束縛の理由
いつか消えるかも知れないモノを
無くすかも知れないモノを
けれど諦めきれないのは
自分の埋まらない何かを何時でも求めて止まないから…
コレは、エドには語られなかった部分…
もちろんあの日以降の異常ともいえる数日の大佐の行動を
エドへの以上ともいえる大佐の執着を彼女はただ見ていた訳ではない
あの日々…あの時間は
彼…いや大佐にとって必要な期間だったのだと言えよう
あの狭間の暗黒とも言うべき時間をリセットするために
だから他の何にも変えがたく常に大佐にとっての最善をと考えているリザには…
あの数日間の彼の虚構を止める事なんて出来はしなかったのだ
たとえソレが彼らにとって辛い日々となろうとも…
きっと乗り越えられると
そこから立ち直れると信じていた
だからこそあえて黙認した
再生のための時間を
“絶対的信頼”
恋愛などという想いでも
家族という概念でも無く
そういう風にリザにとってのロイ・マスタングは存在していた
彼とは……彼女にとって最善を尽くし一生付き従って行くべき唯一絶対の存在だった
ソレは、言葉にして発する必要も無い
ただ…そこにある真実だった
コレは、そんな彼女の従うべき信頼するべき上司が異常とも思われる行動を起こすほんの数日前の話……
エルリック兄弟がセントラルを立って一ヶ月が経とうという頃
その知らせは届いた…
『二人が旅立ちセントラルを長い間留守にする』
もちろんそんな事は、いつもの事だった
いや今となっては、セントラルに長く滞在する事の方が珍しくなっていた
彼らにとってのホームなどもう既に無かったのかもしれない
自分達の戻るべき居場所はもはや彼らの手で処分されていた
ソレは、彼らの決意の現れだったのだろう
けれどそんなのは淋しい…
まだ幼い彼らにそんな苦しい選択を強いてしまったのは大佐と私だった気がする
彼女もその事を随分気にかけていた
コンコン
彼女の思考を遮るように執務室の扉が叩かれた
「入りたまえ」
昼を過ぎた頃外のざわざわという騒ぎと共にその伝令は伝えられた
「失礼します」
その声の一呼吸後大佐の執務室に姿を見せたのはいかにも焦った様子を隠せないハボック少尉だった
「何か有ったのかね?少尉」
その部下をたしなめるように落ち着いた声で大佐が喋りかける
「不味いっすよ大佐」
けれどその声にも彼の部下は焦りを隠しけれないようだった
「何が不味いの?少し落ち着いて話しなさい」
リザは、焦って内容を得ないハボックを注意した
「あっ…すいません…それが…エド達暴動に巻き込まれてるらしいんすよ」
「エド君達が?どうして…」
さすがのリザも先程まで考えていた事と嫌な思いが重なり驚きを隠せない
その先の言葉を聞こうと質問し続けようとしたリザの言葉を大佐が片手で遮った
「それで?詳細は?」
冷静にその言葉の先を即す大佐
「…実は……今下にソコから戻った兵士が…いまして…」
ハボックの歯切れの悪い言い方に嫌な予感が渦巻く
「そいつがエド達……エルリック兄弟を見たと…しかも軍に………その…敵対して…その被害は相当のものと……」
段々と弱くなっていく語尾に
「なんだと!!」
その報告に大佐の態度が一変した
冷静さを欠いた様子で今までの落ち着きなど微塵も感じない
「そいつは…その兵士は今何処にいる?」
強い口調だった
立ち上がり執務室を出て行こうとする大佐の背中にハボックの声が響く…
「つい先ほど息を引き取りました…。多少顔見知りだったやつです。多分間違いは、無いでしょう」
「馬鹿な…」
信じられないと大佐の瞳が揺れる
立ち尽くす大佐…
『何かの間違いだ』
そう思わずにいられなかった
ただ弟と自分の身体の一部を元に戻そうと…そのために国家の狗になっても良いとそう言った
アレをここへ連れて来たのは、自分だ
戦いを自分から望んでするような
人殺しを自分から望んでするような
そんな者達であるはずが無い…
だとすればコレは……?
…確実に私の采配ミスだ
何処で間違えた…?
近くにいなくとも見守ってきたつもりだった
悲しみと裏切られたというような悔しさの色が彼の瞳に写る
「大佐…」
何かフォローをしなければとリザは口を開いたがどう言ったら良いものかとっさに浮かぶ言葉も無く…
少しの沈黙が執務室内を支配した
しかし以外にもその静寂を崩したのは大佐本人だった
「少尉!」
「は…はい」
「すぐに現地に行き状況を把握して来い。そして私に連絡を。ただし自分が危ないと思ったらすぐに一度ここへ戻れ」
「は…ハイ。わかりました」
未だにどうすれば良いのか状況を飲み込みきれていない様子の少尉に的確に指示を飛ばす
「中尉は、別ルートで現在の二人の足取りを。もしかすると二人の名を語った別人である可能性もある」
「は…はい。分りました」
その判断力の速さは驚くべきものだった
彼の部下達は、その的確な要求に見事というべき働きを見せた
ハボックの報告によると…
確かにエドの姿を見たという者はいたが弟のアルの姿を見ていないという事
実際にエドが練成陣等を用いたような痕は、見られないという事
ただし確実に死者が多数出ているという事だった
リザの方も…
二人の足取りがどうやらその町に向かった事は確かだが
ソレは、あの事件が起こって数日後だったと言う事
まるで事件が起こってからソレを追いかけてその町に入ったような様子だったと言うものだった
そして大佐は、確信していた
やはり彼らは、自分を裏切ったのでは無いのだと
事件を聞きつけ何らかの形でそれに巻き込まれていると
そして…
「中尉、許可が下りた。車の手配を」
「は…はい」
大佐は、そのエド達の結果報告書をすぐさま上に取り付け彼らのいる町へと急いだ
リザに言わせればその様子は、今までに無く追い詰められているような鬼気迫るものだったと言う事だ
そう一番冷静さを欠いていたのは実のところ誰よりも的確な指示を出した大佐だったのだ
現地に着きすぐにハボックが見当をつけていた場所へ向かった
廃墟と言って間違いは無い工場跡地
崩れかけた壁の合間に彼らの姿を見つけた
どうやら何者かと会話をしているらしい
だがエドの身体はボロボロだった
腕のオーロメールは既に元の形を留めいていなかった
アルの鎧も同様で無数の破損が見て取れた
「大佐…」
リザは敵との間合いを見極め大佐に耳打ちしようとした
しかし
「必要ない。それより私が合図したら全員でやつらを囲め」
「はい」
やはり抑揚が無い
いつもならば部下の言葉を全く無視するような事はしない人なのに…
困惑した…
『今この人に全てを任せて大丈夫だろうか?』と
初めてこの人の判断を疑った
けれどソレは、余計な心配だった
その後大佐はもちろん完璧と言って過言でない攻撃でエド達を救い出した
けれど自分の中に沸いた一瞬の大佐への疑い…
些細な事とは言えソレはリザにとって紛れも無く信頼への裏切りだった
だから…あの時
アルの純粋な疑問に苦笑いでしか答えられなかった
“どうして?”と問われたのにソレを上手く説明できそうに無かったから
大佐への疑いを攻められているような気がした
もちろんこの時のアルにそんな事を考えている余裕など無かったし
そんな答えに辿り着く情報さえなかったのだから…有りもしない思いだったのだけれど…
とはいえ彼らは危機を脱したのだ
結果が全てだと納得しようとリザは、心の隅に芽生えた少しの不安を飲み込んだ
ソレがあの時起きた全ての事である
もちろんそれからの事は、先に語った通りである
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