以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。



 Gossip Tickles



 

珍しく、勤務シフトにも関わらず暇を持て余していたスカイワープとブリッツウイングは、大陸から遠く離れた海の底に建設された要塞の中でも更に深く、海底面下に位置する殺風景な廊下で立ち話をしていた。

「スタースクリームが?」

スカイワープが驚いてオウム返しに聞いた。「確かか?」

ブリッツウイングは至極真面目に頷いた。「ああ。確かだぜ。まあ、意外って気も、今更って気もするけどな」

決して大袈裟でなく太古の昔より、彼らのリーダーであるメガトロンの、ある種の意外とも言える名声はデストロン中に轟いていた。彼と顔を合わせた女性で彼との甘い一時を過ごさなかった者はいないとまことしやかに噂されるほどの、長大なトラック・レコードを彼は保持していた。今更そのリストに新しい名前がひとつ加わったところで誰も気にする者はなかったが、今回ばかりはその相手の名前が問題だった。

スカイワープは大仰な身振りで肩をすくめて見せた。「ボスも大概趣味悪ぃな。あいつの性格じゃ、どう考えてもお楽しみの相手には向いてないんじゃねぇか。むしろ気分が悪くなって終りだろ」

どのみち自力で子孫を作ることができない彼らにとって、ことセックスライフにおいて性別はまったく問題ではなかった。相手の体の構造に対する嗜好の問題はあったが、一夜限りの相手だろうが何万年もつるむ相手だろうが、大抵は性別よりも性格の好みを優先するのが普通だった。第一、彼らの種族にとって、人口に占める女性の比率は絶望的に低かった。

「さあなあ」ブリッツウイングは首を振った。「まあ、あの人も気まぐれだからな」

「だがまあ、話のネタとしちゃ充分だ。これでしばらくあの金切り声のボウヤをからかってやるとするか」

その時、廊下の角を曲がって現れた人影に、ブリッツウイングが顎をしゃくった。「お、噂をすればだ。サブリーダーどののお出ましだぜ」

一拍遅れて二人に気付いたスタースクリームは一瞬しまったという顔をしたが、すぐに気を持ち直して順番に二人を睨みつけ、いつもの調子が出るようにと内心祈りながら嫌味を言った。

「こんなところで何サボってやがる、このボンクラ共」

要塞の最中心部に位置するこの区域に近付く者は特定の人間を除いてほとんどいない。一般の兵士達の居住空間となっているフロアから強固な隔壁によって幾層も隔てられたこの通路の先には、リーダーであるメガトロンの私室があるだけだった。立ち入りが禁止されているわけではないが、差し迫った用もないのに無闇に近づきたくなるような場所ではない。

しかし彼の威嚇にひるむどころか、ニヤニヤしながらスカイワープは口を開いた。 「Hey, boy、随分とお楽しみだったみたいじゃねえか。ついにお前も女の子ちゃんの仲間入りってわけか」

その言葉にあからさまな侮蔑を感じて、彼らの目前を通り過ぎようとしていたスタースクリームは足を止めた。

彼らはメガトロンが手駒として重用している兵士、つまり男達の誰もを決して彼の寝室に招き入れないことを知っていた。他の多くの男達と同様、スカイワープは女性に対する差別意識を持っていなかったが、スタースクリームはそうではなかった。どんな理由があるかは知らなかったが、スタースクリームが女性という存在に恐れを抱くあまりに、彼女らの本来の能力や価値をまったく意に介せず、不当に低い評価を下して毛嫌いしていることを、彼の同僚は皆知っていた。

「喜んでメガトロンのベッドに飛び込む女たちをあんなに蔑んでたのはどこのどいつだ、リーダーの座はあきらめて、大人しくボスの足下で侍る気になったってわけか。」

「ふざけるな!冗談も大概にしやがれ」スタースクリームの双眸が怒りのために燃えるような光を発した。

「じゃ何だよ」それを無視して、スカイワープはけろりとして言った。

「うるせえっ!この俺様にはなあ、てめえらみたいなバカ共には想像もつかねえ事情があるんだよ!」

ブリッツウイングがせせら笑った。 「ベッドの中でメガトロンの弱点を探ろうってのか?そりゃ無駄ってもんだスタースクリーム、やめとけよ。それに、褥で彼の寝首を掻こうとした女は今までに何人もいたが、皆失敗してる」

それはスタースクリームも充分すぎるほどよく知っていた。かれこれ数百万年の間、デストロンのリーダーであるメガトロンを手っ取り早く亡き者にしようという対抗組織の密命を帯びた刺客や、個人的な恨みを抱いて彼の命を狙った女たちを、メガトロンはことごとく、それこそ何千という単位で返り討ちにしていた。破壊大帝の異名を持つ彼の容赦のない一撃を受けて息絶え、物言わぬ金属製の人形となり果てた哀れなロボットの残骸が彼の私室から運び出されるのを、スタースクリームは幾度となく目にしていた。メガトロンは何があっても、それこそコトの最中にだって、間違っても暗殺者に不覚を取るような真似はしないのだった。

「ふん、それが何だってんだ。一対一だって、俺はあいつを殺せる自信がある。だがそんなことしなくたって、俺はあいつを蹴落として、軍団のNo.1になってやるさ」

「へえ?」全く真に受けていない様子で、嫌なニヤニヤ笑いを顔面に張り付かせたスカイワープは、しかしそれ以上の詮索をしなかった。

自分でうっかり墓穴を掘らないよう口をつぐんだスタースクリームは、露骨に嫌な表情を浮かべて次に来るものを待ち受けた。この大馬鹿野郎の年上のジェット機が、彼をからかうのをこれで終りにしてさっさと立ち去ってくれればいいが、という彼の淡い期待は残念ながら見事に打ち砕かれた。

しばらく真面目な顔で考え込んでいたスカイワープは、名案を思いついたかのように口元だけでにやりと笑った。「それじゃ、お前さんはリーダーシップをベッドの中でひっくり返そうってんだな?」

スカイワープは顎に手をやってスタースクリームの全身を上から下までじろじろと眺め回し、彼の腰の辺りで視線を止めると、わざとらしく間を置いて言った。 「でもその様子じゃあ、リードを取らせてもらうにはまだまだみたいだな。」

途端にスタースクリームは噛み付いた。「スカイワープ、てめぇぶっ殺されてぇのか!!」

「お、図星か」横からブリッツウイングがからかった。

「黙りやがれ!!」
「おっと」

ブリッツウイングが予測していた動きで殴りかかるスタースクリームを避け、彼が踏鞴を踏んだところで、スカイワープは横から芝居じみた動作でスタースクリームの腰を取ってぐっと引き寄せた。

「・・・・・・・・・で、ボスはどうやってお前さんを可愛がってくれるんだい、ボウヤ?」

わざといやらしく囁き、スカイワープは抱き込んだスタースクリームの尻を撫で上げた。 ほんの十数分前まで限界レベルに高ぶっていた感覚を煽られて、スタースクリームは思わず短い喘ぎを洩らした。

スカイワープは我に返ったスタースクリームに殴られる前にさっと体を離した。彼のニヤニヤ笑いはもっと大きくなっていた。

もし人間だったら完全に赤面していたであろうスタースクリームは、次の瞬間烈火の如く怒り出した。「さっさと失せろ、このウスノロ共!!」

怒りのあまり狙いの定まらないレーザーをさっと飛び退いてかわし、そのままジェットモードにトランスフォームしたスカイワープは、スタースクリームの気に障る笑いとスラスターの轟音を残して、緩やかにカーブした海底基地の廊下の向こうに消えた。

あっという間に姿が見えなくなった同僚の代わりにスタースクリームがブリッツウイングに狙いをつける前に、彼らの間に単調なアナウンスが割って入った。

『アストロトレイン、ブリッツウイング、第二司令室へ』

「ブリッツウイング了解」

彼自身が備えた通信機に答えながら、ブリッツウイングは会心の笑みを浮かべた。「情報将校どのがお呼びだ。じゃあな」

彼はジェットモードにトランスフォームすると、スタースクリームに堂々と背後を見せて飛び去った。

簡潔な文面の召集は、しかしあらゆる事情に対して最優先の効力を持っており、この要塞に住む者は誰でも直ちに命令に従わなければならなかった。召集に従わなかった場合や、出頭を妨害した者には恐ろしい処罰が待っている。個人的な喧嘩を理由にした遅延などもっての他だ。No.2のスタースクリームとて、もちろん例外ではない。

「くそっ!」スタースクリームは腹いせに手近の壁面にあった通信パネルを撃った。

戦場では恐怖の対象である彼のナルビームによって電流を遮断され、全ての光が消えたパネルは、しかし破壊された訳ではなかった。数瞬の後、その事実に気付いて余計に気分を害した彼は、今度は渾身の力を込めて拳でパネルを殴りつけた。

タッチキーの操作盤は彼の拳の形に凹み、元はパネルのカバーであった強化ガラスの破片が床に散らばった。 今度は煙を上げて完全に沈黙した不運なパネルを後に、スタースクリームもまた廊下を歩き去って行った。





数週間後、デストロン本部の防衛を一任しているレーザーウェーブとの打ち合わせを終え、スペースブリッジでセイバートロン星から戻ったメガトロンは、海底基地に向かう途中、大陸の西端を南北に走る山脈沿いで、彼のNo.2であるジェット機がひとりで所在なさげに佇んでいるのを見つけた。

「おいスタースクリーム、お前は一体どうしてこんなところで遊んでいるのだ」声をかけながら、メガトロンは彼の目の前に降り立った。「儂が行きがけに命令しておいた仕事はどうした」

「メ、メガトロン・・・」

スタースクリームは半分呆けたまま立ち上がり、そしてはっと気を取り直すと、癇癪持ちのリーダーが短気を起こして彼を怒鳴りつける前に、慌てて報告を始めた。「も、もちろん、とっくに終わってます。完成したジェネレータのチェックも3回しましたけど、3回とも結果は完璧でした。問題はまったくありませんよ。」

「そうか、よろしい。よくやった」メガトロンは満足げに頷いた。つられるようにスタースクリームも少し笑った。

「それで?」

話は無事に終わったと思いきや、メガトロンが立ち去る気配はなかった。

「何がです?」困惑した表情を浮かべるスタースクリームに、メガトロンは忍耐強く繰り返した。「どうしてお前はこんなところで座っておったのだ」

基地はまだ遥かに遠い沖合いにある。この付近には手頃な発電所も臨時基地もなかった。

「・・・別に。気晴らしに、ちょっと飛びに出ただけです。言われなくても、もう戻りますよ」

金属の星を故郷とする彼らが、機械に囲まれた基地で過ごすことに苦痛を感じることはなかったが、それでも翼を持って生まれたスタースクリームのような者にとって、重い海水に封じ込められた狭い空間は気詰まりだった。彼らはオフになると何をおいてもまず海底の基地を抜け出した。メガトロンはもちろんそれを知っていたが、今回はその説明が言い訳じみて聞こえた。

ふと思いついて、メガトロンは左手を伸ばしてスタースクリームの頬に触れた。スタースクリームはほとんど飛び上がって驚き、数メートル飛び退いた。

「な、なんです」

「スタースクリーム、お前、暇だろう。儂と一緒に部屋に来い」

「えっ!あ、あの、俺、遠慮しときます。まだ飛び足りないし・・・この惑星を半周もしたら帰りますから!」上ずった声で、自分でも呆れるような適当な言い訳をして、スタースクリームは踵を返し、ジェットモードにトランスフォームすると、最大出力のエンジン熱と突風をその場に残して逃げるように飛び立った。

超音速のジェット機はみるみる内に小さくなり、すぐに光学センサーの視界から消えて行った。

「おかしな奴だ」

露骨に誘いを断ったスタースクリームに首を傾げ、しばらくの間立ち尽くしていたメガトロンは、しかし彼のことをまったく頭から追いやると、基地の方角を目指して飛び去った。




その後も、スタースクリームはやっきになってメガトロンからの誘いを避け続けていた。最初の内は何事かと彼の振る舞いを不審に思って様子を見守っていたメガトロンだったが、基地内で流れている噂話を少し拾うと直ちに事情を看破した。

そしてそれからさらに数ヵ月後、メガトロンは相変らず逃げ回るスタースクリームをついに彼の私室で捕まえ、少々強引に自分の部屋に引きずり込むことに成功した。

メガトロンがこのような手段に踏み切ったのにはもちろんそれなりの理由があったのだが、しかしそれは彼自身の我慢の限界というわけではなかった。彼は単に、よそよそしいスタースクリームの態度を観察するのに飽きたのだった。




メガトロンの私室は不必要に広く感じられた。エネルギー充電のためのベッドが置かれた寝室の区画と仕切られた執務室は巨大な組織を動かすリーダーの仕事場として充分機能する設備を備えていたが、メガトロンはセイバートロン星のデストロン本部に活動拠点を置いていた頃からずっと、仕事の全てを司令室でこなしていた。

生きた肉体を持った他の生命体と違って定期的な休息を必要としないのをいいことに、何日も不眠不休で精力的に働き続ける彼は、特定の用途に使われる場合を除いて、私室で過ごすことがほとんどなかった。本拠地が地球に移ってからというもの、特に最近はその特別な機会もめっきり減っていたため、滅多に主の戻らないその部屋は片付いたものだった。

仮電源の小さなランプだけが点ったコンソールパネルに腰掛けてつまらなそうに両足を揺らすスタースクリームの視界を遮るように立ち、メガトロンはわざとらしくならないよう細心の注意を払って猫なで声を作った。

「さあ、聞かせてくれるな。なぜ儂を避けるのだ、スタースクリーム?」

そ知らぬ振りで懐柔を図るリーダーに、気難しいジェット機はぷいとそっぽを向いた。「別に。ただ、そういう気分になれねーだけです」

メガトロンはともすれば顔面を支配しようとする笑いを必死で堪えつつ、真面目くさった表情を作って言った。「ではスタースクリーム、儂のために、気晴らしに付き合ってくれ。悪いようにはせんぞ。」横を向いたままのスタースクリームの頬を手の甲ですっと撫で、メガトロンは彼の音声センサーに唇を寄せて低く囁いた。「お前が好きなことは全部してやろう」

その言葉にぞくりと背筋を駆け抜けた感覚と、ぱっと胸中に溢れた期待とを強引に頭の隅に追いやって、メガトロンの手を払い除け、スタースクリームはつれなさを装った。だが一瞬のイメージが頭を過ぎっただけで、彼の体は主の意思を裏切って急激に高まり始めた。深紅の双眸はボディの内側で燃え上がった情欲を映してゆらゆらと瞬き、エネルギーポンプは最上級の喜びを予期して狂ったように回り始めた。

今度ばかりはもうどうやっても逃げられないということはわかっていた。そもそも彼の私室にのこのこと足を踏み入れてしまった時点で結果は決まっていたようなものだったが、それでもスタースクリームは往生際悪く、言葉を捜して言い募った。 「あ、あんたの気晴らしなんて、そんなの俺が知るかよ、誰か他の・・・」と、そこでこの地球の海底基地には女性が唯の一人も存在していないという事実を思い出した。

彼の知る限り、それこそ何百万年という長い間、彼のリーダーが一時の慰めの相手に選ぶのは、まさしく自分の他は女性だけであるという事実をスタースクリームはちゃんと知っていた。 しかし誰も代わりがいないから結果的に自分に白羽の矢が立ったのだと思うことに、彼は嫌悪を通り越して吐き気を覚えた。

心にもないこととはいえ、自分がメガトロンのリストの中で最下位に位置する最後の一つ、すなわち最も優先順位の低い残り物であると自ら口にすることは、スタースクリームに目の前が暗くなるような苛立ちを感じさせた。だがいつも階段の一番上から自分を見下ろしている憎たらしいリーダーに、自分が彼のお気に入りになることに拘っていると思わせることと比べればまだましなように思えた。

問題はそれだけではなかった。この間のように、メガトロンはごく稀に自らセイバートロン星に出向くことがあるのだ。滞在時間は長くて数日、短い時には数時間しかないこともある。その間に、彼は自分の楽しみを見つける時間があるだろうか?多分あるだろう、彼にその気があれば。女達はいつだってメガトロンを大喜びで迎えるのだ。だがもしそうだとしたら、この地球に戻った彼がこのように熱心に、自分に声をかけるのは何故だろう?

彼が葛藤している間に、メガトロンは音を立てないよう、恋人との親密な時間には無粋な右腕の融合カノンを外し、亜空間に仕舞い込んだ。

「・・・ったくしょうがねぇや、わかりましたよ。」

結局、自分に納得の行く説明のできないまま、スタースクリームは諦めるしかなかった。どの道、自分がそんなに長い間メガトロンから離れていることなどできはしないのだ。彼は彼自身に向かってだけ、嫌々ながら白状した。

メガトロンの提案に妥協したようなポーズを作り、しかし待ち望んでいたかのように、スタースクリームは加熱したため息を吐いて、自分から彼にキスした。何もかもわかっているような笑みを浮かべたメガトロンは、無理に乱暴な動作で首にしがみついてくる恋人を抱擁で受け止め、満足の笑みを浮かべた。

年下のジェット機のほっそりとした腰にその力強い腕を巻きつけ、白銀のデストロン・リーダーは熱烈なキスを返した。空いた方の手の平は手の届く範囲の全ての箇所を探り、スタースクリームの熱を煽るように彼の体を愛撫した。久し振りの、お楽しみの始まりだった。





照明を落とした彼の私室で、メガトロンは広いベッドの一辺が唯一接する壁に凭れて座り、高純度エネルゴンのキューブを片手に時折ちびりちびりとやっていた。

スタースクリームはメガトロンの隣で腹這いに寝転び、頬杖をついた格好で順を追って話をしていたが、自分の話に次第に機嫌を損ね始めていた。

「なるほど」事情を理解して、メガトロンは声を立てないように笑った。もしスタースクリームが気付けば怒り出すことは目に見えている。 「だが最初の時に、これは服従の印ではないとお前は自分で言っておったではないか」

「そりゃあ、今だってそうだ!けど・・・」スタースクリームはいらいらと何度も空中で足を組み直した。「あのブリッツウイングの間抜け野郎まで、俺をコケにしやがって!」

普段自らが蔑みの対象とする、無能な馬鹿共の笑いものになるのは、スタースクリームにとって一番許せないことだった。他のデストロンの多くが、スタースクリームを軍団のNo.2として尊敬するどころか、ほとんど馬鹿にしているのを彼は知っていた。 また連中が自分を見る目が悪い方に変わってしまうと思うと、スタースクリームは気が気でなかった。

「くそっ!」彼はいまいましげに頭を振った。まったくなんという失態だろう!

スタースクリームの心中を知ってか知らずか、メガトロンは殊更のんびりと言った。 「馬鹿者、今更こんなことでお前を見る目を変える奴などおらんわ」

だがスタースクリームはなだめるような彼の言葉を全然介さなかった。「こんなことになっちまったのはあんたのせいだぜ、メガトロン!」彼は衝動にまかせてガツンと音を立てて拳で合金のベッドを殴りつけ、さっとメガトロンの顔を振り仰いでにらみつけた。

彼自身がその正体をよくわかっていない八つ当たりの矛先が今度は自分に向いたと知って、メガトロンはやれやれと肩をすくめた。気の知れた同僚に少しからかわれただけで本気で腹を立てるNo.2と、あろうことかそんな彼を可愛いと思ってしまった自分に呆れたのだった。

スタースクリームが二人の間の共通の楽しみを避けていた理由を彼の口から聞きたいとは思ったが、折角のリラックスした雰囲気を台無しにしてまで、メガトロンは面倒な言い争いをしたくなかった。彼は久し振りに味わった満足のせいで普段よりも強くなった忍耐力を動員して、苛立ちを感じないように自分を仕向けた。そしてスタースクリームから目を逸らし、また少しエネルゴンを煽った。

「どうしてそれが儂の責任になるのだ」

「あんたが何度も俺を部屋に連れ込むから、目にする奴が増えたんですよ!」

メガトロンはなるべく彼を刺激しないような無難な言葉を選んだつもりだったが、失敗だったようだ。やはり、機嫌の悪いスタースクリームには何を言っても無駄だと彼は諦めた。「・・・言いがかりだ。」多少うんざりした気分で眉をひそめ、それでもメガトロンはしらばっくれた。

「では、こうやって儂と過ごすのはこれで最後にするか?」

それを聞いてスタースクリームは一瞬面食らったように口をつぐんだ。「だ、誰もそんなこと言ってねえだろ」

そっぽを向いてぼそぼそと呟く横顔を、メガトロンは目を細めて眺めた。

「もう噂は立っちまったんだし、手遅れでしょうが!・・・だ、大体、今更ってのはどういう意味だよ!!」

「何だ、聞いておったのか」まくしたてる年下の部下に、メガトロンは心の中で舌を出した。

折角の良い気分を台無しにされることを望まないメガトロンは、ベッドの上に起き上がって暴れ出し、喉元につかみかかろうとするスタースクリームの腕を取って逆に組み伏せ、なおも罵声を発しようとする口を自分のそれで塞いだ。 スタースクリームはしばらくの間文句を言いたそうに身じろいでいたが、執拗に続くメガトロンの情熱的なキスと、首筋と言わず肩と言わず、宥めるような愛撫を施す大きな手の平の感覚に、結局は全ての抵抗を捨てて応えるしかなかった。彼は覆い被さってくるメガトロンを強く抱き返した。

まだスタースクリームは彼の周りに最近起こったあらゆる出来事に対して少しも納得が行かなかったが、今回は大人しく流されてやることに決めた。メガトロンのテクニックは正直言って文句のつけようがないし、ベッドを共にする相手への当然のサービスとしてそれらを提供することがこの上官の主義だとわかっていても、馬鹿みたいに甘やかされ、大事に扱われるのは悪くなかった。

「まあ、いいか」小さな声で呟いたスタースクリームは、口元に満足げな笑みを浮かべて目を閉じた。














嘘です。うそうそ。

S.S.が金切り声なのは英語版だけですが、そっちのイメージも
鈴置さんのイメージも、私は両方同時に持っているのでこういうことに・・・。

最初はブリッツウイングじゃなくてサンダークラッカーがいたんですが、
同デザインのジェットが3人いるのはくどいかと思って変えました。

ちなみに、海底基地の通路には
「廊下を飛ぶな」
と張り紙がしてあるそうです(嘘)。




Copyright © 2002 女転信者. All Rights Reserved