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肉,肉体  [G] sarks


[G] sarksσαρξ, sarks, hee), [L] caro, f,
[E] flesh, [D] Fleisch, das (フライシュ), [F] chair, la

  人間を構成する三つの基本要素の一つ。身体・体(ソーマ sooma)と は区別される。「肉」は物質で構成されてお り、霊(pneuma, spiritus)と対になる構成要素である。神的要素を備え るイデアー的存在が「霊」であるに対し、肉は、質料的要素で、地上にあ って滅び崩れる定めにある。キリスト教では、キリストの霊つまり「ロゴ ス」は、肉なる存在のイエズスに宿ったとされるが、グノーシス主義でも、 救済者クリストス(キリスト)の霊は、「肉の衣」を纏い、人類救済のた め、地上に肉化した。人間の状況は、この救済者「星のイエズス」と同様 であり、肉の衣のなかに、その本来性である「霊の火花・破片」が閉じこ められている。

  肉よりの脱出がグノーシス主義の基本的志向であるが、人 間の「肉体的存在性」は、単純に二元論で割り切れるほどに簡単な問題で はない。グノーシス主義者の「肉的・反倫理的放縦」と呼ばれるものに、 グノーシスの真の賢者・達人たちが自由でいられたのは、人間実存の肉的 深遠の意味を弁えていたからである。グノーシス主義の「反宇宙的二元論」 が、まさに「不完全な質料的この世=宇宙」を前提としなければ成立しな かったように、「光明の霊の救済」は、質料的・肉的な人間実存の位相の 存在を前提としているとも云える。(「究極の救済」は、ヘレニク・グノ ーシス主義の神話が語るようには、実存しないと云う可能性が、現時点の 認識としては妥当であるように思える。グノーシス主義とは、宗教でもあ るが、また、「現存在姿勢(Daseinshaltung)」でもあるからである)。




グノーシス主義用語集 (C) Marie RA. et Noice / 無断転載・転用禁止 /
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