[G] cosmos (κοσμος,
kosmos, ho)
[L] cosmos, n, mundus, m, [E] cosmos
[D] Welt,
die (ヴェルト), Kosmos, der (コスモス),
[F] cosmos,
le, monde, le
コスモス、また「この世」とも云う。デーミウルゴスが
創造したとされる世界で、不完全であり、悪が充満している「暗黒」の世界。
ヘレニク時代の宇宙観での「宇宙」に対応する。つまり、人間や動物・植物が
存在する地上世界と、星辰があり、暗闇の空間がある天界の両方を含む。古代
ギリシア哲学では、天界には、「ヌース」と呼ばれる永遠的宇宙霊が存在し、
それが、個々の星辰であると考えたが、グノーシス主義では、星辰には確かに
「霊」が存在するが、それは「完全な宇宙霊=ヌース nous」ではなく、低次
アイオーンであり、アルコーンと呼ばれる「下級天使」の霊が存在すると考え
られた。或いは、星辰そのものがアルコーンとも見なされた。「宇宙」は、救
済の存在する、人間の霊の本来的故郷の世界である圏域、例えば、光明と善の
充満である「プレーローマ超宇宙神界」や「オグドアス神界」と対立し、グノ
ーシス主義の「反宇宙的二元論」を構成する。
ギリシア語のコスモス κοσμος は、元々
「秩序・整序」と云う原義があり、ここから一般的な用法として「装飾品」、「女
性の衣装・ドレス」などの普通名詞としての意味が出て来ており、髪や部屋を装
飾するものとしての「花」もコスモスであり、特定の花の種類が、「コスモス」
の名で呼ばれることになった。kosmos が「宇宙」となるのは、ギリシア古典
哲学的な思考で、「完全な秩序」の具現こそが世界であり「この宇宙」である
と考えたからである。プラトーンは、kosmos をこのような意味に使った。ま
た、このような意味においてラテン語の mundus の同義語となる。グノーシス
主義では、まさに、この「宇宙秩序」こそが「暗黒と悪の偽の秩序」である訳
で、古典ギリシア的秩序宇宙の「秩序」が、闇に反転した結果である。古典的
価値観や世界観・神観の反転もまた同時に起こったのであり、これが「反宇宙
的二元論」の意味でもあった。
……「宇宙」とは、「秩序のトポス=場」或い
は、「秩序のアイオーン=圏域」と云うのが原義であり、「秩序性」で規定さ
れている。それに対し、人間が住む・生きるトポスとしての「世界」は、「家」
や「家族」を意味する言葉から造られた oikoumenee, hee (οικουμενη,オイクーメネー)がある。
これは「人が住む世界」の意味である。コスモスは、神霊=ダイモーン
やヌースや神々が住む世界をも含んでいる。現象的には、悲惨で闇に満ちてい
ると感じられるのは、「人が住む世界=オイクーメネー」のはずであるが、ヘ
レニク・グノーシス主義は、「地上の悪・暗黒」を、天界・神界に投影したの
だと云える。
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