鈴が鳴ったら・・・・・・・

 

ちゃり・・ん・・・・・

 

どこかで鎖がぶつかるような音が聞こえた。
音の発生源はわからない。
耳を澄ましていても聞き逃してしまうくらいの、かすかな音

気のせいだったのかもしれない
そう思って私はタオルケットを首までひきあげた。
時計は午前3時をさしていて、いつもなら熟睡しているはずの時間だった。
部屋の中はいつもと変わりがなく、時計の秒針の音だけが響いている。
カチッカチッカチッカチッカチッ・・・・・・

中途半端に目を覚ましてしまったせいで頭がはっきりしない。
眠い。
なのに意識のどこかが覚醒していて、なかなか寝付くことができなかった。
でも、眠い。

そのとき、ちゃりん・・・・・という音がまた聞こえた。
窓の外からだ。
音は遠くで鳴っているような気がする。

隣で飼っている犬の鎖の音かもしれない

そう思い込もうとしたけど、背筋にぞくぞくするものが走った。
違う
何かが違う
これは、鎖の音じゃ、ない。

 

ちゃりん

 

音が大きくなった。
近づいているの?

 

ちゃり・・・・ん

 

窓のすぐ、外で鳴っているとしか思えないっ!
私はタオルケットを頭からかぶった。
理由なんてわからない。
でも、怖かった。
タオルケットで顔を隠すのと同時に、別の音がした。

 

 

こんっこんっ

 

誰かが窓をノックしていると気付くのに、数秒かかった気がする。
だって、深夜の3時に誰かが窓をノックするなんて、普通は有り得ないじゃない?

そのときの私はどうかしていたのだと思う。
ノックされたのだとわかった瞬間、窓にかけより、窓を開けてしまったのだ。
3時なのに。
誰が立っているのかもわからないのに、だ。

「こんばんは」
そこには女性が一人で立っていた。
状況を把握できず、返事に困っている私を無視して、その女性は窓の外から私の腕を掴んだ。
「一緒に来て。見せたいものがあるの」

気が付いたら、女性の後を追うように外を歩いていた。

私は裸足で、しかもパジャマしか着ていない。
夏で良かった。そうでなかったら風邪をひいてるわよ・・・・・

不思議なことに、女性に誘導されて歩いている道に見覚えがなかった。
自宅の近所のはずなのに、たった数分しか歩いていないのに、初めて見る景色ばかりだった。

ここはどこなの?
どこに連れて行くつもりなの?

私の質問に答える様子はなく、その代わりにあの音がする。

 

ちゃりん・・・・・・

 

歩いていた道はいつの間にか坂になり、いつの間にか階段に変わっていた。
階段の傾斜はとても急で、しかも幅が極端に狭かった。
手すりなんてものも無く、踊り場もなく、ただただ真っ直ぐに伸びる階段。

疲れたなぁ・・・とか
どこまで行くのよ?とか
私の意識が逸れると、それを戒めるかのように鈴の音がする。

 

ちゃりんっ

 

私の前を歩く女性は振り向くことすらしない。
どこからか聞こえてくる鈴の音だけで私を支配している。

支配?

そう、私はこの音に支配されている。
逆らう事ができない。
意識の及ばないところで、操られて・・・・いる?

 

 

ふいに女性の姿が消え、階段が途絶えた。
頂上に達したらしい。

そこにあるのは、どこからどう見ても、井戸だった。
ぼろぼろのお飾りみたいな屋根のついた、当たり前のつるべがついた、ただの、井戸。

尋常でないのは、井戸が階段の頂上に設置されているということ。
地下水をくみ上げるための井戸だったら、わざわざ高いところなんかに作らないでしょう?

しかも・・・
階段を昇りきった部分の面積はとっても狭くて、
私は井戸にくっつくようにして立っているしかなかった。

くだらない。降りよう。
そう思って井戸に背を向け、階段を降りようとしたら・・・・

階段がなくなっていた。

一体、なんなの?
ここで私にどうしろっていうの!?

少しでもバランスを崩すと落ちてしまいそうだった。
地上からどれくらいの高さにいるのかを推し量ることもできないくらいの高さにいる。
井戸と、私しか、ない。

辺りは一面の闇。

そして、井戸と私。

 

 

 ちゃりんっ

 

今までよりも一際大きく、鋭く鈴の音がしたのと同時に
つるべが回りだした。

 

からからからから・・・・・・・・・・・・・・・

 

つるべが回り、つるべの片端が上がってくる。

私の目の前にくみ上げられてきたものは、足首だった。

わらじを履いた足首。
切り取られた足首。
これは・・・・・右足ね?

右の足首をくみ上げたつるべは、足首を宙に残したまま、また回りだした。

 

からからからから・・・・・・・・・・・・・・・

 

左の足首。

 

からからからから・・・・・・・・・・・・・・・

 

右手首。

 

からからからから・・・・・・・・・・・・・・・

 

左手首。

 

私の思考回路は完全にシャットアウトしていた。
次々に目の前に並べられる身体の一部たちを、眺めているしかなかった。

だって、他に何が出来る?

私は立っているのが精一杯の敷地しか与えられていないし
井戸にぴったりと張り付いているしかなかったのよ。

たとえ、その井戸が人体の一部をくみ上げていたとしても。

 

 

両足と両手首が揃った(?)のに、つるべはまだ回ろうとしていた。

次は、なんなんだろう?

麻痺した思考の中で、次に上がってくるものが何かを想像した。

 

からからからからからから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

首、かもしれない。

そう思い当たった瞬間、落ち武者の首が目の前にあった。

  

ちゃりーーーん

  

鈴の音がするのと、閉じていた落ち武者の目が開くのとは同時だった気がする。
次の瞬間、さっきまで宙に浮いていた両足首が私の胴体に絡みつき
両手首が肩を掴み、ものすごい力で私を井戸の中に引きずり込んだ。

井戸の中に落ちていく間中、私は鈴の音を聞いていた。

 

ちゃりん・・・・・・・・

 

ちゃりん・・・・・・・・

 

ちゃり・・・・・ん・・・・

 

 

ほら、貴女には聞こえませんか?

窓の外で鳴る、かすかな鈴の音が・・・・・・・

貴方を迎えに来た私の合図が聞こえませんか?

    〜END〜

 

 

 

 

       

 

 

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