The Glorious Golden Light in October

十月の榮光の金の光




   知る者は知り、知らない者は知らない。 これが、智慧の定めであり、生きる者は生き、死する者は死する。わたくしたち は本来的に波のあいだの存在であり、夢はすべて薄青い水面を通して仰ぎ見る頭 上の太陽の燦めく空ではなかったですか。

   無論、覚えていますよ。彼の身体は波立つ暗闇の水中を激しい流れに押し 流され、湖の沖合遥かな夢の水晶の世界へと漂って行ったのでしょう。そして、 水に沈んだまま、彼は何を思索し何が宇宙のプリンキピウムであったと理解した のか。

   貴方が知る通り、あの森の中心に一本の樹があり、彼はその遥かな高みの 枝から吊された縄の先で、ほぼ地上近くの位置で、静かに揺れていたことでしょ う。彼が意志する時に時間の流れる速度は変化し、彼の死体は急速に腐敗し、忽 ちの裡に白骨となりそれでも樹の枝から吊された縄の先に首を巻き付けられて浮 かんでいたと。

   森の木々は緑にして金色に黄葉し、そして落ち葉は静かに果てしない時間 のなかで森のなかに降り落ち降り止まず、永遠に落ち葉は降り続けたと。彼が意 志する時、彼の肉体は元に戻って行き、腐敗の過程を逆に進んで行き、何者か宇 宙の支配者がこの世界の中心の森の木の枝に吊した瞬間の時点まで戻り、そして 縄は彼の白い首筋に喰い込み、喉を潰し、彼の唇の端から鮮やかな血が流れ、無 数の血の雫が宙を舞い、黄金の落ち葉は真紅の雫で一枚一枚に何かの模様を描か れて行った。

   わたしは近づいて行き、鬱蒼とした木々のあいまから、彼の吊された樹の 枝を見上げていた。緑と金の枝枝は空を被い、その遥か彼方に金色の十月の太陽 があった。何を知りましたか? わたくしは尋ね、そして少年は答えた。我が主 よ、星辰と銀河の精神よ、何故に我を見捨て給うや? 主は存在しません。そし てまたこの世界も、この宇宙も一切は存在しないではありませんか。

   少年は燦めく薄青い瞳でわたくしを見つめ云った。ぼくは知っていた。時 間の終わりと始まりに貴女の訪れることを。風が吹き、金色の光線のなか、少年 の纏う、銀色の上着の裾が風に旋回して囁いた。何を知っていたと。アイオーン は、と少年は云った。一人一人の人間の生涯に宿っている。我々のレーベンはア イオーンではなかっただろうか?

   ベルグソンは年老い死んだわ。翡翠の羽を求めて貴方はどこに飛翔しよう と意志するの? しかり、永遠の氷の春へ。ぼくはこの金色の榮光の秋に永遠に 縊られ、そして何かを待たねばならない。人の命は落ち葉のように衰え、風に散 り、堆積して行くわ。このアイオーンで幾千京の生と死が繰り返されたのか、あ なたは知っているの?

   智慧ある者は、と少年は云った。世界の中心の樫の木の枝に自分をぶら下 げたりしない。ピスティス・ソピアーは裏切りに過ぎない。それが『真理』であ るとしても、とわたしは云った。貴方は何の上に立つの? おお、と少年は云っ た。ぼくの立脚する大地は存在しない。ぼくは夢幻の夢を見た。あの湖で水晶の 世界を彷徨うあいだ。人は根拠を持たない。人が持つのは、『無』に過ぎない。

   わたしは、風に舞う無数の落ち葉と金色の光のなか佇んで云った。この金 の光が一切無であると、貴方は云うの? 貴方自身の『存在』は何であると ? 『ノオス』と少年は云った。裏切り裏切られ、そして目覚めれば、貴方は誰 であるか? 無限の高みで金色の太陽は榮光の燿きに満たされ、そしてわたしは 風と落ち葉の降り舞う森のなかで答えた。わたしは『 Koree Kosmou』。

    静寂のなか、貴方たちは知らねばならない。なにも始まることはなく、 なにも終わることはない。彼は遥かな昔に死んだ。あの湖を漂流して引き上げら れた腐敗した死体は何であったのか。已に死んだ者がもう一度死ぬことがあるの か。それはあるのでしょう、とわたくしは答える。貴方が裏切ったからわたしが 裏切ったのか、あるいはその逆であったのか。誰が答えを知りますか。

   答えはすでにあるではないですか。裏切ることと裏切られることは同じこ とでしょう。生と死は同じものでしょう。ああ、貴方にとっては確かに。貴方は わたくしを何と呼びますか? 勿論、『宇宙の眸』と。わたくしは哄笑し、わた くしの笑い声は、金色の光よりカーマインの光沢に被われて行く森のすべての木 々の枝枝に木霊した。

   貴方は已に死んでいるのですよ。死せる者よ、お答えなさい。貴方は神を 見ましたか? 榮光の天国の光を、霊界の水晶の宇宙を見ましたか? しかり、 と夕暮れのなか木霊が答えた。一切を見、一切を経験し、そして我はここに身を ぶら下げた。ぼくは夜が怖い。暗黒は、ぼくの内側だけで十分ではないか。

   人は鏡の前に立って、何に対し何を裏切ると云うの? シ・ラー・ノーメ ン・エト・モルス・ゼンペル。わたしは頷いて後退した。『榮光 DoksA』。光と 暗黒はどちらが先に生まれたのか。軽やかに身体を回転させると、わたしの長い 髪は風に広がり、銀色と乳白色の濃い霧が周囲を満たした。

   『真智 VeritaS』。わたくしは濃い霧のなか、銀色の扉を前にしていた。 その表には二羽の鶯が相向かう模様が刻まれていた。

わたくしは扉を開くと、静かな銀の楽音のなか、永遠の静 寂へと歩み進んだ。

☆  ☆  ☆  ☆
☆  ☆  ☆  ☆
RosA MirjaM RosA

2049 05 Stasiasia, 1615: Marie RA. S. et Rosa Ch. J.




  
[TOP] [POIESIS] [LIST] [HOME]