以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。



The Spy Who Loved Me



 

『今、デストロンではジャズが流行っている』

数百万年に渡って続いた内戦が終結し、セイバートロン星に平和が訪れてから二年が過ぎた頃、首都に置かれたデストロン本部の周辺で奇妙な噂が流れ始めた。

その一見して不可解な噂はリーダーであるメガトロンの耳にも届いたが、その場に居合わせた彼の優秀なる情報参謀に意味を質せば、何のことはない、それはサイバトロンのジャズがデストロン兵を手当たり次第に捕まえては寝ているという、単純明快にして極めて下世話な噂話だった。

何か対策を講じるか、との部下の問いかけに、メガトロンは呆れた様子で放っておけ、と片手を振った。彼は部下の管理に関しては元来放任主義であり、またセイバートロンの社会に対して害が及ばない限りは、彼らがプライベートにおいて誰と何をしようが勝手であると考えていた。

いくらでも沸いて出るこの手の噂は実際枚挙に暇がなかった。彼は噂に対する興味を失い、その存在自体を気に留めることもしなくなった。

ところがその数週間後、メガトロンの元へ、遂に噂の元凶が現れたのだった。


***


「俺と、寝てみません?」

渋面を作るメガトロンの目の前で、すっきりとした唇が魅力的な笑みのカーブを描いた。青い視覚センサーはバイザーに隠れ、却って口元の表情が強調されている。その視覚的効果を彼はちゃんと理解しているようだ。

メガトロンは心の中で溜息を吐いた。「いらん。間に合っておる。」

自室兼執務室で仕事をしていた彼は、深夜のインターホンに応え、ジャズを部屋に通した事を早速後悔していた。彼は既に噂の存在をほとんど忘れていたし、それが単なる火遊びならば、まさかよりによってこの自分の所まで及ぶことはあるまいと油断したのが間違いだった。

「標準エネルゴン半分で、朝まで。」サービスするけど、とジャズは無邪気に笑って言った。

手元のデータを仕舞い、メガトロンは少し笑った。「随分ふっかけるな。」

「安いもんさ。」

「自信有りということか。」メガトロンは椅子の背に凭れ、ジャズの顔をじっと見た。「サイバトロン軍総司令の副官ともあろう者が、誰彼構わず火遊びとは感心せんな。」

「サイバトロンは関係ありませんよ。」ジャズは咄嗟に強く言い、言い訳をするように付け足した。「これは俺の趣味、副業みたいなもんですから。」

「そうか。」メガトロンは特に気にする様子もなく、あっさりと言った。「お前の趣味に口を出すつもりはないが、儂には必要ない。わかったら出て行け。見ての通り、儂は仕事中だ。」

「でも、もう夜中ですよ。」

「他を当たれ。」

ジャズはあからさまにがっくりと肩を落とした。そして部屋から出て行くと思いきや、彼はデスクを回ってメガトロンに近付き、デスクの縁に腰で凭れ掛かるように立った。見せ付けるような仕草だった。

メガトロンは僅かに視線を鋭くした。もし今彼がデスクに腰掛けていたら、即部屋から叩き出していたところだ。そうしなかったのは恐らく偶然ではないのだろう。食えない奴だ。

「今日は皆に振られてしまって。貴方に断られたら、今夜寝る所がないんです。」

「自分の部屋へ帰ればよかろう。」

「俺の部屋には友達がいるんです、恋人を連れ込んで。」

「呆れたものだ。サイバトロンの風紀はどうなっている?」

「だからサイバトロンは関係ないんですって。」ジャズはゆっくりと手を伸ばし、肘掛の上に置かれたメガトロンの腕にそっと触れた。「そうじゃなくて、本当に寝るところがないんです。一晩、ここに置いてくれませんか?」

「わかったわかった。では隣の部屋のベッドを使っていい。今すぐ行って朝まで静かに寝ていろ。宿代はいらん。おやすみ。」

メガトロンは纏わり付く彼をうるさそうに払い、しっしと追い払う仕草をした。

ジャズは隣接した寝室を覗き、メガトロンを振り返った。「ベッドがひとつしかありませんよ。」

「それで寝ろ。文句を言うなら出て行け。」と、彼は再び立ち上げたコンソールから顔を上げずに応えた。

ジャズは困ったように言った。「貴方の寝るところがなくなってしまうじゃありませんか。」

「今更殊勝な事を抜かすな。儂はまだ当分起きておる。」

ジャズは困惑した声を出した。「俺は、貴方を困らせたい訳じゃないんです。本当に・・・俺だけ使えませんよ。」

「やるべきことが終わったら儂もそこで休む。スペースは充分あるだろう。さっさと寝ろ。」

改めて見ると、確かに広い。ベッドは軽く三人分くらいのスペースがある。いいなあ、私の部屋にもこういうのが欲しい、とジャズは思った。

「じゃあ、遠慮なく。」ジャズは再度振り返って言った。「貴方も本当に寝て下さいよ?」

「当たり前だ。つまらん心配をせずにさっさと寝ろ。」

「はい、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

ドアがスライドして閉まると、寝室はベッドサイドの小さな明かりを残して薄暗く、また物音一つしない静寂に包まれた。厚い壁に遮られ、隣室の気配は伺えない。ジャズは広いベッドの隅に腰掛け、ほっと溜息をついた。

「・・・ああ、何か調子狂うなあ・・・」ベッドの壁際に寄って寝転がり、彼は天井を見上げて呟いた。暫くして彼は視覚センサーを遮断した。


***


ジャズはドアのスライドする僅かな音に目を覚ました。体内の時計に照会すると、先程のやり取りから三時間が経っていた。

視覚センサーは遮断したまま、緊張に気付かれないように様子を伺っていると、無造作に近付いてきた大きな気配がベッドに乗り上げ、空いたスペースに横になったのがわかった。

そのまま彼が休息モードに移行しようとしているのを感じて、ジャズは驚きを隠せなった。自分がすぐ隣にいるっていうのに、何て無防備な人なんだろう。

約二年前にサイバトロンとデストロンとの間で和平が結ばれてからというもの、表立って敵対した覚えはないが、腹の探り合いと政治的な駆け引きはずっと続いている。敵ではなくとも決して仲間とは言い難い関係だというのに、この気安さは一体どうしたことだろう。自分は彼に信用されているのだろうか。それとも、警戒するまでもない相手であると、舐められているのだろうか?

ジャズは若干の焦りを感じつつ、それを押し殺して両腕でぐいと体を起こした。

「・・・メガトロン。もう寝てしまいました?」

薄闇に鈍く光る、厚い胸に手の平で触れる。途端に双眸に深紅の光が戻った。

「何だ、まだ寝ていなかったのか?」

「寝てましたよ。けど貴方が来たのに気付いたので。」

「起こしたか。それは――」

「いいえ。待っていたんです。」皆まで言わせず、ジャズはメガトロンの唇を口付けで塞いだ。強い力で押し退けられ、体が離れた。

「余計なことはせんでいいから、朝まで大人しく寝ていろ。」

「でも、同じベッドに入って何もしないなんて、間抜けじゃありませんか。」

「黙れ。摘み出されたいのか?」

不機嫌を顕わにした声にも怯まず、ジャズは言った。「ね、ちょっとだけ。」

「礼のつもりなら必要ない。」

「そんなんじゃありません。俺のためだと思って・・・」

滑らかな太腿の内側でメガトロンのそれを撫で上げるように纏わり付き、ジャズはしつこく食い下がった。「据え膳ですよ・・・お願いですから、俺にあんまり恥かかせないで下さい。」

気落ちして見せた、かつ甘えた声音に、メガトロンはうんざりした様子で返した。「わかった、ではお手並み拝見といこう。」言いながら、彼は圧し掛かるジャズの腰を片方の腕で抱いた。

「眠っていた方がましだった、などと後悔させてくれるなよ。」

挑戦的なメガトロンの微笑みを受けて、ジャズはバイザーの下でにやりと笑った。「そうこなくちゃ。」


***


実際こうして彼と事に及んでみると、件の噂が一騒動を巻き起こしたのも無理からぬことだとメガトロンは思った。

かつては稀代の女たらしとして惑星全土にその名を轟かせたメガトロンから見ても、ジャズは一夜の相手として申し分のない技量を身に付けていた。気の利いた言葉のやり取りに、情人の気を引く何気ない仕草、愛撫に応える甘い声も、計算し尽くされたバランスを保っていた。

しかし充分時間をかけ、それが存分に発揮された今となっても、メガトロンの歓心が呼び起こされることはなかった。

僅かに息を乱したジャズが頃合いと見て腹に乗りかかったところで、メガトロンはそれまで好きにさせていた彼の体を押し留めた。

「ちょっ、な、何ですか?」心身共にいくらか緊張していたジャズは、肝心なところで出鼻を挫かれて思わず抗議の声を上げた。

「あ、もしかして、騎乗位お嫌いでしたか? 俺が横になります?」

「もういい。」

殊更に冷たい声がぴしゃりと告げ、ジャズはさっと胸が冷える思いがして身を強張らせた。

「え・・・?」

「やめだ。」

「どうして・・・全然気持ち良くないですか? でもこれから、」

「ジャズ。」メガトロンは強い調子で遮った。数時間前に執務室に強引に押しかけてから今までに見ることがなかった彼の厳しい表情に、ジャズは少し怯んだ。

「儂は気のない相手を抱く趣味はない。」

「な、何言ってるんです・・・」

メガトロンは更に畳み掛けた。「売女を自称するなら、嫌悪を相手に気取られるような真似はせんことだ。」

ジャズが言葉を失っている間に、メガトロンは簡単に身支度を整え、彼を置いてベッドを降りた。彼は寝室から出て行き、朝まで戻ることはなかった。


***


早朝、眠れない時間を過ごしたジャズが寝室を出ると、執務室のデスクにメガトロンが昨日と同じように座っていた。

「おはよう、ジャズ。」と、彼は手元から顔を上げずに言った。普段と少しも変わらない、力と威厳に満ちた声だった。

「おはようございます。」ジャズはいくらか覇気のない声で応えた。「ずっとそこで仕事をしていたんですか?」

「ああ。」

「あの・・・すみませんでした、色々と。」

「構わん。気にするな。」

メガトロンはこともなげに答えた。

幾分かの苦言、ないしは説教を予想していたジャズは内心拍子抜けしてしまった。彼の横顔を見ながらしばらく言葉を捜していたが、数秒経ってぎこちなく視線を逸らした。「俺・・・帰ります。」

「ああ、そうしろ。」

大きなデスクの前を横切り、ドアまであと二歩というところで、メガトロンが声を掛けた。「待て。」

「何ですか?」

振り向くと同時に目の前に飛んできた物を咄嗟に受け取って、彼は驚いた。エネルゴンキューブ、それも、昨晩自分が要求した数倍の価値のあるものだった。

「持って行け。」

「そんな! 受け取れません・・・!」

「お前の飼い主には、昨晩はお前を美味しく頂いたと儂から言っておいてやる。」

思いもかけないメガトロンの台詞に、ジャズは背筋が冷たくなったのを感じた。彼は一体何を知っているというのだろう。

声が震えたりしませんように、と祈りながら彼は早口で言った。「飼い主なんて何のことです? 私は・・・」

「いいから持って行け。」

「メガトロン、」

「ジャズ。」メガトロンはコンソールから顔を上げ、有無を言わせぬ強い視線で真っ直ぐにジャズを見た。「お前が本当に儂に興味を持ったら、また来るがいい。」

そう言った彼の口元には、厳格な態度とは裏腹に温かみのある微笑みが浮かんでいた。彼はそれだけ告げると、ジャズの存在を忘れたかのように再び手元の仕事に集中し始めた。

ジャズは何も言えず、只ぺこりと頭を下げてお辞儀をすると、彼の部屋を飛び出した。


***


日が高くなって活気付いた大通りをふらふらと渡り、細い路地をいくつも過ぎていつものねぐらに辿り着くと、ジャズは背後に閉まったドアに凭れてその場に座り込んだ。

「お帰り、ジャズ。首尾はどうだった?」と、部屋の奥から彼の仲間が出迎えて言った。「おや、すごいな。立派なエネルゴンキューブじゃないか。」

それを無言で手渡すジャズの顔を見て、彼は驚きの声を上げた。「ジャズ、どうしたんだ? 泣いてるのか?」

「そんなことないよ。」言いながら、ジャズは自分で顔に触れてみて驚いた。確かに濡れている。

仲間は彼の顔を心配そうに覗き込んだ。「何か酷いことされたのか? 相手は誰だ? 今から俺が行ってぶちのめして・・・」

「待てよ、誤解だ。そうじゃない。」ジャズはいきり立つ仲間を笑いながら押し留めた。「・・・彼は優しかったよ。本当だ。」

俯いた拍子にまた一滴涙が零れ落ち、汚れた金属の床に小さな染みを作った。






The End









まさかのメガジャズ。どうしてこうなった。

「デストロンでジャズが流行っている」という夢のお告げがあり、
それってどういうことだってばよ・・・と頭を悩ませた挙句できた話です。

念の為:この話ではメガ様はOPとはできてません。

メガ様は昔は遊び人だったらしい。今も来る者拒まず主義。



以下様々な言い訳↓

初代なのに何でジャズ?
だってお告げで「ジャズ」って言われたんだもん!
・・・ほんとすいません。

ベッドシーンが割と重要な話なのにそういうシーンをカットしたら
話が解り難くなってしまいましたすいません。

あとお察しの通り終わってません。
ストーリーとしては最後まで出来上がってるんですが、
オリキャラとか出てきてあんまり面白くもない上に、
続編はほぼSW×ジャズで、
問題ありげなシーンをカットしたら
残りがほとんどなくなってしまったので以下略。

最初実写映画でやろうとしたのですが
(そうすればいつかの約束が果たせる・・・!)
駄目でした。切腹。
だってお告げに出てきたメガ様初代だったし・・・

てな感じで色々とすいません。
けどノリノリで書いた!






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