以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

  

 
 
Perfect Star



 

「黙れ! 今すぐ言い争いをやめろ!」怒号と共に、爆発のような衝撃、そして轟音が響き渡った。

鈍い激突音と共に鋼柱は飴のように捻じ曲がり、人間の高さに合わせて嵌め込まれていた液晶パネルが砕け散った。軍人達は自分や仲間の安全を守るように素早く身構え、数人の文人は悲鳴を上げてその場で腰を抜かした。

ある者は恐る恐る目を開けて絶句し、またある者は優秀な視覚センサーから滞りなく伝えられる映像から全く意識を逸らすことができなかった。その場の全員が注目した先にあったのは、無残に破壊された大きな柱と、そしてその脇で拳を固めるオプティマス・プライムの姿だった。



怒声や罵倒が飛び交い、喧騒に満ちていた空間は一瞬で静まり返った。

衝撃の元であるオプティマス・プライムに向き直り、人間達は驚愕に目を見開いて硬直している。オートボットの面々も同様で、滅多に取り乱すことのないラチェットまでもが呆然と言葉を失っている。バンブルビーは自分が無意識の内に、脇に立つ若い人間の友人を庇うように片腕を伸ばしていたことに気付いたが、今更その腕を戻す訳にも行かず、気まずい沈黙を保った。

誰もこそりとも動かない。時が止まったかのように凍りついた雰囲気の中、自分が居合わせた全ての者の注目を集めていることに気付いて、オプティマス・プライムははっと我に返った。

「すまない。どうかしていた・・・怪我はないか?」

彼は近くの人間の前に体を屈めた。その人間が悲鳴を上げて後退るのを見て、オプティマス・プライムは彼を助け起こそうと伸ばした手を途中で止めた。

その光景を目にして、アイアンハイドがようやく気を取り直した。

「オプティマス・プライム、一体どうし・・・」彼が歩み寄ろうとするのを、オプティマス・プライムは片手で制した。

「本当に申し訳ない。外で頭を冷やしてくる。どうかそのまま話を続けてくれ。」オプティマス・プライムは視線から逃げるように踵を返し、足早に駐屯基地を後にした。

彼を追って来る者はなかった。





その晩、月は出ていなかった。暗闇の中をどれくらい走って来たのかはわからない。

オプティマス・プライムは次第に速度を落とし、ついに小高い丘の斜面で停車した。変形し、丘の頂上まで歩いて周囲を見回してみたが、無数の星が輝く暗い夜空の他には灰白色の岩と砂以外何もなかった。人間の町も、他の生物の姿も見えない。雲の一つさえなかった。

オプティマス・プライムは急に力を失い、その場に崩れるように座り込んだ。一人きりの長いドライブは彼の心を落ち着かせてはくれなかった。胸の中に巣食う苦悩を吐き出すように、彼は声を上げた。

咆哮とも呼べる悲痛な叫びと共に、彼は両の拳を地面に打ち付けた。小さな岩の欠片が砕け飛んだ。

叫びは始まりと同じように唐突に途切れ、再び沈黙した彼は拳の上に倒れ込むように蹲った。

しばらくして、彼は小さな声で呟いた。「・・・メガトロン」

自分の声を確かめるように、彼はその名前を繰り返した。

彼はふいに顔を上げ、空の一点をじっと見据えた。「メガトロン。聞こえているんだろう?」

切実な懇願のようなそれに答える声はなく、辺りはまた静寂に包まれた。静かな風の音だけが耳に届く。

数分が経った頃、風の音に別の音が混ざるのを聞いて、オプティマス・プライムは立ち上がった。

静かな空気を引き裂いて現れたジェット機はオプティマス・プライムの頭上を通り過ぎると急旋回し、空中で変形した。瓦礫を両足で踏み砕き、少し離れた丘の麓に着地したそのロボットは、白銀の装甲の奥から真紅に輝く視線を静かに彼に向けた。

「メガトロン」呼び掛けた瞬間に感じた違和感に、オプティマス・プライムは声を詰まらせた。

メガトロンは着地した地点から一歩も動く気配がなかった。何も言わず、ただ遠くから彼を見るだけだ。

オプティマス・プライムは咄嗟に思った。彼は本当にあのメガトロンなのだろうか、否、それは間違いない。体に、そしてスパークに感じる気配は彼のものだ。ただ、今までの彼とは決定的に何かが違っている。

オプティマス・プライムの知るメガトロンは元々感情的な方ではなかった。胸の奥に秘めた情熱とは裏腹に、表面上は目の前で起こる人の生き死ににも心を動かされず、淡々と理論に従う類の人間だった。戦いの中で時に見せる激情も今はないが、それだけではない。ひたと自分に向けられたそれはかつて目にしたことのない、冷たい視線だった。

一方で、オプティマス・プライムの心は荒れ狂っていた。嘆き、悲しみ、深く心を傷つける負の感情に苛まれ、少しでも気を抜けば濁流となった感情が堰を切って溢れ出しそうだった。限界はすぐそこまで迫っている――否、とうに過ぎていた。

「何故俺を呼んだ?」メガトロンが慎重に抑えた声で訊いた。「お前の力は俺のそれを遥かに超えた。俺の存在など、お前にとっては取るに足りないものだ。」

「そんな、」彼が無意識に一歩を踏み出すと、メガトロンは隙のない動作で同じだけ後ずさった。オプティマス・プライムは息を飲み、びくりと身を強張らせた。何故、という言葉は音にならなかった。

「今のお前にとって俺を殺すことは容易い。」

「そんなことしない! できるはずがない・・・」語尾は掠れて消えた。

「先の戦いでもし俺が最後までお前に挑めば、お前は躊躇いなく俺を殺したはずだ。他の多くの者にそうしたように。違うか、プライム」

プライム、とわざわざ強調されて、オプティマス・プライムは今度こそその場で昏倒しそうだった。

「やめろ! その呼び方はやめてくれ、私はそんな立派なものじゃない・・・頼む、お前だけには・・・頼むから・・・」

両膝を突いてがっくりと項垂れたオプティマス・プライムを目だけで追って、メガトロンは言った。「何を嘆く。お前には恐れる物など何もない。」

「私は・・・もう駄目だ、駄目なんだ、もうこれ以上耐えられない」悲痛な声で言い、オプティマス・プライムは数度頭を振った。「あれ以来、皆が私の一挙手一投足を固唾を飲んで見詰める。今では皆が私を恐れる。誰も私の言葉に異議を唱えようとしない。私が何かをしようとした時、人間達の顔にまず浮かぶのは恐怖の表情だ。怯えた表情で私を見上げるんだ。そこにあるのは羨望や好意ではない・・・恐れ、嫌悪、拒絶・・・まるで化け物を見るように、彼らは私を見る」

視覚を遮断したオプティマス・プライムの脳裏に、ある政府関係者の言葉が蘇った。『我々小さな人間にとっては、あなたの存在自体が既に脅威なのです。』

「それは強い力を持つ者の宿命だ、受け入れろ。」オプティマス・プライムから視線を少しも外さず、彼は驚く程穏やかに告げた。「お前はその力を必要とし、欲したのだ。」

「こんな力、私は欲しくない! 私はただ、誰かを守る力が欲しかっただけだ。皆に恐れられる存在になりたかったのではない・・・」

オプティマス・プライムは地面に座り込み、両手で顔を覆った。「どうしてこんなことに・・・一体何のために、今まで私は多くの同胞を殺してきたのか・・・」

それが先頃の戦いだけを指しているのではないことを承知して、メガトロンは応えた。「お前の信じる正義を全うするためだ、違うか」

オプティマス・プライムは尚も首を振った。「そのための殺し合いなど、私は始めから望んでいない・・・」

メガトロンは少し強い調子で、きっぱりと返した。「戦うことが嫌ならば死ね。それも厭うならば戦いのない場所まで、どこまでも逃げるが良い。」

それから数秒の間、オプティマス・プライムは黙っていた。再び話し始めた時には、彼の声は酷く弱々しく、ほとんど泣いているようだった。「・・・逃げ場などもうどこにもない。私はどこへも逃げられない。」

彼は顔を上げ、メガトロンを見た。「助けてくれ・・・メガトロン。トランスフォーマーと人間の命、地球の重さを、私は背負い切れない」

メガトロンは動かなかった。ただじっとオプティマス・プライムから視線を逸らさず、険しい表情を顔面に貼り付けたまま彼を注視している。

「地球の重さまでお前が背負う必要はないだろう」

オプティマス・プライムは首を振った。「セイバートロンと同じ滅びの運命を辿らせるわけにはいかない」

「何故お前はそこまで地球に拘る?」メガトロンはまたも訊いた。「ディセプティコンの脅威、それだけではあるまい。お前の大事な地球人の一部から疎まれてまでこの惑星にしがみ付く理由は何だ?」

「理由・・・理由など・・・。」

迷い、しばらく口篭った後で、オプティマス・プライムは消沈した様子で口を開いた。

「私はもう疲れた、何もない宇宙を彷徨い続けることに。戦い続けることにもとうの昔に嫌気が差した。」それは普段、彼が絶対に言わない本音だった。

「あの時、私は何もかも終わらせるつもりでいた、争いの元凶であるオールスパークを探し出し、破壊することで・・・」

「自らの人生も終わらせようとしたのだな」

「・・・そうだ。オールスパークとお前の行方を追ってセイバートロン星を離れてから、何万年も、何百万年も、私達は根無し草だった。地球は、この星は私にとってはようやく・・・ようやく辿り着いた安住の地なんだ。例え我々が招かれざる客であっても。」オプティマス・プライムは微かに声を震わせた。「だから失いたくないんだ。勝手なのはわかっている。人間には本当に悪いことをしていると思う。何の申し訳もしようがない。」

「・・・俺はそんなことを責めるつもりはない。」メガトロンは言った。それは自分と彼との、あるいはディセプティコンとオートボットとの思想の違いであることを彼は承知していた。そこに必要な物があれば奪う、自分が当然とみなす行為は、オプティマス・プライムにとっては絶対に許されない選択だった。

「本当にもう無理なんだ・・・メガトロン、私はお前のいない空しい空間を彷徨い続けていた。オールスパークなどよりも私はお前を探し出したかった。ずっとずっと捜し求め続けてきたお前、お前にいつか再び会えることだけを支えに私は生き延びてきた。多くのディセプティコンや他の惑星の住人達と戦い、彼らを殺して・・・」

搾り出すような、苦しげな声だった。

「耐えられなかった。私は何の希望もない、無意味な戦いの年月に疲れ果てていたんだ。もしこの先永遠にお前に会うことができないのなら、生きていても意味はない。そう思った時から、もう何もかもが、どうでもよくなった。さっさと全てを終わらせたかった。この惑星に送り込んでいた斥候からオールスパークが見つかったという知らせを聞いて、私は心底安堵した。これでやっと終わりだと。なのにお前は・・・あの日突然、お前は私の前に現れて・・・そして、お前は死んでしまった! まるで私の身代わりになったかのように。心から死を望んでいたのは私の方だったのに!」

メガトロンは何も言わず、ただ彼の言葉を聞いた。

「最期に、生きて再びお前の姿を見られたことが、私には本当に嬉しかった。そしてオールスパークと共に滅ぶことにも何の迷いもなかった。これで私は長かった苦しみから解放されると。だが結局、生き残ったのは私の方だった。」

記憶を反芻して、メガトロンは息を吐き、心の中で自嘲した。二度と思い出したくもない失態だったが、もう既に終わってしまったことは仕方がない。我ながら随分と融通が利くようになったものだと、彼は場違いに思った。

「再びお前を失って、私にはもう縋るものがこの星しか残されていない。お前がいた星、お前の気配が残るこの星、地球しか。それを守るためなら私は何だってする・・・!」

話す内にだんだんと語調が強く、呼吸が荒くなっていくのに、メガトロンは気付いていた。同時に彼の中で一つの形をとった静かな決意が、彼の不屈の闘争心をじりじりと呼び起こした。

ついにオプティマス・プライムが叫んだ。「私の手から奪おうとするならば、誰であろうと殺す!」

低く身構えた彼の拳の先で、赤熱した刃が空を薙いだ。

相対してメガトロンは目を細め、唸るように細く息を吐き出した。「哀れなオプティマス。喪失の恐怖に怯える余り、とうとう気が触れたか。」

戦いの構えを取らず、メガトロンはつかつかとオプティマス・プライムに歩み寄った。数多のロボットを斬り捨てた凶器も今はまるで眼中になく、少しも怯む気配を見せない。

反対に思わず竦んだオプティマス・プライムの肩を、メガトロンは無造作に掴み寄せた。お互いの胸が鈍い音を立ててぶつかった。彼は言った。「よく見ろ。俺は生きている。生きて今ここにいる俺の姿が、お前には見えないのか?」

オプティマス・プライムは驚愕に青い両目を瞬かせた。「・・・っ、メガ――」

「お前は本当におかしな奴だ。俺の存在を頼りに何万年も命を繋いでいただと? 遠い昔にお前を捨て、お前の故郷を滅ぼした俺を?」

彼は畳み掛けるように続けた。「たった数日前に、俺の刃を胸に受け、一度は息絶えたのを忘れたのか?」そしてオプティマス・プライムの顔をぐっと掴み、その目の奥を燃えるような真紅のそれで覗き込んだ。

そのまま彼の中に飲み込まれてしまいそうな錯覚に、オプティマス・プライムは言葉を返す余裕を失い、ただ彼を見るだけだった。

「お前はあっけなく死んだぞ。目の前で爆ぜたお前のスパークの熱さを、俺は今も鮮明に覚えている。」

オプティマス・プライムは震える両手をなんとか伸ばし、必死でメガトロンに縋りついた。気付けば彼の剣はその姿を消していた。メガトロンが彼の背をかき抱く。オプティマス・プライムの喉から嗚咽が漏れた。

「・・・メガトロン・・・ああ、本当に? お前・・・メガトロン・・・」

涙の中でうわ言のように繰り返し、しゃくり上げるオプティマス・プライムの背を、メガトロンは何度も撫で下ろした。

「オプティマス。お前は神や化け物などではない。簡単に死ぬ、単なる一人のトランスフォーマーに過ぎない。そして、取るに足りない存在にすら拒絶されることを恐れる臆病者だ。どちらかしか選ぶことのできない二つの物を両方欲しがる欲張りで、そのために自分の心が壊れるまで無理をする愚か者でもある。」

言い聞かせながら、メガトロンは宥めるように腕の中の存在に口付けた。何度も繰り返す内、とうとうどさくさに紛れて彼を地面に押し倒した。

「・・・メガ、」困惑とも制止ともつかない様子で、オプティマス・プライムは声を震わせた。しかし抵抗の気配は微塵もなかった。メガトロンは彼に向かってにやりと笑った。

「そしてお前は、この俺に組み敷かれて喜ぶような物好きだ。」





砂に半分埋もれた大きな岩に凭れ掛かり、数刻前とは随分変わった星図をオプティマス・プライムがぼんやりと眺めていると、彼の頭上から少しの苛立ちを含んだ声が聞こえてきた。

「・・・それにしても、相変わらずのオートボットの無能揃いには腹が立つわ。普段信頼だの友情だのと美徳を振り翳すくせに、お前一人を孤独に打ち捨てるとはな。」

オプティマス・プライムは身を起こし、岩の上のメガトロンを振り仰いだ。「違うんだ、メガトロン、彼らを悪く言わないでくれ、頼む・・・」

岩から降りて彼に近付きながら、メガトロンはわざと聞かせるよう、大げさに溜息を吐いた。「・・・オプティマス。お前は甘過ぎる」

オプティマス・プライムは左右に首を振った。「そうかも知れない。でも・・・」

メガトロンは彼の正面に立ち、見下ろして言った。「お前は昔からそうだった。危なくて少しの間も目が離せん」

オプティマス・プライムはそっと地面に視線を落とした。「そう言ってくれるお前がいる限り、私は大丈夫だ」

彼の視界を覆い隠すように屈み込み、メガトロンは凄んで見せた。「俺にあまり隙を見せるな。もう一度殺すぞ。」

「・・・本望だな」

「馬鹿が。まだその時ではない。」

抱き締めた。苦しい、と小さく上がった声が笑っているのを確かめて、メガトロンは更に両腕に力を込めた。





終わり








「リベンジ」のOPに、正直ドン引きだったので。

自分の気が済むように書いた。反省はしていない。
前置きを大分省略したのでわけわかんなかったらすいません。
あとタイトルに大した意味はありません。

「1」がある限り、OP→メガトロンはアリだと思っています。
OP、結局最後までメガさんにヒートソード?使わなかったように記憶してるんですが・・・
使ってたらごめん てへ☆





〜おまけ〜


「それはそうと、オプティマス。あまり気軽に呼んでもらっては困るな。“誰も見ていない”場所を探して抜けてくるのはなかなか骨が折れるのだぞ」

「冗談はよしてくれ。監視衛星と地上レーダーの隙間をすり抜けることくらい、お前にとっては簡単だろう」

「お前が自信満々に言うことか」

「お前に会いたいんだ」

「オプティマス」

「お願いだ。少しでも危険がある時には呼んだりしない」

「馬鹿が。そんな心配は無用だ。」

「・・・やはり、簡単なんだな」

「狡賢い奴だ。恐れ入る」

「狡猾でなければ国家元首など務まらない」

「その狡猾さを、自分の為に使えば良いのだがな。このお人好しが」

「使っているとも、今のように」

「馬鹿が。お前の利益になるように使えと言っているのだ。貧乏くじばかりを選んで引きおって」

「・・・」

「何だ?」

「・・・どうしてお前がそんなことを知っているんだ」

「気付かぬとでも思っていたのか、この馬鹿が。」

「馬鹿馬鹿言わないでくれ」

「自覚していないようだからな。何度でも言ってやる。」

「やれやれ。お前は何でもお見通しというわけか」

「お前のことはな。オプティマス。」

「・・・・・・・参ったな。」



おしまい




重ねて言わせて貰う。反省はしていない。


Copyright © 2009 女転信者 All Rights Reserved