管理人

      不在配達表
 本日お荷物を届けに参りましたが、ご不在だったため
 管理人の方に預けました。

もう、さっきからこの紙を何度読み返しただろう?

送り主は実家の母で、中身は友達の結婚式に着ていくためのオレンジ色のワンピース。

 夜間配達を指定してって頼んであったのに!

きっと「管理人さんがいるから・・・・」と安心したのに違いない。
現に、不在配達表にはしっかり「管理人の方に預けました」と書かれているんだもの。

本来ならそれで何の問題もないはずなんだけど、私はこのマンションの管理人が苦手だった。

管理人とは言っても、彼女は私と同い年。
度の強いメガネをかけ、
あまり手入れのされていない(ように見える)ショートカットの髪に化粧っ気のない顔。
服なんていつも同じようなダークグリーンのセーターにGパン。
しかも、彼女が笑っているところを私はまだ見たことがない。

およそ私とは趣味が合いそうにない女なのよね。

そもそも、学生向けマンションの管理人なんてものを引き受けてること自体が不思議でしょ?
決して不動産屋に雇われてるわけじゃなくて、マンションの中で起こるちょっとしたこと
例えば、廊下の蛍光灯を交換するとか、玄関の掃除をするとか、集合ポストの前のちらしを片付けるとか
そういった雑用を引き受けて、アルバイト代の代わりに家賃を少し免除しましょう・・・・というもの。

それだって大して割引されるわけじゃないんだから、
もしお金に困っていて節約したいなら、もっと安いアパートに住んでバイトでもした方が割りがいい。

面倒見のいい人なのか、
お人好しなのか、
それとも少し変わった人なのか。

でも、私は彼女を“合わないタイプ”と思いこそすれ苦手だったわけでも、嫌いだったわけでもない。

そう。
数日前、あんなコトがあるまでは。

 

それは水曜日の朝のことだった。
隣の部屋に住んでる明子と一緒に合コンに参加していた私は、朝まで飲んでたせいで少し酔っ払っていた。
じゃ、またね・・・・。
明子にそう言って部屋を開けた私は目の前の光景に驚いて、ひっと叫んでしまった。
もちろん、酔いなんて完全に醒めた。

そこ。私の部屋の玄関には生ゴミや紙くずが散乱していて・・・・・。
しかも、よく見るとそれは私が昨日出かける前にゴミ捨て場に置いていった“燃えるゴミ”だったのね。

私の声を聞きつけて様子を見にきた明子の背後から、彼女の声がした。

「ゴミは指定された曜日の朝に出すことになってるでしょ」

それはそうだけど、間に合わないと思ったから出していっただけじゃない?
うちのゴミ捨て場は鍵がかかる個室になってるから、野良猫に荒らされる心配もないし。
そりゃ私が悪いんだろうけど、だからって何でこんなことをされなくちゃいけないの?
第一、どうして私の出したゴミだって分かったのよ?

「捨てた人を確認するためにビニール袋を破いたら、レポートの書き損じが入っていたの。それ、あなたの字でしょ?
廊下に置いておくと汚いから、部屋の中に入れておいたの。それから、中にクリップが入っていたけど・・・・
あれは不燃物だから分別しておいてくださいね」

 

留守中に合鍵を使って勝手に部屋に入られたことを、普段の私ならもっと責めたと思う。
でも。
夜中にゴミ袋を開けて中身をチェックしている彼女の姿を想像したら、
なんだかとっても異常な気がして怖くて、結局何も言い返せなかった。

 

 

 

その管理人が私のワンピースを持っている。

一人で彼女の部屋を訪ねるのは気が進まなくて、夜、明子が戻ってくるのを待って彼女の部屋のチャイムを鳴らしてみた。
でも、彼女は不在。

 明日、午前中に出直すしかないんじゃない?

明子の意見はもっともなんだけど、明日は朝一の講義を受けなくちゃいけないし・・・・・。
それまでに彼女、戻ってるかなぁ?

 戻ってるでしょ?あの女に限って朝帰りなんて有り得ないってば!
 もしもの時は私が代わりに受け取っておいてあげる。結婚式は明後日なんでしょ?

 

そして彼女は朝になっても不在のままで、私は明子に代理を頼んで大学に向かった。
彼女と顔を合わせずに済んだことに、幾分ほっとしながら。

 

 

 

講義が全部終わったのは夕方だった。
明子の部屋に電話したけど留守番電話が応答するだけで、携帯にかけても同じだった。
なんとなくイヤな予感がして、私は自分の部屋に入るなり明かりもつけずにベランダに出た。
そこから隣をのぞけば、様子がわかるかもしれない。

 

 私ハ一体何ヲ心配シテイルンダロウ?

 

 アノ管理人ガ明子ニ何カシタト思ッテイルノ?

 

普通なら有り得ない心配。
数日前の、あの無気質な目を見てしまったからこそ起こる不安感。

 

 彼女ハ何カガ普通ジャナイ

 

ベランダから隣の部屋を覗き込み、干されたままの洗濯物を見つけた私はがっかりした。
明子は出掛けているだけなのかもしれない。
きっと、帰ってきたら私の部屋に寄るつもりなんだわ。

 

そして乗り出していた身体を戻す瞬間、私は嫌なものを見てしまった。

真下の植え込みに横たわる、明子―――

 

それは本当に、本当に一瞬だったのだけど。

見間違えるはずがない。

両目を見開き、不自然な形に手足を折り曲げている、明子―――

  

 

どうして?
どうしてこんなコトに?

自殺なんかじゃない。
明子は彼女に殺されたんだ。

とにかく、警察に連絡しなくちゃいけない・・・・。
振り向いたとき、真っ暗な部屋の中にオレンジのワンピースを着た彼女が立っていた。

 

 ここで、何をしてるの。明子に、何をしたの?

「荷物を届けにきてあげたのよ。いつまでも私の部屋にあると邪魔だから。
箱から出しておかないと皺になると思って、ハンガーに掛けてあげようと思ったの。
そしたら、あなたが帰って来たと勘違いした明子さんが入ってきて・・・・・・。
勝手に勘違いしてベランダに飛び出していったのよ、本当よ。私が突き落としたりするわけないじゃない?
だって、人間なんて・・・・どのゴミの日に出せばいいかわからないし。」

化粧をした彼女の顔を見るのは初めてだった。
でも、表情がないその顔はいつもと全く同じ。

「あなたに相談しようと思って待ってたの。
ねぇ、このワンピース私にも似合うと思わない?化粧品も借りてみたの。
明子さんがいなくなると、あなた寂しいでしょ。今度から私が明子さんになってあげる。
そして、私があなたをきちんと管理してあげる」

  

彼女はそう言ってベランダに出て、私に手を伸ばした。

 

 

 

 

 その後のことは覚えていない。

 

 

 私が自分で飛び降りたのか、それとも彼女に突き落とされたのか・・・?

 ただ分かるのは、今私は明子と同じ姿で横たわっているということだけ。

 そして、途方に暮れたような顔をした彼女が真上から私達を見下ろしているという事だけ。

 彼女はゴミが二つに増えたことに困惑しているようだった。

 

 〜END〜

 

 

即日入居可

詳細情報
種類 マンション
間取り 1LDK
賃料 50,000円
共益費 0円
敷金 1.0か月
礼金 1.0か月
所在地 F県S市
築年 1988/04
構造 鉄骨ALC造
現況 空室:2

設備・条件
エアコン有 給湯有 ロフト無 浴室有 シャワー有 ペット不可 楽器不可
 セールスポイント
オートロック設備 買物とても便利 全室南向き 管理人常駐

  

 

 

 

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