夢の世界の住人

 

 

 

 

 

ふと気が付くと、そこは白黒の世界でした。

 

 

 

 

夢を見ているのね・・・・?

 

 

 

 

白黒なので、周りの状況がよくわかりません。

 

 

 

 

でも、どうやら山間の小さな村を見下ろす斜面に立っているようでした。

 

 

 

私は自分の意志とは関係なく、その村へ向かって坂道を降りていました。

 

 

 

 

村はひっそりと静まり返っていて、まるで人の気配がしません。

 

 

 

 

砂利道を歩いているはずなのに自分の足音すら聞こえませんでした。

 

 

 

しばらく歩いて、もう村の入り口はすぐそこ・・・・というくらいまで近づいたとき
私はその村が廃村であるという確信を持ったのです。

  

 

 

 

理由はわかりません。

  

 

 

 

敗れた障子
  


開いたままになっている玄関



片方の竿が地面についていて、どう見ても使用されていないような物干し台



ちゃぶ台に乗せられたままのお湯呑み

 

 

 

 

そう言った数々の日常品の中に、生活の匂いがまったく感じられなかったのです。

 

 

 

 

 

  

この村の人はどこに行ってしまったんだろう?

 

 

 

 

 

 

そう思ったとき、ふいに林の木がざわめきました。

 

 

 

 

 

けれど、特に風が吹いたような感じはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

なのに、生い茂った葉の中を何かが動き回るような気配がするのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コ ノ マ マ、コ コ ニ 居 テ ハ イ ケ ナ イ ・・・・・・

  

 

 

 

 

 

私の中で警鐘が鳴り響きます。

  

 

 

 

  

 

 

 

 

目 ヲ 醒 マ サ ナ ケ レ バ ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

起 キ テ !

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

起 キ テ !

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

起 キ テ !

  

 

 

  

 

  

 

 

 

 

早 ク 起 キ テ ! 

  

  

 

 

 

 

見 テ ハ イ ケ ナ イ モ ノ ヲ 、 見 テ シ マ ウ 前 ニ

 

 

 

 

 

 

 

 

早 ク 起 キ テ ! ! ! ! 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、私は自分の部屋にいました。

 

 

いつもと変わりなく自分のベッドに横になっていました。

  

 

目の前に見える天井もいつも通りです。

   

 

「変な夢だったなぁ・・・」

 

 

 

思わず声に出してつぶやいたその時、私は気がついてしまいました。

 

 

   

 

 

そう・・・・・・・・・・・・・・

 

  

 

 

 

私は夢から醒めるときに連れてきてしまったのです。

 

 

 

 

 

あの、廃村の林の葉をざわめかせていたモノを・・・・・

 

 

 

一緒に・・・・・

 

 

 

  

 

 

え・・・・・・・・・・・・? 

 

 

 

 

 

どうしてそんな事がわかるのかって??

 

 

 

 

 

 

 

 

うふふ・・・・

 

 

 

 

  

 

 

だって、いるんですもの。

 

 

 

 

 

 

ほら、そこ・・・・・・・

 

 

 

 

 

ベッドの足の方に・・・・

 

 

 

 

 

 

白髪の老婆が・・・・・・・・・・

 

 

 

  

 

 

 

立っているの、わかりませんか?

 

 

  

  

 

 

 

 

  

 

  

  

 

 

  

 

 

私は布団をかぶりました。

 

 

 

 

 

 

何も見ていない、と自分に言い聞かせました。

 

 

 

 

  

 

全て気のせいだと言い聞かせました。

 

 

 

 

 

ここは私の部屋なんだから・・・・・・・

  

 

 

白髪の老婆が立っているはずがないのです。

  

 

 

 

なのにどんなに心の中で叫んでも、一度異常を感じた肌は粟立ったままでした。

 

 

 

 

 

 

身体が汗ばんでいくのがわかります。

  

 

 

 

 

 

そうやって布団の端を握りしめたまま、どれ位の時間を過ごしたでしょうか?

   

 

 

 

 

 

 

私にはとてつもなく長い時間のように思われましたが、実際は数分の間だったのかもしれません。

 

 

  

 

 少しずつ落ち着きを取り戻した私は突然自分のことが滑稽に思えてきたのです。

  

 

 

 

廃村に立っていたのは夢だったに違いありません。

  

 

 

けれど、今の自分は確かに覚醒しています。

 

 

 

 

 

同じ屋根の下には家族がいます。

 

 

 

そして何よりここは自分の部屋なのです。

 

 

 

そんな安全な世界の中にいて、私は一体何を怖がっているのでしょう?

 

 

 

 

 

 

さきほどまで大音響で鳴り響いていた心臓の音も聞こえなくなりました。

 

 

 

 

 

 

自分の冷静さが体内に戻ってくるのを感じました。

  

 

 

 

 

 

少しだけ・・・・

  

 

 

 

 

 

 

  

少しだけ覗いてみよう・・・・・・

 

 

  

 

 

 

 

私は布団の端を少しだけ持ち上げ、ベッドの足の方を覗き見ました。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

するとそこには何も見えなかったのです。

 

 

 

  

 

ただいつも通りに垂れ下がった布団が見えるだけでした。

  

 

  

 

 

 

 

あの老婆は寝惚けた私が自分自身で作りだした幻覚だったのです。

 

 

  

  

   

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安心した私は顔に押し付けていた布団を勢いよく剥ぎ取りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのとき

  

 

 

 

 

 

 み・・・つ・・・け・・・た・・・

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

しわがれた声とともに、あの老婆が目の前に落ちてきたのです。

 

 

 

 

 

 

そう、落ちてきたという表現が最も的確であるように思います。

  

 

 

 

 

 

  

 

老婆は布団をとった私の顔の真ん前に、「落ちて」きたのです。 

 

 

 

 

  

 

 

不思議なことに、重みは感じませんでした。 

 

 

 

 

 

そんなものを感じる余裕はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

私の目の前には老婆がいるのです。

 

 

 

 

 

 

血の気のない真っ白な顔

 

 

見開かれた目

 

 

半月に開かれた口

 

 

 

 

 

 

それらが私の視覚に流入してくるのを止める術はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

  

そして

  

 

 

  

 

それらを事実として認識したとき

 

 

 

私は最大限の力を振り絞って叫びました。

 

 

 

 

 

きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ

 

 

   

 

 

 

 

  

再び身体は震えだし、汗で全身が濡れました。

 

 

 

 

必死で目をつむり、さきほど以上の力で布団を顔に押し付けました。

  

 

 

 

矛盾しているのですが、私は寝てしまおうと思いました。

 

 

 

 

 

 

現実の世界に老婆がいるのなら

 

 

 

 

夢の世界に逃げ込むしか方法がないように思えたのです。

 

 

 

 

 

 

 

  

果たして、そんな私の浅知恵を見抜くかのように老婆の声が頭の中に響いてきます。

 

 

 

  

 

 

 

 

起きているのは知ってるよ・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ・・・・・・・

 

 

私はどうして「目を醒まさなければいけない」などと思ったのでしょう?

 

 

 

 

 

 

夢の中の出来事であれば、忘れることが出来たものを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいつまでこうしていればいいのでしょうか?

 

 

 

 

  

 

 

 

老婆は、いつまで・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

私の部屋に居続けるのでしょうか?

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

貴方も夢から醒めるときには気をつけてください。

 

 

 

 

 

もしかしたら・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

もしかしたら・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

  

貴方の部屋にも夢の世界の住人が住んでいるかもしれません・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

  〜END〜

 

 

 

 

 

  

  

 

 

RINA Presents