君の名を語る不届き者…




取り戻そうと必死になったモノは
また腕の中からいなくなった
そうやって繰り返し束縛しても
出来てしまった歪はもう埋まらないのに……
いつまでも埋まらないものをボク達は必死に埋めようとモガイテイル









アレからの大佐は人が変わってしまった
何か盲目めいて…
エドを自分の部屋に閉じ込め一切の外出を禁じた
もちろんエドは最初のうち激しく反発した
が…どんな反論の言葉も受け入れては貰えなかった
『いったい自分が何をしたのか?』と
怒りのうちにいくら問い詰めたところで大佐からは少しの返答も…
まして謝罪も無く…
幾度か脱走を試みてはみたが監視でもしていたのか…
そのたびにことごとく連れ戻され
その後には、惨めになるような仕打ちだけが待っていた

『一体自分は何をしてしまったというのだろう?』

大佐の逆鱗に触れるような事をしてしまったのだろうか?
何度考えてみてもエドにその答えは分らなかった
当然アルには、先の事件の治療中だと伝えられているらしい
壊れたオートメールの修理にも時間がかかっているのだと…
実際軍内部の者で直接エド達に関わる者は少ないため
さし当たって彼の行き先を尋ねてくるような人物も他にはいなかった
夜になれば狂ったように大佐に抱かれ
目が覚めればいつも、太陽は西に傾きかけていることが大半であった





ガチャリ



目覚めると少ししてまるで見張っていたかのようにいつもと同じ当たり前の顔で大佐が姿をあらわす

「鋼の少しは食事を取ってくれないか?」

新しい食事だろう
ソレを手に大佐がベットの方に歩いてくる
少し呆れてでもいるように前日からベット横のサイドボードに置き去りにされた食事のトレイを見る

それも今日で三日目の事だった




「食べたくないんだ」
エドは俯きながらそう静かに呟く…
「そう言ってもう三日もろくに口にしていないじゃないか…」
ため息混じりに吐かれた大佐の言葉には焦燥の色が見え隠れしていた
実際日に日に細さを増していく彼を心配もしていたのだが
しかしその原因である要素を自分が取り除いてやる事が出来ないという事も分っていた
原因は自分なのだ
けれどソレを止める事は自分には出来なかった
エドを前にして理性が働かないのだ
些細な事がどうしようもない衝動の引金になっていく…

大佐にもいつもの猛々しいオーラは無くこの数日何かどんよりとした暗いものに包まれているようだった
もちろんこのままでお互いにとって良い事など一つもなかった


「そうだったかな?ずっと寝ていたんで気付かなかった。ほんとに腹へらないんだ」
本当に食欲が無いのだ…
だからほおって置いてくれと…
エドは何日にも渡り繰り返される狂気に正直身体だけでなく精神さえも疲弊していた
食欲と言うより物欲が欠落していた
ソレより…
「なぁ大佐…一体俺何したよ?」
もう一度と、静かに問い掛ける
正直もう自問自答を繰り返すのには飽き飽きしていた
その答えさえ出れば打開策が見つかるような気がした…
だから素直にその理由を確かめたかった
大佐の口から話して欲しかった



素直な想いは案外あっさりと声となり大佐の耳に届いた
「鋼の…?」
いつもの様子と違うエドに少しの戸惑いを見せながら大佐がエドに近づく
いつもなら…またこの部屋を出て行こうとするだろう
けれど今日はそうはしなかった
ただ、大佐の気配にびくりと反射的に身体が逃げを打つ
日々繰り返された行為に心より身体が恐怖を覚えている
また今日も抗いきれない熱が襲ってくるような気がしていた
けれど予想に反して
いつもとは違う穏やかな瞳と
何故だか優しいような腕が自分の背に廻された

「大佐…?」
だから…
こんな風に突然優しく抱きしめられたって俺にはどうすれば良いのか分らない
そっと壊れ物を扱うように髪を撫でられたって…
感じるのは、苦いばかりの想いだけだった
逆に怖くなってまた身体が震えた

その身体をより強い力で大佐が抱きしめる
「鋼の…」
苦しそうな大佐の声が耳元で聞こえる
何かに溺れそうになっているような抑揚のない声
抱きしめられ引き止められているのは自分のはずなのに…
何故か自分の方が大佐を抱きしめているような気分だった
行く当ても無く彷徨っている子供のような大佐

不思議だった
苦しいのに…けれどこの瞬間だけは何故だか凄く穏やかに感じた

『あぁ…そう言えば何時だかこんな感覚に陥った事が有ったな…』と
何故だかその想いを懐かしいような暖かいような気持ちでエドは受け止めていた
救いの手を差し伸べられているようだった

幼い日与えられた優しさに似た形容し難い…安堵
そう考え深くエドは瞳を閉じた




「鋼の?」
その声に閉じた目蓋をもう一度持ち上げる
大佐がエドの顔を覗き込んでいた
大佐の指がそっとエドの頬を拭う
その指の感触に自分の顔を熱い何かが伝っている事にその時はじめてエドは気が付いた
「あれ?…おかしいな…」
大佐がそうしなければ自分が泣いている事に気が付きもしなかった
「何で俺泣いてんだろ?」
苦笑交じりにエドが呟く
抱きしめたエドの身体が小刻みに震えていた
声も上げず涙を流す…
実際何故泣かなければいけ無いのかエドには分らなかった


ソレを見て大佐は、深く後悔した
あぁ…私は何をしていたのだろう?
こんな幼い少年に…
この数日疲弊してゆく彼を見つめながらけれど解放してやることなど出来なかった
後になってこんなにも後悔する事になるだなんて
これまでの自分には考えも及ばなかった
自分がこんなにも他人に執着するとは思っていなかった
ただ…
自分の欲望と身勝手な思い込みを無理やり押し付けただけじゃないか
深い後悔の謝罪に腕の力を強めたところで何の打開策にもなりはしない…

実際そのせいで彼は内側から壊れ始めている…
そう自分の感情を制御できない程に




「すまない…」
「………えっ?!」
そんな彼に対して素直に漏れた大佐の謝罪の言葉をエドは最初聴き違いかと自分の耳の方を疑った
「すまなかった…いくら理由を言ったって既に言い訳にしかならないかもしれないが…」
どうやら現実だったらしいと少ししてやっとエドは、理解した
けれどまだ信じきれず不思議そうに大佐を見つめた
大佐は悪意の無いその眼差しに余計に自分が攻められているような気がした
だからワザト少し視線をそらした
彼を抱きしめる腕の力は緩めないまま

けれど実際は…なんだかその言葉が聞けただけでエドは満足していたのだ

長ったらしい説明なんて聞いたところで耳を素通りするばかりで意味がないから
だから…
少しの間そうやってお互いを近くに感じて
それからエドは、譲歩の変わりに自分から大佐へ口付けた
最初その行動に驚いて大佐はエドを見返したが
言葉を交わさなくてもエドが自分を受け入れてくれた事を知り
再びその唇に自分のソレを重ねた

最初は甘く…

段々と

深く…
フカク…


それから二人は、どちらとも無く身体を重ねた

ソレは今までのように傷を舐めあうような苦いものでもなく…
ただ一方的に押し付けられる感情でも無く…

ただ内側から満たされていくような優しい感触を二人に与えた…




あぁ…自分は今とても満たされているのだと
ソレを幸せなのだと噛締めながら

エドは、久々の安らかな眠りを迎えていた









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