以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

  

 
 
Acceleration



 

遥か彼方からセイバートロンを照らす太陽は弱く、金属の谷間を縫って走る細い路地はいつもと同じように薄暗かった。元デストロンの陣地だったその地域には、立体的に入り組んだ建物の隙間を探し、段差を越え、大回りをする骨折りをしてまでわざわざ地面を歩こうとする物好きがいなかったため、多くの通路は長年の間顧みられないままだった。

その地域で、モーターマスターは眼下に人が歩いているのを見つけ、降下した。始めは人違いかと思ったが、彼が驚いたことにその人影は元サイバトロン総司令官のオプティマス・プライムだった。

彼はなぜこんなところを、それも「歩いて」いるんだ? モーターマスターは一瞬躊躇したが直ぐに心を決めて声をかけた。「プライム。こんなところで一体どうされたので?」

オプティマス・プライムは足を止め、数歩先に突然降り立った元デストロンの指揮官を見た。「やあモーターマスター。見ての通り、本部へ戻る途中だよ」

確かに、方角としては納得できるとモーターマスターは頷いた。しかし、彼はオプティマス・プライムの不自然な行動と外見に不審を覚えた。姿勢や歩き方こそいつもと変わらなかったが、彼の片足は膝下から腰にかけて酷い有様で、何かの事件か事故に遭ったとしか思えなかった。しかしそのことには触れず、モーターマスターは落ち着いた礼儀正しい態度で切り出した。「ここから本部まではまだかなりある。何かお困りなら、手を貸しましょう」

「ありがとう。だが、それには及ばない。」オプティマス・プライムは丁寧に辞退した。

歩き去ろうとするオプティマス・プライムの背にモーターマスターは言った。「そうは見えませんな」

オプティマス・プライムはぎくりとして足を止めた。モーターマスターはさらに言った。「自分の忠誠はメガトロンのもの、そして今はあなたのものでもある。」

「・・・すまない。君を疑っていた訳ではない」オプティマス・プライムは再び向きを変えた。「実はタイヤをだめにしてしまって、走れないんだ」

「それなら自分のタイヤをお貸ししましょう。サイズは同じでしょうから、あなたでも使えるはずだ」

「ありがとう。助かる。」

モーターマスターはオプティマス・プライムの目の前でトランスフォームした。黒とグレーの、無骨なトレーラートラックへと姿を変えた彼は聞いた。「何本必要ですか」

「6本頼む」

「了解」言うが早いか、タイヤ固定している頑丈なボルトが自動的にネジ穴から外され、支えを失った大きなタイヤが次々と地面に転がった。再びロボットの姿に戻った彼は、ちらばらに転がったり倒れたりするタイヤを捕まえては地面に寝かせていたオプティマス・プライムに向き直った。「履き替えを手伝いましょう」

ここで彼の申し出を断るのは非常に不自然だった。促されてオプティマス・プライムはトランスフォームした。「・・・頼む。右側だ」

モーターマスターが身をかがめて足元を覗き込むと、トラクター部、つまりオプティマス・プライム本体の右後方部に当る全てのタイヤと前輪の一部、反対側の一本がバーストし、その周辺の装甲が破損していた。

「まるで地雷でも踏んだような壊れ方だ」タイヤを取り替えながら、モーターマスターは言った。オプティマス・プライムは何も言わなかった。

交換したタイヤを彼のコンテナに積み込むと、再びロボットモードに戻ったオプティマス・プライムを正面から見据え、丁寧だが迫力のある声音でモーターマスターは言った。「デストロンの陣地からあなたをこのような格好でお帰しする訳にはいきませんな。一体何があったんです」

二回りも大きな彼に見下ろされて、オプティマス・プライムは退路を絶たれたように感じた。しかしその気持ちをマスクの下に完璧に隠して、彼は首を左右に振った。「すまないが、君に詳細を話すことはできない」

「そういう訳には行かないのです」モーターマスターはオプティマス・プライムを壁際まで追い詰めた。「我々としても、デストロン内部の不穏分子を見過ごすことはできないのでね」

「いや、誤解だ、モーターマスター。君達が仲間を疑うことなど何もない」

「あなたは何を庇っているんです?」

既に何かを確信しているモーターマスターの追及は執拗だった。オプティマス・プライムが自分より高い地位にあることを認識した上で、彼はあえて強引に情報を聞き出そうとしていた。オプティマス・プライムはしらを切り通すことを諦めた。

「モーターマスター、よく聞いてくれ。これは私の個人的なトラブルなんだ。彼らは私を恨んでいる。」

「やはり心当たりのある相手ですか。その彼らとは誰です?」

「それは言えないが・・・これは、セイバートロンのリーダーシップに対する挑戦ではなく、私個人に対する報復に過ぎない。だから君やデストロンには関係のないことなんだ。私が―――」

「何を言っているんです」モーターマスターが強い調子で遮った。「オプティマス・プライム。あなたは他の物には替えることのできない我々のリーダーだ。そのあなたを害する者達を、我々が黙って見過ごすことなどできるはずがない」

モーターマスターはオプティマス・プライムの頭部の左右の壁に両手をついて逃げることを許さず、彼に迫った。「あなたを襲った相手は何者です」

「今は、君には教えられない」

「そういう訳にはいきませんよ。さあ、教えて下さい」

「頼む、モーターマスター・・・」

「だめです。白状するまで逃がしませんぜ」

それでもオプティマス・プライムは黙ったままだった。

「あなたは不思議な人だ。」モーターマスターはふっと態度を和らげ、壁から手を下ろして薄く笑った。「あなたは立派な人だが、時に非常に危なっかしく見える。あなたは人には優しいが、しかしどこか壁がある。かといって自分の世界を守っている訳でもなく、むしろあなたは自分のことなどまるでどうでもいいと思っているようだ。」

話しながらモーターマスターはゆっくりとした動作で腕を伸ばし、オプティマス・プライムに触れた。オプティマス・プライムの横顔を撫で、肩から二の腕を滑った大きな手はそのまま彼の背に回り、彼を腕の中へと抱き寄せた。モーターマスターは声を落とし、彼の聴覚センサーの間近で告白するように言った。「自分はそんなあなたが気がかりなのです。オプティマス・プライム」

オプティマス・プライムが身じろぐように体を震わせた。それは彼の抱擁から逃れようとする動きではなかった。そうするべきだと頭で考えていても、体はその命令を無視していた。恋愛、殊情交において、彼は見上げるような体躯を持った相手に主導権を明け渡し、身を任せることに大きな喜びを感じる自らの嗜好を自覚していた。しかし不運なことに、小型ロボットが大半を占めるサイバトロンの中で最も高い地位にあって、彼らを守り、導く立場であった彼には、長年その機会がなかった。

オプティマス・プライムは急転した彼の追及、あるいは懐柔に混乱していた。彼のアプローチを場違いに思い、警戒しながらも、オプティマス・プライムは目の前の力強い腕に抗い難い魅力を感じていた。

「オプティマス・・・あなたが気がかりだ」モーターマスターは繰り返し、オプティマス・プライムの横顔やマスクのそこここへと、愛撫するように指を這わせた。

部下達へ命令することに慣れ、同時に彼らの心情を汲み取る技術に長けたリーダーはまた、恋愛相手の扱いにも手馴れた様子を感じさせた。大きな包容力に下支えされた甘さと優しさ、そして否を言わせない強引さを備えた彼は、実際オプティマス・プライムの好みだった。

モーターマスターの唇が彼の指先を追い、オプティマス・プライムは小さくうめいた。彼のマスクにもお構いなしに口付けを繰り返しながら、モーターマスターは片腕をオプティマス・プライムの腰にしっかりと巻き付け、ぐいと引き寄せた。オプティマス・プライムは体の接した部分を通して、モーターマスターの体の中を流れるエネルギーの熱が伝わってくるような錯覚を覚えた。

気が付くと、オプティマス・プライムは邪魔なマスクを解除して仕舞い込み、モーターマスターの熱心な口付けに応えていた。作戦図に当ったモーターマスターはしかし、してやったりという表情はおくびにも出さず、心の中だけにそれを留めた。

オプティマス・プライムの手がモーターマスターの背に回され、体の線を調べるように繊細に動いた。抱き合って、彼らは暫くの間余念なくお互いの外殻を探り、返される反応を楽しんだ。彼らの合金製の皮膚はどこも変わり映えしない硬度を持っていたが、長年使い込まれ、よく磨かれた滑らかな表面は、濡れたような鈍い輝きを放って情欲を煽った。

やがて先に唇を離したオプティマス・プライムは、満足そうに息を吐いた。「モーターマスター、君は本当に魅力的だ・・・だが・・・」彼は俯いて、声を落とした。「・・・やっぱり、私は喋らないよ」

モーターマスターはおやという顔をして見せ、素っ気なく言った。「それは残念だ」

すっかりその気をなくしたと見えるモーターマスターの様子に、オプティマス・プライムは寂しさを隠し切れず表情を曇らせた。逃した魚はあまりにも大きいと思えたが、かと言ってここで折れることはできなかった。仕方のないことだ。彼は名残りを惜しむ自分の精神を叱咤しながら体を離そうとしたが、モーターマスターの腕がそれを阻んだ。

オプティマス・プライムは驚いてモーターマスターの顔を見上げた。

モーターマスターの顔には不敵な、しかし温かみのある微笑が浮かんでいた。再び腕の中に囲ったオプティマス・プライムの首や肩に何気なく手を這わせて、彼は低く抑えた声で言った。「だからと言って、この続きをしないってことにはならないでしょう?」

オプティマス・プライムはぎこちなく二、三度頷いた。「・・・勿論、君がそう思ってくれるなら」

「当然です、オプティマス・プライム。」モーターマスターは大きな手の平でオプティマス・プライムの顔を包むように数回撫でた後で、唇にキスした。

温度が上がったままのボディの内側で情欲が息を吹き返し、彼の体は更に熱くなった。オプティマス・プライムはモーターマスターの背に腕を回し、息をつく間に囁いた。「嬉しいよ、モーターマスター」





シャッターの隙間から弱い光の差し込むガレージで、先に身支度を終え、座り直したオプティマス・プライムが独り言のように言った。「君は、私を嫌っていると思っていた・・・私がサイバトロンの司令官だったからという以上に、君はまるで私を目の敵のようにしていたからな。」

モーターマスターはちらりと彼の表情を窺った後、それ以上は見ないようにして、同じように彼の隣に腰を下ろした。オプティマス・プライムは帰りを急ぐつもりはないらしかった。もうしばらくは自分と過ごすことを望んでくれるのだろうかと考えながら、彼はどことなく前方に視線をやったまま話し始めた。

「確かに、最初はそうでした。あなたとの戦いには、初めからあの煩いエアーボットが付いて回りましたからね。彼らに阻まれて、なかなかあなたと直接戦う機会がなかった。」

オプティマス・プライムは静かに頷いた。「君達スタントロンの脅威に対抗するために、私たちは彼等を作った」

「自分は道路の王者と噂される、サイバトロンのリーダーの実力を知りたかった。しかしずっと、勝負を上手くかわされていると感じていたのです。彼らのお陰でね。それで自分は、あなたは指揮官として戦略には長けていても、戦士としては正面からの勝負を避ける腰抜けだと苛立ち始めた。」モーターマスターは苦笑した。「自分は、あなたに相手にされないことが腹立たしかったのです。」

モーターマスターは体の向きを少し変え、隣に座った上官の顔を見た。それにつられるように、オプティマス・プライムも僅かに彼を見上げた。

「だがあなたは卑怯でも腰抜けでもなかった。」モーターマスターは笑みを浮かべた。自分の言葉の続きを待っているオプティマス・プライムの、自分のそれとは異なる青い光を間近に愛しみながら、彼は年月が経った今も忘れることのない出来事を反芻していた。


***


メガトロンから言いつけられた3つの品物をスタントロン部隊で手分けして集め、集合地点まで戻る途中のことだった。チームメンバーから次々に届く攻撃の知らせを聞きながら、モーターマスターは冷静なまま、今にも自分の前に現れるであろう相手を誰何していた。

追っ手としてエアーボットが現れたという情報は未だ入っていなかった。そこには、主として人間の市街地を移動しているスタントロン部隊に加えられる、航空機による大規模で精度の低い爆撃によって、地球の生物や施設に大きな被害を与えることを避けようとする敵総司令官オプティマス・プライムの意図が感じられた。

「・・・舐められたもんだ。」モーターマスターは忌々しげに、声に出して呟いた。

彼がずっと心に抱いてきた苛立ちや、その元になっていたある種の期待は、静かな諦めと失望に取って変わろうとしていた。

彼はデストロンとして受けた自分の命やスタントロンのリーダーとしての役割り、そしてメガトロンに対して不満を持っている訳ではなかった。むしろ彼は自分に与えられた世界を肯定的に受け入れ、大いに楽しんでいたが、しかし、もっと期待をしても良いのではないか、といつも心の隅で考えていた。自分がこれからずっと生きていく世界はこの程度のものなのか。より良く、より多くを際限なく求めることは愚かなのか・・・彼は諦め始めていた。

徐々に熱を失っていく彼の思考は、しかし行く手に佇む相手を認識した瞬間、爆発的に燃え上がった。

見渡す限りの荒地とそれに覆い被さる大きな空の下、一筋に続く細い舗装の先で、彼の進路を塞ぐように待ち構えていたのはオプティマス・プライムだった。

モーターマスターはにやりとして、シフトダウンし、アクセルを踏み込んだ。

オプティマス・プライムのエンジンが静かに唸りを上げ、焼けた呼気を上空へと噴き出した。彼はモーターマスターに向かって急激に加速を始めた。彼は、フルスピードで突進する重量級のトレーラーが挑んだ勝負を、文字通り真正面から受けて立ったのだった。


***


「あなたは自分の持つ力を大仰に誇ることをしないだけだ。」

モーターマスターの話を、オプティマス・プライムは黙って聞いていた。

「それが分らなかった内は、八つ当たりのように自分はあなたのそのスマートな姿にも反感を抱いていたものです。ごくシンプルなバンパーやその細い手足に、本当に道路の王者と言われる程の力を備えているのかとね。」

モーターマスターはオプティマス・プライムの方を見た。「だが今は違います。今はあなたのその姿をとても美しいと感じる。強さを飾り立てることなく、控えめで洗練された美しさだ。その姿は実に、あなたに相応しい」

オプティマス・プライムは少し困ったように笑った。「よしてくれ、モーターマスター・・・そんなに言われると、信じたくなってしまう」

「信じて下さい。自分は本気で言っているのです」モーターマスターは真顔で畳み掛けた。「あなたの美しさは単に見かけだけではない、あなたという存在の、総合的なバランスの上に成り立つ完成された美しさだ。」

「・・・ありがとう、いくら何でもそれは誉め過ぎだと思うが・・・君が私を気に入ってくれたのなら嬉しいよ」

「自分は初めからあなたに興味があった。同じトレーラーとして生まれた者として・・・自分は生まれたばかりで、これから自分の生きる世界を、現実を掴むための糸口が必要だった。自分があなたを選んだのは自然な成り行きだった。自分はあなたを知ることで、相対的に自分自身を掴もうとした。だから自分はあれほどあなたに執着した」

「・・・そうだったのか」オプティマス・プライムは頷いた。

「今はもう不安はありません。あなたは自分に、世界は素晴らしいものだと教えてくれた。そしてあらゆるものが、見ただけではその半分しかわからないということも。自分はあなたに感謝しています。」

話が途切れると、モーターマスターはオプティマス・プライムの足元に目をやった。薄闇にぼんやりと浮かび上がった白いパーツを煤けた傷が汚しているのを、彼は痛々しげに見つめた。「プライム。脚は大丈夫ですか」

「平気だよ、モーターマスター」オプティマス・プライムは何でもないように答えた。至近距離で爆風を受けた装甲は確かに酷い有様で、自己診断のステータスにも要修理の警告の文字が並んでいた。しかし損傷は内部器官にまでは及んでおらず、機能にも問題はなかった。そして彼は、最中にモーターマスターがその周辺に衝撃を与えないよう気遣ってくれていたことを知っていた。

「見た目は大袈裟だが、中は大丈夫だ。それに、樹脂のタイヤが破損しやすいのは君も知っているだろう? だから心配いらない。」

「そうですか。それならいいのです」

しばしの沈黙の後、オプティマス・プライムが静かに立ち上がった。「モーターマスター、名残惜しいが、私はもう行くよ」

同じように立ち上がったモーターマスターの顔を見上げてから、彼は少し目を伏せて微笑んだ。「しばらくは、今日のことを忘れられそうにない。ありがとう」

モーターマスターはそっと彼に体を寄せ、首や横顔を優しく撫でた。「それは自分も同じです。あなたは自分が思い描いていたよりも、ずっと素晴らしかった」

オプティマス・プライムは目の前にあるダークグレーの胸に片手を置いた。「またいつか、君とこうして会えるだろうか・・・」

「あなたならいつでも大歓迎だ」モーターマスターは請け合うように力強く微笑んだ。

やがてどちらからともなく軽い口付けを交わして、彼らは離れた。

オプティマス・プライムはもう一度礼を言ってからモーターマスターに背を向け、ガレージを出て行った。そしてトランスフォームすると、いつものようにどこからともなく現れた彼のトレーラーを引いて金属の街路へと走り去った。

入り口に立ってその様子を見届けたモーターマスターは、オプティマス・プライムの後ろ姿が完全に視界から消えると、彼の通信機に向かって言った。「こちらモーターマスター・・・応答しろ。ドラッグストライプ?」

聞きなれた声が応えた。「こちらドラッグストライプ」

「何か見つかったか?」

「場所がわかったぜ。今デッドエンド達が調べてるが、期待できそうだ」

「わかった、今からそっちへ行く。」

通信を切ると、モーターマスターは元来た方向へと飛び立った。

どこに通路があるのかもよくわからない、高層の建物と高架道路が複雑に入り組んだ金属の街を眼下に見ながら、モーターマスターは再び過去の記憶が意識に登ることを許した。


***


大きく破損したボディと駆動系を抱え、それぞれ別の場所で捕まえられたチームメンバーと共にサイバトロン基地へと連行されながら、モーターマスターは内心でたまらなく愉快な気分だった。

彼はすぐ目の前で自分を牽引して走る、オプティマス・プライムを見やった。

彼はサイバトロン軍最強の戦士との名声に違わぬ圧倒的な強さを持っていた。彼はモーターマスターと比較すれば遥かに破損の程度が低かったが、かと言って勿論無傷ではなかった。ボンネットを簡素に飾る空冷の鎧戸は衝突の衝撃で陥没していたし、塗装には広範囲に渡って細かい亀裂が入っていた。進路調整の仕方から、車軸もいくらか歪んでいるのだろうとモーターマスターは見て取った。

先程、オプティマス・プライムが彼を止める方法は他にいくらでもあった筈だった。あれは客観的に見れば、無謀無策の謗りを免れない、一軍の司令官として誉められた判断ではなかったかもしれなかった。だがその行動にモーターマスターは心打たれた。エアーボットを使わない代わりに、任務を部下達に任せるのではなく彼自らが自分に対して動いたことに、そして慎重で大人しいばかりと思っていた彼が見せた激しい闘争心に、彼は目の覚める思いだった。

勝負の時に部下の介入を許さなかったのは、自分の相手など仲間の力を借りずとも充分と判断したからだったろうか。それとも、防御力に劣る彼らを戦闘に参加させることで受けるであろう無用の負傷を避けようという意図だったろうか? もしそうであったのなら、実力を警戒されたと見て自惚れてもいいだろうか? 彼はそこまで考えて、自意識過剰な思考を自嘲した。

「ああ惨めだ! こんな姿、仲間に見られたくねえや」

後方で聞き慣れた声が苛々と訴えるのが耳に入り、彼はそちらに注意を向けた。駆動輪を宙吊りにされたブレークダウンとワイルドライダーが、先程から飽きもせずに悪態を吐き合っていた。

「心配するなブレークダウン。何処も同じってヤツよ」

「惨めなのはこっちもだ」

「ああ〜もう! 我慢がならねぇ」

「黙れ、お前らまだ良い方だぜ!」不名誉を嘆くチームメンバーのぼやきに、見たところ一番派手に壊れているモーターマスターは、オレの様を見てみろ、と暢気に返した。

「ハハ・・・違いねぇや」ワイルドライダーが苦笑いした。

この先自分達がどうなるのかはわからなかったが、例えどのような事態になろうとも、深刻になって気持ちが弱るのは避けたかった。そのために自分が笑い者になる位は安いものだ。景気付けに、停車の時にノーブレーキで思いっきりオプティマス・プライムの後部に追突してやろうか、などと思いついて、モーターマスターは自分の子供じみた考えに苦笑した。

「まあそうぼやくなよ。記念写真でも撮っといてやろうか?」

彼らのやりとりをサイバトロンが混ぜっ返し、ひとしきり騒ぎ立てるのを背後に聞きながら、オプティマス・プライムがモーターマスターに向かって小さな声で言った。「君達は、いいチームだな。羨ましいよ」

モーターマスターは思わず訊き返した。「ああ、何だって?」

「・・・いや、何でもない」オプティマス・プライムはそれきり何も言わなかった。

モーターマスターは訝しんだ。今の言い方は、どう考えても嫌味の調子ではなかった。部下達に聞こえないように呟いたその言葉は、ふと漏らした彼の本音だったようにモーターマスターには感じられた。ランクの違いはあれど、同じように部下を纏める立場にある者として、それが部下の前で口にして良い台詞だとはモーターマスターには思えなかった。

彼ははっとして、まじまじとオプティマス・プライムの後姿を眺めた。本日二度目の衝撃は、しかし彼の思考回路に火をつけるようなものではなく、逆に冷水を浴びせかける種類のものだった。サイバトロンの総司令官オプティマス・プライムは、正しく、迷わず、剛健なだけの英雄ではなかった。大きな声では言うことができない気持ちを内に抱き、差し障りのない相手を選んでそれを口にする程度の弱さを持っているのだった。

モーターマスターのオプティマス・プライムに対する興味は俄然強くなった。それは彼の身体的な強さやリーダーシップといった外面的な対象から、隠された彼の思考や人となりといった内面的な対象へと、大きく、深く広がった。


***


モーターマスターはつい先程まで自分の腕の中にあったオプティマス・プライムの感触、息遣いを思い出した。彼はオプティマス・プライムの全てを手に入れ、自分のものにしようというつもりはなかったし、今でもそれは変わらなかった。それでも、抱き寄せれば遠慮がちに寄りかかってきた彼を、モーターマスターは本気で愛しく思ったのだった。

一度で良い、この手で彼に触れてみたいという密かな願いが叶えられた今も興味は失われることがなく、思いは加速しようとしていた。














まず、このOPは浮気ではありません。念の為。

MMがOPに迫るシーンが書きたかっただけなのに、
MMが勝手に告白なんか始めちゃって収拾がつかなくなりました(笑
あと二人の対決シーンは、記憶で書いたら大嘘でした(爆

念のため・・・後半出てきた(回想じゃなくて)スタントロンが何をしてたのかというと、
MMから連絡を受けて、OPが巻き込まれた爆発の現場を探してたんです。


自分では、結構上手くまとまって書けたかな?と気に入ってる話です。
MM大好きなんだけど、この話でネタを使い切ってしまったので
多分もう書けない・・・






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