本編1  「雪にあこがれて・・・」

 

仕事がひと段落つき、長期の休暇をもらったのは僥倖(ぎょうこう)という他ない。

8月からこのかた、私は実によく締まった。ろくに土日休まずに戦い続けていたのである。

だが、締まりすぎれば切れるのも必定。全ての仕事を終えた時には、私の肉体は、どこかいびつな砂細工のようになってしまっていた。

 

「どっか旅行いかん?」

と、清瀬から電話が来たのはそんなある日のことだ。

「雪国に行きたい」というのは、前回の「ヒトの道」来の我々の願望であった。

一刻もはやく潤いをとりもどさねばならないと思っていた矢先の事で

「いーね、いーね、是非行こう」

と一も二も無く同意。

目的地は、かの川端康成の「雪国」の舞台となった越後湯沢(新潟)になった。

雪国っていうだけあるし(まわりにスキー場もあるし)雪は豊富にちがいない。

それに新潟は米処。日本酒は旨いはずだ。温泉もある。他に何をのぞむのか?

こうして今回の旅行は決まった。


 

23日早朝。

8時上野駅の約束だったのでかなり早く起床して、いろいろ準備していると、清瀬から電話が入った。

「あー、おれ。8時にはつけそうに無い。8時10分になるからよろしくー」

「ン? わかった。じゃーオレも8時10分に着くようにするよ」

「え〜!?・・・ああ・・・う−ん・・・」

なぜか、あからさまにイヤそうに口ごもる清瀬。 きっと自分は遅れても他人が遅れるのはイヤなのだろう。

しょっぱなからコレかと少し嫌な気分になった。

 

清瀬はさらに遅れて8時15分に上野駅にやってきた。

上越新幹線に乗り込むと、席の横幅がめちゃくちゃ狭く死にそうになる。

さいわいにも3人席のうち1席が空いていたので、1つ席をあけて座った。 ちょうどよいかんじ。

さっきまでギュウギュウと私の肢体で圧迫していた清瀬がホッとしたように口を開いた。

 

「しかしさぁ、いいかげんこのグループホモ旅行みたいなのもどうにかしたいよなぁ。紅一点が欲しいっていうか」

 

まったくもってその通りである。

いかんともしがたいほど、せつなくなる。

我々なんちゃってホモ2人を乗せて、列車は北陸への線路を走り始めた。

 

本編2

 

 


 

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