『巨神ゴーグ』とは?


作品・巨神ゴーグ

『巨神ゴーグ』は、1984年にサンライズが製作したアニメーションである。

監督は安彦良和(『機動戦士ガンダム』や『無敵超人ザンボット3』『超電磁ロボ・コンバトラーV 』などで活躍していたデザイナー)。彼は、キャラクター・デザイン、原作・キャラクターデザイン・作画監督など重要な部分を全て兼任している。通常分担作業であるべきアニメにおいて、これは非常に特異なことである。そのことから、『巨神ゴーグ』はロボットアニメ作品である前に、安彦作品とでもいうべき作品である。

しかしながら、その他の重要な部分を、才能あふれる若手デザイナーが担当していることも特筆すべき点である。

主役ロボ、ゴーグのメカデザインを佐藤元。新進気鋭のアニメーターである。4年ほど前に制作された『宇宙戦士バルディオス』(この作品もクオリティーにわりにふりかえられることの少ない、不遇の作品だ・・・)のメカニックデザインが実質上のデビュー作。なお、彼は幼年誌を中心にマンガ家としても活躍していて、SDブームの立役者と言ってもよいほどの人間である。 20代中半から後半にかけての人なら、まず間違いなく触れたことがあるはずだ。

また、作品中に敵役として登場する巨大複合企業GAILの戦闘車両・および戦闘機は、ほぼすべて永野護によるものだ。永野護を凡才か天才かと聞けば、スキキライは置いてもとりあえず天才と答える人がほとんどではないだろうか。彼のデビュー作品とも言えるのが、この作品であったことは特筆すべきだ。時代的にはこの直後(ほぼ同時期)に彼はあの『重戦機エルガイム』で富野由悠季監督に大抜擢された。後に、富野監督はファミ通のインタビューでこんなことを語っていた。(ターンAのキャラデザイナー・安田朗を評して)「本当の力のあるデザイナーに出会ったのは、永野護くん以来だ。」なお、この永野護以来というのが、15年もの月日をあらわしていることに、ただただ愕然とする。永野氏はこのあと、『機動戦士Zガンダム』を経て、『ファイブスター・ストーリーズ』において不動の人気を獲得した。

最高品質のアニメーション

こういったスタッフのもと製作された『巨神ゴーグ』。それだけでも上質のものになるべく運命であったが、さらにここに、もう一つのハプニングが加わる。

これは、当初予定されていた番組枠が急遽取れなくなってしまったということだ。この為、放送開始日が半年以上遅れた。結果として「第一話放送開始時には、すでに最終話の製作にとりかかっていた。」という前代未聞の新番組であった。これは、当然の事ながらさらに作品の質を磨き上げることになった。

「作画荒れが一切無い」「脚本が常に練りこまれた高水準のものになった」こういったアニメは今でも珍しいと言えないだろうか?実際、この作品が到達していたレベルは当時にして群を抜いていた。このことは、今見ても(15年も前のものなのに)古臭さが一切無い点でも証明されている。1・2年後に主流となる、『イクサー1』などに代表されるテカテカのアニメ塗りや妙な間のある、何だろう、うる星やつら調の爆発?また当時主流になりつつあった金田伊功風のポージング・・・そういったものにまったく毒されず、監督の確固たる主張から作り上げられたゆえであろう。

しかし、である。

この良作は今や「マイナー」と言っても差し支えないほど、人々の口に上ることが無くなっている。

ゲッターやマジンガーがメジャーなのは良い。 だが、「ゴーグ」は、多くのロボットアニメのレベルは凌駕していると思う。当時のアニメによく見られた作画荒れは皆無だし、中ダルミも無い。これは何故だ?



商品性の欠如

答えはたぶん、商品性の無さである。

ゴーグにおいて、幼年層の喜ぶ「合体ギミック」「強烈な光線技」「多彩な秘密兵器」「巨大で悪そうな敵のメカ」は一切、そう一切出てこないのである。このアニメが、ロボットを見せようというテーマで作られておらず、あくまで『未来少年コナン』のような等身大の冒険ものとして作られているゆえであろうが、これではスポンサーはたまったもんではない。おもちゃに出来るものといえば、主役メカ・ゴーグ程度であった。その他のメカと言えば「戦車」「ヘリ」「巨大土木機械」など、なんともいかんともしがたいものである。

早い話、地味であったのだ。

主要キャラも、子供の数が圧倒的に少ない。悠宇、ドリス、アロイ、サラ以外は、ほとんどが中年のおっさんおばさん連中だ。

さらに、ゴーグ本来のコクピット(胸部)に悠宇は、ほとんど乗らない。いや、乗る必要が無い。ゴーグは勝手に戦うし、敵に対しては無敵だ。ある意味、『大魔神』的な存在である。「ロボットに乗って悪と戦う」ロボットアニメではないのだ。

以上の理由から、本作品はあまり評価されずに終了し、忘れられかけている。
監督の安彦良和は、「この作品が評価されなかったアニメ界に未練は無い」とばかりにマンガ家に専業することになる。(実際は、この作品を上げる前に心決めにしていたらしい。→more )


惜しい。非常に惜しいのである。

これと良く似た事は、最近でも発生している。洋モノアニメ『アイアン・ジャイアント』である。

『アイアン・ジャイアント』は、ワーナーの作り出したロボットアニメで、丁寧な作画と、まれに見る良質の脚本・演出で、アニー賞9部門独占、批評家たちの絶賛を浴びた作品だ。だが、その売上はさんざんたるものだった。日本では、ワーナー・マイカルシネマのみの放映で、地味に始まり地味に終わった。この作品もまた、商品性に欠けていたための敗北であった。 DVDは現在2000円を切っている。



このHPのねらい

無数に起こるこれと良く似た現象。最近でも良質のアニメが、「美少女が出ない」「ハデさが無い」というだけで、不当な評価を受けている。

一方で、美少女が出てハデなだけで、脚本・演出ともに水準以下のアニメがちやほやされている・・・。子供向けと子供だましは違う。子供向けでも大人の鑑賞に十分耐えるアニメもある。また。オタク向けとオタク騙しも違う。オタク向けでもそれ以外の人が見て面白い作品はたくさんある。

しかし、我々の態度が単なるオタク騙しのものを受け入れ、それ以外の優れた作品に見向きしない頑迷なものであれば、当然、作り手側の態度は硬化する。優れた作品が企画会議に持ちあがっても、「それじゃ、今の客は見ないよー」となる。

結果として代り映えの無い作品ばかりがちまたにあふれることになり、それは新規参入者を拒み、アニメ界が閉じた世界になる。閉じたものの末路は、一つ。没落だ。昨今アーケードゲーム界を見よ。スト2のヒットから抜け出せないため、出すゲーム出すゲーム、昔ヒットした作品のキャラを出してお茶を濁しつづけた結果、ゲーメストの廃刊により客の目が覚め、現在の寒い状況になったのではないのか?

アニメで言えば、こうした状況に陥った場合・・・たぶんまた海外のクリエーターによってお株を奪われることになる。こうして日本の誇る一大文化・・・オタク文化は滅ぶ。

こういったことを危惧し、「地味でマイナーでも、評価すべき面白い作品は存在する!」ということを叫びたい。

このHPは、それを根本理念とした上で、『巨神ゴーグ』という作品を紹介していくページである。

 


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