望まない方向性






遠くに見えた陽炎が
今は頭上で
深い影を造っていく…









数日後
ロイ・マスタングのオフィスをエドが訪ねた

「人を呼びつけていったい何のようだ?」
扉をくぐり真直ぐ歩いて大佐のデスクまでやってくる
「もちろん仕事だ。鋼の。コレでも私は君の上官だからねぇ」
その答えにいつもの取り繕った様子で答えている大佐
「いっつもそうやって面倒くさい仕事ばかりを俺に押し付けやがって」


端から見ればいつもと変わらない会話
けれどお互いの表情に今までと違う何かが含まれるようになっている事にこの二人は気付いているのだろうか?
それは、いつもここで大佐の世話をしているホークアイ中尉にだけ分かるくらいの変化だったのだけれども…
多分弟のアルフォンスでさえ気付いてはいないのだろう
日を追う事にソレはお互いの目に甘さを混入させた
多分今ここでそれを指摘したところで二人ともそのことを認めはしない
だから彼女はそれをただ見過ごす事にしていた
別段それで困る事も無かったし
何よりそんな特にもならないような事ここでいうのは不適切だと思っていたから
彼の優秀な秘書はその辺の間の取り方が絶妙だった
大佐に必要以上のお節介はかけない
しかし大佐に徳の無い事で有ればどんな事をしてでも排除する
以上でも以下でもない関係…
それがロイとリザだった
そんな部下のオモイを知ってか知らずか
その間もずっと二人は任務について堂々巡りを繰り返していた



「ああ。もうお二人ともこのままでは仕事が片付きません。エドワードさんはその任務を全うしなさい。仕事なんですから。」
見かねたリザは、びしりとエドの方を見据えて言う
まるで子供をしかる母親のようにはっきりと
「大佐も、さっさと他の仕事を片付けて下さい」
これまたびしりと言い放つ
このままでは、この話に終わりが無いのを承知で彼女が一刀両断して話を打ち切った
この堂々巡りを続けてもきっと得など無いのだから…

「手厳しいな」
大佐が苦笑交じりに言う
「いや、だから何で俺が…」
まだ納得しないようにエドが反発しようとした

カチャッ

エドの額に冷たい鉄の塊の感触が押し付けられる
「えっ…!?……中尉これは何なんでしょう?」
エドが恐る恐る手を上げながら自分の額を指差す
「もちろん拳銃よ」
彼女は、微笑みながら言う
微笑と言って良いのか微妙な表情だったが…
(はは……中尉それ引金上がってるんすけど…)
「え〜と。何故俺の額にこれが…あはは。さすがに頭までオートメール製じゃないんだけどなぁ」
エドが引きつった笑いを浮かべている
「分っていますそんな事。そんな事よりこうなった訳を言わなければ分からない程子供では無いでしょう?あなたは」
それにリザも笑顔で返す
そして
「もちろんこの距離で私が外す事も無いです」
ピシリと言い切る
「すみません。俺が悪かったです」
すぐさまエドが謝罪する
(中尉目がマジだ…)

「分かってくれれば良いんですよ」
そう言って取り合えず額の固まりは去った
うな垂れるエドと拳銃をしまっている中尉
「物騒だなぁ」
それを横で笑っている大佐
「何なら大佐もやってさしあげましょうか?」
中尉が大佐にも笑顔を向ける

(いやだから…目が笑ってませんてホークアイ中尉…ヤルの意味が違うと思う…)

「いやいや私は、遠慮願うよ。優秀な部下を反逆罪にはしたくないのでね」
大佐は、当り前のようにそれを交わしてまた飄々としている
「まあそう言う訳だから大人しく行ってきたまえエドワード君」
「分ったよ…行けば良いんだろ」
そう言って渋々部屋を後にするエド
そんな当たり前になりつつある風景





だからまさかこれからあんな事が起こるなんて誰も予想などしていなかった








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