[G] sophia (Σοφια, Sophiaa,
hee), [L] Sophia, f
[E] Sophia, [D] Sophia,
die (ゾフィア), [F] Sophie, la
普通名詞としては、ギリシア語で「智慧」の一般的な意味を持つ。ヘブライ語の
「智慧」である「ホクマー(chokmah)」のギリシア語形として転用されることがある。
グノーシス主義のアイオーンとしては、多くのグノーシス主義諸派において、デーミウ
ルゴスの母或いは、デーミウルゴスが創造される原因となった、至高アイオーン中の
「最低次アイオーン」と云う位置にある。
バルベロ・グノーシス派、オピス(オフィス,ophis)派、ヴァレンティノスの教
説、プトレマイオス派、また『ナグ・ハマディ文書』である『ヨハネのアポクリュフォ
ン』や『真理の福音』などにおいても、不完全なこの世が創造される原因は、アイオー
ン・ソピアーの過失にあるとされる。しかし、至高アイオーンである「先在の父・ビュ
トス」、或いは様々な名で呼ばれる「把握し難き至高のアイオーン」の伴侶に立つ女性
アイオーン(第二アイオーン)は、ソピアーとは別の名と存在を持つが、キリスト教の
「予型論」のように、例えば、エンノイア(シーゲー)はソピアーの原型とも見なせ、
また至高聖処女霊バルベロ(Barbeeloo,バルベーロー)も、ソピアーの原型と考えら
れる。
ソピアーは別の名で(例えば、ヘレネー)、堕落状態で地上を彷徨い、娼婦として穢
れた存在となるが、「光のグノーシス」によって「本来的自己」を回復し、プレーロー
マへと・父なる至高存在の許へと、浄化された霊として帰還すると云う神話・物語が存
在する(「ソピアー神話」と呼ばれる)。初期のグノーシス主義者であるシモン・マグ
ス(魔術師シモン)は、常に一人の女性を同伴して伝道の旅を行い、元娼婦であったと
されるこの女性を「ヘレネー」と呼んでいたとも伝えられている。シモンにおいては、
この女性が「地上に落下した神的存在」つまりソピアーの象徴であったと考えられる。
ソピアーは、「上天のソピアー」「境界のソピアー」「地上のソピアー」と三つの
存在モードがあり、これらの三つのモードを通じて、ソピアーは、過失者にして救済者
の原型だと云えるのではないかと思う。キリスト教の聖マリアが、丁度、このような
三つのモードを持つ、「救済者」にして「救われる者」と云う女性アイオーンに対応し
ているように思える。聖マリアには、「過失」や「堕落」「娼婦性」と云うような要素
はないが、キリスト教に即して云えば、結局そのような否定的要素を、リリス(Lilith)
などの神話的悪、あるいは現実宇宙の「女性」一般に押しつけることで、聖マリアの純
粋性や天的神性・救済性・境界の取りなし者としての善なるモードが成立しているのだ
とも云える。
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