその仇敵は、抵抗の意志を放棄した自分の肩を気安く抱いて、ゆったりと笑っていた。

彼を見る内に、オプティマス・プライムは、自分が彼に強く肯定されていると感じた。確かに彼らはお互いに相容れない対極的な思想を持った反対勢力に違いなかったが、彼らは個人的に仇を成すべき敵ではなかった。少なくとも、このデストロンの指導者は彼をそのように扱っていないことは確かだった。

かつて、このような形で自分の存在が認められていると感じたことがあっただろうか? オプティマス・プライムは予想もしなかった方向から突然与えられたその安楽さ、穏やかさに驚いていた。

と、そこへ来てオプティマス・プライムは、ようやく目の前のロボットがまさに自分と同じ姿をしているということが気になるようになった。目の前に自分の姿があるということ自体がまず普通ではなかった。そして自分も紛れもなくオプティマス・プライムであり、その姿は彼と全く同じだった。自分で自分を抱擁している状況はあまりに奇妙かつ倒錯的な光景に思えた。

彼は再び居心地悪く感じ、慌てて体を離した。しかし今度のそれは、先程までの居たたまれないような悲しいようなものではなく、なんとなく相手と顔を合わせるのが恥ずかしいような、深刻でない当惑のような、嬉しさを伴った照れくさい気持ちだった。

それと同時に、オプティマス・プライムは場違いな愉快さを感じていた。記録映像の中の自分は決して彼のように振舞わなかった。自分の声がこのように力強く、鷹揚に話すところを見たのは初めてだった。驚く程の余裕を持ち、少しも構えた様子を見せない彼はまるで自分とは別人のようで――実際中身は別人だったが――非常に興味深かった。そして自分にもこのように大きな自信と包容力を持って部下達の前で振舞うことができるようになる日が来るかもしれないと思うことは、彼に確かな希望と安堵をもたらした。

オプティマス・プライムは仄かな憧れと、いくらかの尊敬を持って目の前のメガトロンを見た。彼は依然としてサイバトロンにとって大きく恐ろしい相手に違いなかったが、今はそんなことはどうでもよかった。少なくとも彼は、他の誰もしようとしない方法で自分を理解してくれる存在だった。

彼は微笑み、もう一度自分のレプリカに近付いた。歩きながら、彼の意思に従って顔の半分を覆っていたマスクが左右に別れて亜空間へと消えた。そしてその下に隠されていた唇で素早く彼のマスクの上にキスすると、唖然とするメガトロンを残して、オプティマス・プライムはゲスト・ルームを後にした。














えー、部下の前であれ以上ボロがでなかったのは、
きっと陰でS.W.が手助けしてたからです。

映像を想像しながら読むと、より倒錯的な気分が味わえるかと(笑





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