魂の重なるところ






夜…図書館
静寂の中で想いが
渦となり高まっていく









「何の用だよ。…大佐…」
後ろを振り向きもせず気配だけでエドは話し掛ける

「怒りは、納まったか?鋼の」
もちろん相手が誰かも分っていてのことだ

「…まぁな…」



エドは、暇さえ出来ればこの図書館で遅くまで調べ物をしている
もちろん自分とそして何よりも大切な弟の身体を取り戻すための人体錬成について
それが書かれた書物がここに実在するのかも
この閲覧可能区域にある可能性が低いだろう事も
分かっていて……
それでも……尚…
可能性の一欠けらを拾い集めるために出来る限りの時間を費やしここで調べ物をしていた


もちろんそんな事ここへエドを連れて来た張本人である大佐が知らないわけも無く
夜エドを訪ねてここを訪れたのだ
そしてこんな時間になって自分以外にここを訪れる人物が大佐位しかいない事をエドも分かっていた
そのため二人の会話は、唐突でしかし淀みも躊躇いも無い
それがこの二人のセオリーなのだ


「エド…」

大佐の指がエドの顎を上向かせる
エドもそれを振り払うことなく、ただ大佐を見つめる
二人の影が少しずつ重なり程なくして唇が触れる
「んっ……ぅ…」
深い口付けにエドから抗議のような吐息が漏れる
思う存分貪り大佐の唇が離れていく…
文句も言わず呼吸を整える




「やはり何も言わないんだな」
否…言わないのではなく、ただこの行為をエドは咎めたりしない

ソレは最初から変わりなかった
「何か言って欲しいのか?」
「いや……」

何もとは…
この行為についての理由なのか?
それとも別の期待なのか?
もちろん大佐もそんな上辺だけの言葉など望んではいなかった


そしてそれ以上の言葉は不要になる
後はもう互いの熱を貪り合うソレだけだ…
エドの上に大佐の影が重なる
幾度か繰り返されてきた行為が二人の距離を縮めていた
言葉ではない何かがただソコには有った
最初こそ抵抗を見せた身体も馴らされて大佐を容易に受け入れるようになった

そして身体と反比例するようにどうしようもなく歯がゆい感情に支配されていく心
ソレが混ざり合ってエドの中でグチャグチャになっていく






切なくて今にも泣き出してしまいそうな顔
背中に回された左手の曖昧な圧力
大佐は他人から自分の人で無い部分を無意識に遠ざけようとしているエドの様子に時折いらつきを感じていた
いっそエドのそれで傷つくのならば身体の痛みなど微塵も気にならないだろうにと
それよりも内にある感情をさらけ出して欲しいと……
戸惑いながらもけれど大佐はいつしかそれを切望するようになっていた

それが何時だったかなんてそんな事はもうどうでもいい

ただ二人は、お互いを抱き合う事で自分の人間らしい部分を見つけ出したかったのだろうか?

それともただの性欲のはけ口だったのか…



人々に国家の狗と罵られようと…
化け物を見るような視線で忌み嫌われようと
耐えられるだけの度量は、持ち合わせているつもりだった
未熟ゆえに弟を巻き込んでしまった悲劇も
任務というものに縛られ奪った命の比重も
ソレを償うための時間も全てが自分への罰なのだと
そのために自分を中傷する言葉やモノは
全て自分への罪の当てこすりなのだと耐えられるはずだった
けれどそうやって凍りつかせた筈の心は、いつしか自分と同じモノを追い求めていた
理解し合える別の個体
同胞と認め合う事のできる自分とは別のモノ
互いを補うために生まれてきた命

今は、まだお互いがそんな存在だという事に二人とも気付いてはいない

いや…気付いてはいけないのかもしれない


きっと今それに直面すれば
ただ馴れ合うだけの存在になってしまう
そんな事を本能で悟り恐怖し
お互いに認めようとしなかったのかもしれない





それでも心だけは身体を凌駕してイライラとした想いを募らせていた





『もし恋人ならば…?』



そして…
『好き』なのだと認めてしまえたのならばどんなにこの心は救われたことだろう?


ただ……果たしてそれだけで満たされたのだろうか…???




そんな疑問は日に日に心を支配した………



けれど二人は、その言葉すら紡ぎ出せない

それどころか
『これは恋愛などではない』と思い込もうとしていた
好きだなどと…甘い戯言など
認めるくらいならいっそ一生気が付かない方がお互いのためだと…
だからそう感じたのならば
ソレは錯覚でしかないと…思い込もうと必死だった

だからより一層貪欲に目先の快楽に酔いしれた





大佐の指が左足の内股に触れる
「…っあ。」
エドが他の場所より過剰な反応をする
「やはりここが感じるのだな」
数度重ねた行為の中で大佐は、エドの感じる場所をほとんどといっても良いほど見つけ出していた

分からない場所など無いと言っても良い程に…
「……しらな…い。そんなわけなっ…い」
いつものようにエドは否定するが、失った脚の代わりに鋼を打ち込まれたそこは
他の場所よりも一層繊細に感触を紡ぎだしてしまうらしい
「バカ…ヤ…ロ…。そこばっか…さわ…な」
エドの言葉は承諾される事は無く…
「けれど気持ち良いのだろう?…ここは気持ち良いと言っているぞ」
口元に笑みを浮かべながら大佐は、その愛撫を止めようとしない

それどころかエドが反応してしまった部分にまで指を絡めてきた
エドは、必要にそこに触れようとする大佐の頭を遠ざけようと手を伸ばすが感じ入ってしまい指に力が入らない
そのためそれは、まるで大佐の髪を撫でるようなしぐさになってしまう
それを良しと受け取り大佐がまた新たな快楽を生み出そうと手を動かす
「じらしたか?すぐにもっと気持ちよくしてやるよ」
わざと間違った解釈をしたように囁きながら行為を深めていく
「違っ…あっ……ばか」
言葉通りの快感を与えながら
大佐の手がそこから少し上の二人が繋がる為の場所へと伸ばされる
「…んっ…ぅ……」
幾度繰り返されても感じる違和感とソレを上回る快感への期待に知らずエドの身体が震える
自分のモノで濡れた指先が少しずつ中へ入ってくる
「もうこれぐらいでは、痛くは無いだろう?身体が逃げなくなったものな」
大佐の紡ぐ言葉が段々と甘さを含んだ響きになっている

「……うるせ…ぇ」
強がるエド…
けれど、涙を浮かべ頬を火照らせた顔も成長しきれない幼さを残した姿態も全てが大佐を誘っていた
汗ばんだ身体に隆起する骨格の幼さが踏みつけてやりたいような焦燥を掻き立てた
そんな事に気付いていないエドが焦れたように腰を揺らす
ソレはさながら男を誘う娼婦のようにも見えた
「もういいか?」
その様子に絶えかねた大佐が聞く
「…い…いちいち…聞くんじゃ…ねぇ」
恥ずかしさに顔を右手で覆いながら自分も大佐を欲している事に気付き赤面する
だから余計に悪態をつく




「なんで…」
行為の最中ぽそりと呟いたエドの言葉は、けれど大佐には聞こえていなかった


いや正確には、かすれていて聞き取れなかった




手から覗くエドの耳が赤くなっている事に大佐は目ざとく気付いた
顔を隠している腕をどける
その腕を上方に縫いとめ
無理やり視線をあわせて大佐が聞く
「今なんと言った?」

「なん…でもない。」
隠せないのならばせめてもと…エドはそう言ってそっぽを向く




「……そうか…」
落胆を含むように無理やり納得してみせる大佐
少しの違和感が残るもののそれ以上の詮索はせずにまるでその想いを押しやるように大佐は腰を進めた

「…んぁ…あっ……ん」
その衝撃にもう少しで叫びだしそうだったエドの声を深い口付けで大佐が飲み込んだ
口腔を深く侵されながら下肢へもたらされる激しい快感の渦
それは全てを凌駕してくだらない疑問をも飲み込んでいく……


エドは自分が何処で感じているのかも分からなくなり急激に意識が薄れていった

だから気付かなかった
大佐が顔を歪め、苦い笑いを浮かべて言ったその言葉を…




「私は狂っているのだろうか…?…いや……それともお前に狂わされている…のか…?」
それは闇に掻き消えるようにかすかな呟きだった…

熱に浮かされた想いを
まるで病に侵されたように勝手に…
意思に反してとっさに口にした想いは…
もう誰にも届かない………




ただそこにある闇だけがその言葉を包み込むように飲み込んだ…








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