聖マリア=チェチーリアと〈星の鳥〉の神話



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序 文


嘗て次のような神話が、星の小鳥たちのあいだで語られていた。私マリー・シャウルフェンは、夢と幻の此の現実の彼方より、一つの物語を聞き取る。それは古、星の小鳥たちのあいだで語り継がれて来た神話であり、そこには、此の宇宙の存在の根拠となる奥義が、啓示として開示されていたと言われる。それは物語の形で語られる〈真実〉であり、過去と未来の円環の彼方に位置する〈星座の永遠〉のパターンである。私は此の神話を、〈上主〉がプロパテールを最初に夢見られた当時に遡って語ろう。


I


あなたたちが既に知るように、〈上主〉の創造は、プロパテールとそれに続く夢の連鎖体系全体の創造であり、それは一瞬の夢でもあれば、永遠に終わり無い夢でもあり、それは超時間的で、始まりと終わりを持たない。しかし、私たちの階梯の意識存在、即ち人間〔ノール〕は、始まりも終わりもなく、一瞬であると共に永遠である〈上主〉の此の〈超時間性〉を認識し想像する方法を持っていない。私たちはヒュペルクロノコスつまり、〈超時間的〉と云う言葉を何時でも付け加えつつ物語を語る。なぜなら、私たちノールが語る物語は、それが、神話であり、啓示に根拠を持つものとしても、既に語ると云うその行為によって、私たちのよく知る時間と空間の中の出来事として枠組を与えられてしまっており、私たちはこのようにして、私たちの身近なものとされた〈神話〉を、ヒュペルクロノコスと云う語を警告として発することによって、それが文字通りの〈真実〉そのものではなく、その〈影〉であるに過ぎないことを示すのである。私マリー・シャウルフェンが語るのは、ヒュペルクロノコスな、しかして私たちの時空間の中の出来事として変形された、〈影〉としての神話である。


II


〈上主〉がプロパテールと〈全宇宙〉を創造し、夢見られた最初の頃、それは創造と夢の原初のアイオーンと呼ばれるが、此の存在世界の中には、プロパテールと、その夢見た宇宙と、最上位天使〔超精神存在〕即ち、ヒュペルセラフィンが存在していた。諸々の世界の階梯とその存在者たち、精神は、〈夢見の萌芽〉の中に未だ睡んでいた。私たちは此の時代を、〈原アイオーン期〉と呼ぶが、此の時、プロパテールとそのヒュペルセラフィンを含む原アイオーン世界に、ある〈事件〉が起こった。此の事件について知るのは、此の地上世界にあって、私たち〈星の小鳥たち〉而已であり、私たちの〈信仰〉は、此の〈事件〉を一つの根元的根拠として開かれている。此の〈事件〉は原アイオーン界で起こった。しかして此の出来事の起源は、プロパテールにも原アイオーン界にも帰さない。それは、プロパテールとヒュペルセラフィンを夢見られる〈上主〉の階梯より降下して来た、一つの白い花の結晶である。私たちが〈上主〉について知るのは、それが超時間的であると共に、超アイオーン的であることである。〈上主〉は此のアイオーン界にとって、ヒュペルアイオノコス界、即ち超アイオーン界の最高最大の花であった。しかし、宇宙が創造されて間もない原アイオーン期に、此のヒュペルアイオノコス界を横切って、一羽の超伝説上の〈鳥〉が、〈上主〉の秩序界より見る時、〈無〉の領域より訪れ来たり、原アイオーン界とプロパテール、そしてプロパテールの創造した数々の原世界と一瞬接触した。此の超アイオーン的な〈鳥〉が真実に何であったのか、プロパテールとその諸天使たちには理解出来なかった。プロパテールとそのヒュペルセラフィンたちにとって、〈鳥〉は〈上主〉の許より訪れた、〈上主〉の創造によるその〈夢〉のようにも思えた。しかし〈真実〉は知り難く、〈上主〉はそれについて何も語らない。ヒュペルセラフィンたちは此の鳥を〈星の鳥〉と名付けた。あるいは、そのような呼称が、ヒュペルアイオノコス界より、ヒュペルセラフィンたちの世界に下降して来た。〈星の鳥〉が原アイオーン界に触れた一瞬、ヒュペルセラフィンたちのあいだに混じって、一人の少女の〈超霊〉が存在していた。ヒュペルセラフィンたちの一人、あるいはプロパテール自身が、此の出現に際して質問を発したと言われる。「清浄なる霊処女よ、あなたは誰であるのか?」すると超霊存在である少女は答えた。「私の名はマリア=チェチーリア。私は〈星の鳥〉より遣わされた、プロパテールの伴侶であり、と同時にその超越者」「主なるプロパテールを超越する者は」とヒュペルセラフィンたちは言った。「聖なる〈上主〉以外にない。あなたは〈上主〉の創造された〈夢〉であるのか?」彼女はそれに対し答えた。「〈上主〉はヒュペルアイオノコス界での一つの〈星〉であるのです。〈私〉を夢見たのは〈星の鳥〉であり、〈星の鳥〉はあなたたちにとっては、〈無〉の彼方に存在しています。私は、〈星の鳥〉の〈言葉〉を伝え、プロパテールが語る創造の神話とは異なる創造の諸神話を、〈全宇宙〉に伝えます」「どのような神話を?」とヒュペルセラフィンたちは尋ねた。「私が語るのは、〈PRSRP〉の神話です。あなたたちは認識せねばなりません。全アイオーン界と全存在宇宙は、プロパテールの夢ではなく、根元の母なる〈PRSRP〉の自己発現であるのです。あなたたちはヒュペルアイオノコス界に、〈上主〉の〈存在〉を想定していますが、それは一つの夢であり幻に過ぎません。〈上主〉は〈無〉の彼方にあって、ヒュペルアイオノコス界の〈星〉として輝いていますが、此の宇宙のプロパテールと諸存在、そしてあなたがたの夢は、〈上主〉の創造による夢ではありません。私の言葉に耳傾けなさい。此の世界は、ヒュペルアイオノコス界の聖なる太母〈PRSRP〉の自己発現であり、何時の日か、永遠が永遠に亘って繰り返されて後、再び〈PRSRP〉の母なる胸許へと回帰するのです。〈私〉は此のプロパテールの夢の宇宙に遣わされた、〈夢よりの救済者〉です。私はあなたがたヒュペルセラフィンの夢の彼方にまで、私自身を投射し、すべて夢見られた者、すべて創造された者に、太母〈PRSRP〉の〈救済〉と〈受容〉を開示します」


III


此れらの言葉をマリア=チェチーリアが語ると同時に、原アイオーン界には、はなはだしい混乱が生じた。プロパテールの夢の秩序は、マリア=チェチーリアの僅かな言葉によって軋み、ある部分は無に溶け消え、ある部分は変質して別の夢と化した。ヒュペルセラフィンたちの裡の一人は叫んで言った。「プロパテール〔原父〕はおっしゃられる。全宇宙はプロパテールの夢である。〈PRSRP〉とは、反逆した一人のヒュペルセラフィンの築いた夢である、と」マリア=チェチーリアは微笑すると言った。「反逆したヒュペルセラフィンとは誰のことですか? あなたたちは常にプロパテールに忠実であったし、プロパテールがあなたたちを夢見た。プロパテールの夢の中に、その夢を否定する夢が現れるとあなたは言われるのですか?」「〈私〉には分からない」とヒュペルセラフィンは答えた。「しかし、聖なるプロパテールは、〈PRSRP〉は此の宇宙には存在していないとおっしゃられている」「その通りです」とマリア=チェチーリアは答えた。「けれども〈私〉が存在し、私はプロパテールの夢の中で、諸存在に、〈救済〉と〈慰め〉と〈受容〉と〈赦し〉を与えます」……マリア=チェチーリアのその言葉と共に、プロパテールはその意志を決定した。彼は、ヒュペルセラフィンたちに命じて、マリア=チェチーリアの夢を引き裂き分解させた。しかし、引き裂かれ分散しても、マリア=チェチーリアの〈夢〉は言葉を続けた。プロパテールとヒュペルセラフィンたちは、マリア=チェチーリアより〈言葉〉を奪い、彼女を〈沈黙〉あるいは〈木霊〉にした。そして展開され流出されて行く〈夢〉の諸世界にあって、彼女の教説が意味を成さないように、その言葉を引き裂き、マリア=チェチーリアの啓示をばらばらなものとした。こうしてマリア=チェチーリアとその言葉は引き裂かれ、此の世界では原型をとどめなくなった。しかし最初の言葉の通り、マリア=チェチーリアは〈沈黙〉としてプロパテールの傍らに伴侶の位置を占め、その引き裂かれた言葉と分身は、アイオーン界のすべての世界に、〈星の光の破片〉として散らばった。


IV


しかしてプロパテールは、マリア=チェチーリアに対して定められたそれらの運命がすべて成就した後、今や〈沈黙〉となったマリア=チェチーリアについて、彼女はそもそも何であったのかを、もう一度思いめぐらした。それが〈上主〉の夢ではないことは、プロパテールには分かっていた。彼女はヒュペルアイオノコス界より訪れ来た〈夢の原型〉なのである。マリア=チェチーリアを引き裂いたことは間違いではなかったのか。そしてマリア=チェチーリアが啓示した太母〈PRSRP〉は、夢でも言葉でもなく、真実の実在ではないのか。こうしてある時、プロパテールはその伴侶であるマリア=チェチーリア、即ち〈沈黙〉(シーゲー)に向かい語りかけ問いかけた。「私はお前を引き裂いた。しかし〈真実〉は、〈上主〉の〈啓示〉は一体何であったのか。お前は真実に〈夢の救済者〉であるのか?」それに対し〈沈黙〉は答えたと言われる。「私は、私の弟である、シオン・ノイアステリアと共に、此のアイオーン界に訪れました。私たちは、あなたとあなたのヒュペルセラフィンたちの夢の中にあって、異なる夢を開示するでしょう。あなたは、私と、私の弟シオン・ノイアステリアを引き裂き、〈沈黙〉とし、諸アイオーン界と無限の諸世界のうちに投げ棄てました。けれども、〈沈黙〉である私マリア=チェチーリアの破片は、私の娘であり妹であるソピアー・リーラー・プロセルピーナとして、何時の日か、その原型の故郷を回想し、私のシオンの翼の破片もまた、その故郷へと帰り来たります。私たちは諸アイオーン界と諸世界にあって、〈星の破片〉として不滅であるのです。それは丁度、あなたとヒュペルセラフィンたちの夢の中で、〈帝国〉が不滅であるのと同様です。けれども、夢見られた人々は、何時の日か、自分が夢見られた存在であることを自覚し、プロパテールであるあなたより上位の〈無〉の彼方の〈故郷〉を求めるでしょう。その時、ある人々は、自分がソピアー・リーラー・プロセルピーナの〈星の破片〉を魂に持っていることを自覚し、またある人々は、自分がシオン・ノイアステリアの〈星の破片〉を魂の裡に持っていることを想い出し、自覚するでしょう。ソピアー・リーラー・プロセルピーナの〈星の破片〉を持つ人々は、シオン・ノイアステリアの〈星の破片〉を持つ人々と共に、私の許に帰り来たり、その時、〈星の鳥〉は再びヒュペルアイオノコス界の〈無〉の彼方より、此の夢の世界に訪れ、私たちは、あなたとあなたのヒュペルセラフィンたちの夢から抜け出して、私たち自身の夢の世界へと翔び去るでしょう。私たちはこうして、あなたの宇宙の夢の中に、存在しなくなるでしょう」プロパテールは尋ねた。「〈沈黙〉よ、ならば答えよ。お前の語る〈シオン・ノイアステリア〉とは何なのか、〈ソピアー・リーラー・プロセルピーナ〉とは何なのか、そして、そもそも、〈星の鳥〉とは何であるのかを」しかし〈沈黙〉は、それらのプロパテールの問いに対し、沈黙に留まって、何も答えなかった。プロパテールは、叫ぶようにもう一つの問いを発した、「お前たちが、私の宇宙の夢から去るとは、〈何時〉のときのことなのか?」それに対し、〈沈黙〉であるマリア=チェチーリアは、答えたと言われる。「今、此の瞬間にあって」しかし、プロパテールとマリア=チェチーリアの対話そのものが、一瞬であり、また永遠であり、それ故、マリア=チェチーリアが示した〈今、此の一瞬〉とは、夢の階梯諸世界にあっては、〈何時〉のことなのか、私たちには知ることが出来ない。とは言え、マリア=チェチーリアの言葉は既に発せられ、此の宇宙の運命は定まっている。私たち〈星の小鳥〉は、シオン・ノイアステリアの〈星の破片〉を霊の裡に持ち、また、ソピアー・リーラー・プロセルピーナの〈星の破片〉を霊の裡に持っている存在が、此の宇宙には存在している。私たち〈星の小鳥〉は、宇宙の諸秩序の調和に献身し、そして此の夢より去って、私たちの霊の故郷である〈VN*BMGRTN〉のさらに彼方の〈故郷〉へと帰って行くであろう。その魂の裡の〈星の破片〉よりして、シオン・ノイアステリアであり、ソピアー・リーラー・プロセルピーナである私たちは、〈星の鳥〉と共に、〈無〉の彼方の、ヒュペルアイオノコス界の新しい世界へと翔び去って行くであろう。


結 語


此れが、星の小鳥たちに知られる、聖マリア=チェチーリアと〈星の鳥〉の神話である。太母神〈PRSRP〉とは何であるのか、プロパテールとは独立する、その自己発現による宇宙の創造とは何であるのか、それらは別の神話に於いて、別の言葉と意味を持って、語られている。私マリー・シャウルフェンは、原アイオーン界に存在した、〈沈黙〉である聖マリア=チェチーリアの伝説の神話を、このように語る。




(2040/0722 ― 2040/0723)







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