[D] gnostische Daseinshaltung, die (グノースティッシェ
・ダーザインスハルトゥング)
[E] gnostic daseinshaltung
グノーシス主義研究者ハンス・ヨナス(Hans Jonas)の概念。
この形では普通表現されない。「反宇宙的現存在の姿勢(akosmische
Daseinshaltung)」のような形で使用される。現存在姿勢(Daseinshaltung)は、
実存思想的な用語で、「現存在(Dasein)の姿勢・態度(Haltung)」という
意味である。
グノーシス主義の起源及びその本質規定問題において、グノーシ
ス主義は、その神話や信仰のモチーフの解釈によっては説明できない。グノー
シス主義は、むしろ、人間実存が何らかの社会的状況のなかで、「或る実存の
ありよう」を持ち、この実存のモードから、世界と自己とは何であるか、いず
こより来たり、いずこに行くべき存在か、その「存在の本来性」を尋ねて、現
なる現象世界に一定の解釈(Deutung)を与えることで、自己と世界の存在了解
を行う過程であると考えるのが妥当である。
このような「実存の或るモード」、
言い換えれば「現存在の存在世界と自己存在に対する対し方=姿勢」が、世界
と自己に対する問いかけを惹起し、存在の意味の説明を求め、その解釈を既存
の宗教や思想のイメージ・概念・用語で表現するところに、グノーシス主義の
創作神話(Kunstmythos)が成立すると考える。このような「現存在の姿勢」は、「反宇宙的な
現存在の姿勢」とも云われ、この現象する存在世界に対し、積極的な否定を声
明すると同時に、ニヒリズムやペシミズムではなく、世界と自己の現なるあり
ように対する、「救済的説明」を見出し、創作神話のなかに「救済の智慧」を
解釈(deuten)できるとき、このような「現存在の姿勢」は、グノーシス的な現存在姿勢
である。
グノーシス的な現存在姿勢は、結果として、存在解釈において、上述の通
り「創作神話」を生み出す。これを外部の他者から見るとき、無節操な混淆的
な宗教神話の表明に映じる。グノーシス主義は、「言葉で表現された神話や教
義」に本質が宿るのではなく、神話や教義は「グノーシスの精神」を表現する
ための外皮であり、神話や教義は、更に個々人の実存によって、現存在解釈さ
れ了解されねば意味を持たない。このようにして、グノーシスの教えは、「グ
ノーシス的な現存在姿勢、または精神の姿勢(Geisteshaltung)」を備える者
が、そのような現存在姿勢において、神話を解釈することで、初めて「意味」
が了解される。
「グノーシス(叡智・認識・覚醒)」とは、こうして既にその
智慧を知る者が(グノーシス的現存在姿勢にある者が)、神話や教義の「言葉
の外皮」を玩味して行く過程で、「すでにこの真理は、わたしには既知のもの
だ」という気づきに達するとき、グノーシスの了解が成立するのである。「至
高の光の霊のなかにわたしがあり、わたしのなかに至高の光の霊がある」とは、
グノーシスの真理に「気づいた」とき、本来性を求めていた自己は、本来性が、
それを求めていたという「わたしの現存在のありよう」において、実はすでに
自己の内部で現成していたという真理を自覚することである。
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