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ナグ・ハマディ写本
[E] Nag Hammadi Codices


[E] Nag Hammadi Codices

  二十世紀の半ばには、新約聖書学にとって重要な二つの貴重な発見がなされ た。一つは、『死海文書』の発見で、いま一つが『ナグ・ハマディ写本(文 書)』の発見である。写本群は、1945年12月、ナイル川流域、上エジ プトのナグ・ハマディと呼ばれる場所より、 素焼きの大甕のなかに纏めて封入されているのが、付近の村人によって発見 された。この村は古くからあり、ナグ・ハマディも含め、ケノボスキオン( ケノボスキア)地域の周縁にあったの で、この写本群は『ケノボスキオン文書』とも呼ばれている。一部の写本は 発見後、村人の手で廃棄されたが、大部分は残り、きわめて保存状態のよい 写本が多くあった。写本はパピルス写本で、紀元前後のエジプト語であるコ プト語(セム語の一系統)で記されていたが、多くが「グノーシス主義文献」 であることは明らかで、ギリシア語 原書より翻訳されたものと考えられ、年代は、書写されたのが紀元四世紀で あるが、原典ギリシア語写本は、二世紀に遡るものがあることが確認されて いる。写本は、四世紀頃、この地方に存在した、コプト・キリスト教会修道 院が収集・所有していた「グノーシス」乃至「禁欲主義」についての文献文 庫ではないかと推定されている。

  残存する写本は、十三のコーデックスより成り、それぞれの写本(コー デックス)は、皮で綴じられ装丁されており、各々が三から七の独立した文 書を含み、全体で断片も含め、52の文書より成る。内容的には、グノーシ ス文献がもっとも多く、他にヘルメス哲学関係文書、プラトンの『国家』の 断片なども含む。またグノーシス主義文書は、「創造神話」「福音書」「説 教・書翰」「黙示録」などに形態的・内容的に分類される(この分類は、岩 波書店版『ナグ・ハマディ文書』全4巻に使用されているものである)。文 書には、タイトルのないものと原題の記されているものがあるが、通称とし て、以下のようなグノーシス主義文書が含まれる : 『ヨハネのアポクリュ フォン』『アルコーンの本質』『この世の起源について』(以上、救済神 話)、『トマス福音書』『フィリポ福音書』『エジプト人の福音書』『真理 の福音』『三部の教え』(以上、福音書)、『魂の解明』『闘技者トマスの 書』『イエスの智慧』『雷・全きヌース』『真正な教え』『真理の証言』 『三体のプローテンノイア』『救い主の対話』『ヤコブのアポクリュフォン』 『復活に関する教え』『(聖なる)エウグノストスの書』『フィリポに送っ たペトロの手紙』(以上、説教・書翰)、『パウロ黙示録』『ヤコブ黙示録 一』『ヤコブ黙示録二』『アダムの黙示録』『シェームの釈義』『大いなる セツの第二の教え』『ペトロ黙示録』『セツの三つの柱』『ノーレアの思 想』『アロゲネース』(以上、黙示録)。(第十三コーデックスは、纏まっ た写本の形では存在せず、第六コーデックスの中に、八枚分が紛れ込んでい た)。

  コプト語原典写本には、最初ファクシミリ版が造られたが、現在では、 複数の言語で「写本文庫」の翻訳が行われている。日本の翻訳は、岩波書店 が発行している『ナグ・ハマディ文書』であるが、これは、52の文書の裡 の保存状態の良かった33の文書の訳を収載している(34文書を含むよう に見えるが、3文書は、異端反駁論者の著作からの抜粋翻訳で、また、『マ リヤによる福音書』は『ベルリン写本』に所収の文書で『ナグ・ハマディ写 本』中の文書ではない。更に『ヨハネのアポクリュフォン』の異本2文書が、 一つの文書として、他の異本(『ベルリン写本』文書)と共に、対照形で訳 出されており、また『(聖なる)エウグノストスの書』の異本2文書を、同 じく対照形で、一文書として示しており、『エジプト人の福音書』も同様、 2異本で、一つの文書としているので、実質33文書となる)。英語版の全 訳は、『The Nag Hammadi Library in English(San Francisco, Harper and Row,1988)』がある。これは最初、オランダで初版が出版された ものであるが、現在、英国・アメリカ両方の出版社から入手できるはずであ る。




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