以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

  

 
 
Tell me what kind of heart I would give you.
(A Christmas Present)




 
 
 

季節のないセイバートロン星はいつもと変わらない銀色の姿を宇宙空間に浮かべていたが、よく見るとその惑星の表面は至る所で普段と異なる様相を呈していた。

明暗によってできる影の濃淡だけがその色の変化である金属製の風景に、鮮やかな赤と緑、そして眩しく光る真っ白の飾りが奇抜なアクセントとして加わり、良く言えば賑やかな、悪く言えばけばけばしい雰囲気が作リ出されていた。数日前から、どこかで急に始まったその変化はあっという間に街路に広まり、ついには本部の建物の中まで侵食を始めた。

忙しく、しかしとても楽しそうに作業を続ける人々が心待ちにする日はもうすぐだった。



廊下の向こうから大きな箱が、否、前が見えない大きな箱を抱えた人が歩いてくる。オプティマス・プライムは自分達に気付いていない彼を通過させるために、通路の脇に寄って待った。

目の前を通り過ぎる際に荷物の主を見ると、それはホイストだった。

「おっと、これは失礼!」彼はオプティマス・プライムに道を譲らせたことに気付き、声を上げて立ち止まった。

「どういたしまして。」オプティマス・プライムは丁寧に言って、そのまま彼の仕事を続けるように促した。

歩き去って行く彼の後姿をしばし見送り、メガトロンが怪訝な顔をして言った。「何やら連中、最近うかれているな。何事だ?」

「クリスマスのお祝いだ。地球で覚えた季節行事だよ」

「なるほど。」

「地球にいた間、私達は毎年丁度この時期になると、スパイク達と一緒にクリスマスと新年のお祝いをした。地球を離れて1年になる。皆、そろそろ地球が懐かしくなってきた頃なのだろう」

メガトロンがオプティマス・プライムの顔を見た。「お前はどうだ?」

数瞬の後、オプティマス・プライムは遠くを見ながら躊躇いがちに言った。「私も、時々思い出すよ。あの星の熱い太陽、埃っぽい空気、自然の景色・・・そして別れてきた友人達のことを」

「あの惑星に、また行きたいか?」

オプティマス・プライムは左右に首を振った。「私達はもう、あの星に行くべきではない」

「オプティマス。儂は建前を聞いておるのではないぞ」

意外に強い調子で言われて、オプティマス・プライムはびくりとして足を止めた。

同じく立ち止まって振り返り、彼の肩に手を置いたメガトロンは、今度は懐柔するように優しげな声音で言った。「オプティマス。お前の気持ちはどうなのだ」

メガトロンの視線を受けて、オプティマス・プライムは僅かに俯き、視線を逸らした。

人々が忙しく行き交う通路の片隅で、立ち話をする彼らに特別な注意を向けている者はいないようだった。彼はメガトロンの胸の辺りに視線を向けたまま喋った。

「・・・恋しい。空に青い星を見る度に、私はあの惑星を思い出す。あそこは、私にとって第二の故郷と言える場所だ・・・そして過ごした時間は短くとも、多くの思い出がある。もう二度と見ることがないというのは寂しいが、仕方がない。」

「・・・そうか。」メガトロンは片手で彼の肩を抱き、彼を労わるように自分の方に引き寄せた。

「ではオプティマス、お前の言うクリスマスの祭りとやらに、儂らも参加するとしよう。」

「え・・・」

「何も、あの馬鹿騒ぎに加わろうというのではない。そうだな、お互いに何か一つ、贈り物をすることにしようではないか。」

「ああ、構わないが・・・」

「そのプレゼントだが、一つ注文がある」

「何だ?」

図々しくも大胆な発言を、オプティマス・プライムは黙って聞いた。このようにはっきりと要求するのはいかにもメガトロンらしく、却って気味が良いと思ったが、同時に自分には決して真似のできない芸当であるとも思った。

彼が感心している間に、メガトロンは言った。「儂が一番望むものをくれ。」

「一番望む物?」咄嗟に訳がわからず、オプティマス・プライムはオウム返しにした。

「そうだ。儂が今、他の何よりも欲しいと思っているものだ」

オプティマス・プライムは戸惑った。「もしかして、それはもうお前の中では決まっているのか? そんなに明確な希望があるなら、教えてくれないか。私に用意できるものならいいが・・・」

「勿論、お前が提供できるものだ。だがそれが何かは言えん。」

オプティマス・プライムはメガトロンの顔をじっと見た。「・・・何故だ?」

「そんなに困ったような顔をするな。いいか、儂はお前に、自分でそれを見つけてほしいのだ。クリスマス当日までにはまだ間がある。ゆっくり考えてくれ。」

オプティマス・プライムは視線を足元に落とした。彼は気が進まなかった。どうもメガトロンの作戦に上手く誘導されたという気がしないでもなかったが、それは大した問題ではなかった。彼が気にしたのは、プレゼントについてこれという答えが得られなかった時には、自分が彼を落胆させるということだった。しかしそれを避けようとして、今ここで彼の提案を撥ね付けることも彼にはできなかった。

オプティマス・プライムはメガトロンに視線を戻して言った。「わかった。」

メガトロンは言質を取ったというように、満足そうににやりと笑って頷いた。「では、当日を楽しみにしているぞ」





それからというもの、オプティマス・プライムはメガトロンへのプレゼントのことでずっと頭を悩ませていた。彼は困っていた。

実のところ、彼が件の話を持ち出す前から、オプティマス・プライムは彼が喜んでくれそうなものを見繕って、ささやかなプレゼントを贈るつもりでいた。彼はクリスマスのイベントにかこつけて、普段言葉の足りない自分の気持ちをメガトロンに伝えたいと思っていた。

しかし改めて「一番」の品を、と念を押されてしまうと、そう気楽にプレゼントを決められるものでもなくなってしまった。

メガトロンが一番欲しいと思っている物・・・オプティマス・プライムは、今まで自分がそのようなことを本気で考えた事がなかったということに気付いて愕然とした。

彼は一晩中考えたが、その内に彼の思考は堂々巡りを始めた。





翌日になって、彼は自室を後にした。


*


ホイルジャックのラボには、大量の小さな箱が山積みにされていた。見るからに怪しげな・・・機械のような、それでいてぐにゃぐにゃしたそれを遠巻きに見ながら、オプティマス・プライムは一心不乱に作業を続ける部屋の主に声をかけた。

「ホイルジャック。邪魔してすまない。これは?」

彼は手を止め、勢いよく振り返った。

「よくぞ聞いてくれました。それは我輩が新たに開発した・・・」彼は調子よく喋り出したが、急に口をつぐんだ。「おっといけない。それの正体は今はまだ秘密です。」

オプティマス・プライムは不吉な予感がした。「もしかして、クリスマスのプレゼントか?」

「その通り。皆に配るつもりです。もちろん、あなたにもひとつ差し上げますからね。」

「あ、ああ・・・ありがとう、ホイルジャック」

オプティマス・プライムは逃げるようにラボを後にした。


*


同じ廊下を進む内、彼は荷物を部屋に運び込むのに難儀しているサンストリーカーに会った。

「今日は、プライム。」

「やあサンストリーカー。手伝おう」

「助かります。重くはないんですが、持ち難くて」

部屋の隅に収めると、サンストリーカーは言った。「ランボルに渡すクリスマスプレゼントですよ」

「君たちもお互いに、贈り物をするのか」

「ええ、そうです。楽しみですよ」

「・・・君は相手にどんなものを選んだんだ?」

「あいつが前から欲しい欲しいって言っていた物です。もう半年も前からうるさくて。」

「そうなのか。随分とさっぱりしているんだな」

「お互い、遠慮するような間柄でもありませんしね。」彼は肩をすくめた。「尤も、俺はあいつが何をくれるつもりか知りませんが。それはそうと・・・あなたも誰かにプレゼントを?」

「え、いや・・・そういう訳では・・・ああ、立ち入ったことを聞いて済まなかった。それじゃ」

「ええ、楽しいクリスマスを!」

オプティマス・プライムはそそくさとその場を立ち去った。勘の良い彼が、深く追求してこなかったのがありがたかった。


*


本部建物の中心を通るメイン通路の途中にある、小さなホールは見事にクリスマス一色に変わっていた。

部屋の正面には、地球の植物を模した大きなツリーが据えられ、その枝にも数え切れないほどの小さな飾りが付けられていた。

バンブルやクリフといったカー集団が床のあちこちに置かれた大きな箱から次々と別の飾りを引っ張り出しては、すごい勢いで壁やテーブルを飾っていくのを、サンダークラッカーとスカイワープが呆気に取られた様子で見守っているのに、オプティマス・プライムはマスクの下で微笑んだ。彼らはとても楽しそうに見えた。

バンブルが彼を見つけて手を振った。「あ、オプティマス! どうですか、すごいでしょう!」

オプティマス・プライムは彼のいるホールの中央に向かって、足元に注意して慎重に進んだ。「すごいな。全部君たちが作ったのか」

「そうですよ!」

「ツリーはグレンに頼んだだろ。」チャージャーが突っ込んだ。

「そうそう」

「そうか、皆大したものだ」

話を聞きながら部屋の中を見回して、オプティマス・プライムは部屋の隅にていねいに積まれた箱に目を止めた。

「あれは?」

「これはみんなに配るプレゼントです。地球でもやったみたいな、ちょっとした・・・」バンブルは箱のふたを開けて中を見せた。小さな包みが一杯に入っていた。「ここを通りかかった連中に、手当たり次第にばらまくんです。」

「・・・ああ、そうだったな」

オプティマス・プライムは地球でのクリスマスを思い出した。彼は立場上、特定の者だけにプレゼントを渡す訳にもいかず、ある年はパーティの場で皆へ、という形で大きな物ややたらと数の多い物を提供したり、またある年は一人一人にカードを送ったりと、クリスマスの時期には毎年頭を悩ませてきたのだった。

いずれにしても、プレゼントは心遣いの意味が強く、決して高価な物を贈るのが上等という訳ではなかった。恐らくあの小さな包みも、恐ろしく甘いエネルゴンのキャラメル一個とか、そういう他愛のないもので、それも友人である人間の父子から教えられた遊び心の一環だった。

そういう基本的なことを思い出して、オプティマス・プライムは気持ちが少し楽になったのを感じた。「皆、クリスマスが楽しみだな」

バンブルが元気良く答えた。「勿論ですよ! そうでもなけりゃ、このセイバートロン星には何にも行事がないんだから。これから毎年やりますからね」

「毎年だって?」ドラッグが手を止めて彼を振り返った。「バンブル、お前本気か?」

「ちゃんとこの星のカレンダーに合わせるよ」

「一年に一回だって、400日毎にしなきゃいけないんだぞ。多すぎるだろ」

「そんなことないさ!」

「せめて10年に一度にしようぜ」

「つまんないこと言わないの。まったく、怠け者なんだから」

「何だって! お前だって結局遊んでるんじゃないか」

オプティマス・プライムの存在を忘れて言い争いを始めた彼らの邪魔をしないように、彼はそっとホールを出た。


*


オプティマス・プライムはバルコニーに人影を見つけて近付いた。それはアダムスとパーセプターだった。

パーセプターはアダムスに、彼の倍はあろうかという何やら大きな機械を渡し、その説明をしているようだった。

「やあ二人共。君たちもクリスマスの支度かい」

二人は彼を見てそれぞれ挨拶した。

パーセプターが言った。「まあ、そんなところですね。私から皆へのプレゼントとでも言いますか。折角思いついたのはいいんですが、こうしてアダムスに手伝ってもらわなければできないという訳です。もう準備は整いましたから、今彼に手順を説明していたところです。」

「よくわかった、パーセプター。」放っておけばいつまでも喋りそうな彼の話をさりげなく遮って、オプティマス・プライムは言った。「何をしても良いが、危険のないようにな。」

「安全性については保証付きですよ。」

アダムスが言った。「きっと皆驚きますよ。プライムもお楽しみに。」


*


オプティマス・プライムは溜め息を吐いた。プレゼント選びのための心構えは理解できたような気がした。しかし、具体的に何かの品物を選ぼうと思っても具体的なイメージはなかなか湧いてこなかった。

オプティマス・プライムは決定的なアドバイスを求めて、改めて覚悟を決めてある場所へ向かった。

ドアの横にあるパネルでチャイムをならすと、二、三秒後にドアがスライドして彼を部屋の中へ通した。

「急に訪ねて済まない、サウンドウェーブ」

立ち上がって彼を迎えた部屋の主は、黙ったまま手振りで彼に椅子を勧めた。

「君にこんなことを尋ねて申し訳ないんだが・・・他に誰に訊けば良いかわからないんだ。」

「構わない。聞こう。」美しい無機質な和音でサウンドウェーブは答えた。

オプティマス・プライムは頷いた。「メガトロンなんだが・・・彼は、一体どんな物を貰ったら喜ぶだろうか」

数秒の沈黙の後、サウンドウェーブは平坦に言った。「あらゆる意味で一流の品だ。」

「・・・それは、希少価値が高いとか、高価な物という意味か?」

「いや。高品質という意味だ。」

そこへ、どこからともなく足元からフレンジーとランブルが現れた。「なあなあ、何の話してんだ?」

オプティマス・プライムは一瞬迷ったが、彼らにも訊いてみることにした。見たところ、旧デストロンの中でも一番メガトロンに近く、率直な彼らのことだから、ともすれば他の誰に尋ねるよりも有力な手がかりが得られるかもしれなかった。

「二人共、一緒に考えてくれないか。メガトロンに贈り物をするとしたら、何が良いと思う?」

「お、クリスマスプレゼントか〜。」フレンジーがにやにやしながら言った。

「いいな〜。俺たちにもくれよ!」

オプティマス・プライムは少しだけ笑った。「いいよ。その代わり、この問題が片付いたらな」

「やった。」

色違いの二人はしばらくの間、う〜んと考え込んだ。

「あの人の好みは難しいぜ! 趣味に合わなきゃ、貰った物でも容赦なく捨てるしな〜」

「いくら心がこもっていても、モノ自体が良い物じゃなきゃ見向きもしないぜ」

「そうそう。基本的に、まごころとかそういうのは通じないよな〜」

「でも、あの人も相当のロマンチストだからさ。俺は、手作りのプレゼントなんか効果絶大と思うけどな」

「そうかあ〜?」

「普段使うような物と、飾っておくような物とではどちらがいいだろうか?」

「どっちでもいいんじゃねえの?」

「俺は使える物がいいと思うね」

「輝石などは好きな方だろうか」

「鉱石か〜・・・ルビーなんか好きなんじゃねえの?」

すかさずランブルがつっこんだ。「レーザーの材料って意味じゃあな。クリスマスに破壊兵器作ってどうすんだよ」

「別にいいじゃねーか。必需品だぜ。」彼は不思議そうに返した。「そういや、レーザーで思い出したけど、俺前にあの人がレーザーナイフが欲しいとか言ってたの聞いたことあるぜ」

「右手に強力なやつがあるじゃねーか。今さらそんなもんがいるのかよ」

「スパッと切れるやつが欲しいんだろ?別電源のさ」

「ふーん。」

「武器か・・・他には何かないか?」

「エネルギー鉱石とか?でも今はエネルギー不足って訳でもねえし」

「じゃあ、見たこともねえような珍しい金属はどうだ? 何かの材料になりそうなやつ」
「そりゃ良い考えだけどさ、クリスマスは来週だぜ。今から探しに行って間に合うのかよ」

「う〜ん・・・」

再び考え込む二人に、オプティマス・プライムは言った。「もういい、二人共。非常に参考になった。どうもありがとう。」

「ん〜そうか? そりゃ良かったぜ」

ランブルが手を振った。「プレゼント、忘れるなよ〜」





自室に戻る途中、オプティマス・プライムは廊下からバルコニーに出て、窓枠にもたれて遠くの街を見ていた。デストロン本部だった名残で、この建物のほとんどのバルコニーには手摺がないため、彼はあまり先の方には近付かないことにしていた。

そこへ近付いてくる足音に気付いて、彼ははっとした。姿を確認するまでもなく、それはメガトロンだった。

「オプティマス。探したぞ。」彼はオプティマス・プライムのすぐ脇に立った。

「メガトロン・・・」久し振りに会ったような気がした。実際に、昨日の朝からは一度も顔を見ていなかった。

そう思った所で、彼は目の前の体に何かの変化を感じてじっと見詰めた。

メガトロンも彼に習い、自分の胸に視線を落とした。「勘が良いな。今日取り替えたばかりだ」

地球での戦闘で随分傷がついていたから、強度が落ちる前に外殻の全体を交換したのだろうとオプティマス・プライムは思った。それで昨日から姿が見えなかったのだ。きっと医務室は一大作業とその厳重な警備のために大忙しだっただろう。そしてそのような素振りを少しも見せなかった彼らの手際に、オプティマス・プライムは改めてデストロンの実力を知ったような気がした。

オプティマス・プライムは傷ひとつない金属の表面にそっと触れた。少しの引っかかりもない滑らかな感触に、彼は頭の中が熱くなるのを感じた。

オプティマス・プライムの手の動きを見ながら、メガトロンは何気なく言った。「プレゼントは見つかったか?」

オプティマス・プライムは手を止めた。「いや・・・それが、まだなんだ」

「そうか、では一つヒントをやろう。」メガトロンは人差し指を立てて示した。「それはな、儂がいつも言っていることだ」

「いつも?」

「そうだ。普段儂がお前に何を言っているか、もう一度思い出してみろ。」

「・・・ああ」

メガトロンはオプティマス・プライムの肩を抱き、彼のマスクの上に軽く口付けた。「愛しているぞ、オプティマス。」

そう言って、彼は元来たように去ってしまった。





結局自分で考えるしかないのか、それはそうだろう、とオプティマス・プライムは追い詰められて幾分混乱した頭で思った。

そこで彼ははたと気付いた。メガトロンが望んでいるのは本当に「物」なのだろうか? 最初からそう思い込んでしまっていたが、本当は違うのだとしたら? それに彼が自分に対して、単に高価な物を要求するなんてことがあるだろうか? いや、ないだろう。それでは一体・・・?

どうしてわからないのだろう。私は彼を愛していないのだろうか? そう思うことは、彼の心に暗い陰を作った。

彼は自問自答した。自分は単に彼の好みを知らないと言うだけでなく、彼の望みに対して無関心できたのだ。それを自分に思い知らせるために、彼はこのような要求をしたのだろうか? いや、それは考えすぎだ。メガトロンは自分に対して当て擦りのような真似は決してしないし、彼自身、持って回ったやり方は嫌いのはずだ。

オプティマス・プライムは乱暴に頭を振った。自分の薄情を棚に上げ、挙句彼を悪く思うなんて、どうかしている。これは自分の問題なのだ、彼は心の中で宣言して、それ以上考えるのをやめた。





翌朝、彼の相談を受けたラチェットは、話を聞いて自信満々に答えた。

「あなたが一生懸命選んだ物なら、相手は何でも喜んで受け取ると思いますよ。」

オプティマス・プライムは視線を落とした。

「そうかもしれない・・・だが今回は、最初から一つの正解が用意されているんだ。」

「もし彼がごねたりしたら、私の気持ちが受け取れないのか!って、はたいてやればいいんですよ」そう言って、ラチェットは声を立てて笑った。

笑いを収めて、彼は言った。「彼はそんなに器の小さな人じゃありませんよ。」

「ああ、その通りだラチェット。だが私は彼をがっかりさせたくないんだ。」

ラチェットはオプティマス・プライムの肩をばんと叩いた。「心配いりませんよ、オプティマス。さあ、元気を出して」

「・・・ありがとう、ラチェット。」

かれこれ数百万年の付き合いになる医者に励まされて、彼は医務室を出た。

期日は3日後に迫っていた。





そして当日。セイバートロン星の空には雪が舞っていた・・・程度なら風情がある、で済んだのだが、本部の周囲はあとからあとから際限なく降り積もる雪に埋もれて、通路を確保した残りのスペースには氷の壁ができていた。それがどうやらパーセプターの仕業らしいと聞いて、オプティマス・プライムは小さく笑った。

「オプティマス。」待ち人が彼を呼んで、廊下の向こうからやってきた。そして同じように雪の山を見上げ、呆れたように言った。「何だこれは」

「ホワイトクリスマスだそうだ」

「なるほど。」彼はオプティマス・プライムに視線を戻し、歩き出した。「プレゼントは用意できたか、オプティマス? 準備ができたら、出かけるぞ。」

「どこへ行くんだ?」

「ついて来ればわかる。」

いくつもの通りを過ぎ、エレベーターを使って辿り付いた先はスペースブリッジだった。

オプティマス・プライムはその行き先を察して、足を止めた。「だめだ、メガトロン・・・」

メガトロンは動じないで答えた。「人間のことなら心配はいらん。ちゃんと場所は選んである。」

「・・・本当なのか」

「本当だとも。人間など、3日3晩探しても見つからんぞ。わかったら、さあ、行くぞ」





エレベーターと同じように乗り込んだその小さな部屋の扉が閉まり、磁場の変調を感じた一瞬後には、そこはもう金属の惑星ではなかった。

湿った空気が彼らを包んだ。雪に覆われた森の中に彼らは立っていた。澄み切った空には僅かな雲と、今まさに地平線から登ろうとする金色の太陽があった。

「・・・きれいだ。」オプティマス・プライムはその景色に心を奪われたように呟いた。そこには静かな空気の流れがあるだけで、何の物音もしなかった。

「気に入ったか?」

「ああ、本当に・・・美しい景色だ。信じられないくらいだ」オプティマス・プライムはメガトロンに向き直った。「嬉しいよ・・・ありがとう、メガトロン・・・再びこうして地球の景色を見られるなどとは、思ってもみなかった。」

公式にこの地球から退去した以上、スペースクルーザーで宇宙空間から近付くことは不可能だし、オプティマス・プライムには元々そのつもりもなかった。スペースブリッジがあってこそできる離れ業だった。特権濫用は気が咎めたが、今回はそれ以上反省する気になれなかった。

「それにしても、スペースブリッジは全て撤去したのではなかったのか?」

「地表にあるものはな。こいつの本体は地下の岩盤の下にある。人間共は存在に気付きもせんだろうよ。」

「ならいいんだが・・・」

「こうして役に立ったのだからいいだろう。」

「いや、すまない、そういうつもりでは」

「そんなことは良い。」メガトロンは恐縮するオプティマス・プライムの肩を叩いて笑った。「さて、オプティマス、そろそろお前からのプレゼントを貰えるかな」

「・・・メガトロン、そのことなんだが・・・」オプティマス・プライムは言い難そうに口篭もった。

「色々考えたんだが、結局何も良い考えが浮かばなかったんだ・・・それで・・・」

彼の指す経緯を知っているメガトロンは、彼の可愛らしい行動の数々を思い出して頬を緩めた。その表情は、俯いているオプティマス・プライムに見られずに済んだ。

それが見られただけでもプレゼントとしては充分だったが、オプティマス・プライムには何かがあるらしい。それも、それを公表するには相当の覚悟が必要なことのようだ。

彼の覚悟を促すように、メガトロンは言った。「それで?」

「・・・それで・・・」オプティマス・プライムは顔を上げた。逡巡と恥じらいが一緒になった、しかしそれを振り切るように思い切って向けられた視線に、メガトロンはエネルギーポンプを鷲掴みにされたような衝撃を感じた。見上げる青い光の美しさを、彼は初めて目にしたかのように感じた。

見惚れたまま動けないメガトロンに気付いているのかいないのか、オプティマス・プライムは彼の両肩に手をかけると、頭を少し傾がせて、そっと唇を重ねた。

「私、を・・・受け取ってくれないだろうか・・・?」

優しく押し付けられた唇は、体の中の熱を伝える前に離れた。間近の距離で、彼は言葉の続きを囁いた。「今日だけは、他のことは全て忘れて、私だけを見て欲しい・・・」

メガトロンは唖然として、彼を抱き返すことも忘れて突っ立っていた。彼は真っ白になった思考で、目の前のオプティマス・プライムを穴が開きそうな程に見詰めた。

「自惚れるわけではないが、お前が愛してくれる私の・・・偽りのない本音を、お前に・・・捧げたいと・・・」メガトロンが何の反応も返さないのを見て、彼は自分の失敗を悟った。彼は思い直したように、さっと体を離して、俯いた。「・・・す、すまない、端たない真似をしてしまって・・・呆れたか?」

メガトロンは尚も彼を見詰めたままだった。瞬きをしないでも目が乾燥しない構造がこの時は大変都合が良かった。ついでに口も開けたまま呼吸の止まった間の抜けた表情を、下を向いたオプティマス・プライムが見ていなかったのは彼にとって幸運だったと言えよう。

沈黙に居たたまれず、オプティマス・プライムは恐る恐る視線をメガトロンの方へ戻そうとした。「何とか言ってくれ、頼むから・・・メガ――」

最後まで言い終わらない内に、恐ろしい勢いで抱き締められて彼は息を詰まらせた。そして次の瞬間、頭から食い尽くされるのではないかと思える程に激しく口付けられて、彼は目を白黒させた。いつものゆったりとした余裕のあるそれとは打って変わった乱暴なそれは、初めて受けるオプティマス・プライムを暴風のように襲った。何度も繰り返し、息をつく間もなく求められるのに、オプティマス・プライムは同じように応えようと懸命になった。

やがて漸く長いキスの応酬を終わらせて、メガトロンは恋人の体を力一杯抱き締めて言った。

「お前というやつは・・・儂の息の根を止める気か?」

「何・・・」

「可愛いことを言うではないか。感服したぞ。全く、お前には敵わん」

満面の笑みを見て、オプティマス・プライムはほっと息を吐いた。

「私のプレゼントを・・・受け取ってくれるか?」

「勿論だとも。誰が突っ返したりするものか」

「・・・よかった」

「これぞ最高のプレゼントだ、オプティマス。儂の予想を遥かに越えるものだ」

オプティマス・プライムは安心したように微笑んだ。

「それで・・・正解は何だったんだ?」

「正解など最初から存在しない。」メガトロンは悪びれもせずに言った。

「何だって・・・」

「というより、何でも良かったのだ。お前が考えたものならな。」

オプティマス・プライムはどきりとした。彼の自尊心が一瞬で沸点まで押し上げようとした激しい怒りは、嘘のようにどこかへ飛んで行った。

「この一週間、お前が儂の出したクイズの答えを得るために奔走するのを見せてもらった。」

オプティマス・プライムは溜め息を吐いた。「私が走り回るのを、ずっと観察していたのか? ・・・ひどいな」

「誤解するな、お前を笑いものにしていたのではない。」メガトロンはオプティマス・プライムの顔を宥めるように撫でた。「数日ではあったが、その間お前の心を独占できたことが、儂は嬉しかった。他の者達から、地球での思い出から、そして地球そのものからもな。」

「メガトロン・・・」

「お前が儂を思って頭を悩ませていると思えるのは、なかなか気分が良かったぞ。」

ついでに、他の者達への牽制にもなったしな、という言葉はなんとか飲み込んだ。そうやって自分が利用したと知れば、彼は本気で怒るか傷つくかするだろうということを彼は予想していた。

この話題からは早く離れた方が良いと考えて、メガトロンは次へと移った。

「オプティマス、クリスマスの祭りには決まった色があるのを知っているか。」

「そうだな・・・赤と、緑色か?」

「そうだ。赤と白と緑、そしてそれを飾る金と銀だな。」言いながら、メガトロンは木々の枝を見上げた。「人間共が言うには、緑は永遠の生命の象徴だそうだ」

「そうなのか。」オプティマス・プライムは唐突な話の変化に半分ついて行けず、妙に感心した様子で頷いた。

彼はオプティマス・プライムの体を順に眺めやり、最後に彼の肩を撫でた。「白は純潔、そして赤は愛と寛大さの象徴だ。どうだ? お前にぴったりではないか」

ようやく彼の意図を察したオプティマス・プライムは恥ずかしさのあまり、すっかり頭に血、ではなく余分なエネルギーを上らせた。ロマンチストにも程があるぞ、と彼は心の中でフレンジーの言葉に突っ込みを入れた。

彼と対照的に、メガトロンは大真面目に恥ずかしげもなく続けた。

「金はさしずめ、あの太陽だな。そして・・・」

彼は、どこからともなく滑らかに輝く細い鎖を取り出した。「これが儂からのプレゼントだ。受け取ってくれ」

それは、細工が施された数本の鎖を組み合わて作った、繊細なデザインのブレスレットだった。彼は白銀色に輝くそれをオプティマス・プライムの手首に留めた。

それを見る内にオプティマス・プライムの心の中からは再び余裕が消え、空白になった思考で彼はかろうじて口を開いた。「ありがとう、とてもきれいだ・・・」

「よく似合うぞ。思った通りだ。」

「私はてっきり、今夜この場所に連れてきてくれたのが、お前からのプレゼントだと・・・」

「いいや。これはあくまで舞台設定だ。こういうイベントは、ムードが大切だからな。」

真面目に言うメガトロンに、オプティマス・プライムは笑ってしまった。

メガトロンはオプティマス・プライムを樅の木の根元に立たせ、数歩下がると、目の前の光景に満足そうに頷いた。「うむ。なかなかに麗しい眺めだ。人間共にしては、気の利いたカラーセンスだな。」

「メガトロン」オプティマス・プライムは小さな声で切れ切れに言った。「もしこのブレスレットがなくても、銀色は・・・お前がいるから」

メガトロンは一瞬の間、口を開いたまま唖然とした。「今日は、お前に驚かされることばかりだ。」彼は笑った。

オプティマス・プライムは言い訳をするように声を落とした。「思ったことを、正直に口にしただけだ。こういう私は、嫌か・・・?」

「まさか」メガトロンは、オプティマス・プライムに大股に歩み寄り、彼を抱き締めてキスをした。「愛しているぞ、オプティマス」

彼の肩に頭を寄せたオプティマス・プライムは、目の前にある輝きを見てはたと気付いた。

「メガトロン、もしかして、このブレスレット・・・お前の・・・」

「察しが良いな。そうだ、この間まで儂の胸だった合金でできておる。」メガトロンはにやりと笑った。「ちゃんとお前が身に付けるのに相応しいように精錬してあるぞ。」

「そんなこと、別にかまわないが・・・」

「滅多なことでは腐食せんが、時が経てば、それが朽ちる前にまた次を贈ろう。」

「・・・ありがとう。」そうだといいと思ってオプティマス・プライムは頷いた。

彼が考える以上に自分がこの贈り物を歓迎していることを、きっと彼は知らないだろうとオプティマス・プライムは思った。

戦争中は無論のこと、儀式や式典の場においても、手枷を連想させるこの装飾品を嫌う者は少なくなかった。しかしそれが逆に彼を安堵させるのだった。これは彼から与えられた約束の、目に見える証だった。自分はずっと、良い意味で自分を「縛る」物を求めていた。彼の愛情を信じながら、彼はいつも不安だった。だがこれがある限り、些細な心配に迷うことはないだろうと彼は思った。

「メガトロン、大事にするよ・・・」

メガトロンの腕が彼を抱き寄せ、二人は自然に唇を重ねた。お互いの気持ちを行き交わせるようにしばしの間優しく抱き合った後で、メガトロンは恋人の顔を窺うように見た。

「本部へ戻るか?」

「・・・ああ・・・」頷きかけて、オプティマス・プライムは自分が提供したプレゼントの内容を思い出した。彼はメガトロンの寛容さに甘えてしまわないよう、彼の視線から目を逸らして言った。「いや、やっぱりここで、・・・ここには誰もいないし・・・それに・・・」

「それに?」羞恥のために口篭もる彼を、メガトロンは相好を雪崩れさせて見詰めた。

「それに・・・」しばし口をぱくぱくさせた後で彼は唐突にメガトロンの肩を掴んで雪の上に引き倒し、それから小さな声で言った。「部屋へ行くまで待つなんて、嫌だ。早く・・・」

最後まで言い終わるのを待たず、雪に埋まった上半身を猛烈な勢いで起こしたメガトロンが彼に口付けた。

あっという間にひっくり返った視界の片隅に映った、沁みるような青い空の色を記憶に焼き付けて、オプティマス・プライムは一瞬の間視界を閉ざした。そして今度は何物にも代えることのできない大切な恋人の姿だけを映すために、再びその目を開けた。





Merry Christmas!









・・・ま、間に合った・・・最初は5ページ分ぐらいで終わる予定だったのに、
何でこんなに長くなったんだ。S.W.ファミリーのせいか?
つか、中途半端にお笑いですんません。地の文で雰囲気ぶち壊し。
未回収の伏線は行間を読んで補完して下さい(だめじゃん)
誤字脱字は黙殺するか、そっと教えて下さいネ。

この話はチャットでネタを提供して下さったえーこさんへ。
・・・え、ダメ?






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