以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。

 
 
Air Ride



 

その惑星の北の果てには氷の大地が広がっていた。3日前から続くブリザードのために、視界はまったく利かなかった。しかしその吹き荒れる雪嵐を突き通して、空に向かって飛び立つ物があった。風圧によって機体表面から吹き飛ばされた水滴が、強い陽光を浴びて輝いた。それは一気に地表の遥か上空まで高度を上げると、機首を戻して水平飛行に入った。銀の翼に赤いラインを持ったそのジェット機は、希薄な大気の中を滑るように進み出した。

そのコックピットのシートの上には、軍服に身を包んだパイロットの代わりに、シルバーボディのワルサーP38が鎮座していた。

機体が安定したところで、F-15がわざとらしくため息をついた。「やれやれ。まったく、エネルギー切れで立ち往生なんて、我らがリーダーも結構当てになりませんなあ。」

「うるさいぞスタースクリーム」

シートの上で横になったまま、メガトロンが唸った。





見渡す限り氷の原である極地は、地球人にとっては資源に乏しく、生存にも厳しい環境であるために、普段はほとんど近付く者がいなかったが、デストロンにとってそれは好都合だった。人間はそれ自身が脅威ではないが、地球上のどこにでもいて彼らの活動を目撃し、いまいましいサイバトロンを呼び寄せるという点で非常にやっかいで目障りな存在だった。

最近、メガトロンの関心は地球のコアエネルギーに向けられていた。彼らの科学技術は、厚い氷の層を通して地球の核からエネルギーを得る可能性を持っていた。彼らは厚い氷をくり抜いて作った広大な地下空間に研究所を兼ねた発電基地を建設した。

発電の効率化のため新しい装置を開発していたメガトロンは、その日、試作機の調整のために一人基地を訪れていた。当初、機械は問題なく作動していたが、十数分後に問題が起こった。スムーズに流れていたエネルギーがある部分で停滞し、小規模な爆発を起こしたのだった。

その地震によって突如洞窟内に現れたクレバスは、数キロメートルの厚さを持つ氷の下にメガトロンを呑み込んだ。クレバスに流れ込んだ巨大な氷の破片と海水は周囲の圧力によって押しつぶされ、完全に退路を塞いでしまった。

メガトロンは全身が海水に浸かった不自由な状態で右腕の融合カノンを使って氷の天井を掘り進み、どうにか自力で地上に脱出した。そこまでは良かったが、不運なことに、一連の作業でほとんどエネルギーが底をついてしまった。僅かに残ったエネルギー量でも海底基地に戻るには充分だったが、今の状態でサイバトロンの誰かと出くわせば勝ち目はないと踏んだメガトロンは、その場を動くことを諦め、基地に助けを呼んだのである。そして待つこと数十分、やってきたのは軍団で一番口うるさいジェット機だった。





「お前も一度海に呑まれてみれば儂の苦労がわかる」

メガトロンには申し開きの余地もなかったが、しかし彼は黙って部下にからかわれているようなお人よしではなかった。

「へっ。俺は海に落ちるなんてドジは踏みませんよ」

圧倒的に形勢有利と判断したスタースクリームはますます調子づき、わざと咎めるような説教がましい声音を作った。「先にサイバトロンのマヌケ共に見つかってたら、どうするつもりだったんです」

「だからサウンドウェーブはお前を寄越したんだろうが」メガトロンは苛々して言った。暗に実力を認められたことに気付いて、スタースクリームはぱっと機嫌を良くした。彼は喜色の滲んだ声で満足そうに喉を鳴らした。「そりゃもちろん」



それからしばらくの後、無言だったメガトロンが独り言のような調子で言った。
「それにしても、人間共に合わせたこのサイズにも意外な使い道があったものだな」

彼は暢気に感心した。およそ400万年前にこの惑星に墜落した衝撃で破壊されたボディに、数年前、サイバトロンの宇宙船に備えられた生命再生装置によって再デザインされた変形モードが与えられるまでは、彼はジェット・ファイターの狭い格納スペースに収まるサイズではなかった。先日の一件があって初めて注目した特質だったが、思い返してみれば、すでにサウンドウェーブは何度も小さなカセット・レコーダーに変形してサイバトロンや彼らに味方する人間の目を欺いていた。

「これだったら煩わしい有機生物共の目にもつかんし、移動速度は倍以上だ。エネルギーの節約にもなって一石二鳥だな。これからも頼むぞスタースクリーム。」新し物好きなデストロン・リーダーは機嫌良く言った。彼はすでにこの新しい特質を新たな作戦に応用するアイデアをいくつか思いついていた。しかし彼のジェット機は少しうんざりした様子で文句を言った。

「何言ってんです。あんたがいつものでかい図体で飛び回ってるよりは目立たないことは確かですけど、俺はもうごめんですぜ。大体エネルギーの節約ってんなら、あんたの方がずっと効率が良いでしょうが。」

デストロンの誇る反重力飛行技術は、メガトロンの数百万年に渡る熱心な改良の結果、おそろしく燃費が良かった。スピードを優先したジェットエンジンに比べれば、エネルギー消費量はほとんどゼロに近かった。

スタースクリームは居心地悪げに付け足した。「それに体の中からあんたの声が聞こえてくるっていうのは、どうにも変な気分だ」

「アストロトレインはいつもやっとることではないか」メガトロンはけろりと返した。

「この俺様をあんな鈍くさい輸送機と一緒にしないでくださいよ!」

ギャーギャーとわめきたてる彼の言葉を、メガトロンは聞いていなかった。

ひとしきり悪態をついて気が済んだのか、スタースクリームは調子を落として ため息をついた。「まったく、この俺を何だと思ってんですか。俺はあんたのハイヤーじゃないんですからね」

「そういう台詞はもう少し大人しく飛べるようになってから言え。離陸の時にあちこちぶつけたぞ」

「なんですって?!」スタースクリームは抗議の声を上げた。「そこは色々壊れやすい部品が多いんですからね!傷つけないで下さいよ!」

「うるさいぞスタースクリーム。不可抗力だ」

メガトロンは物の美醜に鈍感な方ではなかったが、機能的に意味のない部分に執着するたちではなかった。相変らずどうでもいいことにこだわる奴だ、と思いながら、彼は言ってはいけない余分な一言を言った。「どうせ飾りだろうが」

「冗談じゃねえ!」本気で血相を変えたスタースクリームが大声でわめいた。

無人の戦闘機の中はまた喧嘩になった。





海底基地のコントロールルームに帰還を知らせ、海面から突き出した出撃タワーに降り立ったスタースクリームは完全にヘソを曲げていた。彼はロボットモードに戻っていたが、メガトロンの要求を無視して、変形したために向きが変わってシートが垂直になったコックピットにまだ彼を閉じ込めたままにしていた。

「これは一体何の真似だスタースクリーム。早く儂を外に出さんか」操縦席の足元でひっくり返ったワルサーが苛々と呟いた。

「へっ、一生そこで騒いでいればいいでしょうが。俺は別にかまいませんぜ?」

完全に馬鹿にした様子のスタースクリームに、ムッとしたメガトロンは声を落として唸った。もし彼がロボットモードだったら、眉間に皺が寄っているに違いない。

「貴様、キャノピーを吹き飛ばされたいのか」

「やれるもんならやってみな。もしそんなエネルギーが残ってるんならね」全然こたえていないスタースクリームは、説得力に欠ける脅しを余裕であしらった。

「言いおったな、スタースクリーム」メガトロンは一瞬何かを考えるように押し黙った後、わざと苛立ちを引っ込めた、事務的な声を作って淡々と言った。「では仕方がない。儂はこのままここで元のサイズに戻らせてもらうぞ。そうすればキャノピーどころか貴様のボディ・・・」

「ま、待って!冗談ですってば!」スタースクリームは慌ててキャノピーを開放した。「ホントに短気なんだから・・・」彼は聞こえないように小声で呟いた。

小さな金属の塊は空中でぐっと膨張して見慣れたハンドガンとなり、さらに拡大しながらもっと見慣れたデストロン・リーダーへと姿を変えた。スタースクリームより頭ひとつ大きなロボットが降り立つと、広いエレベーターの空気は少し変わったようだった。

「この星の海水というやつはどうにもいかんな。関節の中まで塩がついて実に不愉快だ」

「あんたのおかげでこっちまで塩だらけですよ。まったく、今朝完璧にメンテナンスしたばっかりだったのに。サビが出たらどうしてくれるんです」

「大袈裟なやつだな。儂と比べれば大したことはあるまい」目の前で際限なく不平をつぶやく部下にメガトロンは内心で肩をすくめ、それ以上取り合わないことに決めた。「どちらにしても、早いとこ洗い落とした方が良さそうだな」彼はシャワー施設のあるエリアにエレベータの行き先を変更した。

手首や指の関節をためつすがめつしていたメガトロンは、数秒間動きを止めた後、首だけをさっと動かしてスタースクリームを見た。「お前も一緒に来るか、スタースクリーム?」

意味ありげな視線をまともに受けて、スタースクリームはどきりとした。しかしこのままメガトロンのペースで振り回されるのは面白くない。彼は見せ付けるようにゆっくりと腕を組み、首をかしげるように顎を少し持ち上げ、挑戦的な視線を返した。

「あんたが一人で寂しいっておっしゃるんなら、ご一緒しますけど?」

メガトロンは口元だけで笑った。

エレベーターが止まると、メガトロンはさっさと歩き出した。目的の場所に着く前に、どこか途中でエネルゴンの小さなキューブを仕入れて行こうと考えながら、彼は背後から慌てたように追って来る足音を聞いていた。














イチャっとね、イチャっと。ラブっとでも可。
Airraid(エアライダー)氏とは何の関係もありません。
あっ目次のタイトルが違ってた・・・(←馬鹿)。






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