以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。



He Said That He Still Loves You



 
20世紀も終わりに差し掛かった、サイバトロン基地が位置する北半球の内陸では夏の終わりを迎えた頃だった。

合衆国を中心とした地球人の国家連邦との通信会議を終え、オプティマス・プライムは沈痛な面持ちで通信室を出た。隣接する司令室へと足を踏み入れた途端、彼の帰りを待っていた数人の部下達の視線が集まり、雑談が途絶えた。

プロールが幾分緊張した面持ちで口を開いた。「どうでしたか、司令官。」

オプティマス・プライムは首を振った。「だめだ。大統領は議会を説得できないと言っている。国連軍は交渉期限を先に延ばすつもりはないと言うばかりで、こちらの話は聞く耳を持たない。」

静まり返った司令室に、重苦しい空気が垂れ込めた。



1980年代の半ば、数百万年の眠りから目覚め、その生命を再起動させた彼らセイバートロン人は、当時の惑星上の実質的な支配種族であると同時に彼らの基準に適合する知的生命体であった地球人類との衝撃的な遭遇を果たした。

彼らの最初の協力者である人間の父子との幸運な出会いと、その後の懸命な努力の結果、オプティマス・プライム率いるサイバトロンは地球人の内の多くと友好的な和平関係を築くことに成功していた。彼らは国際機関および、実質的に世界を牛耳る大国である合衆国との友好関係を重視すると同時に、絶えず人類を尊重し協力する姿勢を見せ、実際に多くの技術的な支援を与えていた。そして地球上の各地でデストロンが絶えず起こす問題の解決に当たり、損害の回復を助け、次なる被害を未然に防ぐ為に絶え間のない努力を続けていた。

その順調かに見えた友好関係に陰りが見え始めたのは、彼らの出会いから20年が過ぎた頃だった。

最初、人類から見たセイバートロン人は正に驚異的な存在だった。科学的・工学的に遥か遠い技術水準を持った金属元素ベースの生命体は、当時の常識では説明のつかない、しかし紛れもない現実でしかなかった。

サイバトロンとの協力関係を取り付けた人類は彼ら自身の驚異的な進歩を予感した。エネルギー問題や食糧難といった、国際社会が抱える種々の技術的な問題は一挙に解決され、新世紀の繁栄が確約されたかのようであった。一方で各国はサイバトロンとの独自かつ親密な協力関係を熱望し、他国への優越を求めて露骨な競争を繰り広げた。

オプティマス・プライムは自分達が地球人同士の争いの元になることを恐れ、政治的に極めて慎重な振る舞いと判断を強いられることとなった。間違いは許されなかった。彼らは一度こじれた同族同士の争いがいかに収め難く、多くの犠牲を生み出すものかを身をもって知っていた。

しかし20年経った今も、人々が期待した劇的な革命は起こっていなかった。飛躍的な進歩を遂げたコンピュータ技術を使った共同研究により、多くの環境問題には解決の糸口が見つかり、実際に大きな成果を上げたものもあった。しかし金属と機械の惑星であるセイバートロンの技術は基本的に炭素化合物の惑星である地球に応用するには土台からあまりに大きな違いがあった。彼らの持つ、とりわけ、生まれ持った技術や能力を、地球人が扱いうる技術として伝達することには計り知れない困難があり、その大半はほとんど不可能だった。

中でも最も大きな期待を受けた分野の一つがエネルギー問題だった。太陽光発電のエネルギー変換効率が80%近くにまで引き上げられたことで危機的な状況は脱したが、期待された核融合の技術は未だ確立されていなかった。サイバトロンはその要求に応える技術を持っていなかった。

各国の軍部が最も期待した軍事技術の進歩に関しては、オプティマス・プライムは極めて慎重で保守的な援助に限って協力するという判断を下したが、これは後に避けられない大きな葛藤と対立とを生み出した。地球人の軍事技術を求める貪欲さに、オプティマス・プライムを始めとするサイバトロンの面々は非常に驚いていた。地球人は時間と資金さえあれば常に軍事技術の研究に勤しんでいた。兵器は次々とコンピュータ制御化されて効率的になり、大型兵器の世代交代は驚くほど速かった。

軍の研究者はまたリジェの不可視化能力に大きな興味を示した。オプティマス・プライムはそれを地球人の手に渡すことを硬く禁じたが、彼が案ずるまでもなく、リジェは自分がなぜその能力を持っているのか、どうやってそれを使っているのかを知らなかった。

また最初期から大変な注目を集め、常に追求の的になっていた、デストロンの用いる飛行原理についても、サイバトロンは何の知識も持っていなかった。ただそれが何かによって万有引力を打ち消す技術であろうという、地球人と同じレベルの想像をするに過ぎなかった。

多くの地球人は、サイバトロンが当初の約束に反して、故意に技術協力を拒んでいるものと考えていた。しかし実際は、軍事用に直結する種類のものを除いては、彼らが情報を出し惜しみしているという事実はなかった。彼らは単純明快な科学技術の複合体ではなく、各個の部分が複雑かつ相互作用的に干渉し合って奇跡的な働きをする、地球人的な表現をすれば“有機的に”組み上げられた生命体だったのである。

彼らは地球上に蔓延る問題を解決するために、地球人の研究者と協力して仕事に当たり、誠実に努力をしていた。またそれによって多くの人や機関から信頼を得ていた。しかしそれでも、地球におけるサイバトロンの立場は危ういバランスの上に立っていた。



オプティマス・プライムは頭を抱えんばかりの苦悩を隠すよう努力しながら、長い会議の結論を端的に表した。

「地球人はデストロンとの決戦を望んでいる。」

それぞれテーブルに着いたサイバトロンの中枢メンバーは、それぞれに程度は違えど同じように驚きの反応を示した。

「そんな馬鹿な!」アイアンハイドが声を上げた。

「彼らは、自分達がデストロンに対抗し得る戦力を持ったと考えている。」

「まさか、冗談でしょう。」

「少なくとも、我々との共同戦線によって、彼らに大きな損害を与え、地球上での侵攻を断念させることが可能だと考えているようだ。」

「大きな損害ですって?」

マイスターが冷静に言った。「デストロンによるエネルギー簒奪をこれ以上見過ごすことはできないというわけですね。」

「それを防ぐ為に、俺達が走り回ってるんじゃないか。」

むっとした様子のアイアンハイドに、マイスターが続けた。

「彼らにとっては、我々の働きは不十分なんだ。これ以上、少しの被害も我慢できないんだろう。」

オプティマス・プライムが肯定した。「彼らはもう20年待ったと言った。彼らの時は短い。」

彼はテーブルの上で両手を組み、視線を落とした。「彼らは言った。目の前で我々の貴重な資源が奪われるのを、ただ見ていろと言うのか、と。私は返答できなかった。」

実際、オプティマス・プライムはそれが一番良い方法だと思っていた。少なくとも、それが最も地球人の生命にとって被害の少ない方法だった。嵐はそれが過ぎ去るのを待つ他ないのだ。デストロンは、地球上に存在するめぼしいエネルギー資源を粗方手に入れた暁には、地球への関心を失ってこの星を去るだろう。リーダーであるメガトロンの合理性を鑑みて、その予想には疑問の余地がないようにオプティマス・プライムには思われた。

デストロンが地球上で狙うのは極めて効率的に、言い換えれば簡単に手に入るエネルギーだけだ。それがなくなれば、この住み難い、有毒な大気と有機的な不純物に塗れた劣悪な環境の惑星に留まる理由はない。他の物質資源はもっと質の良いものが得られる惑星が他にあるし、メガトロンにとっては地球人から学ぶものなど何もないだろう。長くて80年、恐らくは50年程度、もし他に彼らの興味が惹かれるものが発見されればもっと早くに、何もせずとも彼らは地球を去るはずだ。

今彼が地球人を無視しているのは、デストロンにとって地球人が全く脅威でないからだ。もし地球人がデストロンへの反旗を翻し、彼らを攻撃して損害を与えるようになれば、メガトロンは地球人を決して放っておくまい。

オプティマス・プライムには確信があった。偶発的な事故を除いてメガトロンが地球人を殺傷した事実はなく、それは幸運や偶然によるものではないのだ。彼は地球人を直接害することを極力避けている。それは地球人や、サイバトロンの誰に言っても信じる者はいないだろうが――彼が持つ、自分よりも遥かに弱く脆い生命に向けられた哀れみの気持ちによって必然的に生じる結果なのだ。彼は戯れに他の命を奪うことはしない。そして恐らくはもう一つ、自分が当初より執拗にそれを要求し続け、彼が自分の言葉に聞く耳を持っているからかもしれない。

地球人の方から手を出さない限り、デストロンが彼らに壊滅的な打撃を与えることはないだろう。しかし一旦彼らを敵とみなせば、デストロンは彼らの本領を発揮して容赦なく彼らの住処を破壊し、恐ろしいほど効率的に彼らを殺すだろう。地球人の軍隊は数日間も持ち堪えられないに違いない。

「地球人は、デストロンの戦力を見誤っている。と言うより、本気の彼らの力を目にした機会がないために、彼らの力を知らないのだ。」

「もし戦って相応の被害を与えることを考えるとすれば・・・」プロールは頭の中で数々のシミュレーションを試し始めた。他の者もそれぞれ思索に沈み、司令室に一旦沈黙が下りた。

「人間に対して油断しているデストロンに不意打ちを成功させ、最初の一撃で壊滅的な打撃を与える、という以外にないでしょうね。」

「・・・そうだ。私もその結論に至った。」オプティマス・プライムは感情を押し殺した声で言った。「最初の一撃で倒せなければ、終わりだ。」

沈黙が続いた。その成功の可能性を、誰も信じることはできなかった。

確かに、地球人の持つ攻撃兵器の破壊力は格段の進歩を遂げ、最も効果的な運用によってはデストロンに大きな被害を与えることができるだろう。小型の核爆弾ほどの威力があれば、重装兵の一人や二人を殺すことは可能かもしれない。

「しかし、彼らの兵器は電子化されている。」

それが問題の全てだった。

仮に地球人とデストロンの間で戦いが勃発したとして、数分後には地球人の持つ全ての電子制御された兵器が使用不能になっているだろう。レーダー、弾道ミサイル、戦闘機、衛星、空母、通信、大規模な施設は勿論、半日も経てば個々の兵士が持つ携帯火器や暗視装置、一般市民の持つ携帯電話に至るまで、全てがデストロンのために動作するようになるはずだ。情報は混乱し、操作され、翌日には地球人同士の戦争が世界各地で始まることは想像に難くない。

そしてもしもデストロンが警戒を強め、宇宙空間に退避してしまえば、地球人は勿論サイバトロンでさえ手も足も出ないのだ。彼らは直接手を下す必要もなく、時々効果的に情報を操作して、地球人同士が殺し合うのを軌道上から眺めていればいい。文字通りの高みの見物だ。

「核ミサイルが発射されれば、間違いなくそれは彼ら自身の頭上に落ちるだろう。しかし地球人にそれを説明し、理解させるのは驚くほど困難なのだ。」

「人間達は、コンピュータ技術に随分自信を持っているようですね。」アラートが苛立ちを抑えた様子で言った。

「彼らは機器の制御が奪われるなど有り得ないと信じている。対ハッキング技術によってコンピュータを守ることができると考えているのだ。」

プロールは無言で首を振った。そんなことが可能なら、サイバトロン基地はこのような前時代的でアナログな設備で構成されてはいないのだ。

「我々がバックアップの対応に就けば、個々の施設はなんとか制御を取り戻すことができるかもしれない。しかし一定以上の攻撃能力を持つ軍事施設はこの大陸だけで200以上もあるのだ。」

「自ら進んで、武器と人質をセットで差し出すようなものですね。」プロールが言った。

「一旦彼らと敵対状態に入れば、二度と後戻りはできないだろう。全面戦争となれば、どんなに多くの地球人が犠牲になることか・・・」心痛の滲むオプティマス・プライムの声に、彼の部下達もまた憂いに言葉をなくした。

そしてその大きな犠牲をもってしても、デストロンを地球上から排除することはできないのだ。デストロンは地球人の攻撃を容易に退けるだけでなく、必要な分だけ正確に彼らを殺し破壊するだろう。桁違いの力の差を見せ付け、地球人が二度と彼らに逆らう気を起こさないようにするために。メガトロンは支配の仕方を知っている。

現時点で彼が地球を支配下に収めようとしないのは、単にその必要がなく、厳重な支配体制を敷くのも面倒だからだろう。その労力に見合うだけの価値がないとも考えているのだろう。しかし彼らの仲間が地球人に傷付けられ、まして殺されるようなことがあれば、彼らは報復を躊躇することはしないだろう。例え彼らが強力な指導者を失ったとしても、自棄を起こした彼らの兵士の何人かがどこかの大都市で無秩序に暴れるだけで、二度と取り返しのつかない損害を生み出すのだ。

オプティマス・プライムは地球人をデストロンと戦わせたくなかった。例えサイバトロンが共に戦い、死力を尽くしたとしても結果は変わらない。サイバトロンには自分の身を守るだけの力はあっても、デストロンの総力から地球人を守る力はなかった。



しかし地球人は納得しなかった。彼らの時は短く、資源が枯渇すれば人類は終わりだと彼らは強く主張した。そうなる前に、彼らは侵略者を追い払わねばならないのだった。

あくまで地球人の参戦に反対を続けるオプティマス・プライムに向かって、合衆国のリーダーは遂にこう言った。

「デストロンによる被害を見過ごし、彼らを攻撃するなと言うサイバトロンもまた、人類の敵ではないのか?」

オプティマス・プライムは懇願するように訴えた。「そうではない、どうかわかってくれ・・・」

「我々は準備を進める。我々自身の手で、我々の命と財産を守るために。」

オプティマス・プライムにはもう、選択の余地が残されていなかった。





デストロンの海底基地、その中枢にある指令室で、オプティマス・プライムはメガトロンに対峙した。

丸腰で手枷をされた彼は、彼を地上で見つけ、ここまで連れてきた航空兵が脇へと下がるのを見て、小さな声ですまなかった、ありがとうと早口に声をかけた。スカイワープは訳がわからないというように、首を振りながら呆れた様子で離れて行った。

「・・・それで?」

聞き慣れた声に向き直ると、メガトロンの訝しげな視線にぶつかった。

「貴様はここへ何をしに来たのだ。」

険しい、決して油断のない様子でデストロンのリーダーは問うた。

オプティマス・プライムは常にない緊張に口の中に溜まった潤滑液を飲み込み、一息に言った。

「頼みがある。人間と戦わないで欲しい。」

二人は無言で睨み合う。数秒の間があった。

「たった一人で我がデストロンの総指令部へ乗り込んで来て、何を言うかと思えば・・・」

メガトロンは視線を外して大仰に空を仰ぎ、呆れた表情で溜息を吐いた。

「人間など取るに足りん生物だ。どうして儂らがわざわざ手を下さねばならんのだ。」

メガトロンは心底どうでもよさそうに、興味のない様子で言った。

彼は、人間がデストロンへ攻撃を仕掛けようとしていることにまだ気付いていないようだった。と言うより、弱い彼らが反抗の意思を持つなどという、非現実的な状況を仮定したこともないのだろう。

オプティマス・プライムは焦りを感じた。一体どうすればこの現実主義の男を説得できるのか。

「頼む、メガトロン、彼らは知らないんだ。お前達の――」

メガトロンは彼の言葉を遮った。「それよりもオプティマス・プライム、覚悟はできているのだろうな?」

先程とは違う、冷徹で凄みのある声だった。指令室に緊張が走った。

「まさか、このまま無事に帰れるなどとは思っておらんだろうな。」

「わかっている。元より覚悟の上だ・・・」

「いやに潔いな。」

「私はデストロンに投降する。」オプティマス・プライムはメガトロンの見ている前で両膝を突き、頭を垂れた。「抵抗はしない。気の済むようにしてもらって構わない。」

遠巻きに様子を伺っていたデストロンの兵士達の間から、小さく驚きの声が上がった。彼らは興奮してお互いに顔を見合わせ、しきりに何かを言い合っている。

メガトロンは彼の傍に控えていたサウンドウェーブを見た。

サウンドウェーブは首を左右に振った。「嘘ではない。」

彼の言葉を受けて、メガトロンはオプティマス・プライムに向き直った。

「サイバトロンは我々に降伏すると?」

オプティマス・プライムは俯いたまま言った。「すまないが・・・私の意志とサイバトロンとは関係がない。」

「何だと?」

「私はサイバトロンの総司令官として答えを出すことができなかった。人間は、彼ら自身の持つ力でお前達に戦いを挑もうとしている。サイバトロンもそれに力を貸さざるを得ない状況になってしまった。私に彼らを止める力はない。私には、彼らに犠牲を強いる道を指し示すことしかできなかった。」

メガトロンが無言で続きを促すのに、オプティマス・プライムは淡々と言葉を続けた。

「私にはお前達を止める力もない。だが、だからと言って、彼らが勝ち目のない戦いに敗れ、滅び行くのを見過ごすことはできない・・・どうか、彼らがお前達に対して無謀な戦いを挑む前に、地球から離れて欲しい。」

「それは随分と虫の良い話だ。」メガトロンは肩をすくめた。「まだ起こってもいない戦いを避けるために、目の前に転がっている膨大なエネルギーをむざむざと諦めろとはな。そうしたところで、我等デストロンには何の得もない。戦えば勝つとなればなおさらだ。」

「私もそう思う、だから・・・」オプティマス・プライムは頷いた。そして覚悟と共に、言葉を搾り出した。「私はこうして・・・ここへ来た。」

メガトロンはすっと目を細めた。「お前一人と引き替えに、地球の全ての資源を諦めろと?」

「・・・そうだ。頼む・・・」

オプティマス・プライムは頭を下げ、ただ待った。そうする以外に彼にできることはなかった。

メガトロンはオプティマス・プライムの前に片膝を突いて身をかがめ、彼の顎をぐいと持ち上げ視線を合わせた。「お前、儂がお前自身を買っていると、確信があって来たな。」

オプティマス・プライムは息を飲み、身を強張らせた。

「儂にとってのお前の価値を・・・儂がお前を欲していることを知っていたな。」酷く抑えた声だった。

オプティマス・プライムのエネルギーポンプが早鐘を打った。彼は黙っていた。何も言うことはできなかった。

「今までどうあっても頑なに守り続けてきたものを、こんなつまらぬ形で明け渡すとは・・・」メガトロンは口惜しげに顔を歪ませた。オプティマス・プライムが初めて見る表情だった。「そんなものを、儂が有り難がると思ったか? 随分とみくびられたものだ。それも全てが、あのつまらぬ地球人共のためだとはな。」

メガトロンの双眸に燃え上がった灼熱の色を見て取って、オプティマス・プライムははっとした。それはかつてない激昂だった。意志の力で爆発を押さえつけられたその激しさは、彼を怯ませるのに充分だった。

オプティマス・プライムは自分のしたことの重大さを思い知った。自分は、彼が自分へと向けた好意を知りながら、自分の利益の為に利用し、踏み躙ったのだ。

「・・・すまない。すまない、メガトロン。」

「ふん。全く何もかもお前の読み通り・・・儂が愚かなのだ。」彼は既に普段の落ち着きを取り戻していた。

「違う、そんなつもりでは・・・」

メガトロンは立ち上がり、背を向けた。

「儂がお前を心から求めたこと、事実であるのが腹立たしいわ。今回はお前に免じて言うことを聞いてやろう。だが、お前との因縁もこれで終わりだ。」

普段は常に余裕を湛え、鷹揚に構えたメガトロンの顔が、怒りと失望に荒んだ表情を作った。

「貴様は人質だ。殺しはせん。どこへ行くとも、何とでも好きにするがいい。だがこの鑑から出ることは許さん。この上お前にサイバトロンに戻られては、滑稽過ぎて笑えもせんわ。」

メガトロンは艦橋の部下達に向き直った。「この星にはもう何の価値もない。離水の準備にかかるぞ。永遠にお別れだ・・・サイバトロンの連中ともな。」

居たたまれず、オプティマス・プライムはメガトロンの後姿へと手を伸ばそうとした。

「メガトロン・・・」

「二度と儂の名を呼ぶな。」彼に背を向けたまま、メガトロンは強く言った。

ぐらりと揺れたオプティマス・プライムはがっくりと両手を突いた。暗い色をした合金製の手枷が目に入る。彼は自分が何か大事な物を失ったのがわかった。




俄かに慌しくなった艦内の空気から取り残されるように放心していたオプティマス・プライムは、名前を呼ばれて顔を上げた。目の前に立っていたのはサウンドウェーブだった。

「メガトロンはお前を自由にさせると言ったが、デストロン内部に危険を存在させることは認められない。この場でお前を無害化する。」

「・・・わかった」彼は立ち上がった。

オプティマス・プライムは自分が彼に殺されるのではないかと思ったが、そうではなかった。サウンドウェーブは彼の手枷を外し、感情の全く読めない単調な和音で告げた。

「最大物理出力を現行の25%に制限する。800Ab/ns以上の演算効率80%ダウン。光学・音声センサー以外の電磁センサーを停止。音声以外のネメシスコンピュータへのアクセスを禁止。自己破壊を禁止。表層思考の常時監視。以上。メインシステム全深度へのプロテクトを解除し、全てのデータを開放せよ。俺が作業する。」

「わかった、少し待ってくれ、・・・準備できた。」

サウンドウェーブは、オプティマス・プライムの視界を塞ぐように片手で彼の頭部を軽く掴んだ。オプティマス・プライムが息を呑む。元より抵抗の意思はなかったが、友好関係にあるとは言えない他人の前に全てを無防備に晒すことには恐怖心が先立った。

膨大なデータが超高速で吸い上げられ、入れ替わるように見えない手が体の中に入り込む、そのスピードの余りの速さと回路にかかる負担に、オプティマス・プライムは意識が遠のくのを感じた。サウンドウェーブは平然としている。必要なデータの上書きと新たなプロテクトが行われている間、オプティマス・プライムは壁に縫い止められたまま指先の一つも動かせなかった。

「作業完了。システム再起動。」

普通なら調整に2日は必要な再構築作業にかかった時間は僅か数秒にも満たなかった。解放されて、オプティマス・プライムは失神の衝撃から立ち直るために緩く左右に頭を振った。出力が制限されているせいか、体が酷く重い。システムが新しい設定にまだ馴染んでいないのが分かった。




艦橋を離れたオプティマス・プライムは当てもなく艦内を彷徨い、人影を避ける内にいつの間にか薄暗い通路に迷い込んでいた。

突然脇腹に衝撃を感じたかと思うと、彼は壁に叩きつけられていた。間近に誰かの気配を感じたが、相手の動きが追えず、再び衝撃を受けて視界が歪む。受け身も取れず床に倒れ込んだ彼を、数人の影が取り囲んだ。

「おーおー、サイバトロンの総司令官も形無しだな。」

「殺しちまったらマズいだろ?」

「構やしねえよ。ボスはもうコイツに興味がないんだってさ。」

頭上で交わされる言葉を、オプティマス・プライムは虚ろな意識で聞いていた。この場で自分が彼らに殺されたら、メガトロンは一体何を思うだろうか。少しは心を動かされることがあるだろうか。いずれにしても、彼らが無事で済めばいいのだが。

誰かがオプティマス・プライムの頭を掴み上げた。後頭部に鈍い衝撃があり、彼は自分が壁に叩きつけられたことを知った。

その時、彼は微かに響く甲高い鳥の鳴き声を聞いた。オプティマス・プライムを取り囲んでいた者達は俄かに色めき立った。口々に小さな声で悪態を吐きつつも、彼を置いたまま先を争うように通路の奥へと走り去って行った。

ぼんやりとした意識の中で、彼は単調でゆっくりとした足音が近付いてくるのをただ待っていた。

「お前を収容する。」

抑揚のない、機械的な声が降って来た。それは不思議と彼の心に安堵をもたらした。

彼が何も反応できない内に、サウンドウェーブは彼を助け起こし、ぐったりとした体を抱え上げた。



オプティマス・プライムは艦橋から少し離れた所にあるサウンドウェーブの個室に運ばれ、そのまま彼の監視下に置かれることになった。オプティマス・プライムは最初戸惑ったが、「どこにでも馬鹿はいる。」というサウンドウェーブの短い言葉に、彼は自分が実質的にサウンドウェーブの保護下に置かれたのだということを理解した。

その後数日間でオプティマス・プライムが見聞きした艦内でのやりとりから察するに、デストロン内部におけるサウンドウェーブの立場は大変に強いようだった。セキュリティを一手に管理する彼の目と耳はどこにでも存在し、艦内で起こる出来事の全てを把握していた。彼の目を盗んでオプティマス・プライムに手出しすることは誰にもできなかった。

一週間も経たない内に、オプティマス・プライムに余計な真似をしようとする輩はいなくなった。遂には暗い非常通路で居眠りをしていても誰にも声をかけられないというほどに安全になったが、オプティマス・プライムはサウンドウェーブに与えられた個室に篭り、ただ抜け殻のように何もしない時間を過ごしていた。

あの時以来、オプティマス・プライムは一度だけ艦橋でメガトロンの姿を見た。言いつけを守り、彼はコンソールに向かうメガトロンに声をかけることをせず、ただ彼の背をそっと見た。しばらく見詰めた後で視線を逸らし、静かに艦橋を後にした。メガトロンが振り向いて彼を見ることはなかった。





地球に駐留していたデストロンは全軍がセイバートロン星へと戻った。デストロン本部へと移送されたオプティマス・プライムは、本部の中を自由に行動することを許されていたが、彼はやはりほとんど部屋から出ることがなかった。誰とも会って話をすることもなく、また何もしないで時間を過ごすことは、急速に彼の精神を細らせていった。

数ヶ月が経った頃、突然鳴り響いた警報に、眠っていたオプティマス・プライムは意識を取り戻した。煩く鳴り続けるそれに促されるように彼は身を起こした。

廊下に出て吹き抜けになったホールから階下を見下ろすと、中央エントランスに人だかりができているのが見えた。誰かが暴れ、取り押さえようとするガードとの間で乱闘が起きているようだ。

ふいにその騒ぎの張本人と目が合って、オプティマス・プライムは驚愕に固まった。

「司令官!」

アイアンハイドだった。彼は新たに掴みかかる一人を投げ飛ばし、声を上げた。「やっと見つけましたよ!」

彼はオプティマス・プライムの立つ通路のすぐ下に走り寄り、見上げて言った。「貴方を助けに来たんです、もう心配はいりません、早くここから逃げましょう!」

「そうは行かん、この愚か者め。」

言葉と共に人垣が割れ、悠然と姿を現したのはメガトロンだった。

オプティマス・プライムの脇を通り過ぎ、彼は右腕のカノンを上げた。「死にたくなければさっさと消えろ。」

「待ってくれ、」オプティマス・プライムは咄嗟に囁くように言った。「私が話をして彼を追い返す。信じてくれ、私は決して逃げたりしない。」

メガトロンはオプティマス・プライムにちらりと視線を向け、切実な懇願の表情にぶつかると、ふいと視線を逸らした。「好きなようにしろ。」

「すまない。」

オプティマス・プライムは足早に階段を下り、アイアンハイドに近付いた。

「司令官! ご無事で・・・」駆け寄り、確かめるように彼の片手を取り、強く握り締める。

「アイアンハイド、すまない。聞いてくれ。」

「・・・何でしょうか?」

思い詰めた表情に、アイアンハイドは嫌な予感を覚えながら聞き返した。

「私は君達と一緒に戻ることはできない。」

「なっ、何故ですか?!」

「私はメガトロンと約束したのだ。彼らが地球を去る代わりに、私が彼らの中に留まると。」

「何ですって・・・、司令官、我々が今までどんなに心配したか・・・!」

「すまなかった、君達に何の知らせもできなかったこと・・・だが聞いてくれ、私は自ら望んでここにいるのだ。私には何の手助けもできない。本当にすまない。だがこうするしかなかったのだ。」

宥めるような彼の言葉に、アイアンハイドは怒りを堪えるように俯き、ぎりぎりと拳を握り締めた。

オプティマス・プライムの意思が固く、決して揺るがないだろうことを察して、アイアンハイドは固く掴んだままだった彼の手からぎこちなく手を離した。

「また、迎えに来ます。司令官。」

彼は口惜しげに、しかし諦めていない様子でしっかりと告げ、オプティマス・プライムに背を向けた。



走り去って行く赤い車両を見送るオプティマス・プライムの背後で、メガトロンは無意識に構え続けていたカノンを下ろした。

「未練か」

唐突に横から投げかけられたサウンドウェーブの平坦な言葉を受けて、メガトロンは乱暴に言い捨てた。「奴は人質だ。逃げようとすれば殺す、当然のことだ。」

サウンドウェーブは何も言わず、メガトロンをじっと見詰めた。

見透かすような彼の視線に背を向け、メガトロンは腹立ち紛れにオプティマス・プライムに当て付けた。

「ふん、見上げた精神だ。」

オプティマス・プライムははっとしてメガトロンの顔を見、そしてすぐに俯いた。「例え私が・・・お前にとってはもう何の価値もない存在であっても、私のした約束には今も意味があると信じていたい。」

メガトロンは何も言わなかった。彼は無言のまま踵を返し、本部の奥へと大股で歩き去って行った。サウンドウェーブもその後に続いて姿を消した。

一人になって、オプティマス・プライムは自分の言葉を噛み締めるように心の中で繰り返した。

それは今の彼を支えるたった一つの希望だった。彼は自分の命に何の未練もなく、いっそ投げ出してしまえば楽になるのにと毎日思っていた。しかし自分が死に逃げれば、メガトロンは再び地球を襲うだろう。だから自分は生きていなければ。孤独で何の喜びもない、凍えきった生にしがみついていなければならない。生きているというだけで、他に何の意味もない命。この先ずっと、永遠に近い時間をそうして過ごすのだ。それが地球の人々を守ることに繋がるのだと信じて。





それから二週間程が過ぎたある時、オプティマス・プライムの個室のインターホンが鳴った。

扉が開くとそこにはサウンドウェーブが立っていた。「お前を釈放する。出て行け。」

咄嗟に何を言われたのか理解できず、オプティマス・プライムは呆然と彼の真紅に光るバイザーアイを見続けた。

「戦争は終わった。お前は用済み。」

オプティマス・プライムはようやく事態を理解した。サイバトロンはデストロンへの反抗を捨て、恐らくは降伏し、両者の間に和平が結ばれたのだろう。

オプティマス・プライムは俯き、首を振った。「・・・私には戻る場所などない。」

「お前はサイバトロン。サイバトロンの中で生きた方が良い。」

オプティマス・プライムは再びサウンドウェーブのバイザーアイを見た。「・・・彼が・・・そう言ったのか。」

「そうだ。」単調な和音が答えた。「メガトロンがサイバトロンと話を付けた。お前は被害者。誰もお前を責めはしない。」

オプティマス・プライムはショックを隠せなかった。メガトロンは自分に幻滅し、捨てた筈ではなかったのか。彼は何を思ってそのように自分の立場を気遣い、慮ったというのか。幸福を図るような真似をするのか。まさか――

彼が思考を巡らせるのを遮るように、サウンドウェーブは畳み掛けた。

「お前が壊れると、メガトロンが傷付く。行け。」

冷たく凝り固まっていたオプティマス・プライムの意識は急速に覚醒を果たした。

「メガトロンに会わせてくれ。」

「駄目だ。」

「頼む、彼に謝らせてくれ!」

「謝罪の必要はない。」

「サウンドウェーブ、頼む・・・」

サウンドウェーブはオプティマス・プライムの腕を掴んだ。それに抗う力は今の彼にはなかった。

「これ以上メガトロンを苦しめることは俺が許さない。来い。」



サウンドウェーブに半ば引き摺られるように、オプティマス・プライムはいつかの騒ぎのあった正面エントランスへと辿り着いた。

このまま自分はここから追い出されてしまうのか? メガトロンに何も言うことができないままで? 身を裂くような心残りに引かれ、オプティマス・プライムは背後を振り向いた。

「・・・メガトロン!」

オプティマス・プライムの叫びに、サウンドウェーブは足を止めた。

メガトロンは階段の手前から彼らを見ていた。

「今度こそ本当にさよならだ、オプティマス・プライム。これでやっと儂はお前から解放される。」

そう静かに言った彼の表情は、言葉とは裏腹にとても悲しげに見えた。背を向けて去って行く後姿に向かって、オプティマス・プライムは咄嗟に駆け出した。

階段の途中で追い付き、その広い背に縋り付く。メガトロンは振り向かなかったが、立ち止まった。彼の背は、出力の落ちたオプティマス・プライムの力ではびくともしなかった。

「メガトロン、すまなかった。本当にすまない。」白銀の腕に手をかけ、少しでも彼の視線を捕らえようと側面から彼を見上げる。

メガトロンがオプティマス・プライムの顔を見た。感情の読めない、落ち着いた表情だった。

「謝るな。お前の役目は終わったのだ。地球の存在は永遠に忘れてやる。早く去れ。」驚くほど穏やかな声音で、言い聞かせるように彼は告げた。

「私はもうサイバトロンじゃない!」

先程から動かないでただ様子を見ているサウンドウェーブに、メガトロンは視線を移した。

「サウンドウェーブ。こいつの能力を元に戻すのを忘れておるぞ。それが済んだらさっさと追い出せ。良いな。」

強い力で腕が振り解かれ、その拍子にオプティマス・プライムはよろめいて階段に座り込んだ。それでもまだ諦めることはせず、彼は精一杯挑発的な声を上げた。

「メガトロン! 人質の始末ぐらいお前の手でつけたらどうなんだ。」

メガトロンは立ち止まった。「お前はもう人質ではない。」

「今更無責任だぞ! 私を殺せ、それができないのなら自己破壊を許可しろ!」

「下らんことを言うな。」彼は苛立たしげに振り向いた。

「メガトロン! 私を憎み、嫌悪するならば今この場で殺してくれ!」 

オプティマス・プライムの叫びに、メガトロンは驚いたように彼を凝視した。

数秒の沈黙の後、彼はようやく口を開いた。その声は僅かに掠れ、酷く苦しげに響いた。

「・・・できるはずがなかろう。」

言葉と共にそれまでの厳しい気配が消えた。固く強張っていた表情に感情の色が表れ、きつく結ばれていた口元が苦悩に歪んだ。

「どうして儂にお前を殺すことなどできようか。」

座り込むオプティマス・プライムの前に身を屈め、メガトロンは彼を抱き締めた。「オプティマス。儂はお前を憎んでなどおらん。嫌うことなどあるものか。儂は他のどんな存在よりもお前を恋しく思っておったのだ。」

「・・・今でも?」

「今でもだ。」

「・・・それが本当なら、嬉しいのだが。」

「本当だ。」

オプティマス・プライムは少し考えた後で、おずおずとメガトロンの背を抱き返した。それは彼の言葉を信じるという合図だった。

背中に添えられるように回された腕の感触に応えるように、メガトロンは悔恨の気持ちを込めて言った。「儂が愚かだった。」

「・・・メガトロン。」

「儂は身勝手にお前を愛し、お前にも同じように求めた。だがお前の心が得られぬとわかると浅薄な自尊心は絶望し、他でもないお前を手酷く傷つけることで気の慰めにしようとしたのだ。何という狭量か。儂はせめてお前の身を間近に手に入れたことを喜ぶべきだった。そしてどんなに時間をかけようも、いつか必ずお前を儂に惚れさせてみせようという気概を持つこともできたのだ。」

訥々と語られるメガトロンの深い後悔と誠実な自省の言葉は、オプティマス・プライムの心に抵抗なく受け入れられた。それでも彼はメガトロンを責める気にはならず、自らの行いを罪として認め、改めようとする彼の強さを羨ましいとさえ思うのだった。

「全ては儂の下らぬ意地と愚かな誇り故の過ちだった。」

メガトロンは体を離し、熱意に満ちた双眸でオプティマス・プライムのそれを真っ直ぐに見据えた。

「オプティマス。儂の勝手でお前を傷つけ、苦しめたこと、詫びのしようもない。だが今となっても儂はお前を諦められない。もう一度、機会が欲しい。それを許してくれ、頼む。」

「・・・私には選択権はない。好きにすればいい。」

無気力なオプティマス・プライムの返答に、メガトロンは焦りを感じた。

「違う! お前にはそれを決める当然の権利があるのだ。お前の感じている罪悪感は、本当は存在の必要すらなかったものだ。本当は必要のないそれをでっち上げ、狡猾に利用していただけだ。」

「・・・元は私が悪いのだと思うが。」

「そうだとしても、儂の気一つでこのようにこじれることは回避できた筈だ。」

「私が・・・お前の気持ちに付け込んだことを、許してくれるのか。」

「そう、そうだ。そして今この時より全てをやり直すのだ。頼む、オプティマス。」

「・・・わかった。」

オプティマス・プライムの手がきつくメガトロンの肩を掴んだ。

「私はお前を信じている。」

オプティマス・プライムはぎこちない笑みを浮かべた。「私も、ずっと前から、できることならもっとお前と近しい存在になりたかった。お前は私の憧れだったから。」

メガトロンは驚いたようにオプティマス・プライムを見た。

「だから、これからも宜しく頼む、メガトロン。」言いながら彼の背に両手を回し、優しく叩いた。

「その言葉、決して後悔はさせんぞ。」メガトロンはオプティマス・プライムを思い切り抱き締めた。「感謝する、オプティマス。」

オプティマス・プライムは何も言わずに小さく頷いた。

懺悔するように頭を垂れ、ただ強く、固く自分を抱き締める不器用な腕に、オプティマス・プライムはメガトロンの偽りのない強い思いと愛情とを感じ取った。この率直で誠実な男を打算で傷付けてしまったことが今更酷く悔やまれ、彼は決して自らを許すことはしないと誓った。

彼らは数分もそのままでいたが、その内にオプティマス・プライムが居心地悪そうに身動ぎを始めた。

「・・・く、苦しい、メガトロン・・・」

「ああ、すまん。」

控えめな抗議を受けて、メガトロンはようやくオプティマス・プライムを開放した。再びバランスを崩してよろめいた彼をメガトロンが支え、そのまま抱き上げた。

小さく上がった悲鳴は気にせず、メガトロンは思い遣りの篭った視線をオプティマス・プライムに向けた。

「早くお前の能力を元に戻してやらねばならんな。不自由を強いて悪かった。」

「い、いや、いいんだ。当然の処置だったのだから。」彼はどぎまぎして答えた。

「む・・・サウンドウェーブの奴、どこへ行きおった。」

周囲に視線を巡らせ、メガトロンは有能な情報参謀の姿を探す。しかしいつの間にかサウンドウェーブの姿は消えていた。

「やれやれ、仕方がない。後にするか。」

そう言ってメガトロンが溜息を吐く仕草が妙に愛しく、微笑ましく感じられて、オプティマス・プライムは少し笑った。久し振りに気分が良かった。

冗談まじりの会話をしながら、二人は共に建物の奥へと戻って行った。





The End









※サウンドウェーブは一部始終をどっかから見てます。


妙に暗くてダラダラすみません。
読んで下さってありがとうございました。

初代アニメベースの世界で、人類とデストロンとの全面戦争が
起こったらどうなるかということを現実的に考えてみた話でした。
で、初代のあの牧歌的雰囲気は、あるべくしてあったのだ
という結論に至ったwww


問い:初代#未放送回2「コンピュータの反乱」で、
メガトロンに再プログラムされて奪われたトルクIIIを
OPはどうやって取り返したか?

答え:物理的に破壊した


SW(とメガトロン)相手に、ハッキング対決で人間が勝てるわけがないwww
いやーあの実写映画はないと思うんだ色んな意味で・・・

ただデストロンに一撃で大打撃を与える方法はいくつかあって、
その話も書いたことあるんですが、こっちは最終的に
OPが不幸になるのでお蔵入りです。


タイトルは言わせようと思ってたけど結局やめたSWの台詞から。
最初のheはSWで二番目のheはメガトロンです。
でもSWの言いたいことは伝わった。

しかしメガさんがちょっとぐれただけでこの大惨事www
普段のメガ×OPが、いかに彼の無限の愛と鋼の意思に支えられているか
ということがよくわかりました・・・






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